11話 治癒の完了、騎士の昔話
技名って考えるのがとても大変。有名どころのセンスある技名を見ると、凄いなぁ、と思う。
「よっしゃあ連れて来たぜ、セネカルト様!遅くなってすまん!まだデュークはくたばってないよな!?」
セネカルトが時間稼ぎを始めて既に30分近くが経っていた。もう魔力が7割強消費されかなり焦っていたのだが、彼女の部下の回復術師を呼びにいっていた職員達が戻って来た事で漸く安心出来るようになった。
「でかした!モールダー、事情は聞いているな!?早速私と交代して、この男の怪我を回復してやってくれ!私では回復させ切れん!」
「えぇ!!??怪我人がいるって聞いてたから来たけど、こんな重傷だったんですか!?流石に聞いてませんよぉ、そんな事!」
「こんな時に使わなければ貴様は何の為に高位の回復魔法を習得したのだ!!嘆いている暇があったらさっさと働け、この大馬鹿者が!!!」
「ひぃゃい!申し訳ありません!」
モールダーと呼ばれた青年はセネカルトに叱咤されると慌てて動き出し、セネカルトが使っていたものよりもさらに高位の回復魔法を行使する。そこにさっきまでのセネカルトに怯えた情け無い姿はどこにも無かった。あるのは目の前の患者を見据え、命を救うことに全力を尽くすプロの姿だった。
「上位回復魔法!」
モールダーが叫び、デュークに手をかざすと、手から光が生まれデュークを包んでいく。上位回復魔法。LV7〜9の回復魔法がそう呼ばれる最高クラスの魔法。その大いなる光は、デュークの傷をたちまち治していった。
「あ………!見てください、だんだんと、治っていっています………!」
「よかった………!これでもう、大丈夫なんだな………!!!」
さすがは本職、といったところか。ゼロ、セネカルトが全力を出しても延命に留まったデュークの重傷を、モールダーは見事治してみせた。
「ふぅぅぅ………これでもう、命の危険はもうない筈です。」
「ほんとですか………!?」
「よかった………!本当によかった………!」
その言葉で、皆は漸く緊張と焦りから解放された。安心と同時に一気に疲れが出たのか、皆床にへたり込んでしまっていた。
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少し回復してから、モールダーに今回の事情を説明した。とても驚いていたが、すぐに納得してデュークの状態についての話を始めた。
「骨は破片を消滅、そこから再生させて、首は神経を繋げ直して、肺は穴の空いたところを治して、眼は………ちょっとあれは、俺でも治せませんでした。すでに抉り取られて無くなってましたから。出血に関しては、俺がやる前から止まっていたので失血死の心配は無いでしょう。」
「他に何か、する事はありませんか?」
「今は治ったばかりで、ステータスが大幅に低下した状態になってる筈ですから、ステータスも回復するまでは絶対安静を心掛けさせてください。聞いた話によると、今は精神も不安定だそうなので、1人にしないで、誰かが側に居るようにしてあげて下さい。」
「分かりました。モールダー様、本当にありがとうございました。このお礼はもう少し落ち着いてから必ず致します。」
「いえいえ、もう勤務時間外なので、これはボランティアですよ。気にしないで下さい。では、私はこれで。」
「すまなかったな、モールダー。私のせいで、お前の手を煩わせてしまって。」
「いえ、ここで言うのも何ですが、セネカルト様が悩む事はないと思いますよ。悪いのは全てアーノルドですから。」
こうして、モールダーは帰って行った。
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(ふぅ………、何とか、彼の命を助けることは出来たか。本当に良かった。だが結局、今回も私は何の役にも立てなかったな。ゼロ殿が居なければデューク殿は私が駆けつける前に死んでいたし、モールダーが居なければ治す事は出来なかった。
………私は、何をするにも本当に中途半端だな。)
そんなことを考えながら、自分の横にいるゼロを見やる。
(しかし………私と一緒にいてゼロ殿は大丈夫なのだろうか………?なんだか顔が赤いが………やはり、勇者パーティにいた私は警戒されているか。信用できぬ私にここまでやらせてくれているのが奇跡なのだ。翌朝まで絶対に守り抜かねば。)
デュークは回復したが、家まで送り届けるのは時間の都合で難しかったのでギルドの仮眠室で朝まで寝かせておくことになった。帰宅するまでにまたいつ狙われるかわからないので、セネカルトは翌朝彼を家に送り届けるまでの護衛を申し出た。任せろと豪語しておきながら、結局時間稼ぎしかできなかったことへのお詫びの意味もあった。職員達は少し警戒していたが、あの『聖騎士』ならば信用しても大丈夫だとして、彼女にデュークの護衛を任せることにした。もし容態が変わってもすぐまたモールダーを呼べるように、あと彼女の監視としてということでもう1人、ゼロも一緒にいた。
今セネカルトとゼロはデュークの寝ているベットの前にいる。守るのなら同じ部屋にいた方がいいからだ。
(はぁぁぁ………憧れの人が近くにいるとか嬉し過ぎて緊張が止まんない………)
ゼロはセネカルトの心配など全くの無駄だと言わんばかりに幸せに浸っていた。
ゼロはセネカルトに憧れていた。自分とさほど年は変わらないが、若くして次代の『聖騎士』に選ばれた彼女はその美貌も相まって若者からはかなりの人気を誇っていた。彼女が勇者パーティに加入してからは悪い噂を聞くようになったが、この国の彼女のことを知っている者ならばその噂は信じられる物ではなかった。だから、信じられない者の1人であったゼロはセネカルトに聞いてみることにした。
「セネカルト様、勇者パーティにあなたがいた時、一体何故悪い噂が流れるようなことになったのですか?」
「聞きたいか?特に面白くもなんともないぞ?」
「はい。」
「………わかった。あの旅の中で何があったか話そうじゃないか。」
そうしてセネカルトは昔話を始めた。
「ゼロ殿。君は、『神の加護』というスキルを知っているか?」
「あ、呼び捨てで結構ですよ、セネカルト様。知っています。魔王を打ち滅ぼし、世界を救うための力を持つ者に与えられた、特別なスキルでしたよね?」
「あぁ、その通りだ。私が『神の加護』の存在に気づいたのは、15の時だった。はじめの頃はその意味が分からず、特にステータスにも影響が無かったから放置していたのだ。祈りの間で神に問いかけてみたりもしたが、神は何も語ってくれなかったからな。
そして月日が流れ、ある時『神の加護を持つものが集まっている』という噂を聞いた。その時私は家の仕事と騎士見習いとしての仕事に追われ、もうアレの存在を忘れかけていたのだ。だが、この噂を聞いたことでそれを思い出し、その集いに自分も参加してみようと思ったのだ。同じスキルを持つものが一同に会するということは、何かが必ずある、そう思ってな。そこで初めて、『勇者』アーノルドに出会ったのだ。」
キャラクター紹介No.2
「アリシア=ハルトマン」
デュークの幼馴染であり、元婚約者。お互い愛し合っていたが、勇者アーノルドに洗脳NTRされた。勇者パーティでの旅の中で強大な力を身につけた。デュークが両腕を失った原因。




