16話 神への報復 その2
勇者とデュークが帰還してから決闘までの準備期間の時の話。五日間のうちの3日目くらい。
「ど、ど、ど、どうしよう………!!?まさか、あの人間があんな邪悪な本性を持ってただなんて………!もう!せっかくうまくいってたのにこれじゃ台無しよ!」
自身の落とした雷によって死亡した男を転生させてから十年。アストロはこのことをとても後悔していた。
現世で転生に成功した男はアーノルドと名付けられすくすくと成長していった。私の手によって与えられた特権を見せびらかし、他人に自分を崇めさせ、自分は神の使徒、勇者であると吹聴して回っていた。いつしか周りの大人も子供も彼の圧倒的な力と、彼と喧嘩をした相手が決まって雷に打たれるということで、アーノルドは勇者であると信じるようになった。
10歳になってからは冒険者の資格を取り生まれた村を出て外に出るようになった。力の誇示も忘れずに。
冒険者となって少しして、アーノルドは私に語りかけてきた。何かあったのかと思い、他の神々が誰もいない隙にアーノルドを神世に呼び寄せ、話を聞いた。その内容は、こんなものだった。
一つ、勇者の務めを果たす為魔王退治に行きたいが、そのためには仲間が必要。その仲間となる資格がある人間を選んで欲しい。当然、その後自身の伴侶となるにふさわしい美少女を。
一つ、かつての勇者は皆自分だけの特別な武器を持っていた。自分も欲しい。勿論、かつての奴らよりも高性能な物が。
………要約すると、だいたいこんな感じの内容だった。二つ目はともかく、一つ目の要望を叶えるのはかなり難しい。魔族というのは強い。神の力をもってしても魔王は倒せない程に。勇者が奴らを倒せるのは勇者の力が奴らに対する特効を持っているから。いわば、天敵であるからなのだ。
そんな素質を持っている人間を探し当て、アーノルドの元に連れてくるというのはとてもきつい作業になるだろう。そう伝えると、奴はこう言ったのだ。
「僕には素質を与えられたのだから、他の者にもできるはずだ。」と。
そういえば、試したことはなかった。とりあえず適当な人間で試してみたが、上手くいった。なので、この方法を使ってアーノルド率いる勇者パーティの人選が始まった。
奴は最初から何人かに目星を付けリストアップしていた。そのうちの何人かは瞳の色が紫色になっていた。本来、自然な瞳の色が紫であることはあり得ない。アストロはアーノルドが洗脳魔法まで使えるようになったのかと瞬時に悟った。
「はい、終わったわよ。けど………良いの?あなたの選んだ人間、大体が戦闘の経験が無いみたいだけど………」
「良いんだよ。彼女達も戦いの中で成長してくれるし、元から戦える子も選んでるだろ?」
「いや、子って………その2人はあなたよりも年上じゃないの。よくそんな態度とれるわね。………まぁ、これで後は私が力を与えた人間を探すだけよ。もう居場所はわかってるんでしょ?」
「あぁ、ありがとう、アストロ。それじゃあ、僕は現世に戻る。彼女達を連れて、使命を果たしてこよう。」
こうして、勇者は現世に戻り、魔王討伐に赴いて行った。
そして何年かが経ち、魔王は勇者の手によって討伐された。その代償として、数々の悲劇を撒き散らしながら。あの世界の魔族による憂いは消えたが、アーノルドのせいで別の憂いができてしまった。
「おい、お前が勇者に選んだ人間、ありゃなんだ!?魔族を掃討してくれたのは良いが、人間性が最悪すぎるぞ!?いったいなんであんな奴を選んだんだよ!?」
「あんたに教える必要ないでしょ!従いなさいよ、部下のくせに上司に口答えしてんじゃないわよ!」
「んだとぉ!?テメェ、こっちはテメェの勇者のせいで出た自殺者を相手にしなきゃなんねぇんだぞ!テメェの出した死者だろうが、テメェで処理しやがれってんだ!」
「何言ってるのよ!?そんなのはあんたら三下の仕事でしょ!?自分の仕事くらい全うしなさいよ!」
アストロのプライドの高さは自らが人選に失敗したという事実を認めようとしない。お陰で神世ではアストロと他の神々がこのように激しく争うこととなっていた。
「あんまり人生悲観して、終世に堕ちた奴だっているそうじゃねぇか。テメェ、もしそいつらが帰還する事ができてたら真っ先に殺されるだろうよ。分からず屋が、せいぜい震えてやがれ。」
「なんですって!?ちょっと!待ちなさいよ!」
行ってしまった。
「ふん………!終世から戻るですって………!?そんな事、出来るわけないじゃない!あそこは元々の住人以外は存在を許されない場所なのよ、そんな場所でたかが人間ごときが生き延びられるわけないに決まってるじゃない!」
「それに、力を与え続けて神に匹敵するまで強くしたらもうアイツは神世に自由にこれるんだし文句も言えなくなるでしょ。そうと決まれば、昨日求めて来た新しい武器、さっさと与えてやりましょ!」
誰もいない自室で1人鼻を鳴らしていきがる。自分の地位は誰にも覆せない。と、アストロはタカを括っていた。
し、か、し、
「はぁ………はぁ………アストロ様、一大事です!人間が………!生きている人間が神世に侵攻しています!数は1人だけですが、余りにも強すぎて、止められません!」
悪を行えば当然、報いを受けることとなる。神だって例外ではない。アストロにも、報いを受ける時が来たのだ。
「は………はぁ!?な、なんで神世に人間がいるの!?は、早く案内しなさい!」
「は、はいぃ!あの、そ、その、奴は勇者を送り出した神に用があるとのことだ!それで!アストロ様をお呼びしたのです!」
こうして伝令役に呼ばれたどり着いた場所では、多数の神が戦っていた。皆が皆、戦闘に特化した権能を持つ者。であるはずなのに、闖入者に対して全く歯が立っていなかった。
「おや、漸く来たか。待ちくたびれたぞ、最高神。」
「お前は………まさか……………!?」
数々の神を薙ぎ倒し、倒れふす中でただ1人佇む目の前にいる男。
痛みきった長い白髪。堕ちた邪神を思い起こさせる漆黒の衣服。
そして、その身と剣から感じる禍々しいオーラ。
間違いない、奴は終世の者だ。勇者にやられ、その怨念を以って終世を乗り越え、勇者を寄越した私に復讐にやって来たのだ。
見覚えがある。こいつは、勇者と決闘をする予定の男だ。
「デューク=アグレシオン………!」
「ほう、私の名を知っているか。意外だな。」




