4話 償う者、そうでない者
今回は洗脳されてた人達の話。
スッキリしなくてもごめんね。
騎士団、拘置所。
まだ刑の決まっていない犯罪者を収容する施設で「賢者」、「僧侶」、「暗殺者」の三人の聖女は勇者が決闘に勝利し、自分達を迎えに来ると信じて彼を待ちわびていた。
「なんで………!?なんで私達がこんな目に遭わなくちゃいけないのよ………!?」
「グレイスさん、心配には及びません。私達は神の使いなのですから。このような不当な扱いを私達が受けているのをアストロ神様が見逃すはずがありません。」
「ん。それに、勇者様がすぐ来てくれる。私達はすぐに出られる。」
「賢者」グレイスが悪態をつく。自身の魔力の生成と循環を阻害する腕輪をつけられ、魔法が使えない今はこうして力ではなく態度で反抗するしかないのだ。
今は来ていないが、この様を見張りに見られると面倒なことになる。だからそれを「僧侶」と「暗殺者」が嗜めるというのが、彼女達が目を覚ましてからの様式美となっていた。
「アーノルド様が負けることなど有り得ないのですから、心配はありません。私達がここで暴れて仕舞えばあの方の品位を損ねる事になってしまいますわ。今は大人しくしていましょう?」
「………そうですね、計画を阻止されたせいでタダでさえ勇者様にご迷惑をおかけしているというのに。」
「…………ん。なんか外から聞こえる。」
「暗殺者」コナーの言葉に残りの2人が耳を澄ます。聞こえて来る。これは、
「………爆発音、でしょうか?外では一体何が………起こっているのでしょうか?」
「テロ、ですかね?今は勇者様の決闘があるから大体が闘技場にいるでしょうし。」
「もしかしたら、こっちにも来るかもしれない。魔法が使えない今は気をつけないと。」
外から聞こえる爆音に、三人が身構える。牢獄にいて、魔法の使えない今はこうして警戒する以外は出来ることがない。
そして、音の発生からかなり時間が経った。何も起こらない。
「………何も、起こりませんね。」
「ん。ちょっと拍子抜け………あれ、どうした?グレイス。」
コナーが何も起こらないので少しだけ警戒を解き周りを見ると、向かいの牢に居るグレイスが頭を抱え何かを呟いていた。
「私は………なんてこと、を………い、や、わたし、は、勇者様の為に、生きてて、ずっと、勇者様に尽くしてて、あんなやつは、ただの邪魔でしかなく、てあいつ、は、」
「ノク、ト、あいつ、は、私の、邪魔で、だから始末して、喉、焼いて、私、は、私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は私は
「………グレイス?」
「グレイスさん………?一体、何が………」
グレイスは何かが壊れたように意味不明なことをわめき出した。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
「一体………何が起こってるっていうの!?」
コナーがグレイスの発狂に狼狽だす。そこに、突然アンデットが湧き出した。そこに、慌てた様子の見張りの騎士もやって来た。
「ひゃっ!?」
「な………っ!?ホント、どうなってるんですか!?」
「おーい!お前ら無事か!?いきなりアンデットが湧き出したんだ!怪我してる奴がいたら返事しろ!」
「そ、そんなことよりまずはこれ外して………!これじゃ身を守ることもできない………!」
「え?」
コナーが拘束具の解除を求める。しかし、騎士は迷っている。それはそうだ、今のコナーは決闘の邪魔をしようとした者として拘束されているのだから。今拘束を解除すれば抜け出して決闘の場に行ってしまうかもしれないと思うと、そんなことはできない。
(えーと、こんな時ってどうすればいいんだ!?逃げられたりしたら俺の失態になるし勝手に外したりしたらセネカルト様に絶対どやされるだろうし………!)
彼がこうして考えている間にもアンデットは湧き続ける。こうしてうだうだしているままだと許容できる数を超過してしまう。そうなってしまっては元も子もない為、彼は、
「あぁ分かったよ!外せばいいんだろ外せば!けど逃げるとか考えんなよ!むしろ俺たちに協力してくれたらこの後実刑にならずに済むかもしれんぜ!お前ら性格クズだけど英雄なんだし、一般人はお前らが拘束されてること知らないからなぁ!」
「………分かった。協力………する」
騎士は命とこれから受ける処罰を秤にかけ、処罰を受けることを選んだ。コナーの拘束具を外し、彼女に語る。コナーも随分と忌々しそうではあるが、一応は騎士の言う事に従う。
「グレイス、動ける?」
「許して下さいお願いします報いは受けますから罪は償いますから誠心誠意あなたのために働きますからお願いです終世にも堕ちますからごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
「………ダメそう」
もういい。グレイスは戦力として期待せず、他の囚人のと同じく守り通す事にする。シャルロッテがいればこの程度のアンデットなら簡単に倒せるだろ。別にグレイスがいなくても問題はない。
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そして、しばらくたって。
アンデットの殆どが打ち果たされた時、シャルロッテまでもがグレイスと同じ状態になってしまった。戦闘中に突然頭を抱えて倒れたと思うと
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
と、うわ言のように繰り返す。一体何に謝っているというのか?
「ほら、2人とも。もうこっちはだいぶ片付いたし、勇者様のところに行こう。この騒動じゃ決闘なんてしてる場合じゃないだろうから勇者様も戦ってるはず。援護しに行こう。」
「………………………」
「ごひゅっ、けふっ、けふっ、ごめんな、さいどうかゆる、してくだしゃ、い」
「………ダメだこりゃ」
シャルロッテは何も言わずにうずくまるだけだし、グレイスは過呼吸を引き起こしてるけど、それでも謝罪をやめない。
そうだ、勇者様なら2人を宥めて静めてくれるかもしれない。
そう考えたコナーは勇者を探す事にした。手始めに近くにいたさっき自分達の拘束具を外したのとは違う騎士に勇者の居場所を聞く。
「ねぇ。」
「うおっ!?な、なんで拘束具が外されてんだ!?誰か外したのか!?」
「うるさい、そんなことは今はどうでもいい。アーノルド様がどこにいるか知らない?」
「アーノルド?あぁ!勇者の事か!アイツならもうくたばってるぜ!いきなり闘技場に現れた魔族に顔を踏み潰されてな、この騒動もそれから起こったものだぜ!」
「………え?」
勇者様が……………死んだ?
魔法紹介
「光魔法:洗脳」
その名の通り、対象を自分の操り人形にする魔法。
術者が死んだ場合、解ける者と解けない者がいる。
かかっていた時間が長かったり、洗脳などの精神干渉への耐性が低いもの程解けにくい。
「精神力」の値の高い者、「呪い耐性」のスキルを持つものにはかかりにくい。




