63話 償いと、家族の想い
もうすぐエピローグだ。そろそろこの作品も完結に向かっていくのだなぁ。
「あの」
「ん?」
「何だよ?なんかあんのか?」
アリシアがギルドを去った後、冒険者達も大半が仕事に行き、残った者達でこの騒動でまたしても破壊されたギルドの内装を修復していた。そんな時、ゼロが疑問を解消しようとデューク達に質問した。
「アリシア様はあれで良かったのでしょうか?本当に美しい長い髪だったのに………」
「良いんじゃねぇか?そもそもあいつが望んだ事だろ。『ここにいるみんなが私のことを許しても、世間はそうじゃない。だから、傍目から見てもわかる罰の証が必要なんです』て。」
「そうそう。断髪は刑罰にもなってる反省と誓いの証だし、効果は高いんじゃね?」
アリシアは皆が見ている前でデュークに自分の髪を切らせた。
この世界では他人に自分の髪を切らせることはほとんど無い。この世界で髪とは誓いの証であり、罪を雪いだ反省の証であり、神世へと旅立つ死者へ送る贈り物でもあるからだ。
そんな髪を切られるという行為は、切る者から切られる者への、最大級の侮辱であるされているのだ。
アリシアが髪をデュークに切らせたという事は、自分の罪をこうして侮辱を受ける事で少しでも滅ぼしたいという想いがあったのだ。
「あれは私に対する想いだけで切らせたのではないだろう。これから王になるにあたって自分の犯した罪は少しでも償わなければならんからな。」
「はぁ。」
「元々期待のルーキーとして、魔王を倒した立役者として知られているんだ、即位するときに短髪になった姿を見せればこの事を知らない者もアリシアが何かの罪を犯し、そして償ったのだということが分かるだろう。」
「なるほど〜〜〜これにはそんな意味合いがあったんですね!」
「話が長くなったな。ゼロ、お前は私が父の役職を継いでギルドを離れたらお前が副支部長を務めることになるんだぞ。辞めるまでの今のうちに、私のしていた仕事をちゃんと覚えろよ?」
「…………え?」
「私が居ない間はお前が代理を務めていたそうじゃないか。なら、私の後釜に適任なのはお前しかいないだろう。良かったな、大出世だぞ?」
「え、え、え、でも、私平民ですし、青二才ですし、代理じゃないのにこんな高い役職務まらないと………思うんですけど………!?ですよねぇ支部長!?」
「え?私も君が適任だと思ってるけど?冒険者のみんなと他の職員のみんなは?」
「「「「俺(僕、私)達もゼロが適任だと思いまーす!」」」」
「えぇぇぇぇーーーー!!!!????」
新参の頃からデュークに付き、彼の仕事を学び続けてきたゼロだからこそ、デュークが居ない間も代理を務めギルドを回すことができたのだ。後釜は彼女以外は無いだろう。
「お前は私の自慢の後輩だ。辞めたのちもお前の活躍を期待している。みんなもそうだ。裏切らないようにこれからも仕事に励みなさい。」
「………えっと、はい。引き継ぎまでに、仕事をマスターしてやりますから!これからもご指導よろしくお願いします!」
「よし、よく言った!」
ギルドの中ではこうして時間が過ぎていった。
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所変わって、ハルトマン公爵領。アリシアはデュークと一旦離れ、家族の元にやってきた。父も母もとても悲しませてしまった。少しでも、詫びなければ。
実家に到着し、中に入る。使用人達が出迎える。彼等の作る人の道を抜けると、そこに両親がいた。
「アリシア………」
「お父様………お母様………不肖の娘が、散々ご迷惑をおかけしました。申し訳………ございません」
きっと、きつく罵られるだろう。勝手に婚約者を潰し、親である2人の顔まで潰してしまった。国でも王や王妃に次ぐ高い地位にある両親に、勇者に洗脳されてから今まで散々迷惑をかけてしまった。王位を継げるのが自分しかいないので絶縁される事はないだろうが、2人は自分を一生許さないだろう。
「おかえりなさい、アリシア。」
「王都からここまでの移動は疲れただろう。もう食事時だ、料理人達がお前の好きだった料理を作ってくれているぞ。さぁ、食事にしよう。」
2人はアリシアを罵らなかった。むしろ逆に、道中の辛さを労う優しさを見せた。言葉からも佇まいからも、アリシアに対する怒りは感じられなかった。
「なんで………!お父様もお母様も、私が憎くないのですか!?あなた方の人生に泥を塗り、貶めた親不孝な娘が!何故憎くないのですか!?」
分からない。どうしてみんな、そう簡単に自分を許せるのか。自分のした事は、決して取り返しのつかない事であるはずだった。なのに何故、みんな笑って許せるのか。
「何故って………あなたはもう、償ったでしょう?その頭を見れば分かりますし、お母様………王妃様からも聞いているんですよ。デューク君がどれだけ、あなたの為に頑張ったかを。もしあなたを許さなければ、それは償いの意思を見せ、実行したあなたへの、あなたの為に今日まで戦い続けた彼への侮辱になるのですから。」
「そうだ。アリシア、お前がすべき事はこれ以上自分を傷つけることではない。デューク君と共に幸せになり、王として国を導くことだ。ほら、シャキッとしなさい。トップに立つ者が沈んだ顔をしていると国民まで一緒に沈んでしまうぞ。」
両親の微笑みが、アリシアの心に深く突き刺さる。こんな愚か者を温かく迎えてくれる両親の優しさが、本当に沁みる。
何故自分は、こんな優しい人達を簡単に裏切れたのだろう。
「あぁ……………あああ………!!!」
気付けばまた、アリシアは泣いていた。小さい頃はよくいたずらを仕掛けてはバレて怒られ、こうして泣きじゃくったものだ。
「あなたが罪を償うというのなら、私達も共にそうしましょう。辛かったでしょう、吐き出しなさい。私達は受け止めます。あなたの、親なのですから。」
「あああ……………おがぁざまぁ〜〜〜〜!!!」
泣きじゃくるアリシアを抱きしめ、母は娘の後悔を全て受け止める。久しぶりに家族の優しさに触れ、アリシアは今日何度目かもわからない涙を流し続けた。使用人達も何も言わず、その様を見届けていた。その中には涙を、笑顔を見せる者もいた。
そんな中で、アリシアは何度も、何度も、泣き続けた。
長い間公爵家を取り巻いていた蟠りは、その全てが、この夜にの闇に消えていった。
設定紹介
「髪」
この世界では基本自分で切るもの。他人には絶対やらせない。もしされたらそれは殺してもいいくらいの侮辱。
誓いの際に髪と血印を使うことで「私は絶対に約束を守ります」と示したり、
罪を犯した際に被害者に切らせて自ら屈辱を受けたり(刑罰として定められている為刑務官が切ることもある)、
神世へと旅立つ故人への最後の贈り物として棺に入れたり(この際普段より髪を伸ばす)、
様々な用途がある。他人の髪を切るのが禁忌であるのは上記の事が出来なくなるからである。




