61話 拠り所
感想がたくさんくるととても嬉しい。
「終わった………の…?」
「アリシア、なんだ逃げていなかったのか。」
「いや、決着が早すぎるのよ。私が闘技場から出る前に終わらせちゃったら逃げられないでしょ。」
戦いが終わったのを見てアリシアが戻って来た。
「おや、終わったようだな。勝利おめでとう、デューク殿。」
セネカルトもやって来た。彼女のトレードマークである黄金の鎧はほぼ破壊されている。魔法で回復したのだろう、体には傷ひとつないが、崩壊した鎧とはミスマッチだ。
「あぁ、セネカルト様。ありがとうございます。遺体は領地に持ち帰って埋葬しておきます。お父さんもそれなら納得するでしょう………て、何をしているんですか?」
デュークと話しながらセネカルトは何か探し物をしているようだ。ここから避難するときに何か落し物でもしたのだろうか?
「あ………もしかして、さっき投げ入れていたものを探しているんですか?アレを………」
「その通り………よし、あった。良かった、壊れたりはしていないな。」
「それは………会話板、ですか?」
セネカルトが戦いの場に投げ入れていたものは彼女の持ち物である会話板だった。
「2人は会話板の親機を持っているか?」
「いえ………ギルドに置いてありましたが、自分のものは持っていません。」
「私も………お母様からいただいた子機しか持ったことはありません。」
「そうか、なら会話板の親機にこんな機能があることは知らなかっただろうな。」
セネカルトが会話板を操作しすると、板から音が出て来た。デュークを口汚く罵る声、これは、ターレスの声だ。
「お父さんの、声………」
「録音機能、ですか………?」
「いや、映像も取れているぞ。途中で吹き飛んだせいでちゃんと取れてはいないがな。音声だけでもちゃんと取れていて良かった良かった。」
「しかし何故、こんな物を?」
2人は疑問に思った。一体何故セネカルトはデュークとターレスの戦いを記録していたのだろう?
「まぁ理由はいくつかあるが、ひとつ目は世間にターレス伯爵が乱心していたという事に出来ること。………ん?何故知っているのか、だと?子機を併用すれば記録中でも見ることができる。だから知っていたのだよ。」
「だからこんなタイミングよく来ることができたんですね。」
「そういうことだ。ふたつ目の理由だが、それはデューク殿が闇魔法を見せたからだ。」
「私のせい、ですか。」
「けど、何故?」
アリシアは思った。デュークが闇の力を使えることはもう知れ渡ってしまっている。だが、何故それが繋がるのだろう?
「血の繋がった実の家族にすら拒絶され、醜く罵倒される様を見せれば皆少しは頭が冷えるだろう。ターレス伯爵の醜態を見て闇使いに対する態度を改めるようになるかもしれん。」
「成程、闇魔法使いの権利回復のためですか。確かに、今のままでは無神国辺りに逃げざるを得なかったですからね。逸ってしまったためにこれまでの努力が台無しになるところでしたよ。本当に助かります。」
「………けど、何故セネカルト様はデュークの為にそこまでしてくれるのですか?いくら勇者憎しの仲間とはいえ、そこまでする義理はセネカルト様には無いはずですが………」
「あるぞ」
「え?」
「デューク殿がお前を救い出した理由が過去の約束があったからであるようにな。私も、約束したのだよ。彼の復讐が成るように協力すると。できない約束はするものでは無いから、こうして何度も協力しているのだ。」
「そう、だったんですか………」
約束というのは偉大なものであると、アリシアは再確認した。これが無ければアリシアは勇者の操り人形のままであったし、デュークは終世でそのまま死んでいた。それに、闇を見せたことで国を出て行かざるを得なくなっていた。
「デューク殿。漸く取り戻したんだ。今度は手放してしまうなんてことがないようにな。まぁ、そんな時はまた私が取り戻すのを手伝おう。」
「何から何まで、本当にありがとうございます。」
デュークにそう言い終わると今度はアリシアの方を向き、彼女に向かって言葉をかける。
「アリシア、これからはデューク殿を困らせるんじゃないぞ。お前が勇者について不幸にさせたのはデューク殿だけではない。王になるんだ、彼らへの罪滅ぼしも忘れるな。」
「………はい。至らぬ私へのお気遣い、本当にありがとうございます。」
アリシアが頭を下げる。それを微笑みながら見届けると、
「さて、私にはこの騒動の後始末があるのでそろそろ行こう。………2人とも、幸せになれよ。」
そう言って、セネカルトは去っていった。これから暫く会うことはないだろう。命を助けてもらい、復讐の手助けをしてもらい、血気に逸り闇を見せてしまった私へのフォローまでしてくれた。デュークが受けたその恩は、とても大きい。
だから、デュークは去りゆく恩人の後ろ姿に、深い礼をした。今示せる、最大の感謝の気持ちを見せた。
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所変わって、ギルド。デュークとアリシアは闘技場から戻り、冒険者達に挨拶にやって来た。
「おうデューク、やっと終わったみてぇだな!いやぁ、これでオレ達も一安心だぜ!」
「ありがとうございます。」
みんなが自分の復讐が成されたことを喜んでくれている。しかし、その態度はどこかよそよそしい。
「………やはり、私の闇を見て、態度が変わりましたか。」
「「「「「……………」」」」」
「………いや、先輩。私達は決めました。あなたが闇魔法の使い手だろうと、これまで一緒に働き、過ごして来た事実は変わりません。今はまだ少しみんな混乱していますが………改めて、これからよろしくお願いします、先輩。」
「………あぁ、ありがとう。」
ゼロの差し出した手を握り、礼を言う。彼らは今の自分を前にしても変わらなかった。それが、デュークには嬉しかった。
「みんな、ごめんなさい………私のせいで、同じ冒険者であるみんなにまで迷惑をかけてしまって………」
「いいってことよ。罪滅ぼしなら後でやればいい。迷惑かけたならこれからそれ以上に活躍して返せばいいんだ。その………、まだ王様になるまで時間があるだろ?だからその間にまた活躍して、ギルドの評判あげてくれよ。そしたら、オレ達も動きやすくなるからさ。………勘違いすんなよ?これはみんなの意見だからな!オレだけの意見じゃねぇからな!」
「みんな………」
「ごめんなさい………ごめんなさい………!!!」
みんなの優しさに耐えきれなくなり、アリシアは床にうずくまり泣き出してしまった。
「アリシア様、あんまり泣くとお顔が乱れてしまいますよ。顔を上げてください。それに、髪もそうまとめないでいると痛んでしまいますよ!」
泣きじゃくるアリシアを慰めるように、にゼロが組紐を差し出した。
「あ………髪………」
設定紹介
「舞台となっている国」
一度も本編で出て来たことはないが、一応「セイルレード王国」という国名。大陸にある国では最も面積が広く、随一の勢力を誇っている。
風習として、髪を他人に切らせてはいけない、他国から帰って来たら体を清めなければいけない、闇魔法使いに関わってはいけない、神の代理人である聖職者の言葉には従わなければならないなどがある。




