59話 別れの言葉
よくサブタイトルを入れ忘れる。だから慌ててつける。お陰でセンスのないサブタイができる。
「さて、これだけ離れればもう巻き込まれる心配もないだろう。」
アリシアを連れてデュークとターレスの戦いに巻き込まれないように闘技場の外に出たセネカルトは、ようやく休めるとばかりに地面にへたり込み、ふぅ、と一息ついた。
アリシアが辺りを見回すともうアンデットはどこにも見当たらない。騒動は既に殆どが鎮圧されているようだ。
「………セネカルト様、申し訳ございませんでした。私が弱かったせいで、あなたにまで迷惑をかけてしまって………」
「もう気にするな。確かに、お前のせいでいくらか信頼を失ったがな。無くしたものは行動でまた築き上げればいい。お前は私のことではなくデューク殿と共に生きるこれからの心配をしろ。」
「はい………」
「陛下の次はお前が王になるのだから、もっとしゃんとしろ。トップが沈んでいたら一緒に国まで沈んでしまうぞ。」
「わかりました………善処します。そういえば、さっき投げていたものは何だったのですか?」
「あぁ、あれか。」
「はい。」
「何、疲弊してろくに動けないなりに、少しでもデューク殿を助けようと思ってな。あれは私の目論見が成功していれば確実にデューク殿にとって有益なものだ。」
ふふふ、と笑うセネカルト。その笑顔には何か意味が隠れているようだが、アリシアにはどんな真意が隠されているのかわからない。だが、まぁセネカルトなら無意味に彼女が守るべき国民の1人であるデュークに無意味に危害を加えるようなことはないだろうと、セネカルトの言葉を信じることにした。
「あの、セネカルト様。一つ、お願いがあるのですが………」
「どうした?」
「デュークが負けるとは思えませんが、ターレス様も歴戦の勇士です。そんな簡単に勝てるとは思えません。だから、少しでも手伝いがしたいんです。勇者に洗脳されてからずっと、迷惑のかけっぱなしでした。少しでも、彼のために動いて、償いたいんです。」
「………分かった。かなり消耗しているようだな、私の回復魔法では全快させられんぞ?それでもいいか?」
「はい。少しでも魔力が回復するなら。」
セネカルトに回復魔法をかけてもらい、また闘技場に戻る。今の体力ではかなり時間がかかるだろう。急がなければ。
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「どうした?デューク。終世帰りの力とやらはその程度か?」
「くそっ、ちょこまかと鬱陶しい………」
『水の幻妖』による透明化は『黄昏ノ太刀』の力で看破することが出来るが、ターレスは見つかるとすぐに視界から離れ水の球による攻撃を仕掛けてくる。剣で弾けばまた固まり、風で飛ばしても戻って来て、闇で呑もうとすれば避けられる。
正直、積み重ねが無く御しやすかった勇者や直接攻撃を好み搦め手をあまり使わなかったバールバッツと比べれば明らかにやりづらい。それに、
(覚悟は決めたつもりだったが。無意識がまだお父さんとの戦闘を躊躇っている。先の二戦ほど動きが良くない。ダメだ、このままではお父さんをより苦しませてしまうーーー!)
血の繋がった家族との戦いであるということがデュークの動きを妨げている。バールバッツをわざと『黄昏』に送った時のようなデュークの甘さが、今度は悪い方向で発揮されてしまっている。
「どうした、もう諦めたか!?もう私の姿を追うこともなくなったな!」
「『究極風属性魔法』!」
「無駄だと言っている!そんな単純な風で私の水をはがせると思うな!」
そうは言っているが、究極魔法の強烈な風で一時的に透明化をもたらしている水のベールが剥がれる。すぐに付け直されたが、そのわずかな間にも指を振るくらいのことはできる。風による一時的な『水の幻妖』の無効化、その間に「スキャン」を発動させることに成功した。目の前にターレスのステータスが浮かび上がる。
ターレス=アグレシオン
性別:男Lv.99
体力:S(58476)
魔力:S(60712)
攻撃力:S(59852)
防御力:S(51483)
速力:S(49561)
精神力:S(18549)
≪スキル≫
「水属性lv.10」「剣王lv.10」
≪称号≫
「権力欲」「親失格」
「………」
やはりSランク、鎧も何もつけていないというのに凄まじいステータスだ。それでも自分には及ばないが。
「どうした、今更ステータスなんか覗いて!そんなに私の力が気になるか!?」
「そんな訳ないでしょう。私はあなたの息子です。あなたの強さなら誰よりも知っています。」
「ならば何故そんなことを!」
透明化したままデュークの背後に回り、袈裟斬りにしようと刃を振る。しかし、
「『深淵を凪ぐ風』」
「なっ………!?」
「もうその技は通用しませんよ。魔力の無駄遣いはよした方がいいでしょう。」
「何故、透明化を見破ることが………!?」
不意打ちを見破られ、逆に反撃を食らってしまった。風の一撃を喰らい水のベールが剥がれ、また姿が露わになる。
「スキャン」の特性、他人のステータスを表示した際、その表示は常に対象者の方向を向く。この特性を使い、透明化中のターレスの位置を見破ったのだ。『黄昏ノ太刀』でも見破ることはできたがそれは視界に収めた一瞬だけ。なら、こちらの方が都合が良い。
「まさか………そんな使い方をするとは………だが!まだ私の水を攻略できたわけではない!」
(そう、あの水を攻略できなければお父さんは倒せない。『心撃』はもう使い過ぎたから、出来ればトドメまで残しておきたい。さて、どうしようか………)
思案している間にも水はデュークを襲う。対処しながら何度も対抗策を考えるが良い案は全然考えつかない。
さっきのように窒息させられたらいくら不死身とはいえ苦しい。痛みや苦しみといった感覚は普通にあるのだ。
「デューク」
「………アリシア。何故、戻って来たんだ?」
「少しでも、あなたの助けになりたかったの。」
ターレスの攻撃に耐えながら対抗策を模索している時、アリシアがやって来た。さっきは魔法も不発に終わる程消耗していたが、大丈夫なのだろうか?
「『中位火属性魔法』」
そんなことを思っていると、アリシアが魔法を発動した。デュークに向かって。
「風では散らすだけ。闇は避けられる。剣ではすり抜けられる。だから、これを使って。私なら、回復して貰ったから大丈夫。」
「………ありがとう。使わせてもらおう。アリシア、君が危ない事に変わりはない、また避難しておけ。
「………分かった。デューク、無事で帰って来てね。」
「あぁ。」
アリシアはデュークに火種を渡してまた去って行った。
「人前で恥知らずにいちゃつきおって。そんな小さな火で私の水をどうにか出来るとでも!?」
「えぇ。私と勇者の戦いをちゃんと見ていなかったのですか?小さな火種なら、こうすれば良いのですよ。」
放つ。闇と火の複合『黒の幻炎』。小さな火も闇で吸収する事で力を増すことが出来る。そして、大きくなった炎なら、
「なっ………!?私の、水が………!?」
「成程、風でダメ、闇でダメ、剣でダメでも火なら高温で蒸発させられる。アリシアはいいものをくれた。」
「そんな、バカな!?」
「これでもう、あなたの技は封殺できました。私に使える技はもうないはずです。」
「ばかな!ばかな!ばかなぁ!」
「アリシアが来てくれたおかげで思い出せました。私のこれからにあなたの存在はもう………必要無い」
「ふざけるな!育ててやった恩を忘れて私の評判を落としおって!私が積み重ねて来たものを台無しにしやがって!調子に乗るな!大した才能もないくせに!お前の顔を見るたびに忌々しく思っていたんだ!闇を封印やったから人並みに暮らせたのに!何もかも私から失わせやがって!ふざけるな!何が必要無いだ!?お前こそ私の人生の不要物だったく
「『黒の幻炎』」
「がっ……………!」
口汚くデュークを罵るが、言い切る前にデュークの放った黒い炎に包まれ、吹き飛ばされ焼き焦がされる。燃え尽きなかったのは水の魔力で咄嗟に身を守ったからだろう。
「あなたは頑張り過ぎたんです。もう、休んだ方がいい。安心してください。二撃目はありません。」
じりじりと、『奈落ノ太刀』を構えてデュークが近寄ってくる。身体中が焼けたせいでターレスは動くことができない。少しずつ自分に迫る息子に、これまでに無い恐怖を感じている。
「ま………待ってくれ、デューク!私を殺せば領地を継げなくなるぞ!手続きをまだしていないだろう!お前も貴族から降格されたく無いだろう!?だったらまだ私を殺すべきでは
「お父さん」
「でゅぅ、く。お前は立派に
「これまで、ありがとうございました。」
「まーーーーーっ!!!!!」
『奈落ノ太刀』がターレスに振り下ろされ、その魂を両断した。親子の戦いは、子の勝利で終わった。
「お父さん、最期の言葉、アレが本心であることを私は祈ります。あなたが私の闇を封印していなければ、私は迫害されていたでしょう。あなたに仕込まれた剣術がなければ「奈落」で私は死んでいたでしょう。あなたの労いの言葉がなければ私は完全に救われることはなかったでしょう。今の私は、あなたがいなければありませんでした。今迄ありがとうございました。どうか安らかにお眠りください。」
焼けたターレスの死体の前に跪き、礼をする。
デュークの目には、うっすらと涙が浮かんでいた。
キャラクター紹介
「ターレス=アグレシオン」
デュークのお父さん。56歳。
家族を殺され故郷を滅ぼされたことで闇魔法使いを憎悪している。デュークが闇の力を持って生まれたことで自分の地位が危うくなると思ったことで、親の情は表面的なものだけとなった。




