57話 親子の戦い
ラスボスと黒幕はイコールじゃないってそれ1(ry
あぁ、なんという事だ。突然の事態に驚愕してしまったとはいえ、意識を失うとは情けない。今は倒れている場合ではないだろう、私よ。
封印が解かれたとあればもう………殺すしか、ない。
あぁ、なんと心苦しいことか。手塩にかけて育てた自慢の我が息子を、この手で殺さねばならぬとは。
神様、あなたは何故こうも残酷なのでしょうか?願わくば、あの子の死後にまで、この様な残酷な仕打ちがないことを。
待っていなさい、デューク。今、お父さんが楽にしてあげるからな。
気絶から目覚めた男の独白は、あの勇者の様にあまりにも身勝手なものだった。
「ターレス様………?どうしてあなたがデュークを襲うのですか!?あなたの一人息子でしょう………?何故、ご自身の後継を殺そうとするのですか………?」
「黙れぇ!くそ、このバカ息子が………!私が何年もかけて、苦労して築き上げた権力がお前のせいで台無しだ!私の努力を無駄にした罪、その死をもって償えぇ!」
「『高位闇属性魔法』!」
「くそ、デューク!そこになおれ!避けようとするんじゃない!」
「お断りします!」
『高位闇属性魔法』によってターレスの放った水の牢獄から脱出し、自身を殺そうとする彼から距離を取る。
「『焦水弾』!」
「くそっ!お父さん!何故あなたが私を狙うのですか!?」
「なんだと!デューク、お前は覚えていないのか!?話してやっただろう、私の過去を!私がどれだけ闇魔法を嫌っているかを!」
「そんな話、聞いた覚えがありませんね!」
デュークは狼狽えていた。こんな身勝手で人の話を聞かず、いきなり襲いかかってくる様な人間が自分の父であると思いたくなかった。
こうして話している間にもターレスからの攻撃が来る。それを捌きながら聞く。
「闇に嫌な思い出でもあるのですか?なら何故、それを教えてくれなかったのですか!?」
「………成程、お前には教えていたと思っていたが、勘違いだったか。なら、改めて教えてやる。」
「………」
「私は元平民だった。家は貧しく、兄弟は多く、両親は日々の生活にとても苦労していた。そんな中、強力な魔法が使え、剣の才能もあった私は家族の稼ぎ頭となることを期待されていた。」
「………そこまでは、知っています。」
「だが、私はあんな奴らのために自分の力を使いたくなかった。自分の力なのだから、自分のために使いたかった。だから私は故郷を離れ、王都で冒険者として働いた。Sランクとなり名声を得られるようになるまでそう時間はかからなかった。」
「………」
「そして、ある日アグレシオン家の依頼を受け、達成したことで先代の伯爵に気に入られ、その娘と結婚し、婿としてアグレシオン家に入ることができた。その後、まぁ育ててくれた恩は返そうと思い、私の家族を領地に呼べるよう頼んだ。迎えに行った時、村はなかった。いや、無くなっていたよ。当然、私の家族は皆死んでいた。他の者も、皆。」
「………そこに、闇魔法と関係が?」
「その通りだ。私が家族の死体を前に呆然としている中、闇を纏った人間が現れた。奴は言っていたよ、『自分を蔑ろにした報いを受けろ』と。そう言って、私の両親を、兄弟を、その纏う闇で呑み込んだのだ。もう怒り狂ったよ、私は。気付いた時にはもう、奴を八裂きにしていた。奴さえいなければ、家族に恩返しができたのに。これまで蔑ろにしていたことを詫びられたのに。奴の闇のせいで、墓を建てることも叶わなくなった。もう、死んでも家族に会う術はなくなったんだよ。」
「それが、闇魔法を、その使い手を憎む理由ですか。」
「そうだ。だが、忌避する理由はもう一つある。それは、お前のせいなのだぞ、デューク。」
「私、ですか。」
「結婚して五年、遂に長男が生まれた。お前だ。だが、お前が一歳になって言葉を話せるようになった時、私に頻りに自慢してきたものがあった。それが、闇の魔法だ。」
「………!」
「焦ったよ。あの一瞬でいろいろなことを考えた。なぜ私の子がとか、地位を失ってしまうとか、ここで殺せばバレないとか、また子供は産ませればいいとかな。だが、考えたことはどれも実行できなかった。実の息子を殺す事は、いくら闇属性憎しとはいえ出来なかった。」
「まさか」
「だから、封印したんだ。お前が闇属性魔法を使えないように。不思議に思わなかったか?どれだけ鍛錬を積んでもレベルもステータスも全然上がらなかったことが。お前にかけておいた封印が成長を阻害していたからだ。………まぁ、幼少期のことだ。闇魔法を使えること自体を忘れていても仕方ない。」
「だが、どうやったかは知らんがお前は封印を解き、闇を解放し、これまで阻害されていた成長を一気に果たした。全く、なんてことをしてくれたんだ!お前が闇に目覚めたせいで、私がこれまでに築き上げてきた地位が台無しだ!ふざけるなぁ!」
剣を構え、デュークに切っ先を向ける。水の球がターレスの周りに浮かび、デュークを襲うため機を伺っている。
デュークもただでやられるわけにはいかないと、『奈落ノ太刀』を取り出す。すかさず斬りつけに来たターレスの太刀を受け止め、押し返す。
「お父さん、私はもう子供ではありません。あなたのために死ぬつもりはありません。逆恨みは、やめて頂きたい。」
「親に逆らうか、デューク。私に、逆らうか!?これまで育ててやった恩を忘れたか!?封印などなくとも凡夫程度の才能しかなかったお前にわざわざ稽古をつけてやり、好きな職につけてやった恩を忘れたか!?これまでずっと!お前の存在が煩わしかった!憎き闇魔法の使い手が自分の息子だと思うと何度も殺してやりたくなった!それを抑えて普通に育ててやったのに!その恩を、仇で返すというのか!?」
「………本当に、ずっと私が憎かったのですか?ブルードラゴンに襲われていた私を助けて無事を喜んでいたのは嘘だったのですか?」
「当たり前だ!あの時はアリシアちゃんがいたからついでで助けただけだ!お前と彼女が結ばれることでその父である私の権威も上がる!そんな打算があったからお前を助けたのだぞ!お前への愛情など闇魔法を見せられたときに特に無くしているわ!」
「………そう、ですか。」
そこまで言い終わると、ターレスの姿が消える。水属性魔法『水の幻妖』。
デュークもそれを見て『奈落ノ太刀』をしまい、『黄昏ノ太刀』を抜く。
今のデュークは不死身である。それゆえ、始末されることなどあり得ない。ターレスはそれを知らない。だから自分の事だけ考えて実の息子を罵り、殺そうとする。
「私はもう、あなたの世話にはなりません。お父さん、私からあなたへ、引導を渡します。」
デュークは父を相手に戦う覚悟を決めた。
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「アリシア」
「セネカルト、様?」
「そこにいると巻き込まれるぞ。こっちへ来い。」
セネカルトがアリシアを闘技場の外に避難させ、デュークとターレスの戦うその場にある物を転がした。
「さて、終わった後欲しい結果が得られると良いのだが。一応期待しておくか。」
「………?」
今更紹介
「ステータス」
「体力」:肉体的な活動をどれだけ続けられるかの値。
「魔力」:魔法的な活動をどれだけ続けられるかの値。
「攻撃力」:自分の他の存在にどれだけの影響を与えられるかの値。
「防御力」:自分の他の存在から受ける影響をどれだけ軽減できるかの値。
「速力」:素早さの値。
「精神力」:精神干渉などの心に影響を与えるものにどれだけ抵抗できるかの値。
全て高い程強い。




