3話 喪失。
勇者パーティが魔王討伐の旅に出てはや半年が経った。もう既に魔王に滅ぼされたり、奪われたりした土地の3割を取り戻し、人の手に戻すことが出来た。
彼らが戦っている間、デューク達もただ待っていたというわけではない。デューク達ギルド職員は勇者パーティの旅路にある国を回って勇者達が素早くその国を通過できる様に国王や領主達に頭を下げて許可をもらっていた。その殆どがタダで、というわけにはいかず、土下座、袖の下。世界の平和ができるだけ早くやってくる様にそのために自分たちができることは何でもした。
また、世界各国のギルドに通達を出した事で、冒険者達も勇者パーティが道中で余計な戦闘が発生して手間を取らせないように旅路の安全確保を行なった。冒険者が動かない国もあったが、そんな国は指導者が魔王の手下の傀儡になっていた。しかし、勇者パーティが倒したことで彼らも協力してくれる様になった。その甲斐あってか、本来予想されていた日程より4割ほど早く、これならすぐに魔王は討伐され、世界に平和が訪れるかもしれないと予想されていた。
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島国、プルト王国。
魔王の拠点、悪魔大陸は特殊な海域に囲まれており、それを突破するためには必ずこの国から船を出さなければならなかった。デュークは今プルト王国に向かうための船を出してもらうため、大陸で一番プルト王国に近い国、アルメタ王国に赴いていた。役人に袖の下を渡し、官僚に熱弁を振るい、国王の心を動かして、少し時間はかかったが何とかプルト王国行きの船を出してもらうことが出来た。
話がまとまった後、デュークはアルメタの宰相と話をしていた。
「長旅で疲れただろう。これは君の仕事ぶりへの、ギルド職員の世界の平和に向けての熱意への感謝の印だ。どうか受け取ってくれ。………本来なら国を統べる我々が真っ先に動かねばならないのに、我々の怠慢で君達の手を煩わせてしまった。本当に、申し訳ない。」
「いいえ、こうして世界中が平和に向けて手を取り合っているのですから、アルメタ王国の皆さんがその輪に加わってくれて、本当に嬉しいです。それと、臨時収入有難うございます。このお金で、頑張ってくれている冒険者達の為に慰労会でも開こうと思います。」
「ほう、慰労会か。それは良い。………それに、私もお呼ばれしても良いかな?」
「宰相様のお金で開く会ですし………、主催者として、出席できると思いますよ。」
「おお!そうかそうか!楽しみに待ってるぞデューク君!ははは、これで平和が訪れたのちの我が国の評判が上がるだろうな!会場はこちらで確保しよう、良いところを取っておくから期待しておくと良い!」
「ははは………」
宰相がデュークの茶髪をワシワシしながら言う。リアクションが大げさなせいでかなり相手してると疲れる人だ。だが、仕事はできる。この人が期待しておけ、といったからには本当にいい会場を取ってくれるのだろう。なら自分もパーティーで出すものの手配をしなければ。
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そして3日後。宰相は言葉通りとてもいい場所を確保してくれた。王宮のパーティーホールだ。ここなら広いから沢山人が入るし、専属の料理人が居るから不味い食事で逆に冒険者達を疲れさせる、ということもない。こちらで用意した食材を見事に調理してみせている。パーティーは成功した様だ。みんな楽しそうに飲み食いしてはしゃいでいる。………羽目を外し過ぎて暴れてる奴もいるが。
「全く………ちゃんと節度は守ってくださいよ………王宮でそんな暴れられたら冒険者全体の評判が下がるんですから………」
「おう!済まんなデューク!ここからはちゃんとするから怒んないで!壊しちゃった食器とかも片付けるから!」
「いいですよそれは僕がやるので。皆さんは引き続きパーティーを楽しんで下さい。勿論、羽目外し過ぎない様に。」
「分かった!」
全く。本当にちゃんと分かっていればいいのだが。
またバカやって追い出されたりしてなければいいけど………
「皆さん、少しこちらの話を聞いてもらいたい!」
壇上を見ると宰相が話をしていた。壇上からかなり離れているここにも聞こえるのは拡声の魔法を使っているからなのだろう。
「君たちの慰労会を今日開いたのには実はある理由がある!それが彼等だ!」
「やぁ、冒険者のみんな。僕達と共に戦ってくれてありがとう!」
「勇者様だ!」「マジか!」「もうここまで来てたのかよ!」「はやぇ………」
宰相の言葉と共に、壇上に勇者パーティが現れた。成る程、彼等がやって来たからこんなにも早く会場を手配したのか。勇者を主賓として招くのなら、冒険者の様な野蛮な奴らを主賓として招くよりはいい、との判断だろうか。もしそうならちょっと、いやかなり失礼だと思うが。
そういえば、勇者パーティがやって来ているということは、アリシアもいるということじゃないか。元気でやってるかな、久しぶりに会って話がしたい。色々と、あっちにも積もる話があるだろうから。
「おーい!アリシア!」
箒を持ったまま勇者パーティに近寄る。アリシアを見つけて声をかけたが、返事を返したのはアリシアではなく、勇者アーノルドだった。こちらに振り向き何かを話そうとするアリシアを腕で静止して僕に話しかけてくる。
「君がデュークかい?僕はアーノルド。世界を救う勇者として、魔王討伐の旅をしている。君の事はアリシアからよく聞いているよ。」
「そうですか、私はデューク=アグレシオンといいます。未だ成人もしていない若輩者ですが、よろしくお願いします。」
「実は、君に話があるんだ。君に取ってとても大事な話だ。だから心して聞いて欲しい。」
「なんですか………そんなに大事なことって………」
勇者はとても神妙な顔になる。そんな顔で一体何を僕に告げると言うのか。気になるじゃないか、早く言ってくれよ。
「アリシアは僕と結婚する事になった。だから、君には婚約を解消して欲しいんだ。もうアリシアの中に君の存在はないから、心も痛まないと思うし。」
「は……………?」
「言葉の通りよ、デューク。私はアーノルド様と共に過ごしていく中で真実の愛というものを知ったわ。もう、貴方は必要ないの。」
「何いってんだよアリシア………そんな事………本気で、本気で言ってるのか………!?」
「勿論、本気よ。私は自分の気持ちとアーノルド様には嘘をつかないわ。」
アリシアの紫の瞳がこちらをじっと見据える。昔は空のような青い瞳だった筈だが。
「デューク、このまま食い下がるというのならこっちもそれなりの対処をとるわ。痛い思いはしたくないでしょう?さっさとここから消えなさい。」
「何でだよ………アリシア!?何でそんなことが言えるんだよ………!?」
「サンダー」
「がっ…………………!?あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!?????????????????」
アリシアの言葉に怒りを覚え、左手に持った箒を強く握りしめた。するといきなり『賢者』グレイスが轟く雷の魔法を放ち、デュークを攻撃した。いきなりの高威力の攻撃に、デュークは反応できずにまともに食らい、地面に倒れ伏した。この時テーブルを巻き込んで倒れたため大きな音が鳴り、この騒ぎが会場全体に知れ渡った。
「貴様………!彼は一般人だぞ!?一体何のつもりでこんな事を………!」
黄金の鎧を纏う『聖騎士』が『賢者』を糾弾する。しかしとうの『賢者』は全く悪びれずに答える。
「今あの男はその箒でアーノルド様を攻撃しようとしていました。だから、未然に防いだんですよ。」
「バカな事を………!そんな事実がどこにある!」
「まぁ良いよ。僕は気にしていないからね。それよりアリシア、彼はど〜うしても、君のことを諦めきれていないみたいだ、彼から別れてくれることを期待するんじゃなくて、もう君の方から別れてやったらどうだい?」
「良いですわね、それ。流石はアーノルド様です。…………ふん。」
そう言って、アリシアは。デュークの左腕を切り落とした。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????!」
「黙りなさい」
ごすっ、と、アリシアがデュークを蹴り飛ばす。あまりの痛みと裏切りのショックでデュークは涙と悲鳴が止まらなくなっている。出血も酷く、このままでは失血死してしまうだろう。
「興が削がれたわ、帰りましょう、みんな。」
「ん。そう、そもそもこんな野蛮人どものパーティーなんてくるのが間違いだった。」
「けど、アリシア様がこれで後腐れなく勇者様の味方になれるのだから、そこは喜びましょう。神よ、我が感謝を受け取ってください。」
「早く宿に戻りましょう、こんな所にいたら私達にまで野蛮人どものオーラが移ってしまいますわ。」
「あら?行かないんですの?セネカルト様。置いていかれちゃいますわよ?」
『聖騎士』セネカルトは満身創痍のデュークに駆け寄り、必死の治癒をかけていた。そんな彼女を他の勇者パーティの面々は嘲弄する。
「騎士がこんな怪我人を放っておけるか!『賢者』!『僧侶』!貴様ら仮にも大魔法の使い手と聖職者なら手伝ったらどうだ!?」
「やめておけ、セネカルト。彼のその怪我は自業自得でついたものだ。『聖騎士』たる君が治していいようなものじゃない。」
「この………!貴様それでも世界を、人々を守る『勇者』か!?ふざけたことを言いおって………!!!」
「分かった分かった、すぐに帰って来なよ。」
勇者達が去った後、残された光景を前に誰も言葉を発する事はなかった。セネカルトのみ尽力により、デュークは何とか一命を取り留める事ができた。
命と引き換えに、同じくらいに大事なものを失うこととなったが。
この世界の魔法は6つの属性からなります。皆1人一つは「○属性魔法」のスキルを持っているので、それにあったものを使えます。属性は
土、火、水、風、光、闇の6つが基本です。そこから派生して雷や氷などの属性ができます。
スキルは、1、訓練で手に入れるもの、2、生まれ持っているもの、3、元々持っていたものが融合したものなどがあります。世界でこの人しか持っていない、というようなスキルは「ユニークスキル」と呼ばれ、重宝されます。