55話 もう一度、手を
次回でラスボス戦に突入。小さなボスラッシュができてた。
「どうして、どうして私を捨てなかったの?最初に再会した時も、私を殺せた筈でしょ?どうしてそうしなかったの?私を怨んでいたからそこまで強くなって戻ってきたんじゃなかったの!?」
「確かに、右腕を切り落とされたことは恨んでいるが、元はといえば洗脳されて勇者にやらされていたことだ。責任能力のないうちにやったことはそうさせた者に償ってもらわねばなるまい。そして、それはもう終わった。」
「けど!私は勇者に体を許して、挙句に子供まで作って………!こんなのでどの面下げてあなたに許しを請えばいいのよ………!?」
「フェルト、か。なら、あの子を立派な大人に育て上げてみせろ。自分が不義の結果に生まれた子であると絶対に自覚させるな。いくら親に重い罪があっても子供がそれを背負う必要は無い。」
デュークは元々アリシアを取り戻した後はフェルトをしっかりと育てるつもりでいた。それに、あの子は自分を父親だと勘違いしている。勇者のことを知らないというのは、とても都合が良い。
「何で………!何でそこまでできるの!?こんな裏切者を、裏切りを自覚すらせず周囲に白い目で見られても、交流を避けられてもそれを自分のせいだなんて微塵も思わなかったこの愚か者を!どうしてまた助けようなんて思ったの!?」
「………」
「私が………あなたの代わりに強くなるって言ったのに………!私が弱かったせいで勇者に付け入られて、あなたを苦しませて、必要無かった苦労を、死ぬような思いをさせて………どれだけ後悔しても足りないくらいだってゆうのに………」
「………」
どれだけ言葉を並べても、後悔は尽きない。顔を上げてデュークの方を見ることもできない。アリシアの顔は後悔と懺悔の涙でずぶ濡れになってしまっている。
しかし、デュークはアリシアの言葉を聞いても、だんだんと苛立ちを募らせていた。
「早く私を裁いてよ!その為にわざわざこうして洗脳を解いて、魔族の憑依も解いて、正気の状態にしたんでしょ!?何ですぐにやらないのよ!?私のことが憎いんじゃなかったの!?怨んでるんじゃなかったの!?
「良い加減にしろ!!!」
「!?」
アリシアの自分勝手な言葉を聞いているうちに、デュークの苛立ちは遂に限界を迎えた。そして、勇者を蹴り飛ばした時や痛めつけていた時にもしなかった怒号を発するという行為をした。
「さっきから聞いていればうだうだうだうだと!勇者に洗脳されていた時の記憶は残っているのだろう!?バールバッツに憑依されていた時も意識はしっかりあったのだろう!?ならば何故、私がお前を正気に戻したかわからない!?」
「そんな………」
「私が!お前を救いたいと思っていたからだろうが!もう一度!お前と話がしたいと思っていたからだろうが!何故その可能性を考えず制裁を求める!?私がそんな事を望んでいると本当に思っているのか!?」
「それは………私にやられた事だから………」
「本当か?本当にそれで私がお前を許すとでも思っているのか?なら何故、お前は今私の前にいる?再会した時も、さっきも、今も、お前を殺せた。お前の利き腕を切り落としてやり返してやる事もできた。だが、私はそうしたか?もしそうしていたとすれば、何故、お前は私の前にいる?」
「………」
デュークの言葉に何も言えず、アリシアは黙る。さっきまでの独りよがりなまくし立てが嘘のように静かになった。
何も言わなくなったアリシアにデュークが右手を伸ばし、言う。
「私が、それを望まなかったからだろう。………本当に、許して欲しいのなら、自分の罪を償う気があるのなら、この手をとれ。もう一度、今度は私とともに来い。」
「………なんで」
「約束は、守るものだ。私は今も覚えているぞ。お前と婚約した時にした約束を。まだお前の方からもそれを反故にするとは聞いていないからな。」「あ………」
アリシアの頭にも蘇る。デュークとの約束。「2人で幸せになる」という、ささやかな約束。
「それのために、終世での苦しみにも耐えて、私への怨みも耐えて、もう一度手を差し伸べるっていうの?私を許すっていうの?」
「あの約束を言い出したのはお前だ。」
遂にアリシアは顔を上げ、泣き腫らして赤く腫れた顔を見せる。
「本当に、私なんかがその手をとって良いの?本当に、こんな償いかたで良いの?」
「しつこいぞ。良いと言っている。」
「………じゃあ、もう一度、やり直させて。私、償うから。過去は全部精算するから。」
「やっとか。全く、漸くうじうじしなくなったな。」
アリシアが膝をつき、立ち上がってデュークの手を取ろうとしたその時。
人を覆えるほどの巨大な水の玉が、デュークの全身を包み込んだ。
「なっ………!?」
「デューク!?待ってて、今助けるから………」
アリシアが慌てて助けようとするが、さっきの戦いの中でバールバッツに魔力を使い切られたようで煙が出るだけで魔法は不発に終わった。
「闇…私の地位………どうしてくれる……………!」
「あなたは………!なんで………?」
アリシアが襲撃者の正体に気付き、驚愕の声を上げた。
能力紹介
「魔天連鎖」
自分の魂を分割して他の同族に分け与え、強化する技。今のところ使えるのは魔族のみ。




