47話 屈辱と憎悪を越えて
毎日投稿って辛い。
少し時間を遡って、騎士団の宿舎では。
闘技場がデュークとアーノルドの戦いに沸き立っている中、数人程度でアリシアとフェルトの護衛をしていた。皆、数は少なくてもセネカルトに信頼される実力者達ばかりだった。
「なぁ、アリシア様は今日も目を覚まさねぇのか?もうこれで5日目だぜ、何か…勇者は関係無い、別の問題でもあるんじゃねぇの?」
「かもな。まだ実は勇者の洗脳が解けてないとか、後はアリシア様の耐性の低さのせいとかな。まぁ考えてても仕方ねぇよ。もしそうだったとしても、アリシア様が起きた時には解決してるんだしな。」
「それもそうだな。あぁ、俺が変わっとくから飯食ってこいよ。ついでに俺の分の用意もよろしく。」
「おう、任せとけ。それじゃ頼んだぜ。」
一週間も同じ任務が続いているので、騎士達は任務にも慣れた様子だった。
その頃、アリシアの眠る部屋では、フェルトがベッドに横たわるアリシアに縋り付き、悲しみの声を漏らしていた。
「まま………ふーちゃんさみしいんじゃよ……?おっきしていっしょにあしょんでね………?」
「ぱぁぱもかえってきたよ………ふーちゃんひとりはいやじゃよ………」
「ままぁ〜〜〜〜〜!!!」
ついに堪え切れなくなり、大声で泣き出す。幼いフェルトにとって、母親とコミュニケーションが取れないことは大きな問題なのだ。
「ん……………」
『闇への招待』の効力が切れる。アリシアの意識が覚醒する。うっすらと開いた目に外の明かりが差し込め、眩しさに目を閉じる。体を起き上がらせ、髪を手櫛で軽く整える。
「ここ………は………?」
意識は戻ったがまだ記憶が混濁している。今自分は何処で何をしているのだろう?
「まま!おきた!」
「………?」
私のいるベッドを掴み、涙を浮かべながら満面の笑みでこちらを見つめる幼女がいた。
一体誰だろう、この子は?いったい何を言っているの?私が、ママ?
………え?
わたしが、マ、マ……….?
「〜〜〜〜〜!!!!!」
フェルトの言葉によってこれまでの記憶が一気にフラッシュバックし、脳に焼き付いていく。3年間。勇者に身を委ねた日々。デュークを裏切り間男に付き、あまつさえその子供まで……………
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!」
「ぎゃあ!?」
恐怖に駆られ、フェルトを突き飛ばす。アリシアの高いステータスの一撃でフェルトは部屋の隅まで飛んでいき、家具を破壊する。
「あ………あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ」
「ま、ま………?」
「ぴぇ〜〜〜〜ん!まぁまがいじめちゃ〜〜〜!」
泣き叫ぶフェルトをよそに、脳が記憶をさらに呼び戻していく。勇者と過ごした日々よりもさらに以前。17年分の、デュークと共に過ごした日々の記憶。
『たくさん!剣を振るの!デュークの代わりに!』
『だから、あんまり張り切り過ぎるなって。オーバーワークで体が持たなくなるぞ。』
記憶が、蘇る。
『これで私も冒険者よ!どーよデューク、このギルドカードが目に入らぬかー!』
『ははー。』
『もー!乗るんだったらもっとちゃんとやってちょーだい!』
「あ……あああ………」
記憶が、蘇る。
『結婚式の時に着るドレスは何がいいと思う?晴れの舞台の衣装なんだから、妥協しないでちゃんと選んでよね!』
『まだまだ先のことだろ。もう少しゆっくりしてもいいんじゃないか?』
『何言ってるの!こういうのもちゃんやっとかないと後で後悔するわよ!!』
『全くもう………分かったよ………』
「やめて、やめて」
記憶が、蘇る。
『ねぇ、デューク。子供は何人欲しい?』
『気が早くないかい?』
『愛する人の子供が欲しいと思うのは当然でしょ!私は、あなたとの子供なら何人でも………って、乙女になんてこと言わせてんのよ!』
『いや、君が1人で暴走したんだろ』
「やめて!見せないで、こんな記憶見せないで、私に思い出させないで!!!」
記憶が蘇る。アリシアの叫びなど無視して、何処までも、何処までも、掘り返されてゆく。
『アリシア、僕と、これからも一緒に居てくれるかい?』
『勿論よ!どんなに辛い時も、悲しい時も、幸せな時も!私はあなたのそばにいるわ!』
『ありがとう、愛してるよ、アリシア。』
『私もよ、デューク。』
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
罪の意識に耐え切れずに発狂してしまう。叫び続けるばかりかと思えば、今度は聞く相手のいない謝罪を繰り返す。
「アリシア様!?だ、大丈夫ですか!一体何があったんですか!?」
「敵襲か!?」
「おじじゃぁ〜〜〜〜ん!まぁまがふーじゃんのごどいじめぢゃの〜!」
叫びを聞いて朝食をとっていた騎士達が駆けつける。普段は入ることのできない部屋の扉を開けて中に入ると、そこにはベッドの上でうずくまりながら「ごめんなさい」と繰り返すアリシアと、壊れた家具のそばで泣き叫ぶフェルトの姿があった。
「ちょ………ほんと、一体どうなってんだ………?この状況」
「聞いてみよう。アリシア様、一体何があったのですか?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「…ダメだ、全然要領をえねぇ。どうする?もっかいなんか魔法をかけて眠らせるとか………」
「いやいや、最終手段だろ、それ。もっと頑張ってみようぜ。」
アリシアはただただ誰に向けているのかもわからない謎の謝罪を繰り返すばかり。全然こちらに反応してくれないので、騎士達も手をこまねいていた。
「生きててごめんなさいぃ………死んで詫びますから…許してぇ…」
そういって、腰に手をかざす。しかし、これまでずっとベッドにいたから今は帯剣していないことに気づいた。
そして、騎士の1人が下げていた剣を手に取り、引き抜き、首に当てる。
「これでどうか………許してください………!」
「ちょ!お待ちください!なんで自決ーーーー!」
首に当てた刃が皮を切り裂き血を垂らす。そのまま頸動脈まで刃を届かせようとした、その時。
(おいおい、やめろよ、自殺なんて。お前が許しを請うている相手は自殺を望んでんのか?そうじゃなきゃただの自己満だ。やる価値なんて何一つねぇ愚行だ。)
「だ、誰!?誰なの!?私の邪魔をしないでよ!」
「へぁっ!?今度は何が!?」
突然「何か」と会話を始めるアリシア。騎士達には会話の相手は見えない。錯乱して幻覚でも見えているのだろうか?
(誰かって?ひでぇなぁ。自分が殺した相手を忘れるなんて。俺はお前らの事をこれまで一度も忘れなかったぜ?)
「何なの!?誰なの!?」
(俺はずっと、お前の中で力を蓄えてたんだよ。まぁお前の意識が洗脳状態で安定してたせいで、そうすることしかできなかったけどな。こうして錯乱してくれたおかげで表層に出てくることができた。今のうちに礼を言うぜ、体を明け渡してくれて、ありがとよ。)
「……………」
「ア、アリシア様?どうか……」
「眠れ」
「があっ!?」
「ぐはぁ!?」
騎士達が炎で吹き飛ぶ。建物が弾け飛ぶ。
「おや、まだ泣いてたのかい、お嬢ちゃん。安心しな、私は君のような幼児にまで手をかけたりはしないからな。騒ぎを起こされたら困るんで、良い子にしてろよ?お嬢ちゃん。」
「わかっちゃ………ふーちゃんいいこにする!」
「ようし、良い子だ。それじゃ、留守番頼んだよ、フェルトちゃん。」
白炎の翼が背中から姿を表す。出てきた翼を広げ、大空へと羽ばたく。
「……………流石に俺の翼はもう生えてこないか。体が違うからな。まぁ、我慢した甲斐があった。バールバッツ、パワーアップして復活だ!」
騒ぎを起こさないように、自分の魔法で透明化して姿を隠す。上空から現在の街の様子を観察する。そうしているうちに、今住民は闘技場にだいたいが集まっていることがわかった。いったいなにがあるのだろうか?闘技場まで行って確認する。
「………ははは、憎き勇者がぼこぼこにやられてやがる。何者だ?あいつは。」
見ると、勇者と何者かが戦っている。それも、圧倒的にその何者かが優勢で。
勇者を倒し同胞と自分の仇を取るチャンスだが、今降りれば確実にあの女………いや、よく見れば男だ。紛らわしい。あの男に自分がやられてしまうだろう。そういえば、この体の記憶にこの男の記憶があったな。へぇ、こいつの婚約者なのか。被害者って点じゃ俺と同類だな。
ならやるべきは、観察。奴の戦いを見て、いつかのための材料にするのだ。見つからないように気配も極力薄くして、とにかく観察に徹する。
「………おぉ、遂にやりやがった。勇者の野郎も年貢の納め時か。」
闘技場では勇者が倒れている。左目をくり抜かれ、左腕を切断された状態で。側には、聖剣とさっき降ってきた時に自分を串刺しにしそうになった神剣が転がっている。
「……………そういや、この体も聖剣を使えてたな。なら、あの二本の剣を手に入れたら、この体と俺のステータスなら………」
勝てるかも、しれない。もし勝てなくても神の力を持った剣が二本も手に入る。みんなの仇も取れる。
どこかに落ち延びて生き残った同胞を集めて、魔族を再興出来るかも………
「いくしか、ねぇな。」
透明化を解除し、焔を噴射して急降下する。勇者の顔面めがけて。
憎き奴の顔を踏み潰す。息の根を止める。同胞の仇を討つことができたが、喜んでいる場合ではない。
さて、何とかこの場を切り抜けなければ。
勇者の遺体のそばに転がっていた聖剣と神剣を回収し、取り敢えず話しかけてみる。
「やぁ同類。こいつは殺しちゃまずかったかい?」
アリシアが目覚めなかった理由は、
「デュークの魔法が憑依していたバールバッツを消し去ろうと奮闘していたから」
でした。




