25話 屍鬼騒乱
修行編があんまり長くなるのもアレなので、残りはばっさりカット。23話から三年が経過しています。
「まま!はやくいこー!ぱぱかえってきちゃうよー!」
「はいはい、お父様が帰ってくるまでまだまだ時間はあるわよ。だから、ゆっくりお父様を迎える準備をしましょうね。」
「わかったー!ふーちゃんじゅんびするのー!」
アリシアは今、三年前に生まれた娘、フェルトと共に魔族の残党狩りに出発し、今日の夜に帰還するという『勇者』アーノルドを迎える準備をしていた。
街を回って食材やフェルトを着飾るための服を探す。それだけなら勇者と自分を含めた愛人たちが住む屋敷の使用人にに任せれば良いのだが、自分の娘の衣服は自分でコーディネートしたかったのだ。
それだけではない。ここ数ヶ月、王都で「屍鬼」による襲撃騒ぎが多発している。それに対応するためでもある。おかげで親子水入らずで過ごせるひと時を完全武装で過ごさねばならなくなってしまった。
「フェルト、張り切るのもいいけど、もうお昼よ。お腹空いたでしょ?お父様を迎える準備はご飯を食べてからにしましょ?」
「わかった!ごはん!」
「ふふふ、元気ね。それじゃ、何かあなたの好きなものを食べに行きましょう。」
とは言え、凱旋してからというもの顔見知りのもの達からは冷たくされるようになっている。一体何故なのだろうか?あのデュークという私の婚約者だった見知らぬ男を始末してからこの扱いになっている。何故?知らない男といつの間にか婚約させられていたから手遅れになる前に対処しただけなのに。
……………あれ?見知らぬ男だったはずなのに、何故私はその名を知っているのだろう?
(………まぁ、そんなことはどうでもいいわね。あれはもう過去のこと。大事なのは今よ。)
そんなことを考えていると、町中から鈴の音が鳴り響いた。この音は、最近の屍鬼出没の対策の為のものだ。この音が鳴るということは、王都に屍鬼が現れたということ。ならば、自分が取るべき行動は1つ。
「フェルト、あの音の意味がわかるわよね?今、街がとても危険なことになっているの。私は街を守る為に行かなければならないから、あなたは巻き込まれないようにどこかに隠れていなさい。事が終わったら迎えに行くから、大人しく騒ぎが終わるまで隠れて待っているのよ。」
「いつ、おわるの?」
「お父様が帰ってくるまでには、ね。大丈夫、すぐに終わらせるわよ。」
「やくそく!」
「はい、約束よ。」
近くにあった八百屋の主人と話をして、棚の下の隙間にフェルトを隠れさせてもらう。屍鬼は動くものしか追わないので動かないものの中に隠れればその中でむやみに動いたり大きな音を出したりしなければ気づかれることはないだろう。フェルトが中に入ったのを確認してから棚を覆っていたシーツを下ろして完全に隠す。
(私が帰ってくるまで、無事でいてね。)
自分の焔はフェルトを近くに置いておけば確実に巻き込んでしまう。だから、そばに居させるわけには行かない。アリシアはせめて娘の無事を祈ってから、騒動の鎮圧に向かった。
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〜時は少し前にさかのぼる。〜
始めまして、。私、しがない商人をやっているものです。家族で各国を回りながら特産品、名物、希少品を買い揃え、それを別の地で売りさばくことで生計を立てております。まぁ、今は1人連れがいますが。
旅を続けていれば必ず頭を悩ませるのが商品や私達を脅かす外敵、山賊やモンスターですな。
三日程前、私達では絶対に対処出来ない相手、特S級のモンスターに遭遇してしまったのです。
レッドドラゴン。
地上最強の存在である竜種の上位種。そんな奴に私達は出会ってしまいました。しかも奴は手下の他のドラゴンを数頭、連れていたのですよ。
当然、逃げました。家族全員の魔力を合わせて馬車と馬を強化したり、ドラゴンの巨体では通れないようなところを通って撒こうとしたり。
けど、そんな小細工も虚しく馬車を横倒しにされ、地面に家族共々投げ出される始末。もうダメか、そんな事を考え、せめて家族だけでも助けてくださいと神に祈りながら俯いていました。
しかし、ドラゴン達のやかましい叫び声は聞こえてきますが、いつまでたってもドラゴンの牙にかからず、不思議に思って顔を上げたんです。
そしたらそこには、ドラゴン達が何かと戦っている光景がありました。どいつもこいつも謎の相手に歯が立たないようで、目にも留まらぬ速さでばったばったとなぎ倒されて行くんです。風の魔法を使ったのか、突然の突風で私は吹き飛ばされそうになりましたよ。
そして、親玉のレッドドラゴンが頭から真っ二つされて、全てのドラゴンがくたばってようやく謎の襲撃者の正体が分かりました。
ドラゴン達の亡骸の中心に立っていたんです。
痛んだ総白髪を腰まで伸ばして、ジッパーを最後まで閉じた漆黒のロングコートに同じく漆黒の長ズボン。右腰に黒い剣を下げた美しい方でした。その方がこちらに気づいて声をかけてきたので、声で男だと確信する事ができました。黙ってれば女性としても通じるような見た目だったのでちょっと驚きましたね。
何やら王都に行く予定があるなら自分も乗せて行って欲しいとのことで。私は快諾しました。恩返しになりますし、家族も了承してくれましたからね。馬車の中では過去の話に花を咲かせました。
曰く、こんな所にいたのは旅の途中で立ち寄った村に馬車などが存在せず歩く羽目になったからだと。このご時世で馬車の1つもない村があるんだなぁと思いましたが、同時に疑問も湧きました。
こんなに強く、しかも風魔法が使えるなら馬車を使うまでもなく素早く王都にたどり着けたのでは?と。
この問いに彼は答えました。
そんなことしたら警備をしている騎士団の方々に目をつけられてしまいますよとのこと。その言葉に一応納得し、その後は最近の話や彼の旅の話などで盛り上がり、期間があれば護衛してもらったりして、今、王都を守る関所が見える所にまでやってきました。
「ようやく見えてきましたねぇ。短い間でしたが、あなたのお話はとても楽しいものでしたよ。もう直ぐでお別れというのが残念です。」
「そうですね。私もあなたがたと一緒だったおかげで道中楽しく過ごす事ができました。本当に感謝しますよ…………ん?あれは………」
「どうかしたんですかい?」
彼は何かに気付いたのか、いきなり腰に下げているものではない剣を召喚しました。その剣は円状の鍔に腰に下げているものと同じ漆黒の刀身という珍しいモノでした。丸い鍔から覗くように目をつけて王都の方を観察し始めました。そして、剣をしまいました。どうやら、何が起きているのか気付いたようです。
「御主人、ここまでありがとうございました。いま王都では何か混乱が起きているようです。このまま行っては巻き込まれるかもしれません………だから、どうかこのまま引き返してください。私はあそこに向かいます。どうかお元気で。」
「え、いや、ちょっとま「私には王都でやるべき事があります。それが終わればまた後日お礼に伺います。ここまでありがとうございました、次は、もっと落ち着いたところで会いましょう。」
そう言って彼は、デューク=アグレシオン殿は王都の方角に向かって去って行った。最後はちょっと急だったがまぁいいか。通信用の会話板も渡しましたし。
私達は彼の忠告に従って引き返して別の街で商売をすることにしました。あの会話の中でどうやら馬車も王都に近づいていたようです。
引き返す中で見た王都の光景は、無数の白い煙が一陣の風によって薙ぎ払われ、霧散するというものでした。
キャラクター紹介No.4
「ゼロ」
ギルド勤務の活発な女性。デュークの後輩。
働き始めたばかりでぺーぺーであり、平民でもあった自分を見下さずにサポートしてくれたことからデュークを尊敬している。20歳(25時点)




