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終世の復讐者  作者: 桐花・覇
12/47

21話 黒い光明

ようやくデュークのターン。

たくさん活躍させてあげたい。

 

究極風属性魔法(ウルティマ・ウィンド)!」


 一体何時間経ったのだろうか。アビスゴブリンによって奈落に投げ捨てられたデュークは漸く奈落の底に着いた。

 これほどの高度から落とされたのなら体は原型を留めぬほどにぐちゃぐちゃになっていたはず。しかし、そのような悲劇はデュークの全力の魔法によって回避することができた。


「がぁっ…………、はぁ………はぁ………、魔力、が………」


 なんとか死は免れたが、それでも地面に激突した衝撃と衝撃緩和の為に「究極風属性魔法(ウルティマ・ウィンド)」を放ったことによる魔力欠乏で、満身創痍となっていた。ほとんど使い物にならない右腕を支えとして使って身体を起こす。ただそれだけの動作ではあるが、それすら今は辛かった。

 草の少しも生えない延々と続く地面を歩く。先程のアビスゴブリンやアビスオークの様な自分を脅かす敵が出てこないのは幸いであった。

 体感時間にして十数分程歩いたところで一旦足を止め、左腕の残骸を振って自分を「スキャン」する。一緒に体もブレる。



(デューク=アグレシオン(LV22)

 性別:男 年齢:19

 職業:公務員

≪ステータス≫

 体力:F(621)

 魔力:E(1002)

 攻撃力:F(531)

 防御力:F(502)

 速力:F(396)

 精神力:F(201)

≪スキル≫

「風属性魔法LV.10」

≪称号≫

「折れた心」)



「………やっぱり、弱くなってるや。まぁ、当然、だよね。」


 ほとんどのステータスが弱体化していた。今の自分にお似合いの、惨めなステータスである。自嘲して項垂れていると、「奴ら」が、少し先しか見えない程に濃い闇の中から姿を現した。



 奈落人

 LV.89、48、51、53、44、40、50、54、49、52、55、55、49、60〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!」


 無理だ、いくら抵抗したところでこのレベル差と、数。勝てるわけが無い。逃げねば。

 すぐさま踵を返して、歩いてきた道を引き返す。この時、歩いているうちに回復した魔力を使って自分の速度を強化する。レベルの低い奴らはこれだけでついてこられなくなる。

 もっとも、奈落人とデュークのレベルは小さくても倍近い差があるのだが。

 速度を緩めず、ただひたすらに走る。どんなに頑張ってもいつかは魔力と体力が底をつく。そのうち奈落人の中には追いついてくるものが出てくる。だんだんと攻撃に襲われるようになる。最初のうちは、まだ避けることができた。だが、次第に避けきれなくなり、かすり、いつしか、一際レベルの高い奈落人の攻撃がデュークに当たるようになってきた。

 奈落人の持つ錆びた片手斧の一撃が左の肩にに突き刺さる。

 赤茶けた刃がずぶり、と、肩から体内に侵入していく。もはや刃物ではなく鈍器とでも呼ぶべきそれは、皮を、血管を、組織を、肉を引き裂き、骨に侵入を阻まれ、そこで止まる。あまりの痛みに悲痛な叫びを上げる。コントロールできていたはずの魔法が暴発し、デュークの体を数メートル先へと吹き飛ばして地面に転がす。傷口に入る土や砂利が痛みをさらに加速させる。


「がぁ………っ!ああああ!」


 痛みにのたうち回る。動くたびに地面と傷口が擦れ、より数を深くしていく。


 ザッ


「………」

「あ………あああ……………」


 痛みも落ち着き顔を上げると、辺り一面を奈落人が取り囲んでいた。もう逃げられる場所も無い。ジリジリと奴らは近寄ってくる。


 ザッ


「あああ………」


 ザッ


「あああ………」


 ザッ


「はっ、ひゃい、はい、中位風属性魔法(ハイ・ウィンド)ぉぉぉ!!!」


 詠唱と共に突風が奈落人たちに向かって吹き荒れる。不意をつけたこの一撃は包囲網の一部を吹き飛ばし、道を作ることができた。そこからまた、逃げるために走り出す。

 だが、


「ぎゃっ………………っ!?」


 奈落人の一人が投げた槍によって足を地面に固定され、その反動で再度地面に倒れ伏すこととなった。


「やだぁ………!いやだぁ!いやだぁ!死にたくない!死にたく無いよ!助けて!誰でもいいんだ!助けて!助けて!しにたくなぁぁぁぁぁぁぁぁい!」


 ザッ


「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!」


 もうダメだ、と思った。目の前にはおそらくこの群れのリーダーであろう、一際レベルの高い奈落人が、巨大な刀を持ち上げながらこちらを睨んでいた。

 奈落人がデュークの頭をかち割らんと刀を振りかぶる。鋒が天を仰ぐ。反射的にデュークも体を丸める。防御の態勢をとる。そこに、刀が、振り下ろされーーーーー








 ーーーーーなかった。



「……………?」


 起こるはずの自体が起こらなかったことに困惑し、

 顔を上げる。

 そこには、漆黒の剣に頭部を貫かれ、物言わぬ肉塊と化した奈落人がいた。

 漆黒の剣に貫かれた頭部が刃を滑って地面に崩れ落ちる。剣も一緒に傾いて、デュークの前にその柄を差し出した。まるで、死にたくなければ使えと、言っているかのようだった。


「………」


 右手を使って剣を掴む。すると、柄から黒い靄が溢れ出し、デュークの右手を包み込んだ。


「うご………く?右腕が、動く!」


 右手を包んだ謎の靄は、かつて神経を引き裂かれ、使い物にならなくなったデュークの右腕を、復活させてみせた。これで、この剣を持てるようになった。

 復活した右手を振り、剣を「スキャン」する。


(終世剣『奈落ノ太刀』LV.1

≪スキル≫

「斬命」「自動修繕」「再生」「見極めている」)


 随分と変わった剣だな、と感じた。普通は武器ならばどんなに小さい値でも持つものの攻撃力や防御力を上げるようになっている。だが、この剣にはそれが一切無い。レベルがあるというのもおかしい。普通の武器ならレベルは存在しない。付いているスキルも、どれも見たことがない。特にこの、「見極めている」とは、なんなんだ?


「………考えてても、しょうがないか」


 リーダーの突然の死亡に狼狽えていた奈落人達はもう平静を取り戻し、全員がこちらを睨んでいる。けど、何故だか負ける気がしない。

 剣を地面から引き抜き、奈落人達に向かって構える。さっきの黒い靄がまた、今度は全身を包む。

 靄が晴れると、さっきまで負っていた深い傷が全て治っていた。


「死んで、たまるか」


 奈落人の群れに突っ込む。目の前に来る相手を斬り伏せ、集団で来れば風魔法で蹴散らす。斬っても斬っても、後からわらわらと湧いて来る。それをまた斬る。対応しきれなくなれば攻撃を食らう。だが、そんな傷は『奈落ノ太刀』が再生する。

 何度も、何度も、斬った。そしてついに、奴らを全滅させ、包囲網を、突破することができた。


「はぁ………はぁ………」


 ひどく疲れた。『奈落ノ太刀』の力によって傷は回復しても、肉体的、精神的な疲れまでは回復できない。

 その上、右手の操作には10年以上のブランクがある。戦いの中でそれを埋めることはできただろうか。

 この地に暮らすモンスターが奈落人だけとは限らない。いや、確実に他のモンスターも生息しているだろう。そいつらが、この奈落人達よりも強かったら?今のままでは対抗できないかもしれない。けど、行くしかない。まぁ、この剣があれば攻撃を食らっても再生できる。死ぬことはないだろう。

 剣を支えに膝をつく体制を直して立ち上がり、奈落の淵を目指して歩き出す。






 ーーーーーーーーーー






「まさか………こんなのまでいるとはね。」


 ここまで幾多もの敵を斬り殺してきた。奈落人、奈落蛇、奈落犬、奈落虫、etc………。だが、目の前にいる大物と遭遇するのは初めてだった。現世での生活を合わせても、奴と遭遇したことは2回しかない。


「ブラックドラゴン………!」


 竜種の頂点に位置する黒き竜。それが目の前にいた。相手もこちらを捕捉し、臨戦体制を整えている。

 どうやら、見逃してはもらえないようだ。


「……………行くぞ」


 呟く。それが聞こえたのかは知らないが、黒竜も立ち上がり、こちらに向かって吠える。全く、臨戦体制を整えてからやることではないだろうに。


「はぁぁぁぁぁぁ!!!」


 剣を突き出し、黒竜に向かって突進する。風の力がその前進を早める。距離が半分ほど縮まった時、



 ボッ



「………え?」


 黒竜の放った黒炎のブレスによって、デュークの左半身が吹き飛ばされる。その余波で『奈落ノ太刀』は手放され、デュークと共に宙を舞った。



アイテム紹介

「終世剣『奈落ノ太刀』」

終世の中でも死にたくないと足掻く生き汚いものの下にどこからともなくやってる。現世にある剣に比べて変わっている点が多い。

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