19話 奈落の底へ
もしこの小説がよくある長文タイトルのやつだったらどれほどの人が見てくれたのだろうか。今よりも多いか、少ないか、ちょっと気になる。
「セネカルト様、護衛、ありがとう、ございました………この、お礼は、また、いつか……」
「いや、元はといえば私がアーノルドを止められなかったせいでこうなってしまったのです、私に礼を言われる資格は………ありません。今は、ゆっくりと心と体の傷を治してください。」
「重ね重ね、ありがとう、ございます……。セネカルト様、お元気で………」
「………先輩、また、一緒にお仕事、出来ますよね………?」
「もち、ろん。ちゃんと治して、また、戻って、くるよ。」
「デューク様、出発致します。危ないですので、中にお戻りください。」
ヒィィン、と馬が鳴き、ゆっくりと馬車が走りだす。馬車は次第にスピードを上げていき、見えなくなっていった。
「いっちまったなぁ。これでもう暫くあいつには会えなくなるのかぁ。あいついじって遊ぶのは冒険に出るまでの間のちょっとした楽しみだったんだけどなぁ。」
「もう二度と戻ってこれなくなったりしてな!」
「ははは、ありそうだな!終世に連れてかれたりして!」
「やめてください!そんなことを言って、現実になってしまったらどうするんですか!?他人の人生に関わるようなことをそんな軽々しく口にしないでください!」
「………(不味いな………さっき思いっきりそんなことを口にしていたな………聞かれてなくてよかった………)」
「セネカルト様も、なんか言ってやってください!」
「あ!?あぁ、そうだな、『終世』について軽々しく語るのは良くないと思うぞ!?(申し訳ない、デューク殿!)」
さっきの自分の発言を棚に上げてのたまうセネカルト。一応、心の中でデュークに謝っておく。
「もう私たちにできることは見舞いに行くことくらいですから、今日はもう仕事に戻りましょう。また後日、手土産でも持ってお見舞いに行きましょう。」
「………そうだな。その時は是非、私も呼んでくれ。あと支部長殿、これを。」
「おや、これは?」
「私の騎士団と直で繋がる魔力会話板です。貴方方は勇者に対してかなりの悪印象を与えたはずです。あれは自分に従わない者、気に食わぬ者には容赦が無い。今後何かしらの迷惑をかけてくるかもしれないので、その時は連絡を下さい。」
「これはこれは、お気遣い痛み入る。」
「では、私はこれで。」
「セネカルト様、先輩の救命、ありがとうございました。」
「礼なら、私の部下に。」
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「デューク様、もうすぐ日も暮れてしまいますし、まだ王都を出ていませんが、どこかの宿に泊まりましょう。」
「そう、しようか。」
「かしこまりました。ではここから最寄りの宿に行きましょう。」
「そう、だね。
…………………あ、」
「どうされましたか?」
「あれ、は、アリ、シア?何で、ここに?」
「確かに………あそこにいるのはアリシア様ですね………しかし、勇者も一緒ですが………」
「止めて!」
「はっ?いや、しかし………大丈夫なのですか?」
「いいから!」
御者の制止を意に介さず、きちんと馬車が止まる前に降りて行く。そして、御者の止める声も虚しくデュークはアリシアとアーノルドに向かって行く。
「アリシア!僕だよ!ぼくとはな「ふん」
「ギャァ…………!」
2人に向かって言ったデュークは、アーノルドの風魔法で吹き飛ばされる。その仕草には、なんの感情も無い。ただ、近寄ってきた虫を払う、そんな気軽さでデュークは吹き飛ばされていった。
「君の名前を呼んでたけど、あれはアリシアの知り合いかい?もしそうなら悪いことしたなぁ。」
「知らないわよ。私の知り合いにあんな禿げ頭はいないわ、失礼ね。」
「おっと、喧嘩はダメだよ。僕達が喧嘩したら、
『この子』が悲しんでしまうよ。」
「そうね。両親が生まれる前から仲違いなんてあってはならないことだわ。」
「………………!!?」
アリシアが自分の腹をさすり、うっとりとした顔でアーノルドの言葉に応じる。さっきは気がつかなかったが、よく見ると少しお腹が膨らんでいる。最後に会った時はこんなことにはなっていなかった。こうなったのはデュークの左腕を切り落とした後からなのだろう。
「早く行こう、みんなが待ってるよ。」
「そうね、他の子達も待ってるし、早くご飯作らなきゃ。」
こうして、2人は倒れるデュークのことなど意にも介さず、夕焼けの街に消えていった。
「デューク様………宿の手配ができました、完全に日が落ちる前に早く宿に入りましょう………?」
「……………………………………」
「デューク様?」
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
「デューク様!?」
いきなり絶叫を上げ、何処へと走り去って行くデューク。
ここまでずっとこらえてきたものが、さっきのやりとりによって完全に噴き出してしまった。既にもう、心は壊れてしまっている。一心不乱に走るその顔は涙と、よだれでぐちゃぐちゃになってしまっている。その姿を見た通行人が、思わず目をそらしてしまうほどに痛々しい姿となっている。
「デューク様!不味い、路地裏に入られたら馬車では追えん!こうなれば自分の足で!」
御者は走る。デュークを追いかけて。しかし、最初に虚をつかれたせいでかなり離されたこと、ジグザグに道を走ってゆくせいで追いかけづらいこと、そして何より、案外足が速いこと。これらの要因によって、御者はデュークを見失ってしまった。
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「はぁ…………………………はぁ………」
もう、どれくらい走っただろうか。走り出した時はまだ出ていた日ももうすっかり沈んでいる。体力も切れて走れなくなり、その場にへたり込んでしまっている。
「なんで………何でこんなに、僕が苦しまなくちゃいけないんだよ………!」
その叫びを聞くものは、どこにもいない。
「こんなに苦しいなら、いっそ、死………」
「………………!!!???」
死にたい、そう言おうとした。だが、最後まで言い切る前に、何かが、デュークを闇の中へと引きずり込んだ。デュークの意識は自信を闇へと誘うそれとともに、闇の中へと沈んでいった。
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「………………う………ん………」
目を覚ました時、そこは鬱蒼と木々や草が生い茂る大森林だった。見渡す限り、木、木。平原など、ましてやさっきまで居たはずの街などどこにも見えなかった。
「終世」
ボソリと、小さく呟く。おとぎ話や噂話でよく出てくる世界。終世。終わりを求めるものに、「終わり」を与える世界。考えられる中ではそこしか無い。
「死にたい、なんて、いったから………」
正確には言う前に連れてこられたのだが、そんな些細なことはどうでもいいのだ。
途方に暮れているうち、どこからか物音がした。
草っ葉をかき分けて現れたのは、
「ゴブリン………!オーク………!?どうして、こんなところに………!?」
アビスゴブリン
Lv.76、53、52、54、49、50
アビスオーク
Lv.75、54、56、55、52、46、54、58
力の差は歴然。LV.30にも満たないデュークが戦って勝てるような相手ではなかった。しかもそれが10体以上。見えていないだけで、他にもいるかもしれない。そんな状況で出来ることは、
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!」
逃げ。それだけだった。でも、追いつかれる。圧倒的なステータスの差。どうあがいても変えられない力の差。すぐに追いつかれ、ゴブリンの棍棒が振り下ろされ、デュークの背中をとらえる。血反吐を吐き、他に倒れ臥す。肺をやられたのか、呼吸がおかしくなっている。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!」
ゴブリンは倒れるデュークの足を掴み、どこかへ連れて行こうとする。甚大なダメージを負ったデュークが、それに抵抗できるわけがない。為すがままに引きずられ、目的地に着いたのか、ゴブリンが足を止める。
「………?
(巣にでも着いたのか………?僕はこいつらの餌になるのか………?)」
「!?」
いきなりの衝撃がデュークを襲う。ゴブリンに投げられたのだ。その着地先は、
(地面が………!見えな………!)
その先は『奈落』。生者を呑み込み、死者へと変える大穴。ゴブリンはデュークをそんな穴へと投げ入れたのだ。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!??????」
堕ちていく、底の見えぬ、『奈落』の底へと。
アイテム紹介
「魔力会話板」
魔力で通信する携帯電話。会話を受信も送信も出来る親機と、受信しかできない子機がある。親機は大体家に置いてある。