17話 騎士の追憶 終わり
やっと終わった。途中で書きかけのが消えてしまって今日の投稿を諦めかけた。
『魔族』バールバッツ=エルツィンの最後の力を振り絞った自爆攻撃。それは王城だけで無く、勇者達をも巻き添えにして多大な被害を生んだ。特に、トドメを刺した為に一番近くに居たアリシアの傷は深刻なものであった。
「アリシア!!!意識はあるか!?あるなら反応してくれ!!」
「…………」
「これは………、傷が深すぎます………!これほどの重傷、「上位回復魔法」でも治せるかどうか………!」
「どいてくれ、2人とも。ここは、僕がやる。大丈夫だ、信用してどうか僕に任せてくれないか?」
「けど、アーノルド様。確か、あなたは回復魔法を使えなかったはずです!なのに、いったいどうやって………!!!」
「これを、使う。」
そう言ってアーノルドが取り出したのは小さな瓶に詰められた白色の液体。
「僕の使っている装備と共に最高神様より賜った秘薬だ。神の作りし薬、その効果は「究極回復魔法」すら凌駕する、素晴らしいものそうだ。これを使う。」
「ごちゃごちゃ言ってないで、さっさと使ったらどうだ!?手遅れになるぞ!」
「中位回復魔法」を使ってアリシアの延命をしていたセネカルトが叫ぶ。それに応えてアーノルドが秘薬を使用する。口から入った白い液体が全身に回り、内側から全身を光で包む。光に包まれた部分が瞬く間に生気を取り戻していく。損傷した部位が再生していく。焼け爛れた皮膚が、欠損した腕が、元の形を取り戻していく。「秘薬」を使用してから1分程でアリシアは完全に回復した。
「これでもう大丈夫だ。戻って町のみんなに報告しよう。これでまた少し、世界が平和になったんだ。アリシアの活躍は皆に喝采されるだろうね。」
「よかった………!」
「共に戦った仲間を失うなんてことにならなくて、本当に良かったです………アーノルド様様がいなければ取り返しのつかないことに………」
「やっぱり、勇者様は最高です!」
「………………」
『賢者』が、『僧侶』が、『暗殺者』が、アリシアの無事を喜び、勇者を持ち上げる。だが、
(今………洗脳魔法が使われていたような気がしたのだが………私の、気のせいか?そうであるならいいのだが………)
セネカルトは、素直に喜ぶことができなかった。嫌な予感が、今のままでは、これまで犯し続けてきたミスをまた犯してしまう気がした。
『勇者』が、秘薬による治癒に乗じてアリシアに洗脳をかけた。
「呪い耐性」のスキルを持っていたとしても、完全な耐性を得られるのは精神が平常の時だけ。意識を失っている今洗脳を掛けられたら、アリシアは確実に虜になってしまう。
ただの疑念である。それでも、もしこれの疑念が本当だったら?確実に取り返しのつかないことになる。それは絶対にあってはならない。
(一応、解呪を試してみるか………。何もなければいいのだが………)
そう思って未だ地面に横たわっているアリシアに近づこうとした。だが、
「………ん………ここ、は………?」
「アリシアさん!目を覚ましたんですね!」
「どこか、まだ悪い所はありませんか!?なんでもおっしゃってください!」
「大丈夫?携帯食、食べる?」
「あっ………」
間に、合わなかった。予感も、的中していた。アリシアの瞳が紫に染まっている。被洗脳者特有の目に。
「大丈夫だったかい?アリシア。回復したのに全然目覚めないから皆とても心配していたよ。」
「あ………申し訳ありません…アーノルド様。みんなにも、迷惑をかけて………」
「けど、生きて帰ってきてくれたんだ。仲間が欠けなかった、それだけで僕は嬉しいよ。」
「そんな………アーノルド様、勿体無いお言葉です………私なんかの為に………」
アーノルドとアリシアが抱き合う。その光景は、これまでセネカルトとアリシアがずっと苦言を呈してきた光景そのものだった。
「お………おい、アリシア………。お前は確か、都に婚約者がいるのではなかったか………?こんなことをして大丈夫なのか………?」
「………私が意識を失い生死の境をさまよっている間、最高神様よりお告げがあったのです。
『加護』を持つ聖人は、勇者に付き従い勇者のために尽くすことこそが役目であると。私のこれまではずっと、間違えていたのです。これまでずっと、邪魔をし続けて………勇者様、本当に、申し訳ございませんでした………」
「気にしなくていいんだよ、アリシア。そんな君も愛おしいよ。」
「勇者様………」
「………………!!!」
良い雰囲気になる2人。そしてそれを微笑ましく見つめる3人と憎々しげに睨む1人という構図が出来上がっていた。
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魔王討伐の旅道中 アルメタ王国 某所
「あああああああああああああ!!!!!!?」
「これで邪魔は無くなったわ。行きましょう、勇者様。」
「これでアリシアさんも本当の仲間になれましたね!」
「なーに油売ってるんですかー?早く行きましょうよー、セネカルト様ー?」
「こんな怪我人を放って行けるか!『賢者』!『僧侶』!貴様らも手伝ったらどうだ!?」
「ダメだ、セネカルト。これは治していい怪我じゃない。」
「っ!ふざけるなよ!私に、これを見過ごせというのか!?」
「………なら、勝手にしろ。すぐに帰ってこいよ。」
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魔王討伐の旅道中 アルメタ王国 王城医務室
「これで………命の問題はもう無いでしょう。後は出来るだけ安静にさせてください。」
「ありがとうございます………!本当に、何とお礼を言ったら………!」
「そんな………!私の仲間がやった事です、お礼を言われる理由は私にはありませんよ………!」
「あ………あと、勇者に、お気をつけ下さい。御息女などは、特に。」
「かしこまりました………皆にも、伝えておきましょう。」
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魔王討伐完了後 とある村
「なんでだよぉ…………!何で、俺の恋人が勇者と一緒にいるんだよ!」
「………本当に、もうしわけな「あんたがいれば大丈夫だと思ってたのに!」
「そうだ!」
「あんたが聖騎士だっていうから、俺たちは信用してたんだぞ!」
「何が『聖騎士』だよ!偉そうなのは肩書きだけで、何にも守れてねぇじゃねぇか!」
「………………!!!」
魔王討伐後、セネカルトは勇者に恋人や家族を奪われた家々を回っていた。そして、そこで彼らから罵倒を受け続けていた。普段なら圧倒的に身分の違うセネカルトに彼らが罵倒をする事は許されることでは無い。
でも、セネカルトは何も言えない。それらが全て事実だからだ。ただ、この罵倒を受け止め続けるしかなかった。今まではアリシアも自分と一緒にこうして罵倒を受けてきた。だが、そのアリシアは今は居ない。
「こんなことに………!こんなことになるなら世界なんて滅びた方がマシだったよ………!」
「………!!!」
こんな、これまでの全てを否定するようなことも言われた。心が折れそうにもなった。それでも続けた。ここで辞めれば勇者に屈したことになるから。理不尽に、間違いに屈し、自分の信念に背くことになるから。
(神の思し召しでも、私は、自分の信念に背くことは出来ん。これからも、奴と戦い続けようでは無いか。)
『聖騎士』は行く。自らの信念に従って。
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「………まぁ、だいたいこんな感じのことがあったのだ。」
「そう、だったんですか………。」
「私がいくら苦労したところで、当事者達には何の慰めにもならないかも知れない。だけど、勇者に虐げられるものを放っておくわけにはいかないのだ。君も、勇者に狙われる可能性のある美少女だ。その時は私を呼んでくれ。力になりたい。」
ゼロの手を掴み、セネカルトが言う。握る手にこもる力が彼女の真剣さを雄弁に主張している。
「………もう、朝ですね。そろそろ、アグレシオン家から先輩を迎えに馬車がやってくるはずです。その時に今来ている服ではちょっと見苦しいので、着替えを取って来ますね。」
「あぁ。ちゃんと見張っているから心配いらんぞ!」
「………デューク殿の受けた痛みは相当なものなのだろうな。これで人生に絶望して、『終世』に引きずり込まれるなんてことがなければいいのだが………」
キャラクター紹介No.4
「アーノルド」
人間の勇者。18歳。
アリシアをデュークから寝とった仇敵。神に選ばれた存在として魔王討伐を先導する。死後は神になる予定らしい。実は異世界からの転生者である。
最高神によって素のステータスを引き上げられ、Lvを上げやすくされ、すごい装備をもらい、様々なスキルを使えるようになった。自分に仇なす奴には神が罰を与えてくれるため、(魔族と加護持ち以外)調子に乗っている。右利き。