第一夜1
見切り発車です。お手柔らかにお願いします。
…ふ、と。
意識が覚醒した。
まず、周りを見渡す。知らない部屋だ。
「此処、何処だ? 」
寒くもなく、暑くもない。寝ていたのはベッド。
近くに机があり、その上に携帯端末らしき物と、
パソコンのような物がある。
壁際には本棚らしき物と何か箱の様な物。
扉も複数あるようだ。
机に近付いて、良く見てみると、紙がある。手に取って読む。
『おはよう。目覚めたようだね? 気分はどうだい?
知りたい事などあればパソコン側のデータベースを参照してくれ。
携帯端末には必要機能を特化してまとめたはずだが、
足りない場合はパソコン側から転送するなり新たに【創造】してくれ。
【創造】、などについても知りたい場合は、
どちらからでも調べることはできる。
特に行動に制限はかけないし、指針も特に無い。
パソコン側に動画を置いておいた。見てどうするかも自由だ。』
…これだけか。
情報は詰め込んではあるが現状の説明などは無い。
これは動画を見るべきだろうか?
とりあえず、自分についての現状確認。
その後に部屋の中から調べるべきか。
どちらの端末も、まだ見る気にならない。
声に出す必要は感じられないが、
こういった場合はあえて声に出して確認するべきだろうと思う。
「伊藤 克也、40歳。
色々有って現在無職、だが、
この場合無職であったのは不幸中の幸い、なのか?
外部への連絡手段があるのかはわからないが、
拉致されて監禁か軟禁かされている模様。
昨夜はネット環境がまだつながっていた頃に落とした、
フリーゲームをある程度プレイして疲れてから寝たはず」
声に出してみて、気付く。
拉致されているとして自分に何か価値があるのだろうか、と。
言っては何だが平凡。
……いや、平凡にすら届いていない先の見えない無職のおっさん。
就職していた時代に何か成し遂げたこともなく、
ひたすら時間を浪費して日々を怠惰に過ごしていたはず。
むしろ、怠惰すぎて親族が何かの報酬と引き換えに俺を提供したか?
このまま考えても良い方向に向かえる気がしない。
「んー、考えるだけ無駄な気もしてきた。部屋の中色々見てみるか」
手始めにいくつかある扉の前に立つ。
部屋の一つ一つに張り紙がしてある。
一つだけ離れた扉を確認する。
『この先 ダンジョン』
……一体、何の冗談だこれ?
そう思いながら天井を見て、気付く。
明かりらしきものがなく、天井全体が光っていた事に。
先ほどは気にしていなかったから気付かなかったのだろうか。
箱や扉開けて確かめるのも何があるのかわからず怖いし、
本棚や端末などを見てから後で調べる事にした。
扉に鍵がかかっているのか確認しようかとも思ったが、
触って感電とか開けた途端矢が飛んでくるとかあったら怖いので、
開かない様に何か置ける物を探す。
(蝶番の方向で部屋に引っ張る形で開くと確認済み)
端末にはまだ触れずに、本棚から見る事にする。
とはいえ、本棚には数冊の本があるのみ。
パソコンの説明書、部屋の説明書、端末の説明書。
軽く目を通してみるが、あまりおかしなな部分は見つからない。
とはいえ、落ち着いたら一度じっくり目を通すべきか。
部屋の説明書には部屋の見取り図と扉の名前がある。
しかし、気になる記述がある。
『初期配置時』……と。
少し読むと、何かしらのポイントを使っての変更が可能らしい。
ダンジョンと書いてある扉の部分は後回しにして、
他の扉の説明も見ていく。
トイレ。脱衣所に洗濯機と思われる何かのある風呂場。
畳に布団とフローリングの床にベッドの寝室。
娯楽室と書かれた何もない部屋。
倉庫と書かれただだっ広い空間のある部屋と、
その中から繋がる作業場と書かれた扉。
その先にある、簡易的な道具類と作業スペース。
「一応の生活環境はあるようだな。食材やらの素材は、
自分で調達してこいって事……か。
後は、端末とパソコンとダンジョンの扉、か」
そうして、机の上の端末に手を伸ばし、触れる……と。
「ようこそ、伊藤克也様。
今はまだ、この【部屋】と【ダンジョン】のみしかないこの世界、
これから末永く宜しくお願い致します」
と言う音声が聞こえ、
空中に朧げな人のような形をしたモノが浮かんでいた。