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神さまと悪魔さんのお話

作者: まぷれうた。

セリフが多いです。

苦手な方はUターンをお願いします。

 緑豊かな森の奥にある小さな泉。

 その泉には神様がいて、いつもみんなを見守っているんだそう。








「かみさまは、どうしてここにいるのー?」

「お仕事をするためです」

「おしごとー?」

「この世界とは別に、天界と魔界という世界があって、3つのバランスを保つことが、僕たち天界の役割なんです。この世界からバランスが崩れないように見守るのが僕のお仕事です」

「よくわかんなーい」

「ふふっ、それでいいんです。君たちは笑っているだけでいいんです」

 たくさんのこの小さな笑顔を守りたい、それが神さまのいちばんの願い。

「てんかいとまかいには、どんなひとがいるのー?」

「天界には神さまや天使が、魔界には魔王や悪魔がいます」

「「てんし?あくま?」」

「天使はみんなに幸せを運ぶお仕事をしています。悪魔はみんなに不幸を運びます。簡単に言うと、僕たちの敵ですね」

「かみさまのてき?わるいやつだ!」

「そうなりますね」

 子供たちは素直で可愛いと神さまはふと思う。

「さあ、夕刻になります。そろそろ帰りましょうね」

「「はーい!かみさままたねーー!!」」

 明日も子供たちと笑い合える日になりますように。








 神さまは泉の中に住んでいる。

 子供たちが来る前に水の中から出て待っている。

 今日もいつもと同じ。空を求めて浮上する。

(おや、今日はもう居るのでしょうか)

 泉のほとりから感じる弱々しい生命力。きっと子供たちのものだろう。

 おはようと水面へ顔を出す。

「なっ………」

 そこにいたのは───

「ん……ここは…?…いっ……」

「だ、大丈夫ですか!?どうして悪魔がここに…?しかもこんな大怪我…」

「だ、誰だ…?人間…?気安く触れ…るな…さもなく…うっ!!」

「手当をしましょう!痛いのは少々我慢してください!」

 子供たちに悪魔は敵だと言ってしまった以上、こんな姿は見せられない。

 それに、この悪魔が子供たちに害を加えないという保証はない。

 幸い、子供たちは村の祭りでこの後3日間泉に来ることはなかった。








「傷を見ましょう」

 神さまはそう言って、悪魔の肌へと手を伸ばす。

「…ぐっ………!!」

 触れた途端のできごとだった。

「大丈夫ですか?」

「神さま…ランクは何だ?」

「僕はAです」

「やはりそうか…あまり私に触れないでほしい。力が抜ける…」

「は、はい」

 魔界と天界で暮らす個体には、それぞれの力に合わせたランクというものがある。

 ランクの差が広くなれば広くなるだけ、触れた時などのランクが下の者への負担が大きくなる。

 神さまはなるべく触れないように包帯を外していく。

「だいぶ良くなりましたね」

「神さまの腕が良かったからだろう」

「そんなことありませんよ。悪魔さんの治癒力がすごいだけですよ」

「そうかもしれないな」

 神さまと悪魔は互いに思う。

(悪魔とこんな会話をするなんて)

(神さまとこんな会話をするなんて)

 一生話すことがなくてもおかしくない2人が。

 小さな泉で同じ日を過ごした。

 1日。

 2日。

 3日。

 悪魔と過ごして神さまは思う。

(この悪魔さんは本当は良い人なのではないでしょうか)

 木に腰掛けている悪魔と神さまの視線が絡み合い、

「「………」」

 互いに目を逸らす。

 薄紫色の肌を桃色に染めながら悪魔は思う。

(感じたことのない感覚だ…私は…こいつをどう思っているんだ…?)

「「かみさまーーー!!」」

 ふと聞こえた子供たちの声。その声はだんだんと近づいてきて、

「わぁぁああ!だれかいるーー!!」

「はねあるよ!」

「あくまじゃない?」

「てき!てき!かみさまのてき!!」

「たおせーーー!!」

 木の棒を持ち、悪魔に向かって走っていく子供たち。

「……??」

 現状理解に追いつけない悪魔。

 子供たちが棒を振り上げ────

「ちょっと待ってください!」

 神さまの制止の声でブレーキをかける子供たちだが、間に合わず。

 ぽふん。と、間抜けな音とともに悪魔の胸の中へ。

「おっと」

 力加減が分からず、触れるか触れないかギリギリの力で飛び込んできた子供を支える。

 子供とはいえ、彼は立派な男の子であり。

 人間ではないとはいえ、悪魔は立派なサイズのおっぱいの持ち主であり。

 現状把握に長い時間はかからないわけで。

「うぅわぁぁああああ!!!!」

 悪魔を押し、自らも仰け反り、その勢いで後ろに転がり、距離を取る。

 一方、悪魔には男の子が感じたような感情はないため、特に気にせず。

「私が怖いのか?安心しろ、手は出さん。心配なら両手足を縛ってもらって構わない」

 そう言い両手を上げる悪魔に子供たちは目をパチクリ。

 顔を見合わせ、数秒。

 悪魔に近づき手を伸ばす。そして悪魔の手を取り、

「あくまさんもあそぼー!!」

「…………は?」

 悪魔の手を引っ張り、早く早くと急かす子供たち。

「かみさまがとめたってことはだいじょうぶってことだもんもん!だからだいじょうぶ!」

「は、はぁ」

 子供たちに引っ張られ促されるままに悪魔は立ち上がる。

「おにごっこしよー!あくまさんおにねーー!!」

 きゃー!と子供たちが散りじりになっていく。

(鬼ごっこか。昔、兄さんたちとよくやったな…)

 昔を思い出し、懐かしむ。

(昔のように話せる日は来るのだろうか……無理か…)

 今となってはもう叶うことのない思い。

「どうかしましたか?」

 神さまが心配そうに悪魔を見つめる。

「いや、昔を思い出していただけだ」

「そうですか」

 しばらく沈黙がその場を包んだ。

 沈黙を破ったのは子供たちだった。

「あくまさーーん!!なにしてるのー!!」

 遠くまで逃げていた子供たちが戻ってくる。

「私が幼い頃のことを思い出していた」

 おぉー!!と興味ありげに見上げてくる子供たちを、悪魔は次から次へもタッチしていく。

 きょとんとする子供たちに一言。

「これで全員捕まえたか?私の勝ちだな」

 ふふんと決め顔の悪魔である。

 ぶーぶーと子供たち。

 その野次もすぐに止み、

「あくまさんのちいさいころのおはなししてー!」

 と、悪魔の手を引っ張り今度は座らせようとしてくる。

 悪魔はされるがままに座り、足の上に座ってきた子供もされるがままに放っておいた。

「私の幼い頃の話を聞いてどうするんだ?面白い話などひとつもないぞ?」

「いいのー!はやくはやく!」

「悪魔の生活が気になるのですよ。僕もぜひ聞きたいです」

 ニコニコ笑顔の神さまに押され、悪魔は昔を語り出す。

「お前らと何も変わらないぞ。そうだな、何を話そうか。かくれんぼで迷子になった話をしよう。私がまだ6つの時の話だ」








「おにいちゃん…」

 深い深い森の中。涙目の少女が歩いている。

 この森は魔界にある「闇の森」。

 奥に入れば、二度と出てくることはできないとされる森。

 今まで生きて帰って来た者は1人もいない。

 森の手前にある公園でかくれんぼをしているうちに、気づかずに入ってしまった。

「怖いよ…おにいちゃん……」

 少女は兄を探し森を歩いていく。

 少女は知らない。

 森の奥に進んでいることを。

 少女は知らない。

 この森には魔物が住んでいることを。

 ギエー!と魔鳥が頭上を飛んでいく。

 ずしん、ずしん。と、巨大な足音が近づいてくる。

 少女は動けずにいた。ただ、ふるふると肩を震わせるだけ。

 そして。

 目の前の木々が倒れ、その向こうから魔物が姿を現す。

 木よりも高い長身の体。足が6つに手が4つ。紫色の硬い皮膚には、赤黒くどろりとした液体が飛び散っていた。

「ひっ……………」

 立ちすくむ少女を魔物の目が捉えた。

 ギギギギギギと魔物の腕が伸びてくる。

 あの手に握られれば、ひとたまりもないだろう。

「あ…あぁ……」

 言葉にならない声が少女の口から漏れる。

 薄紫色の肌が青白くなっていく。

 魔物の手が迫り、少女の体が呑まれる。

「おに…ちゃ…」

 意識を手放しそうになりながらも、必死に兄を呼ぶ。

 助けに来てくれると信じて。








「その(あと)、兄さんたちが助けに来てくれた。私は記憶にないがな」

「まかいってこわいね」

「まものこわい!」

「あくまさんのおにいちゃんはどこにいるのー?」

「魔界にいる。魔王様の補佐をしている」

「ほさ?」

「手助けする人のことだ」

「あくまさんのおにちいゃんはすごいひとなんだね」

「あくまさんもすごいひとなの?」

「いや、私は…」

 言葉を濁した悪魔に子供たちは気づくことなく、

「あ、もうゆうがただ!」

「かえらなきゃ!」

「かみさま、あくまさんまたねー!」

「「ばいばーい!」」

「……なんだったんだ?」

「ふふっ。楽しい子たちでしょう?」

 深追いされなかったことに悪魔は安堵のため息をつく。

 しかし、

「もし良ければ、ここにいる理由を教えてくれませんか」

 安心する時間はなかった。

「………」

「無理にとは言いません。教えてくれるのなら…」

「……追い出されたんだ」

「魔界を…ですか?」

「あぁ」

「でも、どうして?」

「私が出来損ないだからだよ。私は兄さんとは違う。私のランクはFだ。昔から何をやっても失敗する。魔王様に追い出されたことで、家族からも見放された。この年まで魔界に居られたのがおかしいんだ。いつ追い出されてもおかしくなかった。その日が来てしまっただけだ」

 悪魔は寂しげに遠くを見つめる。

「…それでいいんですか?」

「それでいいも何も、魔王様が決めたことだ。変えることはできない。私はもう悪魔ではない。堕ちてしまったからな」

 悪魔の目には諦めの色が映っていた。こうなることを知っていたからだろう。

「私に帰る所はもうない。…だから、お願いだ神さま。私をここに居させてくれないか。子供たちには手は出さない。何でもする。だから…!」

「落ち着いてください。ここに居て構いませんから」

「…本当か?」

「追い出す理由なんてありませんしね。悪魔さんは良い方ですし」

「…ありがとう。助かる」

「それに……」

「ん?」

「どうやら僕は、悪魔さんに恋しちゃったみたいです」

 悪魔は一瞬、何を言われたのか理解できなかった。

「………!!な、何言ってるんだ!?堕ちたとはいえ、私は悪魔だぞ!?」

「分かっています。でも、諦められるものではありません。」

 悪魔は思う。

(以前感じた不思議な感覚と同じだ…なんなんだ…?)

「悪魔さんは僕のことをどう思っていますか?」

「普通だ。特に思うことはない」

「そうですか…」

 残念そうに目を伏せる神さまに悪魔は罪悪感を覚え、

「普通よりは上かもしれん。…好きとかそういった感情はよく分からん」

 普通よりは上。その言葉だけで神さまは嬉しそうだ。

「いつか僕の恋が叶うといいです」

 にこにことそう語る神さまに悪魔は呟く。

「…私も好きなのかもしれない」

 その声が神さまに届くことはなかった。








「今日は来ないのか?」

「今日は村で結婚式があるんだそうです」

「そうか」

 神さまはくすくすと笑う。

「何がおかしい?」

「子供たちと遊びたかったのですか?」

「…べ、別に。そんなことはない。来ない方が静かに過ごせる」

「悪魔さんは可愛いですね」

「…言っている意味が分からん」

 今日もいつもと変わらない普通の日々が過ぎていく。

 はずだった。

 突然、ゴゴゴゴゴと空間を引き裂く音が聞こえた。

 引き裂かれた紫色の穴から男の悪魔が顔を出す。

 その悪魔からは計り知れぬ自信が満ち満ちと伝わってくる。

「久しぶりだな、我が妹よ」

「……………」

 突然のことに戸惑う神さま。

「どちら様でしょうか?」

「…私の兄だ」

 兄。

 魔王の補佐。

「魔王様から名をもらった数少ない優等生だ」

「魔王から名を…?」

「悪魔には基本的に名前というものがない。魔王様に認められた者だけが得ることのできるものなんだ。だから私には名前がない」

 悪魔の兄は声高らかに名を名乗る。

「我が名はエライザ!出来損ないの妹をもった魔王様の補佐である!」

「わざわざ私のことを言うことないだろう。そもそも何しに来たんだ」

「仕事をしに来たのさ」

「仕事…?」

「魔王様からお前を殺せと命を受けた」

「…………!!」

 驚いたのは悪魔ではなく神さまの方だった。

「私は既に悪魔ではない。堕ちた悪魔を魔王様が気にするとは思えん」

「あぁ、確かにその通りさ。だがな、お前は違う。神と仲良くなりすぎた。魔界の恥だと魔王様はおかんむりだよ」

「…………………」

「だから、お前を殺す。魔界の恥を切り捨て、健全な魔界を取り戻す」

 エライザの手から紫色の球体が現れる。

 その球体は禍々しい気配を発していた。

「あぁ、ひとつ言い忘れていた。このことが歴史として残らないよう、神も殺せとのことだった。2人仲良くあの世に行くといい」

 言い終わると同時にエライザは球体を神さまに向かって放り投げる。

 突然のことに神さまの反応が遅れた。

「……ぐぁあああ!!」

「悪魔さん!?」

 悪魔が神さまの盾となり、電撃の数倍もあるであろう攻撃を代わりに受ける。

「…面白い。神を庇うとは。お前も変わるものだな、我が妹よ」

「これは魔界の者の間の話。神さまには関係のないことだ。神さまが殺されるのはおかしいだろう」

 口から血を吐き、それでもなお神さまの前に立つ。

 神さまを兄から守るために。

 恋した相手を守るために。

「神さま。私が倒れる前に早く逃げろ。泉から離れられないようだが、今はそれどころじゃない。天界に逃げろ。あそこは魔王様でも立ち入ることの出来ない聖なる領域だ」

「で、でも…」

「早く!」

 エライザがこちらを待ってくれることなどなく。

 台風のような炎の渦がこちら目掛けてやってくる。

 悪魔は水の玉をいくつも出し、炎の渦に対抗する。

 が。

「ああぁぁぁああああ!!!!」

 Fランクの悪魔がSランクの魔王補佐に勝てるはずもなく。

 渦に呑まれ宙に舞った体に黒い気配が巻き付き、悪魔を苦しめる。

「うぐっ…あぁ………」

 黒い気配の正体は闇黒(あんこく)カズラ。

 魔力や神力を吸収し光合成して育つ(つる)

 巻き付きは次第に強くなり、さらに悪魔を苦しめる。

 意識を手放しかけ、悪魔は思う。

(これじゃぁ、あの時と同じだ。自分で何もできずにまた死ぬのか)

 森で魔物に襲われたあの時。

 ひ弱な自分には何も出来なかった。

 されるがままに意識を手放したあの時。

 でも。

(今はあの時とは違う。あの時よりは力はある。たとえFランクでも、命を引き換えにすれば、神さまを守れる!何としてでも、どんな手段を使ってでも!神さまだけは守り抜く!!)

 すると。

 どこからともなく、丸い形をした綿毛のようなものが悪魔の前に飛んできて、胸の高さで浮遊を始める。

 そして。

 白のような、青のような、不思議な光が悪魔を包み込んだ。

 しばらくして。

「なっ……!!なぜだ!?なぜ、進化した!?悪魔は悪事をしてこそ進化する生き物だぞ!?」

 進化。

 条件を満たすことで、次のランクへと上がるための過程。

 天界と魔界では条件が全くもって異なる。

 天界での進化の条件で進化した悪魔。

 これがどんな事を意味するのか。

「私はもう堕ちている。そこまで驚くようなことではないだろう」

「堕ちていても悪魔は悪魔!!天使になることなど不可能!!これで転生したとなれば…!!」

 エライザは炎の玉を出す。

「歴史に残られては困る!!」

「神さま!!早く逃げろ!!」

「でも…!」

「いいから早く!!」

 被せるように言葉を投げ捨て、悪魔はエライザへと走っていく。

 走りながら、水の玉をいくつも出し、エライザに向かって放っていく。

 しかし。

 水の玉がエライザに届く前に、エライザが発生させた炎にかき消されてしまう。

「進化したとてお前は所詮出来損ない。俺に勝てると思うのか?」

「力では負ける。だが、戦略を立てれば敵わない敵でもない!!」

 エライザの意識を自分へと向けさせたことで、エライザに隙ができた。

 エライザの視界で発生させた水の玉がエライザの顔を包み込む。

「……!?!?」

 酸素を絶たれ、エライザはもがき苦しむ。

 悪魔はエライザの上に水の塊を発生させ、滝のように落としていく。

 しかし、その場にエライザはいなかった。

「…どこだ!?」

「少しは成長したようだな」

 気づいた時には遅かった。



 ズザッ!!っと肉を引き裂く音が、森に響いた。



「あ…あぁ…あ…………」

 気づいた時、エライザは悪魔の背後にいた。炎で水の玉を蒸発させ、難を逃れていた。

「進化・成長しても所詮はF。俺に勝とうなんて甘いんだよ」

 立つこともままならず、膝をつき胸の傷を抑える悪魔に、エライザは追い討ちをかけていく。

 闇黒カズラに雷紫球(らいしきゅう)

 低ランク悪魔には使いこなせないとされる技。

 悪魔の背中で雷紫球が飛び散り、悪魔の全身に闇黒カズラが巻き付く。

「FからDへと進化したとて、魔力がなければ何もできん。お前の負けだ。そのまま死ね」

 闇黒カズラが首へと巻き付き、悪魔の呼吸を妨げる。

 酸素を求め(もが)く悪魔だが、闇黒カズラはさらに締め上げる。

「悪魔さん!!」

 神さまは、悪魔が心配で逃げることができずにいた。

 神さまは悪魔を守ろうと悪魔の前に立つ。

「早く帰ってください。この世界はあなたのような悪魔がいていい場所ではありません!!」

 神さまは白明球(はくめいきゅう)を出し、エライザへと投げつける。

 しかし、エライザに届く前に雷紫球にかき消されてしまう。

「邪魔しないでもらおうか。それとも先に消されたいのか?ならば今すぐ消してやるさ!!」

 エライザの視界()には神さましか映らなくなっていた。

 エライザが手を組み、離すと、炎が。

 炎とは言えないどす黒い炎が、大きく燃え上がっていく。

魔炎(まえん)…ですか」

 魔界にしか存在しない炎。

 赤とも黒とも言えないどす黒い色の炎。

 燃えたもの全てを堕とすと言われる魔の炎。

「これまでに何人の天使を堕としてきたか。神も堕ちるものなのか、お前で試してやるさ。この渦炎流(かえんりゅう)でな!!」

 エライザが言い放った瞬間、魔炎が神さまの目の前に。

 神さまはとっさに白い波で壁を作り、魔炎を受け流す。

天光波(てんこうは)か。そんな使い方ができるとはな」

 渦炎流と天光波。

 どちらが勝つかなど、考える必要もなく。

「俺が相手だったのが運の尽きだ。いい加減諦めろ」

 エライザの()の色が変わった時、白と黒の衝突は、黒に埋め尽くされて終わった。

 はずだった。

「お前……!!」

 エライザの驚きは、神さまも同様で。

「あ…悪魔さん…!?」

 渦炎流が神さまに触れる寸前、悪魔がその間に割って入っていた。

 渦炎流は悪魔の体の中へと吸い込まれていく。

 ボロボロの体を引きずりながら、それでも悪魔は神さまの前に立つ。

 何があっても守ると誓ったから。

 死なせたくない明確な理由ができたから。

「…魔炎は悪魔には効かない。むしろ力を増大させる。私が力尽きる前に早く逃げろ!私のことなど構うな!」

 魔炎を吸収したにも関わらず、立っているのがやっとの状態で悪魔は言う。

 (かす)んでいく視界に舌打ちし、口から血を吐き、悪魔は叫ぶ。

「エライザ!!ケリをつけて終わりにしてやる!!生きるも死ぬも、これで最後だ!!」

「最後まで面倒な妹だ。いいだろう。俺の全力でお前ら2人、まとめて始末してくれる!!」

 2人を始末する為にエライザが選んだのは、雷紫流(らいしりゅう)

 対して悪魔は、使える技などひとつもない。

(せめて波荒球(はこうきゅう)が出せれば…!)

 小さな望みをかけて波荒流を出してみる。

 今までどれだけ頑張っても出すことはできなかった。

(どうせ今回も…)

「奇跡が起きぬ限り、お前が波荒球を出すことなど不可能。お前も分かっているはずだ」

「あぁ。兄さんの言う通りさ。だからと言って諦めるわけにはいかないんだ!!」

 悪魔の叫びが合図だったかのように。

 大荒れの海のような波が悪魔の右手を包んでいく。

「これは…!」

 波荒流。

 悪魔には不可能と言われた波荒球を超える技。

「……あり得ない。そんなはずはない!波荒流はC以上でなければ扱えない技だぞ!?神の力を貨りて奇跡を起こすなど…!!やはりお前は生かしておけん!!」

 エライザは雷紫流を放つ。

 雷紫流が迫り来る中、悪魔は波荒流を見つめる。

「…この力が例え見せかけだったとしても、私は成長することができたということなのか。私が成長することができたのは、きっと神さまのお陰だろう。この恩を返せなければ、死んでも死にきれん。せめて、神さまだけは!守ってみせる!!!!」

 雷紫流と捉えた悪魔の眼に、覚悟の色が宿る。

 そして、雷紫流目掛けて波荒流を放つ。

 青と紫。

 兄妹の戦いに互角という言葉はない。

 追い詰められていく悪魔は必死に考える。

(どうしたら時間を稼げる?どうしたら多少でも攻撃を当てられる?兄さんをよく見るんだ。水玉(すいぎょく)の時にも隙はあった。今回だってどこかに死角があるはずだ)

 今まで力がない分、相手を分析し隙を突いて逃げることで生き延びてきた。

 どんなに強い相手であっても小さなミスや隙はあるもの。それは隠せない。

 波荒流が雷紫流に飲み込まれていく。

(兄さんは自分の力に自信を持ちすぎている。だからこそ、隙や死角はたくさん生まれる。兄さんの死角は…あそこか!)

 悪魔が雷紫流に飲み込まれ。

 悪魔の奮闘は呆気なく終わった。

 かに思えた。

 あまりの威力に目を閉じていた神さまが目を開けた時、勝ち誇るエライザの姿はなかった。

 雷紫流を放った場所からかなり後方の木に体を預け苦しそうにしている。

 羽はボロボロ、服も所々切れて薄紫色の肌が見えている。

「なぜだ…お前のどこにこんな力があったというんだ!?魔力を吸われ、体力も残っていないはずだぞ!!……くそっ、魔王様に報告をしなければ…俺もこのままでは…」

 神さまが瞬きした時には既にエライザの姿は消えていた。

 神さまはエライザがいた方向をしばらく見つめる。

 そして、はっとすると、悪魔の元へと駆け寄る。

「悪魔さん!!」

 神さまが抱き寄せても、悪魔が動くことはなかった。

「悪魔さん!!悪魔さん!!」

 何度呼んでも返事はない。

 悪魔の体温が徐々になくなっていく。

「悪魔さん!!悪魔さん!!」

 神さまは悪魔をより強く抱きしめる。

「……うっ…」

「悪魔さん……!」

 悪魔はうっすらと目を開け、神さまの顔を確かめると、小さく微笑み、手を伸ばす。

「…そんな顔をするな。神さまには笑顔が1番だ。だから泣くな。最期くらい笑ってくれ」

 神さまの涙を拭い、悪魔はさらに笑いかける。

 困ったように笑い、小さな願いを神さまは言う。

「悪魔さんを、名前で呼びたいです」

 名前のない悪魔にはできないこと。でも。

「…ならば、神さまが決めてくれ。私の名を。」

 少しの間の後、神さまが口を開く。

「ユノ」

「…いい名だ」

 その名に満足したかのように、悪魔が目を閉じると、悪魔の体が淡く光り出す。

「…時間のようだ」

 淡く光った悪魔の体が、光の玉となり空へと消えていく。

「…神さまに出会えて良かった。自分を変えることができた。本当に感謝している。それから…」

 悪魔は今までに見せたことのない笑顔を見せる。

「神さまのことを好きになってしまったみたいだ」

 神さまは何も言わず、ただ泣いていた。

「ありがとう」

 その言葉とともに悪魔の姿が。

 神さまは悪魔を抱え、泣き崩れた。








「「かみさまーー!!」」

 1日ぶりに子供達が泉に遊びに来た。

 そして気づく。

「あくまさんはー?」

「魔界に帰りました。」

 子供達は悪魔が堕界(だかい)したことも名前がないことも知らない。

 神さまは素顔を隠し、笑顔を作る。

「みんながいると帰らせてくれなそうだ、と言っていました」

「えーーー」

 ぶーぶーと言いながらも、子供達は未来へと進んでいく。

 遊び始めた子供達を見ながら、神さまはため息をつく。

 神さまは子供達を羨ましそうに見る。

(僕もあの子達のようになれたら…)

 泉のほとりに腰掛けた時、後ろの草むらが微かに揺れた。

「誰かいるのですか?」

 思わず振り返り声をかけたが、返事はない。

 しかし、隠れたであろう木の陰から小さな足が見えている。

「大丈夫。怖がらないでください」

 落ち着いた声で話しかけると、小さな陰が動き、その姿を現す。

「あなたは…?」

 大きな瞳に長い髪。初めて見る子。

「…このあいだひっこしてきて、もりにあそびにはいったけどまよって…それで、それで……」

 みるみるうちにその大きな瞳に涙が浮かび、ついには泣き出してしまう。

「かみさまどーしたのー?」

 遊んでいた子供達が次々に集まってくる。

「あー!かみさまなかせたー!!」

「ち、違います!!」

 神さまは、あわあわと事情を説明する。

「ひっこしてきたの?あ!ヴェノベどおりのパンやさんでしょ!」

 小さな女の子は、涙を拭きながらコクンと頷く。

「おなまえなんていうよ?いっしょにあそぼ!」

 女の子は、にへーと笑う子供達に安心したのか、にこっと笑い名を名乗る。

「…サナ!」

 わぁーー!と走っていく子供達を見つめ、神さまは語りかける。

(見ていますか、ユノ。あなたのおかげで僕は生き延びました。あなたが守ってくれたこの命。あなたの死を絶対無駄にはしません。子供達は僕が守ります)

 届くはずのない想いを、意志を、神さまは誓う。








 1年、2年と時は過ぎ。

 小さかった子供達も少し立派になった。

「「神さまーー!!」」

 少し立派になっても毎日のように泉に遊びに来る。

 最近はお土産を持って来るようになった。

「今日はサナのパン屋さんのパンだよ!すごく美味しいんだ!」

 サナを見ると、片手で持てる量いっぱいにパンを抱え、反対の手で女の手を握っていた。

「妹だよ。行くって聞かなくて」

 サナそっくりのその子は、じっと神さまを、見つめている。

 微動だにせず、神さまをただただじっと見つめる。

「あ、あの……」

 並ならぬ何かを感じ取った神さまが、おろおろとし出す。

「ごめんね。緊張しているみたい」

 よく見ると、ふるふると震えている。

「大丈夫です。少しずつ慣れていけばいいですから。お名前はなんというのですか?」

「ユノっていうんだ」

初めてちゃんとした短編を書きました。

不思議な感じを出したくて、文章の書き方をわざと変にして書いたのですが、読めたでしょうか。

読みにくかったら申し訳ないです。


物語後半で出てきた技の名前を確認しましょう。

基本的に字の通りです。

雷紫流(らいしりゅう)・・・エライザの技。紫色の稲妻が目標を貫く。

渦炎流(かえんりゅう)・・・エライザの技。炎が渦を巻き、目標を焼き尽くす。

波荒流(はこうりゅう)・・・悪魔の技。波が目標目掛けて流れていく。某人気モンスターゲームのハイドロポンプのようなイメージです。

白明球(はくめいきゅう)・・・神さまの技。白い光の玉を目標に投げつける。

天光波(てんこうは)・・・光の波が目標を飲み込み、浄化させる。天の川のようなイメージで考えました。

・雷紫球と波荒球は、雷紫流と波荒流を玉にするだけです。目標に投げつけます。

※技は、「球」「流」「波」に分かれていますが、「流」と「波」は同じと考えて大丈夫です。魔界と天界で区別をさせたかっただけなので。「球」はみんな同じです。「球」より「流」と「波」が強い設定です。


次に、子供達の話し方などについてです。

子供達のセリフは全て平仮名にしてあります。

幼さを出したかったためです。

語尾を伸ばしたり、行動に一貫性がなかったりするのも、同様の理由です。

読みにくかった方々すみません…

5歳から7歳の設定です。最後は10歳くらいのつもりで書いています。



確認はしましたが、ルビが振っていないところがあるかもしれません。

なんて読むんだよ!というものがありましたら、教えていただけると嬉しいです。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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