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第008話 「鍛冶番、追加注文が入る」

 オーミが設計を始めてから3日が経った頃。

 本日、補給にやってきたのはネロである。


 クラン【欠けた虹】のリーダーは、表情に乏しい氷像ながらも喜びを隠そうとしない。

 彼から64倍濃縮ポーションを幾つかもらい、足りない分は買ってからこう言う。


「オーミ、やっと使いこなせるようになったよ。……なんだかこの部屋熱いね」

「さっきまでフィオネがいたからな」


 彼の設計をホログラムで見るのが楽しいのだろうか、フィオネはデザインにはあまり口を出さなかった。オーミとしても、実寸サイズで作りながらフィオネと比較し、大きさを調整するのは彼女専用の武器を作っているということもあってか都合がいい。


 【炎極精(スゼクフリート)】の少女は、現在彼に作らせている武器のことを内密にして欲しいと言った。職人はそれに従い、「新しいオーダーが入ってね」と若干暈しつつ作業台に向き直る。

 オーミが現在、作っているのは銃である。自衛、もしくは護衛を可能にするために、【エリクス結晶体】を組み込んだ自律ユニットを組み込むことも考えながら、火力と精密度を両立させようと変形機構を組み込んでいった。


「……ねえ、なんだか大きくない?」

「このゲームに筋力パラメータはあれど、重量に制限はないからな。軽い合金素材を使えばこのサイズで、女性がかろうじて持てるほどの銃は作れる」

「鉄をカンカン叩くだけじゃないんだね」

「叩くだけでも出来るぞ? システムの範囲内でランダムにであるが、適当なものは出来上がるだろうな」

「いや、それは知っているんだけどね?」


 最初の方こそ、オーミもそれで良かった。流石に始めたての頃は小学生である、天才ではないオーミに、それは出来ない。

 しかし、ここ【魔導工都市ロウェラート(Lowellat)】に来てからは、ずっとオリジナルデザインである。


 ネロたちも、ここに到着した頃には既存の武器では我慢できなくなっていた故、他の武器店を回ったことがある。が、最終的には――満足できなかった。


「ほかのお店、スタイリッシュってのが多いんだよね。オーミの……泥臭い? のはないなぁ」

「俺も別に泥臭くないだろ、それを見て泥臭いとは思わないはずだ」


 ロマンにあふれているといってほしいね、とオーミは苦笑した。

 変形機構、ムダに長い漢字の羅列など。オーミが自分のやりたい放題しているのは、自分のしたいことが出来るこのゲームにおいて、職人オーミとしてのアイデンティティを示すことが出来るからである。


「でも、今回のは流石に……なんかサイバーって感じじゃないよね」

「流石にな。……火力をぶっ放す時のために【帯電合金】を使っているから、だいぶ派手な出来上がりになると思う」


 【帯電合金】は、雷属性を宿す素材である。ちなみにこのままドロップされる。

 ネロは、設計図を見てなんとなくフィオネに似合いそうだな、と考えていた。


 けれど、これがフィオネ宛に作っているものなのかは訊かない。


 確かに、この世界でもリアルでもオーミの作った【A(エー)-gelmir(ゲルミル)】をしつこいくらいべた褒めしていたら彼女だって新しいのを作ってもらいたくなるだろうと予想はできていた。

 フィオネだけではない。他の4人も、今は金欠で無理だとはいえイベントで武勲を立てることが出来たなら、VZは山ほど貯まる。


 素材も同様に、だ。

 そうすれば、もっと高難度な場所に行ってもオーミの作った武器があれば生き抜くことも可能だろうと、テンパレたちは考えているらしいことをネロは知っている。


 もっとも、テンパレの体の大パーツは殆どがオーミ製な時点でお察しであった。


「あ」

「ん?」

「これ、思い出した」


 そういってオーミが取り出したのは、【自動苫東人形(オートマトマトマン)】であった。

 訝しげな表情をするのはネロである。そういえば、数日前に連続トマト投擲事件なるものが酒場で発生したか。


 今だ犯人はわからないらしいが、目撃者の証言によると炎の精霊が現場から逃げ出したという。

 ……フィオネじゃないかな? と予想を立てるネロであったがそのとおりである。


「間違えた」


 割りと真顔でオーミは呟くと、それを仕舞って手のひらに収まるほどのキューブをネロに差し出す。

 もちろん、ネロにそれが何であるかはわからない。ただ、触ってみると平温であった。

 彼の種族、【氷極精アヴェインディーヌ】にとっての平温はマイナスを行っているだろうから、かなり冷たいことは分かる。


「テンパレに渡してくれ」

「いいけど、何?」

「この前言ってた冷却装置。そういえば作ったことないなと思って、作ってみた」

「一回目で成功したんだ」

「どこにも自作のものは出回っていなかったし、そもそも【雷極精(ヘクスリアニクス)】なんて珍しいし。初期設備よりはマシ、程度だが試作品」


 【雷極精(ヘクスリアニクス)】、【極精】の名前を使っていながら精霊型アバターではなく、機械系であるその種族は、【極端な精霊】の名前に反してはいない。

 原動力から。今回の冷却装置から、武装から。何から何まで組み替えることが出来る代わりに熱量や燃料に気を使わなければならないのだ。

 また、一応は精霊であるが魔法適性を持たないため弾薬を必要とする。


 地雷、と呼ばれている【極精】の中でも特に極端な存在だ。


「確か、変形できるんだったか」

「出来るよ。……体が組み替えられていく感覚をヴァーチャルで体験できるって、すごいよね」


 オーミはそう告げられて、気持ち悪そうと口を塞ぐ。


 その時、インターホンが押された。


「なんだか、僕が来るときはいつも話が中断されるなぁ」

「茶と菓子を摘んでるだけじゃないか。まあいこう」


 


---


「いらっしゃい、【大海重工】――」


 いつも通りの声を掛けたオーミは、入ってきた客になんとも言えない視線を送っていた。

 

 容姿は一見、普通の人間型アバターである。腰にも届きそうな長い髪の毛は所謂「お嬢様結び」で、見つめられるとその気がある男はゾクゾクとしてきそうな目と、右目の下にアクセントとなっている泣きぼくろがあった。

 その顔は美しいが、例えばアルトや探索ギルドの受付をしていた【森精族エルフ】のアイラスとは一線を画する美しさでもある。

 アルトが天使的な神々しさ、アイラスが妖精の神秘さとするなら、彼女は夜空に浮かぶ月を感じさせた。前者の2人を重ね、そこに空虚さをプラスしたようなイメージをオーミに与えている。


 ――嫌というほど主張してくる。


 が、オーミの顔は微妙であった。


「ルーナ、スキル切り忘れてるぞ」

「……あ」


 ハッとした顔で、少女は指を鳴らすとしつこい程の主張はなくなった。美しいことには変わりないが、ここはゲーム世界。その程度は幾らでもいる。

 無表情のまま直立不動のルーナは、「リーダーは?」と静かに聞くとオーミの隣にいるネロに目線を向ける。


 最初から居た彼に対し、数秒首をかしげた後に気がついたような顔で声をかけた。


「あ、リーダー」

「最初からいたけど」

「……オーミの作った新しい【自動砲台トーチカ】かと思って」


 少女の言葉に、ネロは黙り込んでしまった。

 そんなに存在感なぃ? と落ち込み始めたクランリーダーに、ルーナは「そうね」と否定しない。


「オーミの武器のないリーダーなんてカカシ同然」


 中間管理職は辛い。オーミはネロを心底かわいそうに感じたが、それも結局は彼を見下しているような気がして嫌になった。

 

「僕、オーミの癖ある作品を頑張って使いこなしているんだけどなぁ」

「2対を自動にして、1対だけ操作してる」

「ぐっ」


 胸を抑えてうずくまった【氷極精アヴェインディーヌ】を一瞥して、オーミに向き直る。


「俺に用?」









「うん。私も武器が欲しい」


次回更新は明日になった頃です。

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