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第026話 「廃人共、空港にて口論をする」

長らく更新できず申し訳ありませんでした。

0 常夏の昼間、空港のロビーにキャリーバッグを引いて歩く6人の姿があった。少年が二人に少女が三人、男か女か判別の難しい少年が一人、である。


 6人はとにかく人目を引いた。最初から最後まで、全員が容姿的に整っていれば老若男女誰だって注目する。意識的、無意識問わず注目される。


「そんなに急がなくてもフライトの時間まであと二時間もあるわよ」


 先へ先へと、想い人に会いに行く恋人の片割れのような態度の【少年】に対して。赤い髪の少女、春河はるかはため息をついた。


「幾ら早く着いても、飛行機は飛ばないわ」

「えぇ……」


 少年、かえでは心底残念そうな顔をする。表情、仕草――。その、あまりにも女性らしい姿に、すでに消え失せたはずの違和感を僅かに覚えながら、春河は少しだけ嫉妬した。

 自分の、あの下手なアピールよりのほうが巧そうだから、である。


「今日は蒼汰のチャーターじゃないんだから」

「わかってるけど、はやる気持ちは抑えられないよねー」


 少年は、春河を含めた他の5人を振り返って同意を求めた。


「みんなもそうでしょー」

「仮にそうだとしても、楓ほど楽しみにはしてねーよ」


 よくあるイメージどおりの不良少年は、楓に「お前は小学生か」と呆れた様子である。そもそも、楓のオーミへの感情というのは少々異常だ。

 本の数年前まで女性として生きてきたのが原因で、彼の考えはかなり女性よりだ。比較的ボーイッシュな春河よりも、本質的には女性らしいのかもしれない。


「頼むぜ……」

天晴あまはる、僕は君の考え方があまり好きじゃないかな」

「俺は嫌だぜ、お前や春河が原因でオーミが武器を作ってくれなくなったら。そのときは一生恨んでやる」


 現実リアルでもゲーム内でも、友人かそれ以上の関係にしていきたい楓や春河と違って、天晴はあくまでもオーミのプレイヤーとしての腕を買っている。彼の作った部品を天晴が組み込み、【Mythology-of-Legacy-Online】で活躍する。

 その相互関係を望んでいるのだ。


 故に、アタックを仕掛ける2人が何かの手違いでオーミとの関係が険悪になってしまい……というシナリオにはしてほしくないのである。


「まあまあ、二人共落ち着いてください」


 オーミとの関係よりも、楓と天晴の関係が険悪になる直前で蒼汰そうたが間に入った。

 長い金髪をポニーテールに纏めた、貴公子然としている少年は2人の肩をつかむとそのまま引き剥がす。


 その風貌からは決して想像することが出来ない力に抗うことが出来ず、2人はおとなしく引き下がることしか出来なかった。

 

「天晴、落ち着きなさい。貴方が大海克弥を職人として認め、ゲーム内での協力関係を望んでいるのはもちろん、僕たちの総意でもあります」

「あいつは分かってないんだけど?」


 天晴は頑なである。ゲーム世界と現実世界の区別をきちんとつけているからこそ、こうやって両方で関われる現在は慎重に関係を築くことが必要だと分かっているからだ。

 春河はまあいい、と考えているのは区別するわけではないが、彼女が女性であるからである。魅力的な男性に憧憬を抱き、それが恋愛感情に発展するのは予想できることであるし、オーミもまんざらではないようではあった。

 彼女への感情が、どちらかと言えば年の近い従姉妹に対するもののような感じであるためか、危なく感じることはない。


 ――が、楓は違う。

 いくら女性として育てられたとはいえども、彼は男である。風貌は確かに女性に間違えられることも多いが、男である。

 彼本人の感情に口を挟む気も、彼が男を好きになろうが女を好きになろうが天晴は文句を言うつもりはないのだが、相手がオーミであるからこそ問題視しているのだ。


「僕がきちんと話しますから。……少しの間、あっちの世間知らずなお嬢さん2人とチェックインをお願いしてもいいですか?」

「おう」


 飛行機に乗るための前準備。預かり荷物の受け渡しがよく分からず混乱している少女2人を指さした蒼汰へ天晴はため息をつき頷くと、少々肩を怒らせながらもそちらに移動する。


「楓。貴方の気持ちも分かりますが、変に天晴を刺激しないであげてください」

「天晴を刺激したつもりは一切無いけどね」


 楓も頑固である。自分が誰の事を思おうが自分の勝手だろうと譲らない。寧ろそれに干渉してくる天晴が過干渉なのではないか、自分は彼の子ではないと痛烈に批判をし始めた。


 蒼汰はそんな楓を落ち着かせる。

 

「たとえ親子の関係ではないにしろ、僕たちは一年間の殆どを共にするある一種の『家族』です。それだけは認識しておいてください」

「……分かってるよ」


 家族、という言葉を聞いた途端に楓は項垂れてしまった。

 先程の苛烈な態度は何処へやら、どこかもの悲しげな顔に変化する。


 その目は、深く暗い海に沈んだ月のような目をしていた。

 安らぎや希望を必死に、暗闇の中で探し求める目だ。


「天晴の前では出来るだけしないようにするよ」

「そうしてください。僕たちはみんな、人との距離をよく分かっていない人ばかりです。僕も、君も。そして天晴も例外ではない」


 蒼汰はそれだけを言い切ると、楓に腕を回してチェックインカウンターに連れて行った。

いつかリメイクしたいんでこの章で終わらせます。

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