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第022話 「鍛冶番、5年前を思い出す」

長い間、更新できず申し訳ありませんでした

「こんにちは、オーミ」

「こんちは。……フィオネ、今日はどうした?」


 イベントが次の日に迫った昼。【欠けた虹】が最終準備として上の階で会議を、外やオーミのし運転室で動きの確認を行っている時。

 作業台と向かい合っているオーミに、話しかけるフィオネがいた。


 フィオネは、やることが決まっているため複雑な動きをするネロ・テンパレ・ルーナと違い余裕がある。それ故、こうやってオーミの工房にやってきたというわけであった。


 少女が、オーミの設計図を見て首を傾げる。


「今日は何を?」

「防具を作ってるよ。……イベント前だし、ポーションは128倍濃縮を持っていってくれ」


 ぽこぽこ、と10本ほど惜しげもなく最上級のポーションをフィオネに与えるオーミ。


「防具? 新しいお仕事?」

「いや、ルーナに言われて自分用のを作ってみようかと思ってさ」

「体力ないもんね」


 オーミの場合、それは体力すたみなではなく体力(HP)である。

 フィオネが納得したように頷くのを見て、オーミは苦笑しながらも自信満々に次の言葉を発する。


「体力がなければ、攻撃の一切通らない防具を作ればいい」


 その言葉を聞いて、フィオネは不安げな顔をした。

 材料が足りないのではないか、と考えてしまったのである。オーミは都市から出ることは出来ないし。例えば最新の素材などはマーケットに出回らない可能性が高い。


 しかしオーミはそんな少女の不安をはねのけるように返事をした。

 その目に写っているものは、いつもと変わらない創作意欲である。


「いや、ものはあるから問題ないよ」


 急ピッチで制作をすすめるオーミを眺めながら、フィオネはそのスピードが尋常ではない事に気づいた。

 自分たちの武器を作っているときと、明らかに挙動が違う。


 迷いがない。自分のために作る防具で、設計図は既に自分の中にあるのであればこうなるのだろうか、とよくわからない頭のなかで考えながら、フィオネは目の前の職人を見つめていた。


「イベントに間に合わせるの?」

「もう5時間しかない時点で間に合わんと思うが。……まあ、出られるとしても次回かな」

「そっか」


 このままでも間に合いそうだけれど。

 少女は、そう思って嘆息しつつだらーっとリラックスしている。


 ここでやっと、オーミは少女に興味を向けたようだ。 


「フィオネはどうしたの?」

「……私は、自分にできることをするだけ、かな? 終わったら、いい気持ちでまたオーミに会いに行く」

「そうか」


 会いに行く。その言葉が妙に弾んでいるのを感じ取って、オーミは少女の笑顔に目を細めた。


「ねね、やる気がでないから、何か勝ったらご褒美をくれない?」

「んー、エリアスコア1位なら、こっちに来たときに出来ること1つ聞いてやろうか」


 最初からやる気は満々そうではあるが、とオーミ。

 しかし、特に言及せず――彼女が1番求めていそうな返答をした。

 

 俄然、フィオネはやる気になった。


「……勝つわ」

「驕るつもりはないが、俺の武器を使ったら余裕だろうな」


 十分に驕っていたオーミの言葉は、少女に届いていない


「……聞いてる?」





---




「オーミ、もうそれは聞いてるよー」


 天使のような姿をした少女は、職人の説明を聞きながらうんうんと頷いていた。

 ここは会館――、探索ギルド【銀河の煌探索団】のギルドハウス最上階フロア、団長の間。


 言うなればアルトの階である。探索団のメンバーでもほとんど立ち入ることが出来ない場所であるが、オーミは顔パスで入ることが出来る。


「アルトはどう思う?」


 オーミは、事情を説明して彼女の反応を試したのだが、そこから入ってくるのはそっけなくも、ほわほわとした返事であった。 


「私は、【欠けた虹】と【宵闇騎士団】の争いごとについては特に興味はないかなー」


 勿論、探索団としては記録させてもらうけれど、とにこにこするアルト。

 噂によれば、日本最大の攻略サイトと、アルスト国の公式wikiに関与できるプレイヤーがこの探索団には所属しているだとか。


 そんなことを思い返しつつ、オーミは彼女の次の言葉をまった。

 そして、アルトの口調は変わっていないのに、その空気が全く持って違う――極寒に突入したことを感じる。


「興味があるのは、そのリキュールって男がオーミをだしにして争いを起こしたことかな」


 オーミ、慌てて声をかける。


「……まさかとは思うが」

「ううん、オーミが考えているような『単独で対立する』ようなことはしないよ。でもね……」


 アルトは、相変わらず彼に対しては天使のような笑顔を浮かべながら、とあるアイテムを取り出した。

 一見、金属かなにかで出来たような金縁の名札のようにも見える。


「実は、こんなものを【欠けた虹】のリーダーから渡されたの」

「課金アイテムじゃないか」

「よくおわかりで」


 オーミは、そのアイテムがなんであるか知っている。

 が、彼自身は使うことがないだろうと判断していたものだ。


 このゲーム、《Mythology-of-Legacy-Online》では課金によってプレイヤーの強さは変わらない。

 そのため、課金要素は殆どの場合が体ごと外見を変えるようなものであったり、オーミのような大量生産、大量販売のための限界を増やしたりする程度である。


 通常、1プレイヤーが所属せきる団体は1つである。複数の団体に所属することも、職業に寄っては可能であるが、それを選択するのは専ら旅商人やスパイである。

 しかし、この課金アイテムはその上限を1つ取り払うものだ。


「オーミは、何故彼らが【欠けた虹】ってクラン名をつけたか分かるかな?」

「……いや」


 何故ネロがこれを彼女に、と分かっていないオーミに。

 アルトは、諭すように微笑みながら話を続ける。


「作る前、ネロに誘われたでしょ。オーミのことだから断ったんだろうけれど」

「ああ、断ったよ。その頃は隠居を始める直前だったからな」


 職人は、約5年前のことを振り返る。

 思えばまだ、ネロたちは初心者で【極精】の都合上、始まりの地点に【極精】の防具・武器を作れる職人がいるわけもない。


 その頃そこそこ名のしれていたオーミを、他の親切なプレイヤーに紹介してもらって、無理してロウェラートに来た彼らを……職人オーミは世話をしてやった事が今まで続く交友の始まりであった。

 

 まあ、それが原因でオーミの取り合いという戦争がギルド間で起こりかけ、【銀河の煌探索団】とオーミの「今後どこにも、基本的には属さない」という言葉と、当時最大級の店を閉めることでその場を凌いだのではあるが。


「ネロは、その名前の通り虹を作りたかったんじゃないかなーって。オーミを入れて7人、7筋の光」

「…………」


 俺とは関係ないよ、といつも通りの態度はできなかった。

 アルトの考察は、あまりにも密接にオーミと結びついていたからである。




 少女は、その笑顔を払拭して真面目な顔を見せた。

 自分が好意を向ける相手が関係する戦いへの、底知れぬやる気が見え。しかしオーミは何も口出しはしない。


「なら、オーミの代わりに。私が【欠けた虹】の最後の1筋になるよ」



次回から【海底遺跡の咆龍】です。

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