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第018話 「鍛冶番、喧嘩を売られる」

 7月の夏前イベント、【海底遺跡の咆龍アンダールインズ・リリードラゴン】のイベント開始日まで、後3日を切った頃。

 オーミは、ルーナを呼び出して武装が出来たことを報告していた。


 このゲーム、《Mythology-of-Legacy-Online》の総人口は1億人を超えた。実際に動いている人がその半分としても、十分すぎるほどの人数である。

 勿論、そんな人数が同じフィールドに集まったらサーバーが爆発するのは目に見える事実であるからにして、イベントは様々な場所に同じものが同時発生し、プレイヤーたちは一番近い場所、レベルに合った場所を選んで自由に参加ができるようになっていた。


「オーミ、これは?」

「急造で作った脚部スラスターだ。が、手を抜いたつもりはない。現状の敏捷力の500%を発揮できるようになっているはずだ」


 ルーナが「それ」を確かめようとして開いたコンソールには、【脚部重力場形成式圧推被覆機装】と、これまたよくわからない漢字の羅列が続いている。

 通称は【C(シー)-OverClock(オーバークロック)】。なんだか少々長い通称に、ルーナは多分時間がなかったのかなと適当に予想をつけて納得した。


 さて、この【C(シー)-OverClock(オーバークロック)】。ルーナには、テンパレがよく見ていたロボットアニメのバーニアのようにも感じられた。

 おそらくは人間型アバターの派生である、彼女のアバターに合うように作られたのだろう。まんま機械化されたロングブーツのようにも感じられるが、展開して露わになるスラスターといい、まるで現実味がない。

 

 それに、ルーナが注目したのはもう一つだ。今でさえ、ルーナはかなり敏捷力の早い部類に入る。それの5倍を実現させるということは……。


「……でもこれ」

「ルーナには分かってもらえると思っていたよ」


 オーミは誇らしげに笑いながら、【C(シー)-OverClock(オーバークロック)】の目的を発表する。

 【目標に向かって落ちる】。そのために作られたこの武装は、方向転換の利便性を全くと言ってもいいほど想定していない。


「なるほど。で、こっちを起動させると」

「それは無理やり方向転換するための地場生成装置。……扱いは難しいだろうが、使いこなせれば流星になれる」

「……死亡フラグ?」


 流星にはなりたくないな、と心底考えるルーナであった。


「いいや?」

「なら良いけど」


 オーミに手渡され、ルーナは一旦装備してみることにした。

 職人からそれを渡してもらい、装備。体に違和感は、ある。今まで無かった新しい機関が出来たような、なんとも言えない違和感だ。

 しかし、それはすぐに振り払う。


 確かに、強くなった気はする。

 ルーナは、驚くべきほどの適応力で一回転すると、職人オーミを見て見せびらかすように何回もターンしてみせた。


「……どう? 似合う?」

「【闇極精(エータレイヴン)】的にはどうかとも思うが、【人間族ヒューマ】として考えれば上出来だろ。……機械人形がつければもっと似合うとは思う」


 テンパレを引き合いに出され、ルーナは少々期限が悪くなったような気がした。自分でもわからないほどのものであったが、それは決してテンパレへの嫉妬ではなく、他の人を引き合いに出されたという承認欲求を刺激したものであったのだろう。


「問題ない。これで私は最高のパフォーマンスを見せつけるだけだから」


 しかし、ルーナは深く考えないことにした。深く考えるのは何かと戦うときだけで十分。相手を如何にしてこちらへのヘイトをためるか。

 どうすれば、相手の邪魔になるか。こちら1人を倒したところで大した影響はないが、彼女が敵に与える影響は多大である。

 

「オーミも明々後日の、行く?」

「行かないよ」

「……残念。万が一壊れた時、直してもらえない」


 オーミの作った装備の……修理に要求されるレベルが高すぎて、イベント最前線に陣取る鍛冶職には万が一壊れた場合直せないのではないか、というのが彼女の心配な点であった。

 しかし、オーミは行かないとの一点張りであり、それを変える理由は今のところ見つかっていない。何か特別な事情があれば行くのだろうが、それは「ルーナたちの装備の修理」では動かないのだろう。


 実際、オーミが出向いたところでこの巨大な自作作業台がなければ直せない、というのが事実である。

 それに、彼が言ったところで味方の攻撃による余波で死んでしまう。それを考えれば、行かない理由は多くても行く理由は少なかった。


---


 さて、値段をどうするか。という段階に入った工房の2人に、上のインターホンが鳴ってドアの開く音が聞こえた。


「はい、【大海重工】――」

「お前がオーミか」


 カウンターのある1階に向かったオーミが見たのは、【人間族ヒューマ】の、いかにもな重装備に身を包んだアバターであった。

 表示されている名前は『LIQUEUR(リキュール)』。酒か、とどうでもいいことを考えながらオーミは目の前の男が自分の作品しょうひんをひとしきり眺めた後、嫌味な顔を作りながら話しかけてきたのをぼーっとしながら聞いていた。


「次のイベント、お前も出るんだろ?」


 大したことないんだな、とか。こんな武器で……とか。

 一応、まともな武器店を取り繕うために置いてある商品を大した事のなさそうに、煽ってくる男に特別何かの感情を抱かないオーミであった。


 彼の本領は普通の武器でない。


「出るんだろ? 次の【海底遺跡の咆龍アンダールインズ・リリードラゴン】」

「いや?」

「は?」


 実力を見せてくれよ、などとお粗末な煽りに、オーミは全くたなびくことはなかった。

 先程、ルーナに誘われたときと同じような反応で返す。


 逆にめんくらったのは男リキュールの方である。


「俺はやんないよ。そのレベルに達していないからね」


 レベルとしては十分であるが、オーミはあくまでも生産職プレイを楽しむプレイヤーであった。

 何より、体力がない。スタミナの話ではなく、所謂HPというやつが明らかにない。


 1000超え、というレベルを持ち最古参として経験も十分な彼であったが、体力はたったの700。戦闘職で多少体力に振っていたとしても、レベル10に行くか行かないかで到達する地点である。

 故に、ロウェラートから出られない。


 現実世界で言えば、転んで擦りむいたらバイキンが入って最悪「死ぬ」ような軟弱ぶりなのである。


「……とんだ腑抜けだな」

「好きに言うと良いさ。ルーナ、話を戻そう」


 リキュールに一切の関心をなくしたように、彼はじっと男を睨みつけていたルーナへ視線を戻した。


「ああ、客でないのなら出ていってくれるとありがたい。邪魔だ」


 次に飛び出した、オーミの言葉は、リキュールの安っぽい自尊心を傷つけるには十分すぎるほどの威力を持つ言葉であった。

 男は、この場が店であることも忘れ剣を手に装着。






 そのまま、ルーナの方を向きこちらに背を向けている職人オーミに斬りかかる――。


次回更新は明日です。

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