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第017話 「少女、東京へ帰る」

「結局、2日も泊まっちゃったね」

「気にするな」


 次の日の昼。13時ごろ、御焔ほむら春河はるかは、大海おおみ克弥かつやと新神戸駅に来ていた。

 今日、春河は東京へ戻る。青年は赤髪の少女が名残惜しそうに、「帰りたくない」とダダをこねるのを聞いては、「俺は正直どちらでも」と返すことを何度もやっている。


 学業などは問題ないとは言え、春河には帰るべき場所がある。春河自身、それは分かっていたことであるし、同時に一人で暮らしている克弥が寂しそうにも見えた。


 当の本人は、一人のほうが羽根を伸ばすことが出来るため好都合である。


「楽しかったよ、ありがとうね。オーミ」

「俺も久しぶりに充実した現実世界だった」


 しかし、その音場も飾りも虚飾もない本音であった。

 レイと一緒にいる時間も最近は増えてきた彼であったが、春河と一緒にいる時間というのは初めてであり、また新鮮なものだと感じ取る。


 たまに、どうしようもなく彼女たちの、笑顔に溢れた生活を見て羨ましいと思ったことはあったがそれもすぐに忘れた。


「あのね、オーミ」

「ん?」


 春河は、長身の青年を見つめていた。

 少々離れているとは言え、身長差は20以上ある。ちょうど、彼の首近くにアホ毛が届くほどだ。

 

 少女は、青年に感謝をしている。この2泊3日、彼と過ごして楽しかったのは言うまでもないし、色々と彼の口から聞くことが出来た。

 5年間、【欠けた虹】のメンバーしか現実では親しく話すことのなかった彼女も、新鮮な体験をしたのだと実感する。


 そして何より、彼の声を聞いていると心と体があたたまる。


「何か、取っ掛かりがなくなった気がする」

「それはよかった」


 青年の言葉は簡潔だ。ただ、気障な様子も飾り気も、カッコつけようとする心意気も見えないただの「返事」に、春河はそれ以上の理解を勝手にしてしまう。


「何か、言うことはないの?」


 期待を込めた少女の視線。克弥は大体察したように苦笑すると、彼女が望んでいたとおりの言葉を言った。


「また逢おう、春河」

「そそ、それ」


 情緒を込めていってくれた。その事実が、春河にとっては一番嬉しい。

 また逢おう、と言ってくれたということは会えるということなのだ、と自分に言い聞かせて、思わずにやけそうになった顔をそらす。


「でも、次会えるのっていつ?」

「オフ会がしたいってネロが言ってたから、イベント後かな。世間一般で言われる夏休みに集まればいい」


 次はネロたちと一緒、か。

 ちょっとだけ残念そうに言葉を飲み込んだ少女へ、克弥は何も言わず次の言葉を待つ。


「オフ会以外でも、また会いに来ていい?」

「どうぞ。できれば、1週間くらい前……急でも前日には言ってほしいかな」

「はいはーい」


 正直、今回は急すぎたとジト目になった青年へ、軽く返事を返し。

 春河は、新幹線へ乗り込んだ。


 と一度だけ振り返り、克弥へ。


「……私ね、負けないようにする」

「ん?」

「アルトさんに、負けないようにするから」


 それだけを言った直後。克弥が何かを言う前に新幹線のドアは閉まり、出発してしまった。

 

 克弥は、少女の言葉を理解しようとして……。まず、アルトの顔を思い浮かべる。

 アルトは明確に彼へ好意を示している一人だ。「オーミと近い場所で暮らせるから」と言ってわざわざ日本の大学に来たほどである。


 克弥がそれを聞いてから初めてあったのは一昨日のことであるが、これから一週間に一度の超ペースで遊びに来るであろうことは予想できた。小学生か、と。


 そんな彼女に「負けないようにする」ということは……。

 まあ、粗方そういうことなんだろうなと、思い上がらないように「友人として」と前提をつけて克弥は考える。


「やっぱり、まずいと思うんだよな……」


 男性が一人で暮らしている場所に、女性が一人で上がり込むってのもなかなか危険な好意だと青年は考えながら、去ってゆく新幹線を見つめていた。


これで1.5章は終了です。おつきあいくださり感謝いたします。


次回更新は明日、2章:イベントボス戦(仮)編、です。


明日以降はこれまでの、1日3回更新は維持できなさそうなので、基本的に来週までは1日1回以上。

来週以降は、隔日更新以上を目指して書き続ける所存でございます。



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