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第014話 「鍛冶番、状況を楽しむ」

「うわぁ」


 近くで見ればみるほど、綺麗で可憐な人だと春河はるかはそう感じた。

 目の前に居る美少女は、大海克弥の方をじっと見てそのあとこちらへ視線を彷徨わせてくる。


「説明を」

「ええと。……春河、こちらはウリム・レイ・エゼク。《Mythology-of-Legacy-Online》にてアルトと名乗っているプレイヤーだ」


 あ、やっぱりそうなんだとここで再確認。確かに、顔のパーツはほとんど一緒であるし。

 けれど、ここまで似せられるとは知らない春河は、ただただその出来に感心するのみである。


 実際、春河のアバターは精霊型であり、人間顔をしていない。炎の塊である。


「アルスト人よ。よろしくね」


 【アルスト国】は、太平洋に浮かぶ巨大な人工島によって形成されている都市国家である。

 最近――とは言っても歴史は30年ほど――出来た比較的新しい国で、最先端の技術を排出し続けている場所だ。


 春河の父親も、その【アルスト国】で研究をしVR操作筐体の小型化に成功した、という経歴をもつ。

 

 また、アルスト国は姓名の構成が少々特殊だ。

 最初に母親の、次に自分の、そして家名を名乗る。


 そのため、端的に説明すれば『ウリム・レイ・エゼク』は『エゼク家のウリムから生まれた子、レイ』という意味合いに成るのだ。


「で。レイ。こちらは御焔ほむら春河はるか。《Mythology-of-Legacy-Online》ではフィオネ」


 春河は、ここで目の前の少女の表情が、露骨に2段階曇るのを見た。それもそうだ、昨日彼女のギルドハウスに乗り込んで、【エリクス結晶体】をねだってきたばかりである。

 そもそも、相手もまさかゲーム内のフレンドが、想い人の家に上がり込んでいるとは考えていなかっただろう。


 ここまで来て、本当に姿を彼女の前に晒してよかったのか、と春河は考え込む。

 そもそも、私は彼女にどう写っているのだろう。オーミは迷惑にならないと言った。でも、これでは完全に修羅場である。


 わなわな、と震え始めたレイを見て、春河はそろそろ来ると確信する。どんな罵声が浴びせられるんだろう、と身構えながらも、恐怖からかこちらも震えてくる。

 かかってこい、相手になってやる! とは口が裂けても言えないが。


「…………」


 ウリム・レイ・エゼクは力をためている。克弥がそうつぶやいたせいで、春河は吹き出しそうに成るのをこらえて目をそらす。

 彼はこの状況を楽しんでいるようにも見えた。少なくとも、朴念仁タイプではなさそうだが……悪趣味だ。。


 きっと、横にいる大海克弥は今の状況をわかっている。下手したら、こちらの心境も見透かされているのかもしれない。


「……か」

「か?」

「可愛い!」


 そういって春河に向かって駆けてくる超絶美少女に、春河は思わず「は?」と声を出して次の瞬間抱きしめられていた。

 女同士とはいえ、これはまずい。顔が沸騰する。


 【炎極精(スゼクフリート)】の炎と同じくらい真っ赤になった春河を抱きしめたまま、レイは克弥の方を向いた。

 一方、彼は全て分かっていたように薄く笑うのみである。


「こんなに可愛いんじゃあ、今日のオーミが心配だなー」

「俺はなにもしないよ」

「明日は会えないの?」

「明日は春河とデート」


 ちょ、何いってんの、とかろうじて出た春河の咎めは克弥の笑いでかき消された。

 春河で何かの成分を吸収したレイは、やっと彼女から離れてにこにこ顔だ。


「……怒らないのね」

「なんで? オーミは私の彼氏じゃないし」

「嫉妬とかは?」

「なんで?」


 やけに疑問が多い少女だな、と春河。

 しかし、【アルスト国】の人間はこういうのが多いと父親から聞いたことがある。

 彼女たちの行動原理は、生粋の日本人である少女にはわからなかった。


「嫉妬して、オーミの気持ちがこちらに向くわけじゃないし。……でもオーミはいつでも来ていいって言ってたから、今日も遊びに来ただけ」


 あと、嫉妬なんていう感情は【英雄的】じゃないと発言したレイに、春河は感服するばかりである。


 もう満足したようだ。


「もう帰るのか?」

「うん、今度は私もオーミとデート行きたい!」

「はいはい」


 去ってゆく少女を見つめながら、春河は克弥に質問をした。今だ顔は赤く、抜けきっていない。


「で、デートじゃないわよ」

「デートじゃないか、今日だって」


 うっ。言葉に詰まった春河は、視線を彷徨わせてあらぬ方向を見た。

 克弥はあまり気にしていないようだ。そのまま彼女を潮風の当たる外から避難させる。


「あとで砂浜でも歩きに行く?」

「……んー、それこそこ、恋人っぽくなるでしょーに」

「それもそうか」


 断ってから、春河は頷いておけばよかったと後悔する。

 職人は、じゃあまた今度の機会にでもと特に気にした様子もなく、晩御飯の片付けを始めたのであった。





---



「こんにちは」

「こ、こんばんは」


 そして「Mythology-of-Legacy-Online」の世界で、2人は再会する。

 いつもどおり、作業台の椅子へ座り込んだオーミを、【炎極精(スゼクフリート)】のフィオネはじっと見つめていた。


 オーミと大海克弥は、少しだけ差異がある。それが何か分からなかったが、容姿以外のところで確かにそれはあるように少女は思えた。

 職人は、慣れた手つきで完成した武器をオブジェクト化し、少女に見せる。


 ほぼほぼ設計図どおりの出来栄えだ。巨大銃、そのイメージと同じでいつものフィオネにはかなり大きく感じることだろう。

 SFにしては少々蒸気臭く、スチームパンクにしては科学臭い微妙な立ち位置の銃であったが、フィオネはこれを気に入った。


 当初筒型の予定であった自律ユニットは、リング型で目立たなくなっている。

 フィオネは、その武器をひとしきり確認したあとで言われていた問題点を聞き出すことにした。


「……問題点って?」

「ああ、本当に申し訳ないんだが……」


 オーミはバツが悪そうな顔で、武器のステータスを開く。

 武器名は【玖零伍口径万物焼灼殲滅用崩撃銃】、愛称【B(ビー)-nova(ノヴァ)】。

 勿論、フィオネは正式名の方を読む気も起きなかったが、「なんか強そう」と頭の悪いイメージを抱いていた。


「火力を1桁間違ってしまった」

「どういうこと?」

「火力が高すぎて対人戦に使えない」


 ぽかーん、と。

 少女は、ステータス欄を見ながら確かにと頷く。


「補償として、もう1個作る」

「……いや、要らない」

「ん?」


 オーミは顔をあげる。目の前の炎の精が何を考えているのかわからないが、それには何かの理由があるのだとしか考えられない。


「……いいの。これだけでいいわ」


 そういって、愛おしそうに身の丈に合わない銃を抱きしめる少女に、職人はこれ以上口を挟まなかった。


「銃の機構的に絞れないなら、私の力量で絞るわ」

「……そう言ってもらえると、救われたような気持ちになるよ」

「ふふ」


 お話が終わったならログアウトしましょ、とフィオネ。彼女も長居する気はないらしく、ルーナ以外の追加注文が入っていないことを確認したオーミは、簡潔にVZの取引を済ませる。


「こんなに安くていいの?」

「ん、問題ないよ」

「ネロのときは2Mって聞いたわよ」

「時価で、とはいった。でも今回は申し訳ないが」


 控えめに提示され値段に、フィオネはうーむと考える。

 ちょっと安すぎる。少女はこの武器はむしろ、イベントボスに大打撃を与えられるものだと考えているゆえに、どうしても納得がいかない。


「オーミ、聞いて」

「はい」


 敬語になったオーミに、フィオネは笑いかける。


「今度のイベントボスで、私達がtop5に入れなかったら半分は返してくれていいから。先に2倍で払っておくわね」


 感謝の気持ちなのだ。態度もそうであるが、オーミだってアルトや自分達からの提供のみでなんとかしているわけではない。ポーションの材料を取りに行こうとしても、体力700の貧弱職人では100歩進むのも難しい。


 マーケットで買い漁る必要がある。そのための資金でも、これはある。


「これからもよろしくね、【御鍛冶番】オーミ」

「……ありがとう」


 イベントがどうなるか。フィオネは楽しみであった。

 ネロたちは「逆襲」すると自信満々であったし、そのためにはゲーム上で許される限りのことをルクスは考えつくだろう。

 例えば、ルーナを使ってほかプレイヤーに毒を撒くだとか。テンパレの武装を換装して、PvP用に変えるだとか。


 正確に、ネロたちが自分たちのクランをいい意味、悪い意味どちらで目立たせたいのかはわからない。

 けれど、どちらでもいいや、と。

 フィオネは投げやりな答えに落ち着いて、一足先にログアウトした。


 


この章はこれで本編が終わり、次回はまとめ・間章・次章のいずれかです。


ここまでお読み頂きありがとうございました。


次回更新は明日です、よろしくお願いいたします。

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