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第012話 「廃人共、日常生活を送る」

日間ジャンル別2位、 日間総合17位まで上がってました。

感謝感謝です。これからもよろしくお願いいたします。

「……随分と、気合を入れてきているように見受けられる」


 正午を少し過ぎた頃、待ち合わせの場所に「オーミ」こと大海克弥は到着した。

 そこで待つ、約半年振りに会う少女の姿を見て、思わず口調が堅くなってしまった彼は……。

 はて、どうやって話しかけようかと短時間で熟慮したあと、普通に手を振ることにする。


「あら、お久しぶり」

「去年会ったときとは、イメージが変わったような気がするよ」


 どう、明確に言うべきなのか分からなかっが。克弥は、自分の服装を鑑みて意識の差というのを感じ取った。

 なーんにも考えずに、清潔感のみ何とかしてやってきた自身と懸命に考えてコーディネートしてきたであろう彼女。

 だからといって、羞恥心などというものはほぼ無い。


「そう? ……そう、かな?」


 指摘された少女は、態度を変えなかった青年とは打って変わって思いっきり赤面した。

 その姿から、失礼ではあるが克弥はゲーム内での彼女、炎の精霊である【炎極精(スゼクフリート)】を連想してしまう。


 ――何を緊張しているんだか。


 数分後、やっと落ち着いた様子の彼女に、昼食はどうするか伺いを立てる。

 御焔ほむら春河はるかの返事は実にサバサバしたもので、「その辺のファーストフードで問題ないわ」と。


 なら適当に、と歩き出した彼の背中を、少女は慌ててついていく。


「それにしても、わざわざ来なくとも何とかなっていたろうに」


 突然の事もあってか、少々不機嫌な青年に対して春河は返事をしない。

 今頃になってきて、何故ここまで来るほどあのときは行動力があったのだろう? と首を傾げていたためである。

 まさか、こう……言った次の日には我慢できなくなるほど、目の前の男に会いたがっていたのだろうか? 自分が?

 

 考えを振り払うように首を振った春河は、前を向いてこちらを見ようとしない克弥を数秒見つめ、漏らすように呟く。


「やっぱり、人と面と向かって接触することは慣れていないのね」

「慣れるも何も、生活は出来るからな……」


 引き込もりでも生活が何とか成るのは、両方とも同じであった。

 しかしシェアハウスで……まあ、端的に説明すれば現実でも【欠けた虹】のメンバーと暮らしている春河は、買い出しや色々な事情で外と触れ合う機会と言うのは決して少なくない。


 が、克弥は違う。殆どのことはネット通販で済ませるし、運動や食事で外に出ることはあっても深夜である。それ以外の生活は全てゲームに――「Mythology-of-Legacy-Online」に注ぎ込まれている。

 【第二の人生を】、というコンセプトの元作られた「それ」に、忠実なのである。


 その割には、体力はおそらく生身よりも少ないのであろうが。

 

「あっ」


 ここで、克弥は何かを受信したようにビクッと反応すると春河の方を向いた。

 少女は、青年がどんな表情をしているのか構わず、太陽が照りつけるような笑顔を向ける。


「日帰りで帰るわけじゃ、ないんだろ?」

「うん、流石にね」

「宿泊場所は?」


 克弥は、その笑顔で大体理解した。


「泊めてもらいたいんだけど。これもあるから一応ダイブは出来るわよ」


 春河が取り出したVR操作筐体 、『NeG-001』を見て克弥は観念する。


 『NeG-001』は、小型のサングラス型筐体だ。技術の進歩によってたった数年で、ヘルメット型の筐体は時代遅れとなり、小型かつ低価格であるこれが普及し始めている。

 廉価版ならスペックも大したことはないが、春河が所持しているものはグレードの高いものである。

 彼女がこれを新しく貰ったのもたった1年ほど前のことであり、それまでは外出先で遊ぶことなどできなかった。


「わかったよ」

「やったー」


 男の家に女一人でいって、何もされないと考えている少女の危機管理は如何程か。

 克弥では何も出来ないと考えられているのか、それとも慕ってくれているのか。


「一応、3日ほどはここにいる予定だから!」


 思い上がりではないが、そのあまりにもオープンな態度に、思考結果を飲み込むしかない青年は考えるのをやめた。




---



「春河やるなぁ」


 水馬みずまかえでは、蒼汰からの報告を受けて嘆息していた。

 限りなく中性的で、男女の判別が付きにくい少年は、柔らかい笑顔を浮かべながらそうぼやく。


「春河のこと考えたら、僕もオーミさんのところに行きたくなってきたぞ?」


 楓は、物静かな青年に思いを馳せた。

 決して、あの態度も気取っているわけではないのだと思う。アレが彼の本体で、きっと僕達をいろいろと手伝ってくれるのは彼の本心なんだろう。

 楓は、胸が高鳴るのを感じ慌てて表情を取り繕う。


 それを、不良顔でチャラチャラした服装をしている少年が、訝しげな顔で見つめている。

 何度か悩んだ挙句、恐る恐ると言った様子で口を開く彼――テンパレこと時伸ときのぶ天晴あまはるの口を、楓は人差し指だけで噤ませる。


「……楓、言いづらいんだが……!?」

「天晴、何を言いたいのかは分かるけど、口にしちゃいけないこともあるよ」


 呪文を唱えるように「楓は男」と連呼しているピュアな天晴へ、楓は男には出せない妖艶さの含む笑みを浮かべてキッチンへ向かう。

 その笑みにも、天晴がドギマギしたのは言うまでもなく。


「変わりませんね、天晴」


 石のように硬直した天晴の方に手をやって、首をふるのは蒼汰であった。

 だ、だってだって……と、ぷるぷる震えながら情けない声を発し、何とか弁解しようとする純情不良。


「アレ反則だろ……! 慣れねえよぉ」

「良いですか天晴」


 ふてくされたいたずらっ子を諭すような口調で、蒼汰は天晴へ話しかけた。


「ここのシェアハウスに、一般的に『普通』と呼ばれる人は居ません」


 そう諭され、純情不良あまはるは蒼汰を見、キッチンに向かって少女2人の手伝いを始めた楓を見。

 今はここにいない、赤髪の行動力だけが天元突破している少女を思い浮かべる。


 世界的に有名な巨大財団でありながら、『何をしているか分からない』と巷で噂されている「光城院こうじょういんファウンデーション」の御曹司……ルクスこと光城院蒼汰。


 代々伝わる風習が原因で、15歳になるまで「女」として育てられた……ネロこと水馬楓。


 小型VR操作筐体、『NeGシリーズ』の開発者である御焔博士の娘……フィオネこと御焔春河。


 この3人を中心として、集められた6人の少年少女がこのシェアハウスの実態である。

 毎日ゲームをやって、共同生活を過ごしているだけのようにも見えるが、それも実際は調査とするなら聞こえは良い。


 一癖も二癖もあるメンバーの中で、かろうじて常識人枠に片足を突っ込んだ天晴は、がっくりと膝をついた。


「どうしろってんだよ……」

「5年目ですよ、そろそろ本当に慣れてください」


 言葉に詰まった天晴は、鼻歌を歌いながらトーストを6人分持って戻ってきた楓からトーストを奪うことでやっと溜飲を少しだけ下げた。

 そんな光景を、少女2人は……片方はつまらなさそうに、片方はそっと見守るように見つめている。


「今日のみんなの目標は?」


 楓が訊く。天晴と蒼汰は顔を見合わせ、同時に「アイテム集め」と答えた。

 残り2人も、そう変わらない返答を返す。


「楓はまた訓練か?」


 天晴の質問に、楓は相変わらずな笑みを浮かべながら、頷く。




 次のイベントまであと、1週間。

 不遇種族と呼ばれた【極精】の逆襲が、そろそろ始まる。


次回更新は今日です。

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