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第010話 「鍛冶番、廃人に誘われる」

日間ジャンル別4位、日間総合60位までの上昇を確認。

ありがとうございます!

 フィオネが、職人オーミに銃を頼んでから1週間が過ぎた。

 オーミはいつもどおり、このゲームにインしてもほとんど、工房に篭って作業をしている。

 設計はほぼ終わり、後は作るだけという域には達しているが――オーミは今回はじめての試みを行おうとしていた。


 今まで、オーミは最初の相談以外全てを自分だけで作ってきている。実際、どうせ職人様オーミは自分のロマンを捨てようとしない。ゲームの中であるのだから、好きにさせてくれというのがオーミの領分である。


 が、今回は顧客に最終段階の設計図を見せたのだ。


「フィオネ、これを見て何か不満はあるか?」


 呼ばれた炎の精霊アバターの少女は、女性の中ではオーミの好みを理解できる方の人間であった。

 ホログラムとして投影された、完成のイメージ図を魅せられるように見つめて、目を輝かせる。


 フィオネは、ロマンの分かる女性だ。どちらかと言えば、体が90%ロマンのテンパレや、オーミ製大好きプレイヤーのネロに影響された部分もあるが。


「うーん、これが自律ユニット?」


 フィオネが指差したのは、筒のような形をした2つの部品である。

 オーミは、彼女の言わんとする事がわかっていた。なぜ、こんな形なのかと。


「これは加速装置だよ」

「んー?」

「ロマン砲を実現するためのね」

「ロマン砲?」


 男のロマンの一種さ、と説明したオーミの表情は、実にドヤ顔じみたものであった。

 今回、オーミが目指したのは「針を通すほどの精密射撃」と「全てを焼き尽くす、暴虐の火力」の共存である。

 

 前者は多くの場合、対人用。確実に脅威を排除するためのものだ。これは当たらないと話にならないため、命中力というよりは、ならそもそも誘導させれば良いのではないかとロックオン式になっている。

 後者は説明のしようがない、ただただ火力に身を任せるだけのモードだ。プレイヤーなら数十人単位で消し飛ばせるし、モンスターでも当たれば十分なダメージを負わせられる。


 だが、と。

 オーミは、一つの欠点を少女に説明した。


「申し訳ないんだが、一つだけ設計上どうしても伝えなきゃならんことがある」

「なーに?」

「……火力最大で撃つと壊れる。その度に修理が必要だ」


 勿論、他の人に修理が出来るかと問われれば否だ。

 決め手として使うなら問題がないが、例えばボス攻略の途中でダメージ計算を誤ったりすると、その後はただの鉄くずとなってしまう。


 しかし、【炎極精(スゼクフリート)】は「そんなこと?」と特に気にしていないようであった。


「その分、稼ぐから問題ないわ」

「……そうか」


 職人は、それ以上追求しなかった。

 必要分の【帯電合金】、【エリクス結晶体】。その他諸々を作業台の材料入れにぶち込み、武器の作成を開始する。


「後は少々、手入れを施しながら完成を待つだけだな」

「……どれくらい掛かるの?」


 少女の声には、期待と不安が混ざっていた。

 おそるおそる、作業台の専用コンソールを覗き込んで製造の成功確率を見てみる。


『100%』


 はぁ、と安堵の吐息を漏らしてフィオネは背もたれに倒れ込んだ。

 と、疑問に思ったことをそのままオーミに聞いてみる。


 ゲームでは、その数字が全てではあるが……99%は不確実であり、100%は確実である。

 この差は絶大なものであるのだ。どれくらいのスキルを重ねれば、この数値はでるのだろう?


「100%って、よく出るの?」

「出るよ。オーダーで作るときはだいたい100だ。そうしないと信用出来ないからな」


 火力の数値を、多少無茶なものへと設定しながらオーミは笑っていた。

 自分が設計したものが、形になっていくさまを見るのはやはり楽しい。


 特に、それがどこの馬の骨とも分からないプレイヤーに使われるより、やはり信頼のおける人に使ってもらったほうが良い。


 オーミは、となりにちょこんと座っている炎の精を横目で見た。

 フィオネはオーミの視線に気づかず、少しずつ作られてゆく新武器の部品を、興味深そうに見つめている。


「今日も、ここにいてて良いのか?」


 話しかけられたフィオネは、一瞬躊躇したがすぐに頷いた。

 

 実際、リーダーであるネロはルーナに指摘されて【A(エー)-gelmir(ゲルミル)】の3対同時操作の練習を。

 ルクスとテンパレは、次回のイベントのためにレアドロップする「鍵」の入手を。

 ルーナは、【欠けた虹】最後のメンバーと共に敵の妨害・味方の補助の演習を今日は行っている。


 つまり。

 建前だけはしっかりとしている、体のいい自由行動であった。


「ゲームだし、そんなに今詰めてやらなくても良いかなぁって」

「72時間ダイブしてた廃人には言われたくない言葉だ」


 ブーメランが帰ってきた少女は、そのままへぶっと女の子らしからぬ声を発して、椅子の上で体育座りを始めた。

 たしかに……、そうだけど……と、スキルで生成した火の玉を弄び始める【炎極精(スゼクフリート)】の姿は、実に哀愁漂うものとなっている。


「あ、そうだ」


 心の切り替えが終わったのか、それとも心を切り替えようとしたのか。

 少女は、オーミの方を向いて口を開く。


 部品が次々と平行作業で作られてゆく中、オーミは微調整を加えながらフィオネに、「なんだ」と返事をした。


「そろそろ、ネロの誕生日なのよね。……誕生日プレゼントを探したいんだけど、私じゃわからないから一緒に選んでくれない?」

「……俺じゃなく、それはルクスやテンパレに頼むべきでは?」


 そもそも、「リアルで会おう」と言って会える距離ではないだろうとオーミは感じた。

 オーミは兵庫県、フィオネ達は東京である。決して近い距離ではない。


 5年の付き合いがあるからと言って、ネットでしかほぼ面識のない自分よりも。

 幼馴染である彼らと選んだほうが良いのでは? というオーミの考えに、フィオネは首を振った。


「私がそちらに行くから問題ないわ」

「いや問題だろう。……それこそ、テンパレたちに」

「テンパレと行くとあの人、すぐに喧嘩沙汰になるし。……ルクスは護衛がつくから羽根が伸ばせないのよねー」


 フィオネの言葉に、たしかにと納得してしまったオーミであった。

 彼らの事情を考えれば、それもそうかと納得してしまったあとで、腹をくくることにする。


「わかったよ。一足先にオフ会しますか」

「わーい。いつ頃空いてる?」

「今日徹夜すれば、明日の朝にはこれが出来上がる」


 オーミは、武器名をどうしようか考えながら上の空で答えた。

 思考は今や完全に、武器制作に100%注がれておりフィオネに対しての言葉も半分聞き流している状況である。

 それを、彼女はわかっているからこそ好き勝手に条件をつけていっているのだ。


 やっぱり、この人……ゲームに生きる職人だ。


 フィオネはそう確信しながら、新幹線で向かおうか深夜バスで向かおうか、それとも最近実用化された新型鉄道を使用するか……既に悩み始めていた。

 

 


次回更新はおそらく今日です。

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