5 同好会への勧誘。
「ゴホン。ア゛ーア゛ー。……我々ノ仲間ニナレ」
「……」
彼女の言葉に、思わず息を呑んだ。
因みに、彼女の台詞は今ので二回目だ。一回目の時に俺が全くの無反応だったからだろうか。テイクニというよりかは、大事なことなので二回言いましたの括りに含有しそうである。
「それはつまり、俺にも宇宙人の真似事をしろと?」
変に捻ったりはせず、ひとまずは単刀直入に聞き返してやる。すると少女はにべもしゃしゃりもないものの言いようで、
「真似事じゃない! あっ。……断ジテ、違ウ」
今、一瞬素が出てたよな?
「……まぁ茶化さず訊くと、つまりはどういうことだ?」
「それはオレの口から説明するッスよ」
いつの間にやら馴れ合いから抜け出ていた黒服女がサングラスを外して答える。
ガラス玉のような淡い彼女の瞳――見たところ双眸は思っていたよりも丸く、 形容するならばキラキラと、それからふと気になって視線を脇に逸らすと、そこには上目遣いでこちらを直視し続けるツインテ娘の姿があった。
「…………」三点リーダを重ねて、仔細ありげな面持ちで見つめられる。
放置しておいても平気なんだろうか。
まぁどちらにせよ、今の俺には関係のない話か。
「え~、まず初めに」と後ろに手を組んでとことこと歩き出す黒服女。「どうしてオレ達がこのような目立つ形で転校生である君にコンタクトを取ったのかというと」
「というと?」
その先を促す。女は軽く咳払いを挟んでからのたまった。
「理由は単純にして明快。つまりは、君には記憶に残るようなインパクトのある形での接触を図る必要があったから」
先ほどから同じ内容ばかりが循環している気がしてならないが、まぁいい。今は突っ込まずに最後まで聞き届けてやろう。
「その理由は、オレ達が創設する同好会へ入ってもらうためッスよ!」
なにやら鼻たかだかに発言する黒服女は、太陽の光をあたかもスポットライト代わりに照らされているかのような見事なまでの意気盛んっぷりだった。ここを演劇ステージかなにかと勘違いしてるんじゃないのか? まぁそれはさておき、
……なるほどな。
一応は内容を理解し、なおかつある程度は繋がった。しかしてそれと同時に、腑に落ちない点だけが留置し続けているのもまた事実だ。
「あんたの説明は、本っっ当に回りくどいわね」
俺の気持ちを代弁するかのように、ツインテ娘がこれまたぶっきらぼうに言い放つ。
「さっきも言ったけど、単刀直入に言うことが大切よ。要点だけまとめて結論を」
「はいはい優等生優等生」
呆れ顔で一蹴してみせる黒服女と軽くあしらわれて憎らしげに顔をしかめるツインテ娘ではあるが、今度はリアルファイトにまでは発展しそうにない。
「ドウダ? 我々ノ仲間ニナル気ニナッタダロウ」
精神的に復帰した宇宙人もどきが、身長差から上目遣いで俺を見る。
「えーと……」
反応に困ってしまうことこの上ない現状だった。
一体全体どこをどう見たらこの奇妙奇天烈集団が創り上げる同好会に入る意欲が湧いて出るのやら。切実に理由を教えてほしい。いやそれ以前に、
「そもそもなんの同好会なのか、まだ一度も教えてもらった覚えがないんだが」
「ああそれは、今度はあたしの口から説明するわね」
黒服女からバトンタッチ、自称結論から言う人が名乗り出てくれた。
「誰が自称結論から言う人よ、誰が」
おっとうっかり口から出てしまっていたか。要反省。
「語呂は良いッスけどね」ボソリ呟く黒服女。
聞こえてはいただろうが、ツインテ娘はそれを無視して両腕を胸の下で組んで……無い胸アピール? いや、もはや何も言うまい。
「私達が造ろうとしている同好会の名称、それは『オタク同好会』よ! なにをするかは、まぁ名前の通り、オタク的な行動に勤しむの」
「ホントそのまんまだな」
漠然とした感想を言って、俺は次に気になっている疑問の一つを投げ掛けた。
「それじゃあ、どうして俺なんかを選んだんだ? 創り上げる、創ろうとしているって言うぐらいだからまだ起ち上げられてもいないんだろうが、転校してきて早々、その勧誘に一体なんの意図がある?」
「質問攻めはあまり好きじゃないけど、いいわ。あんたの疑問に答えたげる。まず前者だけど、あんたがユニークな転校生だったからかしら。あたし達が求める人材にドンピシャだったのよね」
適材適所、とはまた異なるか。ふぅむ、それにしたって俺のどこにオタク同好会に見合う適格な要素が含まれていたのだろう。是非お聞かせ願いたい。
「厨二病ヲ患ッテイルトコロ」
「えっ?」
俺の呈した疑問に真っ先に答えたのは、なんと宇宙人もどきだった。理由は解らないがどこか誇らしげで、反撃のチャンスだと言わんばかりに口火を切る。
「現在進行形デ増加ノ兆シヲ見セテイル厨二病患者ダガ、マサカアソコマデ堂々ト、ソレモ転校ノ自己紹介デアピールスルナンテ、中々真似出来ルモノジャナイ。否、出来ナイ!」
「は、はぁ」
なんだか演説にすごい熱がこもっている気がするな。聞いているこっちが恥ずかしくなってきた。
「我々ガ目ヲ付ケタノハソコダ。過大評価ト言ッテモ過言デハナイ。……リアルであんなことする人初めて見……あ、いや。……ウム! ツマリハ恐悦至極ナノダ!」
「……」
それ、使いどころ間違ってないか?
テンパりながらも無理矢理まとめに入ってる感が否めないが、まだ話しきってはいないんだろうな。見た目どこか歯がゆくてもどかしいし……しょうがない。
「ふんふん、なるほど。恐悦至極ねぇ。そりゃどうも、痛み入るぜ。……だけどよ、それだけで終わりなのか? まだ他に俺に言うこと、あるんじゃないのか?」
しっかりと俺は彼女の目を見据えて言ってやる。するとどこか熱を帯びたように頬を赤く染めた少女は、
「……ん。無論ダ。マダ、コレデ終ワリナドデハナイ」
やおら口を開いて再度言葉を紡ごうと息づいている。
やれやれ、俺もちょっとしたお節介な奴だよな。柄にもなく殊勝なことを言った俺自身に苦笑する。
「我ハ宇宙人ダカラ、オ前ノヤッテイルコトナド、大半ガ見透カセルゾ」
俺からしてみれば宇宙人だからという理屈はおかしいし、それに全てじゃなくてあくまで大半なんだな。俺はこの子にそこはかとない謙虚さを感じつつ、宇宙人もどきは特に気にも留めない様子で続ける。
「オ前ガ実行ニ移ソウトシテイル厨二病ハ、アクマデ真似事デアロウ。所詮真似事。サレド真似事。厨二病ゴッコ二過ギヤシナイ!」
カッ! という効果音が背後に付き添われていそうだ。それにどことなくどや顔にも見えるし。……うん? そうか、なるほど。
ここにきてようやく、俺は彼女の意図することを理解した。
先ほど俺はこの宇宙人もどきに対し、何の気なしに宇宙人の真似事と言ってやった。その際、彼女は鳩が豆鉄砲を食ったように驚き動揺した。と同時に、俺に唾棄すべき振る舞い――俺はそう思っちゃいないが――を曝け出したためか。言わばこれは羞恥を感じた彼女による仕返し、彼女なりの行動意欲の表れということになる。
俺は考える。その結果、答えが出た。
「俺は――」
誤字脱字、感想等あればどうぞ。
次回で最終回です。
次回、一週間以内に投稿予定。