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3 襲撃するエセツンデレ。

 三限目の終了間際、俺は思いもよらぬ不幸に見舞われていた。

 眠気を誘う呪文のような古文の詞を聞きながら、俺は両瞼がお見合いを成功させぬよう必死に目をすがめていたところ、これまた急にキやがったのだ。


 一体どこに? 俺の腹部に。


 何が? 激痛が。


「……」息も絶え絶え悶絶もんぜつ寸前。マジで昇天五秒前。


 睡魔の野郎は一気に吹き飛んで、しかしてその代償は想像以上に高くついた。 授業が終わるまで残り僅かではあるものの、この苦境、耐え忍ぶには多少なりとも手厳しい。いっそ挙手してしまっても――と、ここで考えを止めた。有り得ない。その選択肢だけはない。いやだって考えてもみろ。黒歴史と化したあんな自己紹介を公表した俺が「先生! 腹ん中が入り乱れて爆発してしまいそうですぅ! なのでトイレにいかせてください!」なんて発言しようものなら、今後叩かれる俺への陰口は『いかれポンチのトイレ君』で決まりだ。ふざけんな。ただでさえ転校してきたばかりだというのに、登校拒否になるぞ!

 俺は自身のネーミングセンスの無さと、もし万が一にも漏らす行為をしてしまったら今後『いかれポンチのお漏らし君』と呼称されるという恐怖を同時におもんぱかりながらも、耐え忍ぶこと昏睡こんすいの末、鐘の音が鳴り響いたのは間もなくのことだった。


 起立、礼、ありがとうございました。今の俺にはその時間すらも惜しい。それでもなお律儀に全体にならう俺が恨めしいぜ。うっ! ……そんなことを考えている内に腹の痛みが加速した。

 待ちに待ったこの時を見兼ねて、ダッシュで教室を後にする俺。ぎゅいーんやらぐるぐるやら聞けば歪な合唱団。あと少し、もうあと僅かで辿り着く、俺が男子トイレのドアに手を伸ばしたその刹那せつなのことだった。


「とりゃー!」

「ひでぶっ!」


 ズサーッ。……痛い。

 思考欠落してか少なからず手抜き的表現をしてしまった。不覚。その説明をば。

 前者はまだ見ぬ第三者の掛け声、声色としては女性だろうか。意外にも甲高かったからその可能性が高い。続いて後者が、まごうこと無き俺の悲鳴。否絶叫。意識を向けてはいなかったが、背面に感じる痛みから察するにタックルをされたか足蹴りにされたか、真相究明を求むのは今ではないにしろ、故意にやってのけたのはまず間違いない。命を賭けてもいい! ……小学生か。

 転校初日、奇抜な自己紹介を除いては個人的に恨みを買うようなことをした覚えはないのだが、現在進行形で激化する腹の中心を摩りつつ、俺はやおら立ち上がり犯人を確かめるべく体躯たいくを捻って斜視した。

 するとそこには仁王立ち腕組んでドンと構える女生徒がいた。目鼻立ちは良いのになぜか憮然ぶぜんと目を吊り上げて、これまた見事なまでのツインテールをぱさりと揺らし、さらには理由も解らず俺をめ付けていた。


 俺、なんかやりましたっけ? ついつい敬語で接したくなるような上司風情もかもし出されている。


「べ」


 べ?

 女生徒はおもむろに口を開いて、


「別にあんたのためにやってあげたんじゃ、ないんだからね!」とやはりぶすっとした表情を浮かべながらテンプレ台詞を吐き捨て身をひるがえし、言うこと言ってこの静寂に包まれた空間から一人去っていった。


 ポカーン。それが今の俺の状態。所謂いわゆるマヌケ面。

 ズキズキズキズキ。滑って皮?けした部分が痛みやがる。かなりひりひり激痛安定。

 ギュルギュルギュルギュル。これは言わずもがなか。よし、トイレに入ろう。

 渋面じゅうめんを面にさらして腹を摩りながら個室へと駆け込む。結果、間に合いはした。間に合いはしたのだが、なぜか俺の人を見る猜疑さいぎの目はここ短時間で加速する一方であった。あまり嬉しくはないけどな。


 未だトイレの個室に鎮座ましましている俺ははなはだ大げさに額に手を当て本日一番大きな溜め息を吐いたのだった。

誤字脱字、感想などあればお気軽にどうぞ。

次回七日~十日以内に投稿予定。

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