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3/17

 午後の陽光は相変わらず熱を含み、容赦なく照りつける太陽は、じりじりと皮膚を炙った。


 それでも、空気の中には夏に特有の湿気はなく、高い気温の中にも確かな秋が潜んでいるのだと感じられた。


 翌日、夜が明けて間もないうちに町を出た私は、薬剤師の篠目、そして見習いの市井を連れ、馬を駆ってこぶじゃくしの村を目指した。


 女性である篠目に気遣っていたせいか、ようやく目的地に辿り着くころには、すっかり日が高くなってしまっていた。


 あちこちが破れ、ぼろぼろになった萱葺き屋根の下で、こぶじゃくしを初めて目の当たりにした二人は、まず真っ青になって硬直した。


 彼らの額を流れ落ちる汗を眺めながら、私は昨日の自分自身がどういう顔をしていたのか、知った気がした。


「こんなことは……有り得ない」


 見習いのくせに、市井はあっさりと断言してのけた。


 恐怖を浮かべた眼差しが私の方に向けられる。助けを求めているのは患者だというのに、市井の表情はあからさまに私に助けを求めていた。


 無論、本人は決して認めることはないだろうが。


「実際に症例を目の前にしているというのに、有り得ないと決め付けるのか」


 私が呆れたような口調で言うと、市井ははっとしたように身を竦ませ、今度は別の意味の恐怖を浮かべ始めた。


 市井も自尊心の高い男だ。


 二十五をようやく過ぎたばかりという、その若さが自尊心に拍車をかける。


 彼は、自らの力不足を認めることを何より恐れているような男であり、そんな彼のある種、傲慢ともとれる態度を、私は少なからず良く思ってはいなかった。


 理由は大雑把に分けて二つある。私自身が自尊心の固まりのような男であるということがひとつ。


 そしてもうひとつは、そんな私でさえ年齢を重ね、経験を積むに連れて、どう足掻いても自分には決して「できないこと」があると認めざるをえないと思うことが存在するというのに、知識も経験も私に遠く及ばない市井が、自分自身が万能だと信じているということだ。


「いったい、なぜこんなことが起きるんだ。原因はなんなんだ……? カエルの卵が人間の体内で孵化するなんて話、聞いたことがないぞっ。どうやって胃液の酸をやり過ごすんだ? 胃で溶かされずに皮膚まで辿り着くなんて……」


 差し出された患者の腕をまじまじと見つめながら、市井はひとり延々と喋り続けている。


 しかし、決してその腕には触れようとしない。市井は額に浮かんだ汗を拭い、そして思い出したようにペンを取り出すと、遊びに夢中になる子供そのものの真剣さで何やら書き付け始めた。


 秋の風が吹き込み、筵が揺れる。藁と藁が擦れ合うその音は、どこか懐かしささえ含んでいる音なのに、今日ばかりはが床を這う音に聞こえてゾッとした。


 その時、私は筵の向こうに三人ばかりの子供が覗きに来ていたことに気付いた。


 誰が誰やら見当も付かなかったが、それぞれ手足にこぶじゃくしを飼っている子供たちは、私と目が合うなり慌てた様子で逃げ出して行ってしまった。


 私は改めて屋内へ視線を戻す。


 自分の腕を眺める市井を、家長は無言のまま見ていた。家長が何を考えているのか、私にもさっぱり分からなかった。


「先生、これはオタマジャクシなのですか」


 ややあって、家長は私に向かって静かに聞いて来た。


 彼が市井ではなく私に向かって喋り始めたことに、この時の私は密かな優越心を感じていた。


 そしてその瞬間、市井が僅かに苦い顔をした。私はそれに目ざとく気付いたが、敢えて気付かなかったふりをした。


「いいえ、ご存知のように、カエルの卵は人間の体内では孵化いたしません。確かにオタマジャクシとよく似ておりますが、全く別のものでしょう。しかし、このような寄生虫は前代未聞。独逸人でさえ、この治療法を知る者はおらんでしょう」


 私の答えに納得したのか、家長は無言で頷いた。


 その時、我々が見ている目の前で、家長の腕の中から、十数匹のこぶじゃくしが一斉に飛び出してきた。


 反射的に肩を跳ねさせたのは私たち医療を生業とする者で、村人たちは見慣れているのか、チラと目を向けただけで声も上げなかった。


「申し訳ない」


 私は真っ先に謝った。


 続いて、慌てたように篠目が頭を下げ、最後にやや憮然とした顔をしながらも市井が謝罪の言葉を口にした。


 家長たちは別に気にする様子もなく、軽くあしらうように謝罪を受け入れた。


「普段から、このように何の前触れも無くこぶじゃくしは飛び出してくるのですか」


 私は床の上をじっと見つめながら聞いた。ぬらぬらした黒い物が半透明な尻尾を振り回し、右へ左へと体をうねらせている。


 時に互いの体を絡ませ合い、時に互いの尾で打ち合い、ひっくり返っては起き上がり、ぶるぶると頭を震わせ、床をのたくる。


「ええ、その通りです。場所も時間も関係ありません」


 私はおもむろに鞄の中からガラス皿とピンセットを取り出し、必死に床を泳ごうとするこぶじゃくしを一匹捕まえた。


 ところてんでも摘まんでいるような感触だった。


 そんな私の行動を、市井が真っ青な顔で凝視していた。


「市井、ルーペを出してくれ」


 こぶじゃくしを乗せたガラス皿を持ったまま、日の光が差し込む場所へ移動する。市井は慌てた様子で私の鞄の中を掻き回し始めた。


 暗い室内では分からなかったが、明るい場所で見てみると、こぶじゃくしの体表は黒というよりも、様々な色が交じり合った挙句の「暗色」と表現するのが正しいと気付いた。


 どちらかと言えば深緑に黒を斑に混ぜ込んだような色合いで、その小さな体には縦横無尽に縞模様が走っている。


 オタマジャクシと違って、腹の方も同じ色をしていた。


 肉眼で見ても、子供の小指の先ほどしかない小さな頭に、目と口が存在しているのが分かった。


 目はヤモリのように薄い膜で覆われ、横一文字に広がる口は、始終、落ち着かない様子でパクパクと開いたり閉じたりしていた。


 ルーペを何度か動かし、私はそこに歯がないことを確認した。


 こんなものが体の中に数万匹もいるのか、と思うと改めて身が縮まるような思いだったが、私は敢えて態度には出さずに、仕事に徹した。


 拡大してその顔を見ると、口の中央部分、そして目と目のちょうど中間点にあたる位置に二つの穴が開いているのが分かった。


 普通に考えれば鼻だということになるのだろうが、相手は未知の生き物だ。こちらの常識は通用しない。


 体長のほぼ半分を占める尻尾は、中央部分には先細りになりながらもしっかりと肉が付いているが、上下は半透明のゼラチン質だけで覆われている。


 ルーペで可能な限り拡大させてみると、ゼラチン質の中に細い血管のような筋が走っているのが分かった。


「持ち帰っても構いませんか」


 私は手に持っているものすべてを市井に渡し、家長へ聞いた。さっそく、市井は日向に向かい、私と全く同じことを始めた。


「大学の研究室へ送れば、何か分かるかもしれません。私は医者であって研究員ではありませんので、このような新種の寄生虫に関しては専門家の判断を仰ぐことが大事ではないかと考えます。できれば、皆さん一人ひとりからこぶじゃくしを取らせていただきたい」


 集まっていた家族が、一斉に家長を見た。


 こぶじゃくしの寄生のせいで顔が崩れているために、その表情はほとんど分からなかったが、それでも私には彼らの一抹の希望、そして家長の返事に対する期待がひしひしと伝わってきた。


「どうかそれは、ご勘弁くだせえ」


 家族らの意思に反して、家長は静かな声で言った。


「わしは、こんな人間じゃ。先生らが言う独逸とやらがどんなモンなんか、想像さえできん。しかし、こぶじゃくしが絶対に村の外へ出したらいけん類のモンじゃということは分かるんじゃ。若い衆には納得できんことかもしれんが、こればっかりは譲れん。こぶじゃくしは、何があってもこの村から出したらいけんのや」


 家長が言えば、彼の斜め後ろで正座していた女の肩が落ちる。


 女はそれで納得したようだったが、背後に控えていた青年二人は、いきり立った様子で腰を浮かせた。


「何を馬鹿なことを言うとるんじゃ、親父。せっかく先生がこうしてまた来てくれたんじゃぞ! なしてそげなこと言うんじゃ! うちの村だけが取り残されとるだけで、世の中は変わっとるんじゃ! せっかく……せっかく、助けてもらえるかもしれんのぞっ!」


「兄貴の言う通りじゃ! もう俺は嫌じゃぞ! こんな化け物みたいな姿で、これ以上はもう耐えられんわ!」


 二人の青年たちが口調を荒げて訴えたが、家長は頑として首を縦に振ろうとはしなかった。


 か細い、消え入るような声で、床に横たわった妊婦が「お義父さん」と呼びかける。


 しかし、家長は腕組みをしたまま、岩になったかのように動かなかった。


「こればかりは譲れん。先生方、遠いところをわざわざ来てもらって本当に申し訳ないが、どうぞこのままお引取りくだせえ。こぶじゃくしは、何があっても村の外へは出したらいけんのじゃ。どうか分かってくだせえ」


 市井と篠目が同時に私を見た。二人は決断を求めている。


「では、大学の研究員をここへ呼びましょう。それならばこぶじゃくしを村の外へ出すことにはなりません。それならよろしいでしょう?」


 顔見知りの大学教授たちの顔を思い浮かべながら、私は言った。家長の眉が微かに寄り、家族の顔に再び希望が灯ったのが分かった。


 沈黙が流れる。市井は、ガラス皿を手に持ったまま、じっと私の顔を見つめていた。


 彼が、ガラス皿の中のこぶじゃくしをどうにかしてしまいたい、と思っていることはすぐに察しがついたが、私は何も言わずにおいた。


 処分するにしろ、どうにかして持ち帰るにしろ、それくらいのことは、自分で考えてもらわねば困る……とは言い訳で、実際は私もどうしたらよいものか、決めかねていた。


 家長たちが見ている前で床に放り投げるのは、明らかに気がとがめる。


 だからと言って、こんな危険な代物を町まで持ち帰る気には到底なれない。帰りの道中も同様で、家長自身も、こぶじゃくしを村の外へ持ち出すのは反対だと言っている。


「東京から、わざわざこんな田舎の更に山奥まで来てくれるようなお偉い学者さんがおるとは思えんのですが」


 私の葛藤には気付かない様子で、家長が聞いて来た。その声に逡巡が滲み出ている。私は笑顔を浮かべて見せた。


「いえ、人によります。白亜の塔から一歩も出たくないという者も確かにおりますが、同時に、興味深い症例があれば、例え海を越えてでも調査に行かねば気がすまないという類の研究者もおります。幸い、私の知り合いはそういう男でして」


 立花ならば、来るだろう。


 私は確信していた。


 彼は、探究心と好奇心が旺盛な大学教授たちの中でも、特にその傾向が強い男だ。


 ただし、問題があるとすれば、文明開化の世を迎え、かつてはできなかったことができるようになると同時に、彼は喜び勇んであちこちを飛び回っていることだ。


 亜米利加アメリカだろうが、英吉利イギリスだろうが、独逸ドイツだろうが、行くと決めたらすぐに行ってしまう男だから、呼び寄せるまでに最低でも半年はかかると覚悟しなければならない。


「今日のところは……」


 どちらにしろ時間がかかることだ。


 家長を急かす必要は無い。私は雰囲気を悪くしないように気遣いながら、ゆっくりと言った。


「今日のところは、お嫁さんの薬だけで引き上げさせていただきます。お嫁さんは、いつお産が始まってもおかしくないような状態です。しかし、生まれてくる赤ん坊のことを考えるなら、まだまだ一日でも長く母親の腹に留まっていた方が良い。この薬を朝と夕方に飲んでください」


 篠目を促せば、彼女はおずおずと前に進み出ていく。


 彼女は妊婦に直接、薬を手渡そうか、それとも父親か母親に渡すべきか迷っていたが、家長の斜め後ろに控えていた女がさっと手を出したので、反射的にその手に薬を手渡していた。


「安静にしていることが大事です。重いものを持ったり、歩き回ったりすることは絶対に避けてください。あと一月は、じっとしていなければなりません。子供のためだと思って、辛抱しましょう。もちろん、食事は大切ですから、いつも通りか、いつもより多目に取ってもらって構いません」


 妊婦は横になったまま頷き、その横で母親が深々と床に額をこすりつけた。


「また明日、来ます」


 家長が頷き、ややあって頭を下げてきたのを見て、私は市井と篠目を促して立ち上がる。


 筵を上げて外へ出れば、陽光には微かな夕暮れが混じっていた。秋の日はつるべ落としとはよく言ったものである。


 早々に帰らなければ、瓦斯灯もない山道を孤独に馬を走らせることになるだろう。


「先生、これはいったい……どのようにすれば……」


 外に繋いでおいた馬に荷物を乗せていると、市井がおずおずと聞いてきた。


 彼の手には、未だにペトリ皿に乗せられたこぶじゃくしがいる。こぶじゃくしはもう動いてはいなかった。


 私と市井の指紋で汚れたペトリ皿の上で、ぐったりと伸びている。


 どうやら、空気に触れると長くは生きられないらしい。


「こぶじゃくしを村の外へ持ち出さないことが、家長さんの願いだ。死体とはいえ、その約束は守らねばなるまい」


 幸い、周囲に人目はなかった。


 私は市井を促して、茂みの向こうにある沼に捨てさせることにした。


 大学の研究室ならばともかく、ここはそこら中にこぶじゃくしがウヨウヨしているような場所だ。一匹や二匹、放ったところで問題にはなるまい。


 市井は心配そうに周囲を見渡した後、私の指示通り茂みに向かった。


 慎重に足元の草を踏み分け、まるでそこに毒蛇が潜んでいるかのような用心さで沼へ向かっていく。


「先生、こぶじゃくしがいます。沼の中に!」


 たかだか十歩ほどの距離を進むのに、うんざりするような時間をかけた後、市井はやや興奮した様子で告げてきた。


 沼の中にこぶじゃくしがいる。それを聞くと好奇心が刺激された。私は市井が通った後を正確に辿って茂みを抜け、沼の縁に立った。


 粘土質の泥、生い茂った葦、透明な水。


 沼そのものは珍しくも何とも無い見た目をしている。しかし、水中を覗き込めば、そこには確かに市井の言う通り、こぶじゃくしが泳いでいた。


 ウヨウヨ、という表現はふさわしくない。こぶじゃくしたちは、魚のように群れをなし、実に統率された動きで水中を進んでいた。


 右へ向かってすーっと泳いでいたかと思うと、突然、何の前触れも無く方向転換して左へ向かう。


 一匹たりともその動きを乱すものは存在せず、私は思わずこぶじゃくしたちのその動きを凝視してしまっていた。


 見た目があれほどよく似ているにも関わらず、一目見ただけで私や市井が、そこにいるのがオタマジャクシではない、と判断したのも、その点が大きいだろう。


 オタマジャクシは群れなど作らず、それぞれが自由気ままに生きているものだ。


 群れの大きさはおそらく百から、百五十といったところだろうか。


 オタマジャクシが群れを作って泳いでいると思うとどうにも拭い去れない違和感があったが、彼らが人間の皮膚の下で大量に蠢いている光景を見た後なだけに、その光景にはそれほどまで衝撃が伴うことはなかった。


「捨てますよ」


 ついこぶじゃくしの群れに見入ってしまっていた私の耳に、市井の戸惑ったような声が聞こえてきた。


 はっとして、私は気まずさを誤魔化すように曖昧に笑い、頷く。


 市井は皿の中のこぶじゃくしを沼に落とした。ついでに汚れた皿の表面を沼の水で軽く流そうと思ったのだろう。皿を水の中に持って行った。


 しかし、それまで何事もなかったかのように泳いでいたこぶじゃくしたちが急変した。


 死んだこぶじゃくしが腹を見せながらプカリと浮かび、私たちが一呼吸ほどした後、群れが一斉にこちらへ向かってきたのだ。


 市井が悲鳴を上げて、水中から指を引き抜く。私は目を瞠ってその光景に見入った。市井の手を離れたペトリ皿が、粘土の中に沈んだ。


「食ってる……」


 真っ青になった市井の顔が視界の端に映った。彼の言う通りだった。他にどう言うこともできない。


 こぶじゃくしたちは、死んだこぶじゃくしに群がり、その体を一心に食いちぎっていたのだ。


 見る間に、市井が捨てたこぶじゃくしの死骸は、生きたこぶじゃくしたちの腹に収まっていく。


 百を超える群れのこぶじゃくしたち対して、死んだこぶじゃくしは、たった一匹。


 当然、すべてのこぶじゃくしたちに、充分な量が行き渡るはずなどない。すぐさま、沼の水面で、十数匹のこぶじゃくしの体が水面まで跳ね上げられるような、激しい争いへと変わった。


 争いが激しければ激しいほど、その舞台に立っているものたちの体は傷つく。


 そして彼らにとって、傷付いた仲間とはエサを意味するらしく、今度は傷を負った仲間に向かって一斉に向かっていった。


 仲間たちに食いつかれ、傷を負ったこぶじゃくしが暴れ回る。


 そしてそれは新たな争奪戦の始まりであり、その戦いで傷付いた仲間が再び襲われるということを繰り返していた。


 粘液に覆われた黒い体が、団子のようになって水面下で暴れ回る。水底の泥がかき回され、静かだった沼の透明な水は見る間に茶色い泥水へと変貌した。


 濁った水の中で、黒い小さな生き物が背中を見せ、顔を突き出し、腹を見せ……。


 彼らはいつ終わるとも知れない戦いに身を投じていた。その戦いに意味があるのか無いのか。


 私にとってもこぶじゃくしにとっても、どうでもいいようなことを考えながら、私はひたすら水面が静かになるのを待ち続けた。


「こいつらは、仲間の体を食って生きてるんでしょうか」


 ようやく水面が静まり返ったとき、群れの数は最初に見た時に比べて半分ほどになっていた。


 市井は頬を引きつらせながら聞いてきたが、私には当然、答えを用意することができない。


 ただじっと、私は泳ぎ去っていくこぶじゃくしの群れを眺めていた。


「そろそろ戻りましょう。日が暮れます」


 私と市井の背中に向かって、馬の手綱を握った篠目が、やや緊張した口調で言ってきた。


 途端に、市井の顔に焦燥が浮かぶ。彼はここまで歩いてきたときの慎重さをどこかへ放り投げてしまったようで、脱兎のごとく篠目の方へと走って行ってしまった。


 私も戻ろうと立ち上がる。ふと視線を沼に戻し、ようやく静まろうとしている水面に虹色を見つけた。


「油が浮いている……」

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