第 9 話 新たな指令か。
一ヶ月間の休みを終えた隆一と愛子が日本に戻って着たので有る。
「愛子、少しお願いが有るんだ。」
「な~に、お願いって。」
愛子は、すこぶる機嫌が良いのだ、日本では、味わう事が出来ない程たっ
ぷりと隆一に甘えたからで有る。
「あのね、改めて、僕の両親に会って欲しいんだ。」
「勿論よ、だって、私にとっても大切な両親なんだから。」
「そうじゃ、無いんだ、僕が、まだ幼い頃に無くなった、天国の両親なん
だ。」
愛子は、静かにうなずいた、確かに、今の両親は隆一の育ての親だ、だ
が、隆一の頭の中に、少しながら生みの両親の記憶が有るのだ。
「僕は、何時も、今の両親には大変感謝しているんだ、でも、やはり、愛
子と結婚した事だけは、天国の両親に報告したいんだ。」
「私も、本当は気になっていたのよ、それで、お墓は何処なの。」
愛子は、両親の墓参りをするつもりなのだ。
「うん、お墓じゃないんだ、僕を、今まで育ててくれた、今の両親の家に
祭られているんだ。」
「じゃ~、お墓は。」
「有る事には有るんだけどね、僕は、お墓よりも、毎日、仏壇に向かって
手を合わせていたんだ、今日も無事で帰れます様にと。」
普通はお墓に行くものばかりだと、愛子は思ったのだが、隆一は、それよ
りも、毎日、手を合わせている仏壇に向かって報告したいと。
「愛子、お墓には、毎日、行けないけど、仏壇なら、毎日、手を合わせる
事が出来るだろう、それにね、今の両親も、毎日、お供え物をしてくれてい
るんだ。」
「そうだったの、いいわよ。」
「じゃ~、直ぐに連絡するよ。」
と、隆一は、直ぐ母親に電話を入れたので有る。
「母さん、僕だ、隆一です、今、空港に着いたばかりなんだ。」
「あら、そうだったの、で、此れからは。」
「うん、実はね、今、愛子とも相談したんだけど、そっちに行く事にした
んだ。」
「えっ、別に無理しなくても、いいんだからね。」
「いや、違うんだ、仏壇の両親に愛子と結婚したって、報告に行きたいん
だ。」
「其れは、良かったよ、お兄さん達も天国で喜ぶよ、で、何時頃になる
の。」
「うん、今から、電車に乗るから、2時間くらいかなっ。」
「じゃ~、母さんも今から、今夜の材料を買いに行くけど、何か、特別に
食べたい物は。」
「うん、そうだなぁ~、ちょっと待ってね、愛子、今夜、何が食べたいか
って、母さんが。」
「えっ、突然言われても、う~ん、私、お母さんの手料理だったら、何だ
っていいわよ。」
「母さん、何でもいいって、愛子も言ってるから、母さんに任せるよ。」
「じゃ~、母さんが適当に買ってくるよ。」
「じゃ~、頼むよ、それと。」
「わかってるよ、冷えたビンビールだろう。」
「やはり、母さんだ、有難う、じゃ~ね。」
と、隆一は電話を切ったが、顔は嬉しそうで有る。
「隆一さん、何か嬉しそうね。」
「そうかなぁ~、本当はね、愛子との結婚したのが夢じゃないかと、何度
も、ほっぺをつねったんだ、でも、何時も痛かったから、本当なんだって思
って要るんだ。」
愛子も嬉しかったのだ、隆一が、何度も確かめたい気持ちは、愛子も同じ
だった。
「実はね、私もなのよ、だって、今までは、どこか、隠れた夫婦だったも
の、でもね、此れからは大手を振って言えるもの、私は、隆一さんの妻です
よって、誰も、邪魔はさせませんからねって。」
二人は電車に乗り、以前、一度、行った事の有る、隆一の自宅に向かっ
た。
「母さん、ただいま、今帰ったよ。」
「お帰り、疲れたでしょう、愛子さん。」
「えっ、母さん、僕は。」
「何、言ってのよ、あんたは男でしょ。」
と、母は大笑いをするので有る。
「さぁ~、さぁ、早く上がってよ、お父さんも帰っているのよ。」
「本当、其れは良かった、さぁ~、愛子。」
「はい。」
愛子も、疲れてはいるのだが、でも、何が、愛子の心を安心させているの
か、二人は、部屋に入ると、愛子は、すわり、改めて挨拶をするので有る。
両親も隆一も慌てて座ったのだ。
「お父様、お母様、愛子です、此れから、隆一さんの妻として、一生懸命
努力しますが、至らない事が多く有ると思います。
その時には、どの様な事でも言って下さい、よろしくお願い致します。」
愛子は、考えていた内容とは違ったのだが。
「愛子さん、此方こそ、隆一の事を宜しくお願いしますね、私達に出来る
事なら何でもしますからね、言って下さいね、愛子さん、隆一は、私達が我
が子として育ててきましたので、少しですがね、甘えっ子な部分が有ります
が、許して下さい。」
と、両親も頭を下げるので有る。
「お父さん、お母さん、私を、新しい家族と向かえて頂き、本当に有難う
御座います。」
「父さん、母さん、宜しく頼みます。」
「隆一、お前、仏壇の兄貴達に報告するんだろう。」
「うん、本当は其のために、じゃ~、愛子、行こうか。」
と、両親の仏壇が有る部屋に入り、二人は座り。
「天国のお父さん、お母さん、彼女が、僕の妻で、愛子って言うんだ、此
れから先も二人の事を天国で見守って下さい。」
と、隆一と、愛子は、仏壇向かって、手を合わせ、愛子は、暫く顔を上げ
なかったので有る。
「愛子、如何したんだ。」
「うん、隆一さんと、同じなの、私も、天国のご両親に報告したの、隆一
さんって言う素晴らしい男性と結婚しましたって。」
「うん、僕も同じなんだ、愛子のご両親にも報告したんだ、僕はね、愛子
さんを一生愛し続けますって。」
愛子の目から一筋の涙が流れたので有る。
「愛子さん、隆一、食事は終わったのかい。」
「いや、空港から直ぐに電車に乗ったんで。」
「そうだと思ったよ、今夜は、4人揃って、初めての食事だからね、お父
さんと相談してね、御寿司を注文したのよ、それとね、特別に冷えたビール
もね。」
「母さん、有難う。」
「吉村さ~ん、寿司屋で~す。」
「は~い、只今。」
と、母親は、嬉しそうな顔で、注文した寿司を受け取りに行くので有る。
「隆一、ビールを。」
「そうだったね、忘れてたよ。」
「隆一さん、私も手伝うわよ。」
「いや、愛子さん、今夜だけは、お客さんだから、何もしなくていいん
だ。」
「そうですよ、だって、ねぇ~、こんな嬉しい事が有るんだもの。」
と、母親は、寿司をテーブルに置いたので有る。
「そうだよ、愛子、今夜はね、我が家で最高の日なんだからね。」
「でも。」
「いいんだよ、愛子さん、私はね、本当に嬉しいんだからね、でも、明日
から別だよ。」
「はい、では、お言葉に甘えて。」
「うん、素直で宜しい。」
と、父親は、嬉しそうな顔で笑ったので有る。
「じゃ~、お父さん、乾杯しましょうかね。」
「母さん、その前に、愛子、済まないが、ビールを仏壇に頼むよ。」
「御免なさい、私、気がつかなくて。」
「いいんだよ。」
「はい、じゃ~。」
と、愛子は、仏壇の両親にビールを供え、手を合わせ、隆一も両親も改め
て、手を合わせたので有る。
「では、愛子さん、隆一、おめでとう、カンパ~イ。」
と、父親の音頭で4人はビールで乾杯したので有る。
「さぁ~、さぁ、愛子さん、食べて下さいよ、隆一もね。」
「はい、有難う、御座います。」
と、愛子は、寿司を小皿に取ったのだが。
「愛子さん、何も遠慮する事は無いからね、全部食べてもいいんだから
ね。」
「えっ、全部ですか。」
両親は、愛子を此れからは自分達の娘として一緒に生活をしたいのだが。
「隆一、この家に住む事は出来ないのか。」
「うん、僕も、本当は其れが一番なんだけど、仕事の都合上で一緒に生活
が出来ないんだ。」
「そうか、其れだったら、仕方ないなぁ~、だけど、何れ、父さんも、母
さんも兄貴達の所に行くんだ、その時には、この家に帰ってきて欲しいん
だ。」
愛子は、何も言えない、隆一の任務は、両親に知られると困るので有る。
表面上は、政府の特別捜査官と言う名目なのだが。
「うん、僕もわかってるよ、でも、僕と愛子の仕事は特別なんだ、でも
ね、何れは、この家に戻ってくるよ、だって、この家は特別なんだから。」
「お父さん、こんなおめでたい時に。」
「御免、御免、だけど。」
「何、言ってるんですか、愛子さんが困ってるじゃないですか、今は、其
れよりもね、楽しくね。」
「わかったよ。」
父親はそれ以上言わなかったので有る。
「隆一、でも、あのお城って、本当に大きかったね。」
「僕も、本当の大きさを知らないんだ。」
「だけど、あの狼の大群には、本当に驚いたよ、だって、私達は映画の世
界だけなんだからね。」
「僕も、初めてなんだ。」
「隆一、あの時、ジムさんって人から狼を撃ってくれって言われたけど、
あんな事、簡単に出来るのか。」
「う~ん、其れは簡単じゃ~無いよ。」
「愛子さん、隆一だから出来たんですか、それとも、他の人でも出来るん
ですか。」
「あれは、普通の人では、まず、無理ですよ、あの距離ですから。」
「へぇ~、そんなに凄いのか、映画の中じゃ~、上空のヘリコプターから
機関銃で撃つシーンを見るんだが。」
「お父さん、映画は現実じゃ~無いと、私は、思ってるんです。
それも、機関銃だから出来ると思いますが、隆一さんは、ライフル銃でし
かも、あの上空からですから、更に、難しいのは、ヘリコプターからの風な
んです。」
「へぇ~、プロペラの風ねぇ~。」
「はい、ヘリコプターは飛行機と違い、機体を上に持ち上げるので、相当
な威力の風が必要なんですよ、上空のヘリコプターから、数百メートル先の
狼を撃つと言うのは並みの腕では無理だと、私は、思ってるんです。」
「じゃ~、あの時、ジムさんが、隆一に言ったのは。」
「はい、私はと言うよりも、ジムが隆一さんだから出来ると判断したと思
います。」
両親は、隆一が話をしたライフル射撃の事が信じられなかったので有る。
隆一の生活から考えて、日本では経験の出来ない、ライフル射撃、其れを
一年間続けた事で、上空から狼を仕留める事が出来たのだろうと。
「母さん、隆一の言ってた話しが本当だったんだね。」
「ええ、私も、愛子さんの話でやっとわかりましたよ。」
「え~え、じゃ~、僕の話を信用して無かったの、そりゃ~ひどいよ。」
と、隆一は真面目な顔で言ってはいるのだが、顔は笑いを堪えている様で
有る。
「だって、ねぇ~愛子さん、普通そんな話、一体、誰が信用すると思いま
すか。」
と、母親も真面目な顔で言ったのだが。
「じゃ~、愛子が説明しなかったら、僕の話は。」
「隆一の作り話って、事になるかなぁ~。」
と、父親も、大笑いをし、其れに、釣られて三人も笑い出すので有る。
「さぁ~、さぁ~、愛子さん、食べてよ、飲んでよ。」
「はい、有難う、御座います。」
愛子は考えていた、隆一が過ごした、あの一年間の全てを何れの日にか話
をする時が来るだろう、だが、隆一も気づいていない、本当の任務の話だけ
は、自分が墓に持って行くのだと、この両親には、とてもでは無いが、本当
の話は出来ないのだと。
だが、救いは有る、隆一が話したライフル射撃の訓練を自分が説明するま
では信用していなかったと言う事で有る。
その夜は、話が大いに盛り上がり、4人は、朝方近くまで楽しくしゃべ
り、食べ、飲んだので有る。
「あら、お父さん、もうこんな時間に。」
「えっ、何時なんだ、本当だ、もう直ぐ日の出の時間だよ、愛子さん、申
し訳ないね、疲れているのに、私達の為に。」
「いいえ、私は、今までで最高に楽しかったですよ、もう日の出と言われ
るまで時間がわかりませんでしたから。」
「でも、本当に申し訳なかったよ。」
愛子は、首を横に振り。
「私は、本当に楽しかったんですか、はい。」
「じゃ~、僕達は、あっ、そうだ、母さん。」
「隆一、全部、用意は出来てるよ、愛子さん、隆一の部屋しか、今は、用
意出来なかったのよ、ごめんね。」
と、母親は言ったが、顔は嬉しさで溢れていたのだ、愛子と言う美しい女
性が隆一の、いや、吉村家の一員になった事が。
「有難う、御座います、私は。」
と、言ったが、涙のために、それ以上は言えなかったので有る。
「お父さん、今日のお仕事なんだけど。」
「昨日、社長に言ったんだ、すると、2~3日はね、新しい娘さんのため
に休んでいいと言ってくれたんだ。」
「そうだったの、いえ、ねぇ~、昨日、何も言わなかったんでねぇ~。」
両親も、優しい人だが、父親の勤める会社の社長は話のわかる人物だと。
「お父さん、有難う、あの社長さんって、本当に優しい人なんだねぇ
~。」
「うん、だから、父さんも此処まで勤める事が出来たんだ。」
「本当だね。」
と、隆一は感心するので有る。
「隆一も愛子さんも、少し眠れば。」
「愛子、如何する。」
隆一は、少し眠りたいのだが。
「私、久し振りに、早朝散歩したいんだけど、隆一さんは。」
「じゃ~、行くとするか、この付近は静かだから、気持ちがいいんだ。」
「私は、是非行きたいの。」
「じゃ~、行こう、父さん、母さん、二人で散歩してくるよ。」
「そうかい、じゃ~、母さんは、お前達の朝ごはんでも。」
「うん、頼むよ。」
と、隆一と愛子は、朝焼けの中、散歩に出掛けたので有る。
「母さん、これで、兄貴達もやっと、天国で安心してくれたと思うよ。」
「そうですね、私も、同じですよ、あの事件の事は、今でも、時々、思い
出しますけどね、何かわかりませんが、私達も、やっと安心出来ると言う事
なんですね。」
その後、父親は寝室に入ったが、母親は、眠気も無いのか、隆一達の朝食
の準備を始めるので有る。
その頃、隆一と愛子は、のんびりとした歩きで公園に向かって行く。
「愛子、本当に眠く無いのか。」
「うん、私も、何故かわからないの、でも、今、本当に幸せなんだもの、
其れに、隆一さんのご両親って、本当に優しい人なのね。」
「うん、僕も、其れはわかってるんだ、だって、僕が、幼い頃に両親を亡
くしたんだ、今の両親には、その頃、子供が居なかったんだ、それで、僕を
実の子供の様に優しく育ててくれたんだよ、その事だけは、今でも感謝して
るんだ。」
「隆一さんは、何時も、ご両親には感謝してるって言ってるもの。」
愛子は、隆一が羨ましくなってきたのだ、自分も同じだが、隆一と愛子の
状況は違っている、隆一の両親は事件に巻き込まれ、殺されたので有る、だ
が、今の両親は事件の話はしなかったと聞いて要る。
今の愛子は素直になっているのだ、隆一と知り合う前の愛子は、仕事、い
や、任務にだけに生きる女性だった、だが、今の愛子は、任務も大切だが、
隆一との生活が一番だと考えて要る。
「愛子、2~3日してから戻る事にしないか。」
「えっ、2~3日なの、私、もっと此処に居たいの。」
今の愛子に、直ぐに戻り、任務に就きたいと言う気持ちには無かった。
「でも、何時までも、此処に居ると言う事も出来ないと思うんだ、遅くな
れば戻る気持ちが薄れてくると思うから。」
「わかったわ、じゃ~、隆一さんが決めて、私は何時でもいいわよ。」
之が、愛子なのだ、切り替えが早いので有る。
早朝の散歩は、30分ほどだったが、愛子にとっては数年振りなのだ、二人
は、家に帰り、朝食を済ますと、隆一の部屋に入り、夕方近くまで眠った。
その頃、木田は有る人物と会っていたのだ、その人物とは。
「長官、まぁ~座って下さい。」
「はい、有難う御座います。
総理、其れで、ご用件とは。」
木田は、総理の私邸を訪問していた。
「実はですね、長官も既にご存知だろうと思って要るのですがね、日本の
反社会組織が手を組み、有る山間部で、何やらを製造しているんですよ。」
「はい、私の耳にも入っております。」
「では、その組織がこれで、巨額の富を得ていると情報も。」
「はい、報告は入って要るのですが、今回の件に関して、あの組織は、絶
対と言っても良いほど、外部に情報を漏らさないので、我々としても、今、
必死で情報収集中なのですが。」
「そうらしいですね、私に入っております情報も製造工場の位置もわから
ないそうなんです。」
総理と木田は、一体、何を話し合っているのだ。
大昔のように内部には必ずと言って良いほど、不満を持つ者が居た。
其れが、今回だけは、一体、何人の人間が関わっているのか、どの組織が
中心となっているのかもさえわからないので有る。
「長官、彼らの内部では相当厳しい圧力が掛かっていると思いますね。」
「はい、私もその様に感じております。
ただ、我々としても何時までも、彼らの自由にさせる事は出来ませんの
で、専属のチームで情報集めに努めてはいるのですが。」
「私も、問題は長期間掛かると思って要るんですよ。」
「組織の中には、科学的な知識を持つ者も居ると思われます。」
「その様ですね、長官、以前の様な資金調達方法ではなく、今回は直接関
与している様なのですが。」
「はい、私も、その様に思っております。」
これ等の、組織の資金源となるような物を製造しているとは、だが、いっ
たい、何を製造しているのだ、昔であれば、薬を大量に仕入れ、その薬物を
手広く販売していたので有る。
だが、これには、相当なリスクが伴っていたのだ、仕入れには多額の費用
がかかり、薬物も絶対に摘発されない様にしなければならないので有る。
だが、今回の件に関しては、何やら、様子が違うので有る。
「総理、この件に関してなんですが、彼に任せ様と考えて要るのです。
あの事件以来一ヶ月半は経過しておりますし、彼もそろそろ戻ってくるだ
ろうと思っております。」
「山の神の出馬と言いますか、出番と言いますかね。」
「はい、山の神には、今回は別の方法で連絡を取りますが、ただ、問題が
問題だけに、簡単には解決出来ないと考えております。」
「長官の考えておられるとおりだと、私も思っておりますので、今回は、
じっくりと進める事が大事では無いかと。」
「はい、私も、今回は出来限りの情報を収集し、山の神に渡す事を考えて
おりますが、山の神がどの様な作戦を考え、実行に何時ごろ入れるのかは、
全く見当がつきません。」
「う~ん、確かに、その様ですね、前の件でも、私の予想しなかった方法
で、一部ですが、解決したと思っております。」
「はい、私も、正か、あの様な方法を取るとは考えもしなかったものです
から。」
「でも、山の神とは、一体、何者だと、今でも世間でも、特にマスコミは
探している様ですね。」
「はい、私も、その事は知っております。」
「山の神の存在を知られる事は無いでしょうね。」
「其れは、まず無理ですね、山の神が使うパソコンも携帯も表面上は何処
にでも有る品物ですが、中味は特別製ですので。」
やはり、総理は、山の神が何者なのか、知られるとまずいと思って要る。
確かに、山の神と名乗った事で世間では一斉に注目される、謎の人物だ。
だが、木田が総力を挙げて情報収集を行って要る組織の実体、だが、それ
でも、何処で製造しているのか、今もわからないので有る。
其れを、山の神だけで果たして製造現場を探し出し、壊滅させる事が出来
るのか。
「長官、山の神だけで見つける事が出来るのだろうか、私は、不安を感じ
ているのですがね。」
「はい、私も同じですが、私は、一つの方法として、多勢の人数を出して
も見つける事が出来なかったのが、思わぬところで解決の糸口を見つけられ
るのではと、少しですがね、期待をして要るのですが。」
だが、一番不安を抱いているのでは木田自身なのだ、延べ人数で数千人を
動員しても発見出来なかった製造現場を山の神が発見出来るのだろうか、之
は、本当に長期戦となるであろうと思っている。
「長官、わかりましたよ、では、山の神に任せるとして、出来るだけ多く
の情報を提供して下さい。
それと、山の神には、今回の案件は時間を掛けて下さいと。」
「はい、私も、その方向で伝えますので、では、総理、私は、一度戻り、
彼に連絡を入れますので。」
「そうですか、では、宜しくお願いしますね。」
と、短い話し合いだったが、総理は木田に事件解明の為には、山の神が出
動するしか無いと、自分の思いを伝えたので有る。
一方、隆一と愛子は数日間はのんびりと過ごしたので有る。
「愛子、僕もそろそろ帰る様に。」
「そうね、じゃ~、隆一さん、今夜でもご両親に話をして下さいね。」
「うん、じゃ~、今夜、話はするけど、でも、明日、急に帰るのは無理だ
と思うんだ、僕は、明後日の朝でも考えてるんだが。」
「私は、何時でもいいわよ、隆一さんに任せるから。
その時、隆一の携帯が鳴ったのだ。
「おや、長官からだよ、多分、早く帰って来いと言われそうだなぁ~。」
と、隆一は思いつつ。
「はい、吉村です。」
「隆一君、今、何処に。」
「はい、今は、僕の実家に居りますが。」
「そうですか、其れで、何時頃帰られる予定ですか。」
やはり、隆一の思ったとおりだった。
「はい、一応、明後日には帰る予定にはして要るんですが、遅いでしょう
か。」
「いいえ、其れで、宜しいですよ、では、明後日、マンションに着かれた
時で宜しいので、連絡が欲しいのですが。」
「はい、わかりました、では、明後日、連絡を入れますので。」
と、話は終わったのだが。
「愛子、何時もの長官じゃ~無い様な気がするんだ。」
「何かあったのかしら、でも、マンションに着いてから連絡を入れて欲し
いと言ったんでしょう。」
「うん、そうなんだが、でも、何か違った様に思えるんだ。」
隆一と愛子のマンションに帰る日の朝だった。
「隆一、忘れ物は無いんだろうね。」
と、言ったとたん、側の愛子を見て。
「あら~、まぁ~、ごめんなさいね、愛子さん、何時もの癖が出た見たい
ねっ。」
と、母は笑ったので有る。
愛子は、その時思った、母親から見れば、子供は何歳になっても子供なん
だと。
そして、愛子も何時かは同じ様な言葉を言ってしまうのだろうかと。
「いいえ、お母さん、私は、別に気にしていませんから、母親にとって
は。」
と、それ以上言わなかったので有る。
「母さん、僕はね、此れから、愛子がいるんだよ、何も心配する事は無い
よ。」
と、隆一も笑うので有る。
「そうだったわね、愛子さん、親、特に母親はね、子供は何歳になって
も、幼い頃の子供時代を思いだしてね。」
と、母もそれ以上言わず。
「だけど、これだけは、何歳になっても言わせて貰いますからね、身体だ
けは大切にするんだよ、其れにねっ。」
と、母親は、愛子の顔を見たのだ、愛子も、母親が何を言いたいのか直ぐ
に気づいたのだが。
「はい。」
と、答えたので有る。
「じゃ~、母さん、また連絡するよ。」
「ええ、わかっていますよ、じゃ~、元気でね、愛子さん、隆一の事を宜
しくお願いしますね。」
と、母親は、愛子に頭を下げたので有る。
「お母さん、有難う、御座います、じゃ~、また近い内に。」
と、二人は、迎えのタクシーに乗り、駅に向かったので有る。
何度か乗り継ぎをして、要約、夕方になってマンションに戻って着たので
有る。
隆一は、愛子が疲れているようだったので。
「愛子、夕食だけど、外に行こうか。」
「うん、私も、出来れば外食が。」
愛子は、隆一の何気ない優しさが嬉しかったので有る。
「愛子、有難う、疲れただろう。」
「う~ん、私は別に、それ程疲れてないのよ、其れよりも、隆一さんの方
が疲れたんじゃ無いの。」
と、言っては見たものの。
「じゃ~、行くか、何が食べたい。」
「私は、何でもいいのよ、其れよりも、隆一さん、木田さんに電話するの
を。」
「いや、直ぐにする必要は無いよ、だって、今、着いたばかりだし、食事
も取らないとね。」
「そうよね、じゃ~、戻ってからに。」
「うん、それでもいいと思うんだ、先に行こうか。」
「うん。」
と、二人は、マンションを出て、直ぐ近くに有るレストランに入り、その
店で食事とコーヒーを飲み、一時間半ほどで戻って着たので有る。
「長官、隆一です、只今、戻って着ました。」
「そうですか、ご両親はお元気でしたか。」
「はい、両親も大変喜んでおりました。
正か、外国のそれも、あんな大きなお城で結婚式を挙げるとは考えもしな
かったので、日本に帰ってからも、まだ、あの時の興奮が続いていると。」
「そうでしたか、其れは良かったですね。」
木田は、別に急いで用件を伝える事はしなかったので有る。
「でも、僕よりも、愛子の方がもっと驚いたと言ってましたよ。」
「其れは、言えますね、あの結婚式に関しては、総理が進めておられまし
たからね、愛子さんを、実の子供の様に考えておられましたから。」
「えっ、それ程までに愛子の事を。」
「ええ、愛子さんの父親と総理はね幼馴染みでね、まだ、総理が議員の頃
には、何時も愛子さんが自宅に来て、洋子さんの遊び友達でしたからね、洋
子さんも、愛子さんの事をお姉さんと呼んでいたと聞いていましたので。」
「あ~、其れで、あの時、洋子さんが、やっと、わかりましたよ。」
「総理が議員時代の時に、愛子さんのご両親が亡くなり、その時から愛子
さんを実の子供として考えておわれましたので。」
「では、あの結婚式は総理が考えられたんですか。」
「その通りですよ、洋子さんを代理にして行っていただいたんですがね、
洋子さんが帰国して、総理に報告されたんですが、その話を聞いて、総理も
行きたかったと、其れは、私も聞いておりますよ。」
「でも、総理は立場上。」
「ええ、そのとおりですよ、総理ともなれば、普通の人のようにプライバ
シーも有りませんからね。」
「そうだったんですか、僕は、何も知らなかったので、大変、失礼しまし
た。」
「いや、其れでいいんですよ、でもね、洋子さんの報告によりますと、何
でも、結婚式に出席された全員が、あの地方の民族衣装を着られた聞きまし
たが。」
木田は、どんな様子だったのかを聞きたいので有る。
「はい、僕と愛子も民族衣装を着たんですが、それが、あの地方の結婚式
の衣装とは知らなかったんです。」
「でも、あのお城の人達全員が参加され、大変な盛り上がりだったでしょ
うね。」
「はい、僕の両親も、何が始まるのか知らされていませんでしたので、大
変な驚き様だったと思います。」
「でも、それだけの人数が出席されるとは。」
「はい、そのとおりなんですよ、でも、式は僕の両親と洋子さんだけでし
たので、実に質素でしたが、その後が大変だったんです。」
「へぇ~、式よりもですか。」
「はい、式が終わり、両親と洋子さんも、みんな、お城の玄関を出て、其
れからが驚きの連続でした。」
「そんなに驚きが続いたのですか。」
木田も、本来の目的で有る、任務の事を忘れていたので有る。
「ええ、牧場からは、カウボーイが牛を追い込むんですが、僕よりも、両
親は驚きを通り越していましたよ、それでね、僕に聞くんですよ、隆一、映
画の撮影でもやってるのかってね。」
「其れは、当然でしょうね、私も、洋子さんが取られたビデオを見せて頂
きましたが、本物のカウボーイが、牛を数百頭も連れて来るんですからねぇ
~。」
「ええ、そうなんですよ、それでね、父が聞くんですよ、カウボーイの持
ってる拳銃やライフル銃は本物かってね。」
誰でも、思う事は一緒なのだ、この牧場では、狼が日常的に現れるのでカ
ウボーイの全員が拳銃とライフル銃は常に携帯しているので有る。
「当然、隆一君は知っておられますからね。」
「はい、僕も知っていましたが、両親は、知りませんせんので説明はした
んですがね、簡単には納得しませんでしたよ。」
「其れは、当然でしょうね。」
勿論、木田は知って要るのでだ、この組織に入った頃、木田も射撃の訓練
を行い、其れは、今でも、木田の頭には鮮明に残っている。
「でね、その食事なんですが、日本じゃ~、考えられないほどに大量の肉
が出て来るんですが、日本の様に小さくは無いのが、またも驚きだった様で
すよ、勿論、あの特別製のソーセージもですが。」
「隆一君、私も、その特別製のソーセージを食べて見たくなりました
よ。」
木田も、何度か食べていたのだが、其れよりも。
「私はね、総理が大変悔しがっておられましてね、大変、その結婚式に出
たかったと言われておられましたよ。」
「えっ、総理がですか。」
「ええ、洋子さんの話を聞くうちに残念だったと、それに、洋子さんは
ね、お二人の結婚式を見られて、自分の結婚式も、このお城でしたいと言わ
れたそうですよ。」
木田は、すっかり任務を忘れ、隆一も愛子も同じだった。
「長官、僕が、若しも女性であればですが、洋子さんの気持ちも理解は出
来ると思いますが、確かに、日本では考えられない厳かな式だったと、今に
なって思いますね、日本の結婚式では、何か形式にはまった様な気がします
から。」
「ところで、隆一君、射撃大会があったそうですね。」
「はい、突然だったんですが、加藤さんと、ジムが来られて、今から射撃
大会をするって言うんですよ。」
「でも、ご両親は驚かれたでしょうね。」
「はい、一応、お城の生活を話したんですが、射撃に関しては、全く信用
していませんでしたので。」
「多分だと思いますが、日本に帰り、ご両親に説明しても信用されてない
と、その二人が考えられたのでしょうね。」
「はい、僕も、その様にお思いますが、何せ、突然でしたし、其れに、ジ
ムは、僕が訓練に使用していたライフル銃を持ってきたんで、両親、特に母
は驚いた様子でしたね。」
「其れで、結果は。」
「はい、一応、僕が優勝したんですがね、みんなは、僕の両親のために負
けてくれたと思います。」
木田は、シュミットからも連絡を受けていたので、全てを知っていた。
だが、隆一には、何も知らないと言う事になっているので有る。
「いや~、そうでは無いかと思いますよ、私も、以前、愛子さんからお話
を聞いておりましたので、隆一君の優勝は当然だったと思いますよ。」
その後も、話の内容は結婚式とパーチィだけだったのだが、隆一は途中
で、新たな任務が有るはずだと気付いたので有る。
「長官、話は変わりますが、僕に、次の仕事の内容を言われる予定じゃ~
無かったのですか。」
木田もやっと気付いたので有る。
「申し訳なかったですね、私は、総理から隆一君と愛子さんの結婚式の話
を少しだけ聞きましたのでね、私は、直接聞きたいと思っていましたので、
私も、すっかり忘れておりましたよ。」
隆一も、少し安心したのだ、木田との話が結婚式だけで終わっていれば、
次の任務が何であったのか知らずに終わるところだったからだ。
「其れで、長官、次の任務ってのは。」
「う~ん、之はね、大変、難しい問題でしてね、以前の様に簡単な話では
無いのです。」
「えっ、そんなに難しい問題なんですか。」
隆一は、早く話を聞きたいので有る。
「後程、詳細はメールで送りますがね、これには、二つの問題が有りまし
てね、一つは、表面上の問題なんですがね、実は、その裏側が本来の問題と
思われるのです。」
木田も、簡単に説明が出来ないのだ、表面上の問題は、裏側を隠す為なの
だが、簡単に表面上の問題と言っているのだ、その表面上の問題でも、木田
達の調査が簡単では無かったので有ると言うのだ。
「隆一君、今回の任務は、根の部分、其れが、一体、何かわからないんで
すよ。」
「えっ、長官が調べられてわからないんですか。」
「うん、そのとおりなんですよ、今まで、何度も付近の調査に向かったん
ですがね、調査人が付近に近づくと全てが停まった様になるんですよ。」
「長官、全てが停まるって、どう言う意味なんですか。」
「実はね、我々のチームが向かうんですがね、その街に入ると、之は、
我々の動きを何処かで監視して要ると思うんですよ、それでね、チームが街
に入ると直ぐに連絡が入り、調査対象の現場に行く事ができないんです。」
「調査対象の現場って、いったい、何が有るんですか。」
その現場は、山の奥に行かなければならない。
その一帯は、個人の所有地となっているため、政府機関が立ち入る事が出
来ないので有る。
「現場の航空写真が有りますが、現地には、昔、大きな工場が有ったんで
すが、今は、操業を停止していますので、その工場で、何かを作っているの
は間違いは無いんですがねぇ~。」
「何を作っているのかわからないのですか。」
「まぁ~、其れがね、隆一君、蜜柑は好きですか。」
「えっ。」
と、隆一は、思わず驚いたのだ、突然、蜜柑は好物ですかって、何と言う
意味なんだろうか。
「長官、蜜柑って、あの冬になると良く食べる蜜柑ですか。」
「はい、そうですよ、私はね、大好物なんですがね。」
「それでしたら、僕も、よく食べますが、その蜜柑がどうかしたんです
か。」
「ええ、その蜜柑なんですがね、特に缶詰工場では、年間数万トンも使用
して要るんですがね、問題は、その蜜柑の皮なんですよ。」
「えっ、蜜柑の皮を如何したんですか。」
「其れが、何ですがね、大量に出る物なのでね、工場でも処分に苦労して
いるんです。」
「でも、蜜柑の皮を一体何に使うんですか。」
「隆一君、蜜柑の皮から出る液体で、発泡スチロールが溶けると言う話を
知っていますか。」
隆一も、テレビで見た事があったのだ。
「はい、僕も、テレビで見た事が有りますが、それが、如何したんです
か。」
木田も説明に苦労しているのだ。
「発泡スチロールの原材料は。」
「勿論、石油だと聞いていますが、詳しい事は知りませんので。」
「そうですか、発泡スチロールは大量に使われるんですがね、発泡スチロ
ールって物質はね、土の中でも溶ける事は有りませんがね、蜜柑の皮から出
る液体を掛ければ直ぐに溶けるんですよ。」
「じゃ~、何ですか、その山に有る工場で発泡スチロールを溶かして元の
石油に戻しているんですか、でも、そのままでは、使い物になるんです
か。」
隆一は、考えるのだが、そんななにまでして石油を作る必要が有るのだ、
考えを変えれば、町のスーパーからは不要となった発泡スチロールが大量に
出る、だが、大量と言っても、スーパーで使用して要るだけなら限られてい
るのだ。
運ぶ為のコストを考えれば、石油を作ったところで、では、一体、何に使
う積もりなんだ。
「でも、長官、幾ら、大量に発泡スチロールを使っても、石油は思った以
上に作れないと思いますが。」
「隆一君の言う通りなんですよ、それとは別にですがね、この工場の裏手
には直ぐ山が迫っているんですがね、手間を掛けた石油を、この山の何処か
で別の物を作っていると言う情報が有るんですがね、問題の山の近くに行く
事が出来ないのですよ。」
隆一は、何から手を付けて良いのか考えるので有る。
「長官、タンクローリーに蜜柑と発泡スチロールを利用した粗悪な石油製
品ですが、タンクローリーは、その工場には行くんですか、それとも、他の
場所に行っている可能性は無いんですか。」
隆一は、別にも何か動きが無いのか知りたいので有る。
「数日に一度ですがね、軽のライトバンが、この私設から出て行くのが確
認されているのですがね、市内に入ると見分けがつかないのですよ。」
木田は、多勢の調査官を送る事も出来ず、歯がゆい思いをさせられている
ので有る。
「では、長官、軽のライトバンの行き先がわからないと。」
「そのとおりですね、我々も、多くの人員を送り調査したいと思って要る
のですがね、一定の人員ですね、5人が限界なんですよ、それ以上の人員が
その地方に入ると、施設からも軽のライトバンも出無く成り、資材を積んだ
と思われるトラックもその現場付近には行かないので調査が出来ない状態に
なっていましてね。」
調査が出来ないと、何も進まなくなるので有る。
「長官、では、軽のライトバンに何を積んで、何処に行ったのかもわから
ないのでは、僕は、一体、何をすれば。」
「隆一君、実はね、この話には、別の意味が有りましてね、有る仏教の国
に大量と言っても、まだ、数十体なんですがね、仏像が輸入されたんです
よ。」
「でも、仏像は仏教のお寺には大切な物では無いのですか。」
「その通りですよ、ですがね、日本から仏像を入れた国で、今までに無い
テロ事件が起こりましたね。」
「えっ、テロ事件ですか、でも、仏教とテロ事件と、どんな関係が有るん
ですか。」
隆一は、正か、仏像の中に爆弾を入れて爆発させるとは考えていない。
「う~ん、其れがね、はっきりとわからないのですがね、今までのテロ事
件とは別の爆発だと報告が入っていましてね。」
「えっ、でも、爆発させるには多くの材料がいると思いますが。」
「そうなんですよ、その国のテロ組織が使った見られる物の中に発火性の
強い薬品と言いますか、その物質が辺り一帯を焼き尽くすんです。」
「えっ、じゃ~、今までの爆発と別の爆発なんですか。」
「そう言う事ですね、その国では、ガソリンが高価と言うよりも、ガソリ
ンだけを使った爆発物は無かったんですがね、この数ヶ月間で発火性の強い
品物が入って要る爆弾で多くの関係無い一般市民が犠牲に成っているんです
よ。」
「それじゃ~、長官は、その発火性の強い物質が日本で作られ仏像の体内
に納められ輸出されていると言われるんですか。」
隆一は、正か、日本で爆発物の原料が作られて要るとは考えもしなかった
のだ。
「ええ、私は、その様に考えて要るんですがね、でも、誰が、蜜柑の絞り
汁と発泡スチロールから爆弾を作っていると思いますか、その液体だけでは
普通の石油ですす、でも、中に何を加えているのかわかりませんがね、今
は、仏像にどうやって液体を入れたのかもわからないのですよ。」
「じゃ~、その仏像を作っている工場は。」
「この鋳物工場は何も関係は無いと思っています。」
隆一は、一体、何処から調査を開始すれば良いのかわからなかった。
「でも、仏像の体内に入れるとすれば、その鋳物工場が可能性から考えて
も一番だと思いますが。」
「隆一君、鋳物工場で作られた仏像がそのままで輸出される事は有りませ
んよ、仏像を取り出してから、別の工場に持って行くんです、
大きな物になると、一体が数個に分かれていますので、次の工場で一体の
仏像に仕上げるんです。
其れが、終わってから最後の仕上げの工程に入るんですがね、物によれ
ば、数十日も掛けるんですよ。」
「えっ、そんなに時間が掛かるんですか、僕は、簡単に考えていました。
鋳物工場から直ぐに輸出されると思っていましたので。」
「私も、本当は知らなかったんですがね、物が物だけに、我々の考えて要
る以上に大変な作業工程が有ると思いますね。」
「長官、聞きたいんですが、鋳物の仏像って、中は空洞なんですか。」
「ええ、空洞ですよ、だから、どんな方法で爆発物の原料を入れたのかも
わかりません。
其れを、隆一君に調査と場合によっては、最初の工場を破壊して頂きたい
のです。」
だが、今回の調査は簡単には行かないと思ったので有る。
液体を作っている最初の工場から出荷された液体が何処に行ったのか、そ
して、どんな方法で仏像の体内に入れたのか、其れを調査しなければならな
いのだ。
だが、此処で大きな問題が有る、最初の工場に潜入する方法も考えられる
が、其れよりも、その工場では、他に薬品が持ち込まれているのか、その薬
品がどの様な薬品なのか、木田の説明を聞いていてもわからないので有る。
側では、愛子が木田から送られてきた内容取り出しテーブルに整理して置
いているが、愛子も、今回は何から手を付けていいのか思案している様子
だ。
「ねぇ~、隆一さん、今回の資料は大変な枚数になっているわよ。」
「うん、でも、仕方が無いよ、だって、全部の中味を見てから別の資料も
必要なると思うんだ。」
誰が、一体、何のために遠い日本で、しかも、仏像の体内に爆弾の材料を
入れて送るとは、隆一は、この材料を作っている人物と、体内に入れて入れ
ている人物には天罰が必要だと考えたので有る。
「愛子、工場の航空写真は。」
「有るわよ、待ってね、あ~、これだ。」
と、愛子は、航空写真を隆一に見せる、隆一は、写真を見て考えて要る。
「う~ん、この工場の周りは山ばかりだ。」
と、独り言を言っている。
「う~ん、其れに、工場の周りは高い柵で囲まれているなぁ~。」
愛子は、何も言わず隆一を見ているが、数十分が過ぎて。
「なぁ~、愛子、天体望遠鏡を。」
「えっ、隆一さん、天体望遠鏡って、何に使うの。」
だが、其れは、隆一の独り言だった。
「ねぇ~、隆一さん。」
だが、隆一からの返事は無い。
「ねぇ~、隆一さんって。」
「えっ、何か言ったか。」
「あのね、今、隆一さんが天体望遠鏡って言ったでしょう。」
「えっ、僕が天体望遠鏡って言ったの。」
隆一は、只、呟いただけの様だったが、隆一の呟きが、愛子は、ヒントに
なったのだろう。
「ねぇ~、隆一さん、その天体望遠鏡って、私も考えたんだけど、この工
場付近に行く事が出来ないんでしょう、だったら、天体望遠鏡で遠くから見
る事も出来ると思うんだけど。」
「あっ、そうか、何も、無理して近くに行く必要は無いんだ。」
「うん、私は、そう思うんだけど。」
「でも、どの山から見るかだ、余り、近くに行くと怪しまれるからね。」
「じゃ~、もっと遠くの山からは。」
隆一の独り言が解決に向けて最初の一歩となるのか。
「でも、天体望遠鏡って、月や星を見るときに使う望遠鏡でしょう、余り
近すぎると。」
「そうか、じゃ~、駄目だね。」
と、隆一は、少し考えるのだが。
「隆一さん、だけど、別に天体望遠鏡でなくてもいいと思うんだけど、双
眼鏡じゃ駄目なの。」
「う~ん、双眼鏡か、僕も、牧場で双眼鏡を使って狼を見てたんだけど
ね、双眼鏡でね、どれ位見えるんだろうか。」
隆一は、双眼鏡では、余り遠くの山から見る事は出来ないだろうと思った
ので有る。
「じゃ~、その前に、一度、見に行きましょうか。」
「だけど、一体、何処に行けば有るんだろう。」
隆一は、天体望遠鏡や双眼鏡を売ってる店がマンションの近くに有るとは
思って無かったのだが。
「隆一さん、有るわよ、地下鉄を降りた反対側の通りに。」
愛子は、自分達が住んで居る付近一帯に有る色々な出店を調べて置いたの
だ、何れ、役に立つだろうと。
「えっ、そんなところに望遠鏡の販売店があったのか。」
隆一が、マンションを出ても、近くの食事処とスーパーに行くくらいで、
付近の事は殆ど知らないのだ。
「明日にでも行って見ようよ。」
と、愛子は、何故か、隆一が言った望遠鏡を早く見たいので有る。
「私ねっ、一度でいいから、お月様を望遠鏡で見たいと思ってたのよ、そ
れとねっ、火星や土星もねっ。」
愛子の目は、何故か輝いて見えるのだ。
「如何したんだ、愛子がそんなに宇宙の事に関心があったとは聞いて無か
ったけど。」
愛子も、今まで、宇宙に関心が有る訳も無かったのだが、其れが、何故
か、隆一の言った、天体望遠鏡がよほど気に成るのだろう。
「私もわからないのよ、ほんのさっきまではね、全く興味が無かったの、
だけど、隆一さんが天体望遠鏡って言ったでしょう、それでね、私も、急な
のよ、一度でいいから、お月様や、火星って、どんな惑星なのか見たいと思
ったの。」
「ふ~ん、僕も別に宇宙に関心が有る訳じゃないんだけど、愛子、そう
だ、仕事も大事だけど、天体望遠鏡で宇宙の星を見るのもいいと思うん
だ。」
「だって、隆一さんは、色々な事を考えて要ると思うのよ、でも、時々で
いいから、大きな望遠鏡で、宇宙の星を見るのもいいと思うわ、ねぇ~、明
日、見に行きましょうよ、ねっ。」
愛子は、望遠鏡で宇宙の星星を見るだけでも、隆一の疲れが少しでも取れ
るのでは無いかと考えていたのだ。
「そうだね、僕も、この仕事って、大変ストレスの溜まる仕事だと思うん
だ、今回の様な仕事が入ると、僕以上に愛子が疲れると思うんだ。」
隆一も、愛子の事を考えていたのだ、確かに、お城ではのんびりと過ごし
たが、愛子のストレスは、隆一の想像以上だった。
「愛子、仕事も大事だと思うけど、此れからは、もっと、二人の時間を作
ろうよ。」
「えっ、でも、隆一さんの仕事は。」
「いいんだよ、別に急ぐ必要も無いと思うんだ、だって、前の仕事もだけ
ど、今回の仕事だって、直ぐに解決出来る様な仕事じゃ無いと思うんだ、そ
れにね、急いで考えた作戦なんて、僕は、全てが成功するとは思って無いん
だ、時には、数ヶ月、いや、一年も掛かる事だって有ると思うんだ。」
隆一は、今回の任務は簡単には解決出来る様な内容では無いと思った。
「でも、私はいいのよ、何時も隆一さんの側に居れるんだもの、それだけ
で十分なの。」
と、愛子は言ったのだが、果たして、其れは、愛子の本心だけを言ったの
だろうか、今までの、言動では、何時も、隆一の側に居るので、それだけで
十分だと、だが、本心は別のところに有るのでは無いかと、隆一は思うだ。
「うん、僕もだよ、こうやって、何時も愛子と一緒だからね、でも、本当
にそれだけでいいとは思わないんだ、一日中、二人だけの生活だから、お互
い、何処かで不満が出て来ると思うんだ、僕はね、二人だけの仕事だから、
何も不満は無いよ、でもね、愛子は女性なんだ、僕が辛抱できても、同じ様
に愛子にも辛抱してして欲しくは無いんだ。」
「私の事を其処まで考えてくれているのは隆一さんだけなの、私は、隆一
さんが、仕事に対して真剣に取り組むのもわかっているの、私はね、隆一さ
んの手助けに成るんだったら、どんな辛い事でも辛抱出来ると、心に決めた
のよ、だって、私の望が叶えられ、これ以上のいったい、何を望む必要が有
るのよ。」
「有難う、愛子、でもね、僕も、愛子が本当に心配なんだ、僕は、男だか
ら、何でも辛抱するよ、でもね、愛子には、少しくらいゆっくりとして欲し
いんだ。」
隆一は、何故に、其処まで、愛子を大切にしたいと思うのだろうか。
「隆一さん、私は、別に女性だからって、思って無いのよ。」
「うん、愛子の気持ちはわかってるんだ、僕の心の中に愛子が、死んだ母
によく似ている様な気がするんだ、僕にとっては、愛子は、この世で一番大
切な女性なんだ。」
愛子の目に涙が浮かんできたので有る。
隆一の母親によく似ているのが愛子で有る、この部屋に置いて有る家族で
撮った写真を見ても、隆一の母親はと言うより、愛子は母親によく似ている
のだ。
気を取り直した愛子は。
「じゃ~、私は、隆一さんの妻と、お母さんの二役なのね。」
と、少し、笑みを浮かべたので有る。
「う~ん、愛子に悪いんだが、本当は、そうかも知れないね、僕も、本当
はわかってないんだ。」
と、隆一も、笑みを浮かべたので有る。
「いいわよ、じゃ~、此れからは、時には母親になるわね。」
隆一も、何故だか嬉しかったのだ、だが、其れよりも嬉しかったのは愛子
だった、隆一に甘えて欲しかったので有る。
そして、明くる日の午後、ネットで調べたデパートに有る専門店に向かっ
たので有る。
隆一も愛子も数年振りのデパートでも買い物なのだ。
「なぁ~愛子、君に新しい服を着て欲しいと思ってるんだ。」
「えっ、私に新しい服を。」
愛子は、少し驚きと嬉しさで満面の笑顔になった。
「うん、そうだよ、だって、今の服は。」
愛子は予想しなかった。
「じゃ~、隆一さんのもねっ。」
「じゃ~、望遠鏡は後にして、先に行くか。」
愛子は、素直に嬉しかった、隆一と、今の任務に就いてからは、新しい服
の事など考える事も出来なかったからだ。
「隆一さん、私、本当に嬉しいわ、この何年間、服の事なんか考える余裕
も無かったんだから。」
「さぁ~、どんな服がいいかなぁ~。」
と、隆一は、愛子の言葉も耳に入ってない様子で有る。
其れに、隆一の方が、何か楽しそうで、洋服売り場で早くも愛子のために
と、探し始めている。
愛子は、新しい服を探すよりも、隆一が楽しそうな顔で服を探している姿
を見る方が良かったのだ。
「なぁ~、愛子、之はどうかなぁ~。」
隆一のファション感覚は素晴らしいものが有る。
「これを、私に、でも、少し。」
「何、言ってるんだよ、愛子を引き立てる為の服なんだから、これくらい
は普通だよ。」
「じゃ~、隆一さんに任せるわ。」
愛子は、服の事など、今は、どうでもいいのだ、隆一は、2着、3着と愛
子の為にと買ったので有る。
「じゃ~、隆一さんのもねっ。」
「いや、今はいいんだ、だって、愛子のためにじゃなく、僕の為になんだ
よ。」
隆一は、何時も思ってたのだ、此の頃、愛子は新しい服を着ていない、愛
子には、何時までも、美しく居て欲しいと、之は、隆一が、愛子に対する要
望なのだ。
「でも。」
「いや、これで、いいんだ。」
其れは、隆一の死んだ母親を思う浮かべていたので有る。
幼い頃の記憶だけだが、隆一の母親は、何時も美しくしていた様に思った
からで有る。
「じゃ~、今から、望遠鏡売り場に行こうか。」
「うん。」
愛子も、それ以上には言えなかったのだ、売り場に着くと、其処には、各
種の双眼鏡をはじめ、色々な望遠鏡が所狭しと展示されている。
「どの様な物をお探しでしょうか。」
「天体望遠鏡ですが。」
隆一が店員と話をして要る間に、愛子は、店内を見回っている、大小、
様々な双眼鏡と大きな望遠鏡が目についたので有る。
「隆一さ~ん、之は。」
と、隆一も見たのだ。
「愛子、之は、天体望遠鏡じゃないよ。」
側では、店員が何も聞かず、二人の会話を聞いて要る。
「わかってるわよ。」
と、愛子は、隆一を少し離れた所に連れて行き。
「隆一さん、天体望遠鏡よりも、あの大型の望遠鏡と双眼鏡が、此れから
の仕事に役にたつと思うのよ。」
「う~ん。」
と、隆一も考えて要る。
「だけど、天体望遠鏡が欲しいと。」
「其れはね、昨日、思っただけなのよ、でも、あの工場を見るには、大き
な望遠鏡と双眼鏡が必要だと思うんだけど。」
愛子も、一度は、宇宙に輝く星星を見たいと思ってはいたのだが。
「あの、大きな双眼鏡ですが。」
「はい、この双眼鏡ですか、之は、一般では余り使われる事は有りません
ねぇ~、海上で、特に船舶で使用される物ですね。」
「船舶で、と、言われても。」
「はい、大きな貨物船では、この双眼鏡が必要だと聞いておりますが。」
「大きな船には、レーダーが備えて有るのでしょう。」
この店員は、元船乗りだったので、大きな双眼鏡が、何故、必要なのか知
っていたので有る。
「はい、確かに、レーダーは必需品ですが、レーダーでは測る事の出来な
い事がありまして、実は、私も、元は貨物船に乗っておりましたが、前方の
船を確認する為には、この様な大きな双眼鏡を使い目視する事が非常に大切
なのです。」
「そうでしたか、じゃ~、この双眼鏡では、どのくらいまで見る事が出来
るのでしょうか。」
「そうですね、これであれば、水平線の大きな船舶であれば、殆どわかり
ますねぇ~。」
側では、愛子が頷いている。
「あの~、店員さん、この双眼鏡って、2~3キロ先の船だと、どの当た
りまで確認出来るの。」
「はい、これであれば、乗組員の顔まで見る事が出来ますねぇ~。」
「へぇ~、そんな所まで。」
隆一は、愛子が聞いた意味が解ったのだ。
「愛子、この双眼鏡を持って海に出ると面白いと思うねぇ~。」
愛子は、直ぐに解ったのだ。
「うん、私も、何か楽しいと言う様な気がするのよ、だって、普通の海に
行って見てたんじゃ~、何も面白くも無いと思うのよ。」
「奥様、この双眼鏡であれば、色んな事に使う事も出来ますよ、これで、
月を見ても面白いと思いますから。」
「へぇ~、この双眼鏡で月を見れるのね。」
愛子も、双眼鏡を気に行った様子で有る。
「じゃ~、これを。」
と、隆一は、決めた、大きな双眼鏡を買ったので有る。
その後、二人は、久し振りと言う事もあったので、2時間ほど、色々な所
を回り、夕方になって、マンションに戻って着たので有る。
「愛子、今日は、外で食べようか。」
愛子もわかっていたので有る。
「それじゃ~、今日、買った服を着て行くわね。」
隆一が思った通りで有る、一時間ほどで仕度は終わり、二人は、市の中心
部に有るレストランへと向かったので有る。
隆一が選んだ服を着た愛子は、すれ違う男達の視線を釘付けにして要る。
その歩く姿は映画スターの様であり、若い女性達も見とれているほどで有
る。
「ねぇ~、隆一さん。」
と、愛子の右腕は隆一の左腕を通している、愛子も、男達の視線を感じて
はいるが、その様な視線を全く無視しているのだ。
「愛子、何が食べたい。」
「う~ん、そうね、じゃ~、隆一さんに任せるから、私、何でもいい
の。」
「じゃ~、行こうか。」
「うん。」
愛子と言う女性は、今や、他の男性は目に入らず、隆一に全てを任せてい
るのだ。
10分ほど歩いたところにフランス料理の店に入ったが、二人と言うより
も、愛子が店内に入った瞬間、店内に居た客達の目線が、愛子に向いたので
有る。
「いらしゃいませ。」
と、ウエイターは二コ二コとしながら愛子を見ている。
「さぁ~、どうぞ。」
二人を案内したが、ウエイター達の目線は愛子に集中している。
隆一も、満更でも無かった。
「愛子、素敵だよ。」
愛子の顔が薄赤く染まって行くのを感じたが、隆一には、わからなかった
のだ。
「お飲み物は、如何致しましょうか。」
「うん、じゃ~、これと、食べ物は、これと。」
と、隆一は、数品を注文したので有る。
隆一の注文は見事であった。
「ねぇ~、隆一さん、ワインの事だけど、良く知ってるのねぇ~。」
「うん、実はね、僕の同級生の両親がフランス料理店を開いていたん
だ。」
愛子も知らなかったのだ、だが、大学時代の隆一にフランス料理を食べる
様な時間は無かったはずだと、愛子は思い。
「でも、大学生の頃には、行く時間も無かったと思うのよ。」
「あ~あ、そうか、それはね、僕の高校生の頃なんだ。」
「えっ、でも、高校生がお酒を飲むなんて。」
「勿論だよ、ワインに付いてはね、別に飲まなくても覚える事は出来るん
だ。」
「そうだったの。」
と、愛子は、感心するだけだった。
その後、二人はゆっくりと時間を掛けて食事を楽しみ、2時間ほどで食事
も終わり。
「愛子、暫く、歩いて見ないか。」
「そうね。」
と、愛子は、店を出ると、隆一の腕に絡ませたので有る。
其れは、久し振りのデートだった、今までが、余りにも慌ただしかったの
で、ゆっくりとした食事も出来なかったので有る。
二人は、会話も少なく無かったが、愛子には、十分過ぎる時間であり、隆
一も其れを楽しんでいる様だ。
「ねぇ~、隆一さん。」
「な~に。」
「いいの、ただ、呼びたかっただけだから。」
「そうか。」
その後、二人は、ネオンの中に入り、2時間も経ったで有ろう、深夜近く
マンションに戻って着たので有る。
その夜、愛子は、激しく燃え、隆一も激しく燃えたので有る。
そして、明くる日の朝と言うよりも、お昼近くまで隆一は眠っていた、だ
が、愛子は既に起きて食事を作っている。
「愛子。」
と、隆一は、愛子の後ろに立ち、首にキスをし、愛子も振り向き隆一に熱
いキスを返すので有る。
「何を、作ってるの。」
「うん、昨夜は、少し飲み過ぎたと思ったのよ、だからね。」
と、愛子は、嬉しそうな顔をして要る。
「あ~あ、之は、あの。」
「そうよ、あの雑炊よ。」
「でも、不思議な雑炊だね、飲みすぎには最適だからねっ。」
「そう、有難う、もう少しで出来るからね、待っててね。」
「うん。」
と、隆一は、愛子の側を離れ、椅子に座ったので有る。
愛子の作る雑炊の香りが部屋中に漂っている。
「愛子、早く頼むよ、僕は、死んじゃうよ~。」
と、愛子に甘える隆一なので有る。
「は~い、出来たわよ、熱いから、気をつけてね。」
「あっつ。」
「だから、言ったでしょう。」
「うん、わかったよ。」
と、一口、口に入れた時だった、隆一の携帯が鳴ったので有る。
「誰だろう、こんな時間に。」
「隆一さん、もう、お昼なのよ。」
「えっ、もう、そんな時間だったのか。」
隆一が携帯の画面を見ると、其れは、木田からで有る。
「はい、隆一です。」
「木田です、今、宜しいでしょうか。」
「ええ、宜しいですよ。」
愛子は、少し不満そうな顔をして要る、せっかく作った雑炊が冷めるの
に、電話は食事が終わってからでも思い、隆一の顔を見て、先に食事をと、
ジェスチャーで伝えている。
「はい、長官、申し訳有りませんが、今、食事中なので、終わり次第、僕
が、掛け直しますので。」
「隆一君、申し訳ない、じゃ~、後で、待っていますので。」
と、木田は、電話を切ったので有る、
愛子の作る料理は何時も美味しいが、時々、作る雑炊は特に美味しいの
だ、それと言うのも、隆一の仕事は普通では考えられない過酷な仕事の為、
一度、入ると食事を取る事が出来ない時もあり、愛子は、常に隆一の健康管
理を行わなければ成らないので有る。
前回の任務中にあきえと言う女性から教えて貰った雑炊、之が、隆一には
良い薬になるのだろう。
「愛子の作る、この雑炊だけど、本当に美味しいよ。」
「ねぇ~、隆一さん、お願いが有るの。」
「うん、何を。」
「あのね、隆一さんって、任務に就くと、何もかも忘れてしまうのよ、だ
けど、食事だけは、それも、私が側に居る時はちゃんと食べて欲しいのよ、
お願いだから。」
「うん、わかったよ、此れから、食事もきっちりと食べるよ。」
隆一は、愛子が言いたい事はわかっている、愛子は、常に隆一の身体を心
配して要る。
時には、隆一だけの任務となり、其れは、隆一の取る食事は好物だけとな
るからだ、愛子の作った雑炊を全部食べた頃、愛子は、食後のコーヒーを入
れてくれた。
「う~ん、食後に出る愛子のコーヒー、之が、また美味しいんだ。」
愛子は、クスット笑い、でも、嬉しかったので有る。
隆一は、何事でも、直ぐ言葉で表すのである、其れが、愛子を引き付ける
のだろう。
食事とコーヒータイムも終わり、隣の部屋に移ったので有る。
台所からは、愛子の鼻歌が聞えてくる、愛子も隆一が食事を全部食べ、コ
ーヒータイムの時間もゆっくりとしてくれたからだ。
「長官、隆一です、遅くなって申し訳有りません。」
「いいえ、私の方こそ、隆一君の事も考えずに。」
「長官、其れで、何か有りましたでしょうか。」
隆一も、木田が、早く調査と任務に入って欲しいと言いたいと思って要るだろうと。
「それでは、結論から言いますが、薬品の特定が出来ないのですが、彼ら
が集めている発泡スチロールですが、此の頃、大量に集めていると情報が入
ったのです。」
「大量にですか。」
だが、発泡スチロールをいくら大量に集めても、其れを液体にすれば少量
の石油が取れるだけなのだ。
「うん、それでね、その工場には大型のタンクが設置されているだろうと
思われるのですが、それも、まだ特定されていないので、我々としても大変
困っているのです。」
「あの~、長官、僕の判断で大型の双眼鏡を購入しました。」
「えっ、大型の双眼鏡を、何に使用するのですか。」
木田は、隆一が購入した双眼鏡の使い道がわからないので有る。
今まで、何度も調査に入ろうとしたが、其れが、全て失敗に終わったから
で有る。
「今までは、直接、現地に入り、調査を行なう方式だったと思いましす
が、僕は、少し離れた山から調べようと考えたんです。」
「わかりましたよ、隆一君の考えが。」
やはり、長官で有る、隆一の調査方法は間接的に行うと言うので有る。
「長官、この航空写真で、あの工場の近くにと言っても、数キロは離れて
いますが、山があります、僕は、その山から最初の調査に入ろうと考えたん
です。」
「やはりね、それに使用するために大型の双眼鏡を購入したと言うのです
ね。」
「はい、その山に入るには、反対側から登れば幾ら、彼らでもわからない
と思いますよ、其れに、僕の単独調査では。」
だが、問題は、その山に入る方法なのだ。
「ですが、私から送らせていただいた航空写真には大きな道路は無いと思
うのですが。」
「はい、其れは、承知していますよ、でも、其れが良かったんですよ、だ
って、大きな道路が無いと言う事は、少なくても相手は油断していますから
ね。」
やはり、隆一の考え方は違う、それも、この山の近くに行くには、数十キ
ロも大周りになる、隆一は、時間を掛けても現地の調査に入る事で、次の段
階に移る事が出来ると考えたので有る。
「隆一君の調査方法ですが、何か、特別の方法を考えておられるのです
か。」
やはり、木田は、調査方法が気になるのだ。
「別には考えていませんよ、之は、実際にはじめなければ、次に進める事
も出来ませんので。」
隆一は、別の角度から調査を始めるつもりで有る、其れは、前と同じ方法
を取るのか。
「じゃ~、大気の観測でも始めるのですか。」
「ええ、其れは、当然の方法ですよ、あの工場から離れていますので、大
気に問題は無いと思いますが、工場とは関係の無い町で調査に入れば、関係
の無い町では、誰も気付かないと思いますので。」
「そうですか、じゃ~、大気の調査と言うのは、名目上と言うのです
ね。」
「ええ、一応、環境問題の調査と言う名目で別の町に入ろうと考えており
ます。」
「そうですか、わかりましたよ、方法は全て、隆一君に任せますので、宜
しくお願いします。」
「はい、僕も、この2~3日のうちに現地に向かいますので、出発する時
に連絡を入れますので。」
「では、宜しく頼みます。」
と、木田は切ったので有る。
だが、今回の任務は、簡単に終わるとは、木田も考えていないので有る。
「ねぇ~、隆一さん、今回も一人で行くの。」
と、愛子は、不満そうで有る、今、隆一が木田に言った事は初めて聞いた
ので有る。
「ねぇ~、隆一さん、今の話だけど。」
「えっ、今の話って。」
「この2~3日の内に出発するって。」
「あ~、その話しね、長官は、早く行って欲しいと思ってるんだ、只ね、
別に2~3日中って話じゃないんだよ、僕だって、本当に、この2~3日で
出来るとは限らないんだよ、あの資料の分析も終わらないうちに現地に行く
事は出来ないんだ。」
隆一は、まだ資料を全部読んで無かったのだ、今回の任務は標的がはっき
りとしないのだ、其れに、工場で作られた物が本当に爆発物なのか、それと
も、不良品と言える石油製品なのか、それが、わからないので有る。
ただ、隆一の頭の中に有るのは、例え、石油製品だろうと、不良品として
町に流入させる事は許せないが、その製品が別の場所で良品な製品として生
まれ変わるのであれば問題は無いと考えて要るのだ、だが、それならば、何
故、その工場に近づけないのか、まずは、その周辺から調査するのが先決と
考えたので有る。
「愛子、今度の仕事なんだけど、現地調査が必要なんだ、それも、念入り
にねっ。」
「じゃ~、私も行けるのねって。」
愛子は、自分も一緒に行ける事が嬉しかったので、自然と笑顔になるので
有る。
「それでね、今度は、愛子も、僕も、アマチュアの天文家と言う方法を考
えたんだ。」
「えっ、私と隆一さんがアマチュア天文家って。」
「うん、そうなんだ、で、明日、もう一度、あのデパートに行って、天体
望遠鏡を買いたいんだ。」
隆一の発想は愛子には理解出来ないので有る。
アマチュア天文家と、何処からの発想なのか、これで、本当に調査が出来
るのだろうかと、愛子は思うので有る。
「じゃ~、この双眼鏡は、何のために。」
「あ~、其れか、あの時は航空写真で双眼鏡があれば、簡単に調べる事が
出来ると思ったんだ、だけどねぇ~。」
「でも、隆一さん、私は、天体の事なんか、全く知らないのよ。」
「別に知らなくてもいいと思うんだ、だって、何か興味があって、その興
味が進むとアマチュアでも専門家になると思うんだ、其れに、誰だって、初
めから知っていないと思うんだ、天体望遠鏡で月や火星を見たいって、あの
言葉が頭の中に残っていたんだよ、ただ、それだけなんだ。」
「でも、アマチュア天文家って話だけど、本当に行けるの。」
「いや、僕も、行けるととは思って無いんだ、だけど、長官の話じゃ~、
今まで、何度も調査に向かったが、何処で、知られたのか、全て失敗に終わ
ったと聞いたんだ、僕はね、何も正面から調査に入る必要な無いと思うん
だ、だったら、何か、別の方法が無いかって考えていたんだ、あの時、愛子
が言った月や火星を見たいって、それでね、僕は、これだと思っただけなん
だよ。」
「じゃ~、あの天体望遠鏡を使うの。」
「うん、僕の計画はね、まず。」
と、隆一は、航空写真に写っている、別の山の頂上の所を示した。
その場所は、上空から見ると、少し狭いが広場の様になっている。
「じゃ~、隆一さんは、この場所に天体望遠鏡を持って行くの。」
「勿論だよ、だって、僕達は、アマチュア天文家なんだよ、天文家が天体
望遠鏡を持って行き、夜になると、月や火星を見てたって、一体、誰が怪し
むと思う。」
隆一の考えた方法で行なうのだと、愛子も納得したので有る。
「じゃ~、隆一さん、其れだと、昼も夜もって事になるわよ、余りにも大
変じゃないのよ。」
「いや、そんなの簡単だよ、あの地方の人達に、アマチュア天文家が来
た、夜空を見ているだけだと思わせる必要が有るんだ、本当の調査に入るの
は、その後からでも十分だと思ってるんだ。」
だが、愛子は、理解できないのだ、天体観測に入ると、昼の調査が出来な
いのだと。
「でもね、余り、天体観測に入り過ぎると、調査が出来ないと思うの
よ。」
「愛子、何も、はじめから、調査する必要は無いんだ。
僕はね、毎日、観測するつもりは無いんだ。」
「えっ、だって、夜中に観測するんでしょう。」
「勿論さ、天体望遠鏡にカメラを取り付けてね、月や火星を写す、その写
真も持って、喫茶店やレストランで、二人が会話をするとね、一体、どうな
ると思う。」
愛子も、わかってきたので有る。
「じゃ~、わざと、町の人達が集まる場所で話をするのね。」
と、愛子は想像するので有る。
「愛子、これを何度か繰り返し行なって要ると、店の人が話し掛けてくる
と思うんだ、それからが、本当の調査に入る事になるんだ。」
「そうか、わかったわよ、隆一さんは、わざと、町の人達に、私達は、ア
マチュア天文家だって見せて、話を聞きだそうと考えたのね。」
隆一は頷き。
「その通りなんだ、今回の仕事は、大変、複雑だから、特に念入りに調べ
る必要が有ると思うんだ、まぁ~、その為の天体観測なんだ。」
「じゃ~、あの車で行くの。」
「だって、あの車しか無いと思うんだ、ただね、あの頂上まで果たして来
るまで行けるのか、其れが、まだわからないから、先に、其れを調べる必要
が有るんだ。」
「わかったわ、私は、そのルートを調べるわね、それと、現地の近くのホ
テルもね、え~と、後は。」
「愛子、何も、急ぐ必要な無いんだよ、僕達が確実に調査に入れるだけの
品物があれば十分だと思うよ。」
「じゃ~、普段着も必要になるわね。」
「うん、其れは、要ると思うんだ、それも含めて準備に入る事にしょう
か。」
そして、明くる朝、先日要ったデパートに行くと、あの店員が二コ二コと
して迎えた。
「先日のお客様ですね、今日は。」
「うん、実はね、天体望遠鏡が欲しくなりましてね。」
「あ~あ、其れで、今日、お見えになられたのですけ、じゃ~、私の一番
お勧めの天体望遠鏡がございますが、これなんですがね、小型ですが、非常
に高性能な天体望遠鏡ですよ。」
「へ~、こんなに小型なの、私は、もう少し大きいのかと思ってたの
よ。」
「奥様、之が最新型なので、写真撮影も可能でございます。」
「えっ、じゃ~、月のクレーターも。」
「ええ、勿論で御座いますよ、私が、写した、之が、先月、写した月の写
真で御座います。」
と、この店員が、一枚の写真を見せたので有る。
「わぁ~、素敵、こんなに綺麗に写せるの。」
「はい、勿論ですよ、私も、趣味で月や他の惑星を見ていますが、之から
が、天体観測には最適の時期に入ってきますので。」
「じゃ~、これと。」
と、隆一は、簡単に決めたのだが。
「ねぇ~、カメラも要るでしょう。」
と、愛子は、カメラが必要だと言うので有る。
昨日、隆一が言った様に、月や火星の写真と撮り、町の喫茶店やレストラ
ンで、私達は、アマチュアの天体観測家だと見せるためにも。
「うん、そうだね、じゃ~、カメラも一緒にお願いします。」
店員は、二コ二コ顔で有る、天体望遠鏡も、それに必要なカメラも高額な
買い物だ、この店にすれば、最高の客なので有る。
二人は、買い物も終わり、マンションに戻り、支度を始めるので有る。
隆一は、天体望遠鏡とカメラ、擦れに、双眼鏡も、数十枚の資料とパソコ
ンと、愛子は、日常に使う、小物類と下着に服などの準備で有る。
全ての準備が終わり、木田に言った、予定の3日目の朝。
「長官、隆一です。」
「やぁ~、隆一君、お早う、随分と早いですね。」
「ええ、僕も、承知しておりますので、多分、大丈夫だと思いますよ。」
と、隆一は、簡単に言うのだが、それでも。
「まぁ~、隆一君に任せますのでね、宜しく頼みますよ。」
「長官、実は、今回の為に、少し高額な買い物をしたんですが。」
「一体、何を買われたんですか。」
「はい、双眼鏡と天体望遠鏡なんですが。」
木田は、意味がわからないのだ、双眼鏡はわかるが、天体望遠鏡を何につ
かうのだ。
「隆一君、双眼鏡はわかりますがね、天体望遠鏡を何に使われるのです
か。」
やはり、木田も、理解が出来ないと言う事は、現地に行っても、知られる
事は無いと。
「長官でもわからないですか。」
「隆一君、私も理解が出来ませんよ、双眼鏡はわかりますよ、でもね、天
体望遠鏡を、一体、何のために必要なんですか。」
この道のベテランの木田でも、隆一の考える作戦は理解できない。
「長官、今回、僕と愛子はね、アマチュア天文家として現地に向かう事に
決めたんですよ。」
「ほぉ~、アマチュアの天文家ですか、その為に天体望遠鏡が必要と言う
のですね。」
「はい、長官のお話では、何度も現地に調査に入ったと聞いたんですが、
何も調査出来なかったと言われ、それじゃ~、と、僕は、別の町に入り、そ
の町から、あの工場を調べようと思ったんです。」
「ですがね、隣町で、何をするのですか。」
「はい、長官から送られて着ました航空写真を見ると、あの工場の近くに
山が有るのがわかったんで、その山頂に行き、その場所から最初の調査に入
ろうと考えたんです。」
「あ~ぁ、あの航空写真ですか、じゃ~、その場所に天体望遠鏡を持って
行き、表向きは天体観測と言う方法を取るのですか。」
木田も、解ったので有る。
「木田さん、愛子です。」
「やぁ~、愛子さんも今回は同行されるのですか。」
「うん、そうなの、私と、隆一さんは、アマチュア天文家って言う事で現
地に入るんですよ。」
「そうですか、愛子さんが、一緒ならば、隆一君も心強いと思います
よ。」
「でも、木田さんから、送られてきた資料を読みましたが、実態が殆どわ
からないので、今回は、少し時間が掛かると思いますよ。」
「勿論、承知しておりますが、じゃ~、今回、ホテルの予約は。」
「其れで、少し考えて要るの、余り長期間だと、ホテル側も、何か不審に
思うと考えたの、じゃ~、何か、他に良い方法が無いか考えたの、それで
ね、木田さんにお願いが有るんだけど、隣町に借家が無いか調べて欲しい
の。」
「えっ、愛子さん、今回はホテルに。」
「ええ、始めの数日は、ホテルでもいいと思うの、でも、長期間になると
ね、ホテルじゃ、何かと、面倒な事も有ると考えたの。」
「面倒な事って、何が有るの。」
隆一は、ホテルの方が便利だと考えていた、だが、愛子は、別の問題を考
えて要るのだ。
「隆一さん、確かにホテルは便利よ、だけど、便利だけじゃ、今回の仕事
は、大変、難しいと思うのよ、確かに、ホテル側にすれば、長期間も宿泊す
る客は大歓迎だけど、それとは別に、ホテルの従業員の中には、必ずと言っ
てもいいほど、私達の噂話をするのよ。」
「あっ、そうか、わかったよ、じゃ~、愛子は、数日間はホテルで、後
は、何処かにマンションでも借りればいいと。」
「うん、私はね、でも、難しいのよ、ホテルを上手に利用すればいいんだ
けれど。」
愛子も、難しい選択をして要る様子で有る。
「僕は、其処までは考えて無かったよ、だけど、ホテルの利便性も必要だ
し、かと言って、長期間のホテル住まいも大変だし、愛子、今、此処で考え
ても解決出来ないと思うんだ、僕は、現地のと言うよりも、まずは、隣町に
行ってから、次の事を考える様にと思うんだ。」
「そうねぇ~、じゃ~、隆一さん、何時頃出発するの。」
その間、木田は、二人の会話を聞いていた。
今回の任務は、木田が考えて要る以上に大変困難な任務なのだ、相手の正
体もわからず、一体、何処から、調査を始めて良いのか、だが、隆一の考え
た方法は、木田も全く予想しなかったのだ、正か、アマチュアの天体観測家
だとは、木田は、隆一の考える方法に驚かされるので有る。
「長官、失礼しました、つい、何時もの調子で。」
「隆一君、宜しいですよ、で、どの様にされますか。」
「はい、一応、現地のホテルには数日間の予定ですが、でも、状況の変化
によっては、何処かにマンションでも借りようかと思います。」
「そうですね、私は、お二人に任せますので。」
「木田さん、愛子です、私も、隆一さんの考えた方法で行きたいと思いま
す。」
「そうですか、何しろ、相手の正体もわかりませんので、隆一君の思った
とおりに行なっていただいて宜しいですよ。」
「はい、有難う御座います。
それと、今、急に思い浮かんだですが、適当なところで、個人が使用され
ている様な天文台は有るのでしょうか。」
またも、隆一も思いつきなのか、正か、個人が所有する天文台までも利用
するとは。
「えっ、個人所有の天文台ですか。」
「はい、僕も、アマチュアの天文家と言う事なら、自宅に、自分専用の天
文台が有っても、不思議じゃないと思いまして。」
「わかりましたよ、隆一君が、自宅の天体望遠鏡で観測している姿の写真
があれば、何かの時には役に立つと考えられたのですね。」
「はい、それと、アマチュアの撮られた写真も数枚もあれば、お願いした
いのですが。」
側では、愛子は感心している、隆一と言う男性は、事前準備をしっかりと
してから、現地に入るつもりだ、でも、何も其処まで必要が有るのか。
「長官、今回は、簡単に行きそうに無いと思いますので、僕なりの準備を
したいと考えたんです。」
「じゃ~、数枚の写真を作り、ホテルが決まれば連絡して下さい、送りま
すので。」
「有難う御座います。
其れで、送り主は、何か、特別な名前でも作って下さい。
どうせ、ホテルの従業員が送り主の名前を見ると思いますので。」
「任せて下さいよ、私も、適当に考えて送りますのでね、じゃ~、後は、
連絡を待っておりますので。」
「はい、では、僕と愛子は、この数日以内に出発しますので。」
その数日後、隆一と愛子は、小型だが性能が良い天体望遠鏡と、今度の仕
事には必要になる可能性が高い、隆一専用のライフル銃を持って現地へと
向かったので有る。