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僕は、スナイパー。  作者: 大和 武
1/10

第1話    何度も変わる運命。

             第一話  僕はスナイパー。

僕は、スナイパーだ、だが、スナイパーは表の仕事では無い。

 

僕 表の仕事とは、僕は、内閣総理大臣の直属であり。


世間で言うところの属する部署は環境省、土壌水質分析部と言う部署の特別捜査官と言


うのが、僕が持つ表の肩書きなのだ。


 だが、現実にその様な部署もなければ、特別捜査官と言う人物も存在しないのである。


 では、何故、その様な部署をつくり、特別捜査官を置いたのか、その実態を知る者


などは殆どいないのである。


 それに、仕事柄とは反対なのだが、警察庁長官の直属でも有る。


その為、僕には、二つの職場が有るのだ、勿論、警察庁のバッチも所持しているので、


その両方を使い分ける事が必要な場合も有る。

だが、現実にその様な部署もなければ、特別捜査官と言う人物も存在しないのである。


 では、何故、その様な部署をつくり、特別捜査官を置いたのか、その実態を知る者


などは殆どいないのである。


 それに、仕事柄とは反対なのだが、警察庁長官の直属でも有る。


その為、僕には、二つの職場が有るのだ、勿論、警察庁のバッチも所持しているので、


その両方を使い分ける事が必要な場合も有る。


だが、何故、その様な事になったのか、それには、裏話が有るのだ。


話は、数年前に遡り、僕が、大学を卒業し、ある有名な民間会社に就職したのである。


その民間会社は防衛省の仕事が多く、其れに警察庁の仕事も多数有る。


其れは、防衛省や警察庁に収める兵器を作っている会社なのだ。


 僕の職場は兵器を作る工場の勤務だった、僕が、その工場に勤務を始めて数ヶ月経過


した頃である。


 その朝、突然、何の前触れもなく、工場長の呼び出しが有ったのだ。


 工場に勤めだして数ヶ月間、僕は、何のへまもした覚えもなく、一体、何事が起きた


のか、全く理解できないまま、工場長の部屋に向かったのである。


 工場長の部屋は2階事務所の奥にある。


 僕は、事務所の女性に工場長から呼び出された事を告げると、女性事務員は。


 「はい、伺っております。


 部屋は、この先の奥に有りますので、どうぞ。」


 と、言われ、僕は。


 「ハイ、では、失礼します。」


 と、言って、部屋に向かい、入口のドアをノックした。


 「工場長、吉村です、お呼び出しを受け、参りました。」


 と、吉村、之が、僕の本名である。


 「吉村君か、どうぞ、入って下さい。」


 工場長とは、この工場に配属が決まって以来である。


 「はい、では、失礼します。」


 と、僕は、ドアを開け、部屋に入ったのである。


 その時、僕は。


 「あっ。」


 と、思わず叫んでしまったのである。


 「いいんだ、吉村君、何も、気にする事は無いんだから。」


 と、社長はにこやかな顔付きで言ったのだ。


 「は、はい。」


 と、其れしか言えなかった。


 「まぁ~、吉村君、座ったらどうだね。」


 僕は、緊張の余り、何も言わず、ソファに座ったのである。


 一体、何なんだ、突然呼び出したかと思えば、入った部屋には社長も居るでは無いか。


 その時、トン、トン、と、ドアをノックする音がし、先程の女性事務員がコーヒーを


運んで着たのだ。


 僕は、その女性の顔を見て、どこかで、見た事のあるような美人だと思ったのだ。


 女性事務員は、社長、工場長に、コーヒーを配り、僕の前にコーヒーを置き、二コッ


トしたのである。


 そうだ、死んだ、僕の母によく似た美しい女性だった、女性事務員はコーヒーを置くと、


一礼をし、何事も無かった様に部屋を出て行った。


 「吉村君、まぁ~、コーヒーでも飲んでだ、話は其れからにしようか。」


 「はい、では、頂きます。」


 女性事務員が入れたのだろう、美味しいコーヒーだ。


 「君は、吉村隆一と言うのだね。」


 と、突然、社長が聞いたのだ。


 「はい、私は吉村隆一です。


 でも、私は、何も、社長や工場長に怒られる様な。」


 と、言いかけ。


 「君は、何か勘違いをして要るんでは無いのか、私は、君が失敗したとは、まだ、何も、


言って無いんだぞ。」


 と、社長はニヤットするのだ。


 では、一体、何の為に、僕の様な新入社員を呼び出したんだ、と、思っていた。


 「君が勘違いするのも、無理は無いよ、どんな用事なのかも言って無かったからね。」


 と、工場長もニヤリとしている。


 僕は、どんな内容の話なのか、早く聞きたいのだと思ったが。


 「社長、やはりそうでしたよ、彼に間違いは無いと思うんですが。」


 工場長は何を言ってるんだ。


 「それじゃ~、大変失礼な事を聞く様だが、君のご両親は。」


 「はい、私が、まだ、5歳の時でした、ある事件に巻き込まれ、両親とも死亡しました。」


 工場長は頷き。


 「その時、君も怪我をしたので無いか。」


 隆一は首をかしげ。


 何故、工場長は知って要るんだ、それに、あの時、若い男性が。


 「えっ、では、あの時の若い男性は、今の工場長だったんですか。」


 「うん、そうだ、あの時の出来事は、今でも、私の脳裏に焼きついているんだ。」


 「でも、私は、殆ど覚えていないんです。」


其れは、当たり前の話である。


 幼い男の子を連れた若い夫婦に突然襲った悲劇、若い父親は、その場に倒れ、母親は、


幼い我が子を守る為に、胸からは鮮血が噴出し、子供は泣き叫び、辺り一帯は夫婦の血


で染まり、騒然とした状況だったのだ。


 その時である、若い男性が母親に走り寄って、幼い子供を抱きかかえ助け出すのだ、


 その男性こそ、今、隆一の目の前に居る、工場長だ。


 この工場長こそが、隆一の命の恩人なのだ。


 「吉村君、私も、今の今まで、知らなかったんだ、其れが、今、君の話を聞いて思い


出したんだ。」


 「工場長は、私にとっては命の恩人だったんですね、あの時は本当に有難う、御座い


ました。


 私は、お陰さまで、今まで、何事も無く成長し、今は、命の恩人の下で働かせていた


だいております。」

 隆一は、改めて思い出そうとするのだが。


 「吉村君、私はね、今更、君に、私は、君の命の恩人だよ、と、言ってはいないんだ。


 其れよりも、私が気に成るのは、今まで、君の生活というか、君の人生にとって大切


な人だと思われる人物の事なんだが。」


 工場長は、一体、何処の誰が、隆一の世話をしたのか知りたかったのである。


 「実は、今の両親なんですが、死んだ、父の弟で叔父夫婦です。


 その叔父夫婦には、当時、まだ、子供が居なかったんで、私を本当の子供以上に


可愛がって下さり、今でも、私は、叔父夫婦の両親に感謝をしています。」


 社長は何も聞かず、頷き、静かに隆一の話を聞いて要るのだ。


 「だが、君も相当苦労したんだろうね。」


 「いいえ、私を大学まで出してくださり、私は、何の苦労もした覚えは有りません。」


 「それだけ、今のご両親が、君に最高の愛情を注いで下さったと言う事だね。」


 「はい、私は、その様に思っております。」


 その時、社長が身体を前に出し。


 「ところで、今のご両親の生活は。」


 「はい、両親とも、身体は丈夫で、今は、何、不自由なく、生活をしております。」


 それでも、尚、社長は。


 「だが、そのご両親というか、父親もそろそろ年齢的な問題も有ると思うんだが。」


 社長、何を聞きたいんだ、父は、定年まで、まだ、十分時間が有るんだと、叫び


たい気持ちで有る。


 「父の会社では、定年は本人次第だと言う会社なんです。」


 社長も工場長も隆一の答えは考えていなかったのである。


 「吉村君、君のお父さんの会社なんだが、定年は本人次第だと、言ったがね、お父


さんの仕事は何なんだね。」


そうか、社長も、工場長も、父は事務員か営業職だと思ってるんだと。


 「私の父は、技術職なんですよ、数年前には、日本の名工にも選ばれております。」


 「えっ、其れは、大変素晴らしいね、日本の名工に選ばれる人物は少ないからね。」


 と、社長は驚くのだが、まだ、何かを言いたそうな顔つきだ。


 「それじゃ~、ご両親の生活は、今後も安定していると言うんだね。」


 「私も、両親の老後を考えていたんですが、先日も父は笑い、オレはなぁ~、死ぬま


で現役で行くからなって、言っておりました。」


 「そうか、其れで一安心という訳だな。」


 「はい、私も、今は、そう思っております。」


 社長も工場長も何を言いたいんだ、と、隆一は声を出して聞きたいのだ。


 「吉村君、其れじゃ~、話を進めるからね、実は、君が卒業した大学は、社長と私も


同じ大学の出なんだ。」


 「えっ、それじゃ~、私の大先輩じゃ~無いですか。」


 隆一は大変な驚きだ。


 「其れだけじゃ~無いんだよ。」


 「工場長、正か、アーチェリー部の。」


 工場長と社長も頷き。


 「その通りなんだ、社長はね、アーチェリー大会初代のチャンピオンなんだ。」


 隆一は驚きと言う言葉では言い表せない表情である。


 「其れじゃ~、部室にある、カップと表彰状、そして、写真は社長だったんですか。」


 社長は頷き。


 「そうですよ。」


 と、ニッコリとした。


 「其れじゃ~、隣の写真は、正か。」


 と、隆一は工場長の顔を見ると、工場長もニッコリとし。


 「そうなんだ。」


 と。


 「でも、お二人と、私とでは、全く、別格ですよ。」


 と、隆一は、言っては見たが。


 「吉村君、実はね、今からする話なんだが、全く関係は無いといえば嘘に成るが、


だがね、この話は、簡単に説明が出来ないんだ。」


 「工場長、一体、何の話なんですか。」


 「社長、この話の説明は難しいですね。」


 「うん、私も、今、考えて要るところなんだ。」


 と、社長も考えて要ると言うが、隆一は、わけと言うか、中味のわかる話をして欲し


いのだ。


 「吉村君、実はね、社長にね、社長が知る、ある人物から、特命の依頼があったんだ。」


 「工場長、ある人物とは、一体。」


 「う~ん、今は、名前を明かせないんだが、その人物は政治家なんだ。」


 「えっ、政治家がなんで。」


 「うん、其れがだね、今、君の行って要る仕事とは全く関係が無いんだ。」


 「一体、その仕事とは。」


 「社長も私も、説明が出来ないんだ。」


 二人は説明に困っているんだ、だけど、その仕事とは、一体どんな仕事なんだ、と、


隆一は考えるが、隆一にわかるはずも無いのだ。


 「社長も工場長も、ご存知の無い仕事なんでしょうか。」


 「そうなんだ、詳しい説明はね此処では出来ないんで、実はだ、その話をしていただ


くので、急な話で悪いんだが、明日の朝なんだが、別の場所に行ってもらいたいんだ。」


 「えっ、私がですか、でも、何処に行けば宜しいのですか。」


 隆一は、一体、何処に行くのだろうと思うのだ。


 「其れでだ、此処に、航空券と宿泊先のホテル名を書いた紙がある。


 之を、持って、明日の朝の便で指定されたホテルに行って欲しいんだよ。」


 隆一は、何と返事をすればよいのか迷っている。


 「社長、之は、社長命令なんでしょうか。」


 「そうだよ、業務命令だ。」

 

 「はい、判りました、では、明日のあさ、現地のホテルに行けば宜しいんですね。」


 業務命令では仕方が無いと思ったのである、でも、やはり気になる、どんな仕事なん


だと考えるのだが。


 「吉村君、すまないね~、出張と言う事に成るが、着替えを2~3日分用意しておい


て欲しいんだ。」


 「はい、判りました、私は、事務所に行って、出張命令を書きますので。」


 「吉村君、其れは、私が書いておくよ。」


 「でも、之は。」


 「いいんだ、今回の理由を考えないとね。」


 隆一にすれば、何から何まで、理解が出来ないのである。


 「今回は特別なんだ、今日は帰っていいよ、用意もあるだろうからね。」

「え~え、でも。」


 「いいんだ、社長命令だ、其れと、この話は、ご両親には内緒にして欲しいんだ、只、


出張だと言う事にしておいてくれよ。」


 「はい、判りました、では、私は、失礼します。」


 「吉村君、よろしく頼むよ。」


 「はい、社長。」


 と、言って、隆一は、部屋を出たのである。


 社長秘書は、二コリとして、軽く会釈をしたので、隆一も会釈をし、工場を後に


したのである。


 だが、まだ、昼前なのに、今、家に帰って何と説明するんだ、と、考えるのだが、


答えは無かった。


 工場を出た時だった、隆一の携帯がなった。


 「はい、吉村ですが。」


 「私です、伊藤です。」


 「は~、伊藤さんですか、あの~。」


 「秘書の伊藤です。」


 「あっ、すいません。」


 と、隆一は、秘書の名前を知らなかったのである。


 「あの~、秘書の伊藤さんが、一体、僕に何の用事なんでしょうか。」


 隆一は、秘書から連絡が入った事に、少し驚いているのだ。


 「吉村くん、ごめんなさいね、吉村さん、明日、朝、早いので、今夜は空港近くの


ホテルを予約してあるんです。」


 「えっ、ホテルをですか。」


 「そうよ、明日から出張の容易が出来次第、そのホテルに入って欲しいのよ。」


 その時、隆一ははじめて航空券を見たのだ。


 「あっ。」


 と、しか、声が出なかったのある、だが、もう一度、見ると、朝、一番の出発時刻と


なっている。


 その出発時刻に間にあわせるためには、自宅から行っては、間に会わないのだ。


 秘書の伊藤は、航空券の手配と、一緒にホテルの手配も行っていたのだ。


 「何故、ホテルに泊まるんですか。」


 と、隆一はとぼけて聞いたのである。


 「吉村さん、あの飛行機に乗るために、空港近くのホテルに予約をしておいたの。」


 隆一は何も考えず、ただ。


 「はい、判りました。

 

 用意が終われば、ホテルに向かいますので。」


 「吉村さん、無理を言ってごめんなさいね。」

 

と、伊藤の声は、にこやかだった。


 「いいえ、でも、なんで、伊藤さんが、謝る必要があるんですか。」


 「私は、吉村さんに迷惑を掛けたと思って要るのよ。」


 何故、彼女が謝るんだ、其れも、社長の秘書が。


 「何故なんですか、伊藤さんが謝る事なんか有りませんよ。」


 「そうね、吉村さん、有難う、じゃ~、用意が出来次第ホテルに行ってね。」


 「はい、判りました。」


 と、簡単に言った、隆一は、工場を出て、一時間後、自宅の戻って着たのである。


 「母さん、ただいま。」


 と、突然、隆一の帰宅に。


 「一体、如何したのよ、まだ、お昼よ、会社で何が有ったの。」


 と、母親が聞くのも無理は無かった。


 「いや、母さん、今日の朝、突然、工場長から呼び出されたんだ、其れで、僕は、工


場長の部屋に入ったんだ、すると、其処には、何と、社長が居たんだよ。」


 「えっ、社長さんが、でも、なんで社長さんが居たのよ。」


 と、母が聞くのも当然だった。


 その後、母に隆一は説明するので有る。


 隆一の説明が悪いのか、母も理解できずにいる、だが、母も隆一も出張の用意だけは


進み。


 「隆一、何日間と聞いて要るの。」


 「うん、社長からは、2~3日の予定だって言ってるんだけど。」


 「じゃ~、少し荷物になるけれど、5日間分の用意をしておくね。」

 

 用意は一時間ほどで終わり。

 

「うん、母さん有難う、用意が出来たら、僕は行くよ。」


 「えっ、だって、明日の朝なんでしょう。」


 「うん、そうなんだけど、会社からの連絡で、空港近くにホテルを予約したんだって。」


 「そうなの、まぁ~、なんて忙しい話なんでしょうね。」


 「だって、僕も理由がわからないんだ、だけど、社長命令じゃ~、仕方が無いからね、


 それじゃ~、行ってくるよ、父さんには、帰ってから話をするからね。」


と、言って自宅を出、秘書が手配した空港近くのホテルに向かうので有る。


 「気を付けてね、行ってらっしゃい。」


 その頃、社長と工場長と秘書の三人も工場を出、ホテルに向かっていた。


 隆一は、電車の中でも、考えていた、自分は新人だ、工場に配属されて、まだ、数


週間も経っていないんだ、そんな新人に、一体、何の仕事をさせようと言うのだ。


 隆一は電車のゆれで、少しの時間だったが軽い眠りに入っていた。


 何かの夢でも見ていたのか、はっとして目が覚めた。


 其れが良かったのか、乗り継ぎ駅の手前だった。


 そうして、2時間ほど掛かり、指定されたホテルに入った時に。


 「あっ。」


 と、行き成り叫んでしまった、其れは、目の前に、社長、工場長と秘書も居たからだ。


 「社長も、工場長も、どうして、ホテルに居られるんですか。」


 社長は、ニッコリとして。


 「吉村君、すまないね、実は、我々も呼ばれているんだよ。」


 「えっ、でも、出張は私だけと思っておりましたので。」


 隆一が驚くのも無理は無く、簡単な仕事だと思っていたからだ。


 「吉村君、今回の仕事はね、政府の仕事なんだよ。」


 隆一にすれば、驚きの連続である。


 「えっ、何故、政府の仕事なのに、でも、私は。」


 隆一は、学業の成績も普通だ、其れに、特別な、何かが得意だと言う事も無かった。


 ただ、外国語は、一応、3ヶ国語は普通に会話は出来る、ただ、それだけの事である。


 「ですが、私は、学業の成績も普通です。

 

 其れに、特別、何かが出来ると言うのも有りませんが。」


 社長の側に居る、秘書の伊藤は別の見方をしていたのである。


「吉村君、君の事を推薦したのは、彼女なんだよ。」


 またもや、驚きである。


 「でも、秘書の伊藤さんですか、私の先輩だと聞いたんですが、私は、失礼なんです


が、覚えてないんですが。」


 「だがね、君の事は、彼女が全てと言って良いほど、知って要るんだよ。」


 何故だ、何故、彼女が僕の事を知って要るんだ。


 「どうしてですか、其れに、どうして、私が、政府の仕事をするんですか。」


 「吉村君、その話は、明日わかると思うんだよ、其れよりも、君、昼食は済んだのか。」


 「いいえ、まだなんです。」


 「そうか、じゃ~、みんなで食事に行こうか。」


 と、社長は、3人を連れてホテル内の寿司店に入ったのである。


 「さぁ~、何でも、好きな物を注文してくれよ、私のおごりだからな。」


 「はい、では、私は、大好物のハマチを。」


 と、隆一は注文したのである。


 それから、4人は、好きな物を注文し、美味しそうに食べるのだ。


 「吉村君、君は、アーチェリーを何時頃から始めたんだね。」


 「はい、実は、はじめの頃は、アーチェリーでは無かったんです。」


 「じゃ~、なんでまた、アーチェリーに。」


 隆一は、少し笑みを浮かべ。


 「私が、子供の頃に見たテレビに、弓の名人の物語だったと思うんです。」


 「そうか、やはり、君も、ロビンフットか。」


 「其れが、違うんです、確か、あれは子供の頭にリンゴを載せ、そのリンゴを見事に


命中させた話なんですが。」


 「あの人物は、何と言う名前だったかなぁ~。」


 と、社長も思い出せないのだ。


 「え~と、私も、名前が。」


 と、工場長も思い出せない。


 「社長、あの人物はウイリアム・テルです。」


 と、秘書が言ったのだ。


 「そうそう、ウイリアム・テル、そうだったよ。」


 と、社長は二コ二コとしている。


 「私は、まだ、子供でしたので、大変な驚きだった事だけは、今でも覚えています。」


 「其れじゃ~、君も弓を作ったんだ。」


 「工場長もですか。」


 隆一は嬉しかったのだ。


 「あの頃、ウイリアム・テルやロビン・フッドを見た子供達は誰でも作ったんだ。」


 「私も作りましたよ。」


 と、隆一は、自分だけじゃない事にほっとしたのだ。


 「でも、私は、あのシーンだけなんですよ、覚えているのは。」


 「私もだよ。」


 と、工場長も頷いている。


 「あの瞬間、思ったんです。


 なんて、凄い事をする人が居るんだって、でも、でもですよ、幾ら、自分が弓の名手


だと思っても、自分の子供の頭の上にリンゴを載せ、そのリンゴに命中させるなんて、


僕には、とてもじゃ~無いですが出来ないですよ。」


 「うん、其れは、最もな話だ、私もね、実は、子供の頃と今も、同じなんだが、その


頭のリンゴに命中させる事は出来ないが、少しでも、近づきたいと思って、高校も大学


もアーチェリー部のある学校に行きたかったんだ。」


 社長も隆一も同じだった。


 「じゃ~、社長、私と同じなんですね。」


 「やはり、君もか。」


 工場長も同じだった。


 「其れで、君の成績は。」


 「はい、いつも、入賞はするんですが、其れ以上は如何しても駄目でした。」


 話は弾むが。


 「社長、そろそろ、時間ですが。」


 秘書は社長には他の用事が有ると。


 「もう、そんな時間なのか、わかった、其れじゃ~、私は、別の用事があるんでな、


失礼するよ。」


 「では、私も。」


 と、隆一も手を上げ、4人は寿司店を出るのだ。


 「其れじゃ~、吉村くん、後でなぁ~。」


 「はい、社長、ご馳走さまでした。」


 社長ら3人は、別の用事のために空港の外に出るのである。


隆一は一人残り、ホテルの部屋に入ったのだ、今日は、一体、何が起きるのだろう、と、


考えて要る内に眠ってしまったのである。


 そして、何時間経ったのか、突然、携帯電話が鳴ったのだ。


 「はい、吉村ですが。」


 「伊藤ですが、夕食でも。」


 と、誘いだった、隆一はカーテンを開けると、外は、夜だった。


 「もうそんな時間なんですか。」


 「そうよ、どう、二人で夕食でも。」


 隆一は、この日、何度驚いたか、判らないほどだった、正か、社長の秘書が新人


の僕を夕食の誘いをするなんて、と、思ったが。


 「社長は。」


 「社長と工場長は、話が長引いて少し遅れるのよ。」


 「判りました、私は、今から、シャワーを浴びてからでも良いですか。」


 「いいわよ、じゃ~、ホテルの最上階に30分後ね。」


 「はい、判りました。」


 と、返事はしたが、隆一の頭はまだ、すっきりとしていなかったのだ。


 其れに、隆一は明日の事など、忘れていたのだ、其れよりも、大急ぎでシャワーを


浴び、服を着替え、20分ほどで最上階に上がったのだ。


 其処は、ラウンジで、受付で、名前を告げると、席に案内された、其処には、既に彼


女が座っていた。


 「遅く成りました。」


 と、隆一は彼女を見ると、昼間の顔では無かったのだ、美しい、実に美しい、こんな


美人が、何故なんだ、と。


 「さぁ~、座って、お食事は何がいいの。」


 「はい、私は、お昼に食べた御寿司が。」


 「そう、じゃ~、軽めの方がいいわね。」


と、彼女はウエイターを呼び、なにやら注文をし、その後、テーブルに有った、ワイン


で乾杯し、少し待ったが、食事が届いたのである。


 「えっ、之は。」


 と、隆一は驚いた、軽い食事の筈だったが。


 「いいのよ、今日は、特別なんだから。」


 と、彼女は微笑んでいる。


 隆一も思った、確かに、今日は、特別な一日だった、その食事中は仕事の話もせず、


 世間話で時間が過ぎるのだ。


 その食事も、2時間ほど経った頃。


 「あの~、伊藤さん、僕は、明日が早いので、申し訳有りませんが。」


 「そだったわね、じゃ~、私も、少し待っててね、支払いを済ませるから。」


 彼女は席を立ち、レジへ向かい、レジで支払いを済ませると。


 「私を、部屋まで送ってくださる。」


 と、二コリとした。


 「勿論です、女性をこのまま、一人で行かせるなんて事は出来ませんから。」


 隆一は、彼女を部屋まで送って行き、部屋の前で。


 「吉村さん、コーヒーでも如何ですか。」


 と、ニッコリとしたのだ。


 「はい、少しだけしたら。」


 と、隆一は部屋に入り、ドアを閉めたと同時だった。


 「ね~、隆一さん、お願い。」


 と、言って、突然抱きつき、口を合わせて着たのだ。


 隆一も、其れに答え、その夜は、甘く激しい激闘になったのも当然である。


 「ね~、起きて、隆一さん、起きて頂戴。」


 と、耳元でささやく声がした。


 「うん。」


 と、まだ、眠りから覚めない隆一に。


 「ね~、おきてよ、お願いだから、時間なのよ、あなたってば。」


 隆一は要約目を開けたのである。


 「うん、今、何時なんだ。」


 と、聞いて要るが、まだ、目が覚めていない。


 「もう、4時よ、早く起きて用意しなきゃ~。」


 と、何処かで聞いた声だった。


 「えっ、4時だって。」

 

 隆一は飛び起きたのだ。


 「まだ、大丈夫よ、直ぐにシャワーを浴びて、ひげも剃ってね。」


 と、愛子が言う前に隆一は風呂場に駆け込んだ。


 その間に、愛子は隆一の部屋に行き、新しいスーツと下着を取りに入ったのだ。


 愛子は手馴れた様子でそして戻って着たのだ。


 その間も隆一はシャワーを浴びている。


 「ね~、隆一さん、下着と新しいスーツは此処に置いとくね、それと、ネクタイも。」


 そのネクタイは愛子が隆一の為に買った物だった。


 愛子は隆一がどんなスーツを持って要るか知って要るのだ。


 隆一の事だ、明日には、どのスーツを着るかも予想していた。


 やはり、思ったとおりのスーツを用意していたのである。


 そんな時、隆一はあがってきたのだ、下着をはき、シャツを着て。


 「あれ~、このネクタイ、僕のじゃ~無いよ。」


 「いいのよ、今日は、そのネクタイをして欲しいの。」


 と、愛子は隆一に手を合わせたのである。


 「でも。」


 「あなたがそのネクタイをするとね、一段と目立つわよ。」


 「判ったよ。」


 と、ネクタイを締める、隆一に。


 「ね~、お願いが有るの。」


  「何を。」


 「あのね、二人っきりの時はね、愛子と呼んで欲しいの。」


 「えっ、だって、僕は。」


 「いいの、私は、あなたにそう呼ばれたいの、だから、ね、お願い。」


 と、愛子は微笑んだ。


 この時、隆一は何も知らなかった、其れは。


 「用意が終わったら、朝食に行きましょう。」


 「うん。」


 と、二人はキャリーバックを引き、朝食が用意されている部屋に向かったのである。


 部屋に入ると、社長が手を振って来るようにと招くのだ。


 二人は何も無かった顔で。

 

 「お早う御座います。」


 と、二人は、社長と工場長に挨拶をし、バックを残し、朝食を取りに行くので有る。


 「工場長、どうやら、成功した様だね。」


 「その様ですね。」


 と、工場長も二人を見ている。


隆一と愛子は食事を取り席に戻って座り、まず、コーヒーを飲んだ。


 「社長も工場長も呼ばれていると言われましたが、何を話されるんですか。」

 隆一は、何を聞きたいのだ。


 「まだ、何も判って無いんだよ、それよりも、早く、食事を終わりなさいよ、私達は


終わったからね。」


 「はい、判りました。」


 隆一は、昨夜の事を思い出し、食べている、側では、愛子も、何も言わず、食べて


いる、だが、愛子は微笑みを絶やさなかったので有る。


 二人は、30分ほどで、食事を終わり、4人はホテルの前から、車に乗り、空港に向か


ったので有る。


 フライトは僅か、30分で終わり、目的の空港に着き、直ぐにタクシーに乗りホテルに


向かったので有る。


 隆一は飛行機の中でも、眠っているのだ、側の愛子は、何も言わず、時々、隆一の顔を


見るだけだった。


 ホテルに着くと、ある人物が待っていた。


 「社長、お久し振りです。」


 と、その人物は社長と握手をした。


 この人物は、一体、何処の誰なんだ、と、思う隆一だが。


 「彼が、吉村隆一君です。」


 「そうですか、貴方が。」


 と、言って、その人物は隆一に握手を求めたので有る。


 「では、行きましょうか。」


 と、その人物は先を進むので有る。


 4人と、その人物は何も話さず、エレベーターに乗り、階上の会議室に入ったのだ。


 その会議室は少人数用の会議室であった。


 「どうぞ、皆さん、お座り下さい。」


 と、体格の良い人物はコーヒーを手配した。


 直ぐに、コーヒーは配られ。


 「さあ~、まずは、コーヒーでも、飲んで下さいね。」


 と、にこやかな顔付きで有るが、数分後だった。


 「私は、警察庁の木田と申します。」


 「えっ。」


 と、隆一は大きな声を出し、愛子を見たが、知っていたのか表情は変わらないのだ。


 「吉村さん、失礼しました。」


 と、木田は頭を下げた。


 「いいえ、吉村さん、貴方が驚かれるのも当然ですよ、社長も工場長も何も言えな


かったのだと思います。」


 社長も工場長も頷いている。


 「其れに、この度は、社長と工場長に大変なご無理なお願いを致しました。


 私の話の前に、ある人物からのメッセージが有りますので。


 聞いて頂きたいと思います。」


 と、木田はテレビのスイッチを入れたので有る。


 会議室には、大きなテレビが設置されている、其処に映ったのは。


 「吉田社長、久し振りだなぁ~。」


 「えっ、正か、あの人は、総理の。」


 「そうですよ、後で説明しますので。」


 「はい、すみません。」


 またも驚きである、何故だ、何故、総理が。


 「この度は、お前に大変な無理を言って、申し訳ないと思って要る。


 お前の事だから、最高の人材を推薦してくれた思って要るんだよ。


 吉村さんと、言われましたね、この度は、大変申し訳有りません。


 実は、私と吉田は、幼馴染みなんですよ、この事を知っているのは、今、其処に居る


人達だけなんです。


 其れに、大学では、吉田がキャプテンで、私が、補佐をしておりました。


 その話は別として、今回、貴方にお願いする仕事なんですが、私の直属と言う事で、政


府関係のどの部署にも属しておりません。


 詳しい説明は木田さんから有ると思います。


 貴方に対しては、私達、全員が大変なご迷惑を掛けていると考えております。


 ですが、貴方にお願いする仕事は政府の為では有りません。


 一般の国民、其れが、日本の為に成ると考えております。


 若しも、説明を聞かれて、ご不満が有り、その様な仕事は出来ませんと、ご辞退


されても宜しいのです。


 ですが、ご辞退された時には、話の内容を一切口外されては困ります。


 其れは、貴方以外の人達に大変な迷惑が掛かると言う事に成りますので、吉村さん、


国民の為、いや、地球住民の為の仕事です。


 何卒、よろしくお願いします。


 では、私が、長々と話をする必要は有りませんので、吉田、何時か、二人で飲みに


行こうや。」


 と、総理のメッセージは終わったので有る。


 「吉村さん、大変驚かれたと思いますが、社長と総理は幼馴染みなんですよ。」


 側では、社長も頷き。


 「そうなんだよ、吉村君に、何も言えなかったんだ、本当に苦しい時間だったよ、


 すまない事をしたね。」


 と、社長は頭を下げたのだ。


 「社長、頭を上げて下さい。


 其れよりも、私は、今、頭の中が混乱しているんです。」


 木田は当然だと思って要る。


 「吉村さん、当然だと思いますよ、私が、若しも、立場が違って、吉村さんの立場で


有れば、今の、吉村さんと同じですからね。」


 「社長も工場長も知っておられ、私に説明が出来ないくらい大事な用件だと、今、


判りました。」


 「いや、吉村さん、さすがですね、私でしたら、まだ、何が、なんだか、わからない


ですからね。」


 側では、愛子も頷いている。


 「だけど、何故、私なんですか、日本中には、私以上に頭もよく、体格も素晴らしい


人達が多勢居ると思うんですが。」


 隆一は、選ばれた理由が知りたいのだ、ひよっとすると、僕は、総理の為に特別な。


 「吉村さん、確かに、言われる通りです。


 でもね、其れは、表面上だけなんですよ。」


 「えっ、でも。」


 「吉村さん、社長の会社にも優秀な人材が多く居られますよ、でも、其れはね、仕事


が出来るだけの話なんですよ。」


 「でも、民間の会社では、最初に仕事が出来る人達が、出世されと、私は、思ってい


ます。」


 「吉村君、其れが、普通なんだよ、私はね、総理から話を聞かせれた時に、其れは、


口に出せない程の驚きだったんだよ、其れにだ、総理から、こんな話を聞きましたと、


一体、誰に相談が出来ると思うんだ、確かに、私と総理は幼馴染みだよ、でも、今はね、


総理大臣なんだ、その総理大臣が私を信用して話たんだ。」


 社長も総理から話を聞き、大変、困惑していたので有る。


 「社長、総理から何時頃話があったんですか。」


 「吉村くん、はっきりと言うがね、あいつはね、木田さん、失礼しました。」


 「いいんですよ、社長と総理の仲ですから、何も、気にしませんから、どうぞ。」


 と、木田は微笑んでいる。


 「木田さん、有難う。」


 と、社長は、軽く頭を下げたので有る。


 「吉村君、私とあいつは、総理なんだが、あいつが政界に入った頃の話なんだよ。」


 「えっ、そんなに古い話なんですか。」


 正か、そんなに古い頃からの話だったとは思いもつかなかったのである。


 「そうなんだ、あの頃はね、まだ、お互い若かったから、時々、二人で、お酒を飲む


時間が有ったんだ、あいつはね、いつも言ってたんだよ、何故、法律が有るのに、その


法律で裁く事が出来ないんだってね。」


 社長は若い頃の話を思い出しながら、隆一に話すのだった。


 隆一は、何も聞かず、社長の話を聞いていた。


 社長の話は、1時間ほど続き。


 「其れでね、総理は何か良い方法が無いかって言ったんだよ。」


 「社長は、なんて答えられたんですか。」


 「うん、私はね、笑いながら言ったよ、闇の殺し屋でも、雇えばいいんだってね。」


 「えっ、本当に言われたんですか。」


 社長は笑い。


 「本当に言ったんだよ、だがね、そんな話、冗談に決まってるじゃないか、と、言っ


たんだがね。」


 隆一も冗談だと思ったのだ。


 「それがだよ、あいつはね、真剣に聞いて要るんだよ。」


 「殺し屋を雇う話をですか。」


 「そうなんだ、だがね、日本は法治国家なんだ、政府がだよ、殺し屋を雇って、そんな


話を誰が許すと思う。」


 「勿論ですよ。」


 「だがね、この世の中には、法律の網をくぐって悪事を働く連中が五万といるんだ。」


 隆一もわかっていたのだ。


 「私も、わかりますよ、不法投棄なども、その内のひとつだと思いますね、それに、


私が、聞いた話しでは、日本が経済発展に伴い、日本の各地で公害の問題も多く有った


と聞いています。」


 木田は頷き、内心、之だと思ったのだ。


 「そうなんだ、法律を盾にすれば経済の発展は遅れる、だが、法を破る者にとっては、


直ぐに罰せられる事は無い、早くても、数年は掛かる、遅く成ると数十年の時間が


かかる、その間に、稼ぐだけ、稼げばいいんだと企業家は思っていたんだ。」


 「そうですね、その為に、多くの人達が犠牲に成ったと聞いています。」


 「そうなんだ、その犠牲に成った人達の生活は悲惨だったんだよ。」


 隆一は頷き。


 「私も、テレビで、何度も見てきましたので、本当にあれはひどいとなんて話じゃ~


無かったんですね。」


 隆一が話をする事で、吉村と言う人物は話をすれば、理解して貰えると考えたのだ。


二人の話は、その後も続き。


 「吉村くん、君はどう思うかね、法律だけで、物事が解決できない問題をどうやって、


解決すれば良いか。」


 「社長、簡単ですよ、殺し屋を雇い入れるんですよ、政府の公認でね。」


 と、言った隆一は大笑いするので有る。


 その時だった。


 「社長、吉村さんも、そろそろ、お昼に近いんですが。」


 「お~、そんな時間になってたのか、之は、失礼した、木田さん、お食事に行きませ


んか、話しは、食後にと言う事で。」


 木田は頷き。


 「そうですね、社長が熱弁を振るわれておられましたので、私も、すっかり時間の


経つのを忘れておりましたよ。」


 工場長は笑って。


 「今日の社長は何時も寄り熱弁ですね。」


 「そうか、何時もとそんなに違うのか。」


 と、社長も木田も席を立ち、部屋の外へと向かおうとするのだ。


 「伊藤さん、席の予約は。」


 「はい、手配済みです。」


 と、愛子は微笑んでいる。


 「有難う、では。」


 「皆さん、その前に服を着替えませんか、私達も表面上は旅行者ですのでね~。」


 木田をはじめ、男はスーツ姿である、これでは、誰だ見ても旅行者には見えないのだ。


 「そうですね、では、その様にしますか、でも、余りラフな格好では。」


 「社長、何も考えない事ですよ。」


 と、工場長はニヤットするのだ。


 「吉村さんも、用意はされて要ると思いますが。」


 「はい、私も、一応は用意してきましたので。」


 隆一は、予想外の展開で困ったのだ、ラフな服装は、夜外出する為の物だった。


 「では、皆さん、着替えが終われば、食事に、それと、吉村さんは伊藤さんと、行動


を共にして下さい。」


 「えっ、私は、伊藤さんとですか。」


 愛子は、笑みを浮かべ。


 「吉村さん、会議中以外は、私と吉村さん、木田長官と社長、其れに、工場長の3人


が行動を共にする事に。」


 「何故なんですか、私は、訳を知りたいんですが。」


 「吉村さん、今回の会議は誰にも知らない事になっています。


 私と社長達はビジネスと言う事に、吉村さんと伊藤さんのお二人は、新婚旅行と言う


事になっておりますので、食事も、我々とは、別の席に。」


 「えっ、私と伊藤さんは新婚旅行なんですか。」


 隆一は、正かと思ったが、そう言えば、彼女だけが、部屋を予約していなかった。


 「あっ、其れで、私の部屋には。」


 愛子は何も言わず、二コットした、だが、隆一も心の中では、やったぁ~と叫んだ。


 「吉村君、伊藤さんじゃ~無かった、このホテル内では、新妻なんだからね、よろしく


頼むよ。」


 と、社長は知って要るような顔つきである。


 「まぁ~、其れよりも、着替えて食事に行きましょうか、吉村さん、私達の食事が終わ


りましたら、30分前後に、この会議室に、と、言う事で、では。」


 と、木田は、少し嬉しそうな顔付きで有る。


 「伊藤さん、初めから、知ってたんですか。」


 愛子は微笑みながらうなずき。


 「私も、今、はじめて知ったところなんです、でも、私は。」


 と、何かを考えて要る様子で有る。


 「えっ、それじゃ~、伊藤さんは承知するんですか。」


 隆一は気持ちとは反対の言葉を出していたのだ。


 「でも、今更、考えたって仕方無いと思うの、之も、此れから先の事も、考えて


なのかなぁ~って。」


 「判りました、でも、何か、変な感じがするんだけど。」


 言葉とは反対に隆一は嬉しかったのだ。

「いいのよ、私とあなたとは新婚旅行中なんだから。」


 と、言った、愛子の手は隆一の手を握っている。


 隆一の反応も早かった、愛子の手を軽く握り返したのである。


 二人は、会議室を出て部屋に戻り、着替えを済ませるのだ。


 「ね~、お願いが有るの。」


 「なんですか。」


 「その他人行儀な言葉使いはやめてね、それと、今から、私は、伊藤さんじゃなくて、


愛子と呼んでね。」


 隆一は、嬉しさを隠している、本当は叫びたいのだ、愛子は、オレの女だぞ~って、


誰にも、渡さないからなぁ~って。


 「でも、今、急に言われても。」


 「隆一さん、本当は嬉しいんでしょう、私には、わかるのよ。」


 と、愛子はニコットとした。


 「でもね~。」


 「いいのよ、ウ・フ・フ。」


 やはり、バレタかと、隆一は思ったが。


 「そろそろ、行きましょうか。」

 

 と、愛子は、二コ二コしながら、隆一の手を握り、引っ張るのだ、隆一は、内心、


大変な事になったぞ、社長秘書の伊藤愛子が、僕の妻だと、だが、本物の妻では無い。


 其処の部分だけが、少し不満だったが、このホテルでは、堂々と言えるのだ。


 エレベーターで下り、レストランに入った。


 木田と社長、工場長は、既に、食事に入って要る。


 ウエイトレスの案内で席に着き注文は愛子がした。


 ウエイトレスが戻って行くと。


 「愛子さん。」


 「うん、な~に。」


 と、愛子は、嬉しさが顔に表れている。


 「実はね、工場の人達は、君の事で、色々は噂を話すんだ。」


 「知ってるわよ。」


 「えっ、知ってたんですか。」


 「大体はね、私は、社長の愛人だって、本当はね、私、社長の愛人なのよ。」


 と、愛子は笑みを浮かべている。


 「えっ。本当なのか。」


 「何、言ってんのよ、そんなの、ぜ~んぶ、嘘に決まってるでしょ。」


 愛子は、顔では怒ってはいないのだ。


 「本当なんですね。」


 愛子は、二コットして、頷いたのだ。


 その顔を見て、隆一はほっとしたのだ。


 「でも、本当の話をするわ、私はね、総理の。」


 「えっ、総理の愛人じゃ~。」


 隆一の、早合点で有る。


 「隆一さん、話は、最後まで聞いてよ、私は、総理の私設秘書なのよ。」


 「えっ、正か。」


 隆一は、一瞬、大声を出し掛けたので有る。


 「本当なんですか。」


 愛子の表情は変わり。


 「本当よ、私が、大学の在学中の話なんだけど、選挙カーのウグイス嬢だったのよ。」


 「あの選挙の時に聞えてくる、女性の声ですか。」


 「ええ、そうなのよ、何度か行ったんだけど、その内、私も、何時頃かわからないん


だけど、事務所で仕事のお手伝いをする様になったのよ。」


 「じゃ~、その頃から、総理の私設秘書みたいな仕事に入ったんですか。」


 愛子は、大学一年から、総理の仕事を手伝っていたので有る。


 「でも、その私設秘書が、何故、民間企業の社長秘書に。」


 隆一は、不自然だと思うのだ、誰が、考えても、私設秘書が、それも、一国の総理


大臣の秘書が、民間企業の社長秘書に。


 「でも、総理の秘書をされていて、何故、民間企業の社長秘書になられたんですか。」


 隆一が疑問に思う事は、愛子もわかっている。


 「隆一さんもそう思うでしょう、でも、私は、今でも、総理の私設秘書なのよ。」


 「えっ、何が、なんだか、僕には、訳がわからないよ。」


 隆一は、困惑していると、愛子もわかっているのだ。


 「この話をね、理解していただくまでには、時間が必要なのよ、私は、総理の命令で、


この会社の社長秘書として仕事をして要るのよ。」


 「総理の命令なのか。」


 「ええ、そうなのよ、私の仕事なんだけど、隆一さんのような人物を見つけ出す


事だったの。」


 「其れが、総理の命令だったのか、じゃ~、社長秘書は。」


 「其れはね、表面上だけなのよ、でもね、社長秘書の仕事、今回のように、隆一さん


のような人物を探し出す仕事、この両方を、誰にも、知られずに行なうのは大変なのよ。」


 「でも、僕は。」


 と、言いかけて、隆一は口をつぐんだ。


 「隆一さんが、思ったのも当然よ。」


 「それじゃ~、社長も、当然、知ってったて。」


 愛子の表情は沈んだ。


 「勿論、ご存知よ、でもね、社長は何も言えないのよ、私は、社長に悪い事をしたと


思ってるんだけど、社長はね、何も、気にするなって、言ってくださったのよ。」


 「社長も、全てを知って要るから、反論にしないって事か。」


 隆一は、社長の心情を考えた。


 社内の噂は知って要る、だが、噂が出た事で、愛子は人選が行ないやすいと考えた。


 「私はね、社長との噂が出たときに、社長に、大変、申し訳ないと思ったの、だけど、


反対にね、人選を進める事が楽に成ったのよ。」


 普通は、反対だろう、社内で噂が出ると言う事は、相手に警戒される事が多いはずだ、


と、隆一は考えたのだ。


 「でも、その噂が支障をきたす事もあると思うんだ。」


 「勿論よ、噂が本当なのか、誰もが知れたかったのよ、でも、私はね、上手にはぐら


かす事が出来たのよ。」


 「でも、今まで、何人の男性と。」


 隆一は、聞きたくは無いが、何人の男性と関係を持ったのか知りたかったのだ。


 「隆一さん、誤解しないでね、私は、この仕事で、関係を持った男性は一人もいない


のよ、でもね、隆一さんとは、普通の男女の関係なのよ。」


 愛子の表情は少し沈み。

 「えっ。」


 と、隆一は、正か、そんな話を、誰が、信じると思うと、言いたいのだ。


 「じゃ~、僕の事は。」


 「私は、隆一さんが大学に入った頃から知ってたのよ。」


 僕が、大学に入った時、じゃ~。」


 「そうなのよ、あの時、アーチェリー部に誘った女の子が居たでしょう。」


 そうだ、あの時、可愛い女の子が。


 「えっ、じゃ~、あの時、僕に声を掛けたのは、愛子さんだったんですか。」


 「そうなの、私なの。」


 愛子は嬉しかった、やっと、隆一は思い出してくれたんだと。


 「でも、あの時だけで、後は、口も聞いてくれなかったじゃないか。」


 「ごめんね、あの頃は、キャプテンと付き合ってたのよ、でも、キャプテンとは、


半年後に別れたのよ。」


 だったら、何故、声を掛けなかったんだよって言いたいよ。


 「じゃ、それからは別の人と。」


 「そんなの有る訳ないでしょう、あれからは、私は、隆一さんをずっと見てたのよ。」


 愛子は、その時は、それで十分だったのだ。


 「じゃ~、彼氏は。」


 「そうね、最近までは居なかったので、でも、今はね。」


 と、愛子は嬉しさに微笑むのだ。


 「今はって、一体。」


 隆一は、わざと聞いた。


 「そんなの決まってるでしょ、隆一さん、貴方の事よ。


 と、また、微笑むのだ。


 「其れじゃ~、今は、この僕が、愛子さんの。」


 「いやよ、そんな呼び方、愛子と呼んで、ね。」


 愛子と言う女性は、本当に隆一の妻になりたいのだ。


 「だけど、昨日の今日だし。」


 隆一は、少し迷っている。


 「いいの、本当に、私は、其れで満足なんだから。」


 「少し、時間は掛かると思うけど。」


 「いいのよ、でも、社長達の前ではね。」


 「うん、其れは、判ってるよ、僕もそれくらいはね。」


 隆一と愛子は食べる事も忘れ、話に夢中だった。


 その時、愛子の携帯がなった、木田からである。


 「はい、伊藤です。」


 「木田です、我々は部屋に戻るから、30分後には戻ってくれますか。」


 「はい、承知しました。」


 「それと、彼をものにしましたか。」


 「はい。」


 と、言って、愛子はスイッチを切った。


 「木田さんよ。」


 此処では、会社名を出さない事になっている。


 「長官。」


 「駄目よ。」


 と、愛子は口に手を当てたのだ。


 「ごめん。」


 と、隆一は手を合わせたのだ。


 「いいのよ、でも、此れからは、気を付けてね、私達は新婚の夫婦で、あの人達は


商談で、このホテルにね。」


 と、愛子は、それ以上は言わなかったのだ。


 「彼の話は、会議が終わってからにするわ。」


 「うん、判ったよ、ごめん、直ぐに戻ってくるからね。」


 と、隆一は席を立ったのだ。


「いいわよ、直ぐに戻ってきてね。」


 と、愛子も席を立ち、会計を済ましに行くので有る。


 会計が終わる頃、隆一が戻って着た。


 「ごめん、じゃ~、僕達も。」


 「そうね。」


 と、愛子は、腕を回すのだ。


 この二人、何処から見ても、新婚のカップルで有る。


 二人は、エレベーターの乗り、会議室の一つ上で降り、階段を下り、会議室に入った


ので有る。


 何故、こんなに用心する必要が有るんだと、隆一は思うのである。


 当然だった、其れは、まだ、確信部分の説明を聞いて無かったためである。


 会議室では、既に、3人が何かを話している。


 「吉村くん、座って、伊藤さん、コーヒーを頼みます。」


 「は~い。」


 と、愛子は大変機嫌がいいのだ。


 「其れじゃ~、今から、確信部分の話をしますので。」


 「長官、私もバカでは有りませんよ、総理が言われた事もわかっています。


 でも、何故、私のような若造が、総理の、それも、直属の部下で、更に、政府機関の


何れの部署にも属さない、そんな仕事が有るんですか、それも、公に出来ない程大事な


仕事がですよ。」


 隆一は、読めていたのか。


 「吉村さんの言われる通りです。


 実は、この私も、総理の後輩なんですよ、子供の頃は、家も近所でしたからね、話は


戻りますが、今回、吉村さんの仕事というのは、土壌分析部、特別捜査官と、言う仕事


なんです。」


 「えっ、なんですか、その特別捜査官と言うのは、でも、政府や地方自治体では、そ


んな仕事をされて居る人達が、多勢居ると。」


 「その通りです。


 我々の国でも、その専門家は居られますよ、でもね、その人達は分析だけが仕事なので。


 その後は、各関係機関に報告するだけなんですよ。」


 「でも、其れが普通じゃないんですか、後は、別の部門が。」


 「勿論、その通りですよ、でもね、報告され行政が動き出すまで、時間が掛かるんです。」


 それが、今の実情だと。


 「でも、それが、現状じゃ~ないんですか、行政も早く動く気持ちがないからだと、


私は、思いますが。」


 「吉村さん、其れを、総理は何とかできないかと、考えられておられるんです。」


 「長官、この国は法治国家でしょう、法律を守るのが、国民の役目だと思いますが。」


 「吉村さんの言われる通りです。


 国民の全てが、法律を守って下されば、警察も裁判所も必要は無いですよ、でもね、


悪い事を考える人間はね、その法律を利用しているんですよ。」


 その時、愛子がコーヒーを運んで着たのだ。


 「伊藤さん、有難う、先に、コーヒーでも。」


 と、木田は美味しそうに口に運んでいる。


 隆一も、一口飲んだ、本当に美味しいコーヒーである。


 「伊藤さんは、コーヒーを立てるのが上手なんですね。」


 と、隆一は、愛子を見たのだ、愛子は何も言わず、微笑むだけである。


 「吉村さん、何故、人は法律を守らないと思いますか。」


 「えっ。」


 突然の話だった。


 「僕は、法律を守っていると思いますが。」


 「うん、確かに、其れは、誰でも、思う事なんです。


 例えばですよ、個人が所有している山林に、廃棄処分になった、コンクリートの


破片や、不要な土を放棄した建設会社が有ると思って下さい。」


 「はい、僕も、何度かテレビのニュースで見た事が有ります。」


 「その廃棄された土砂は積み上げられ数十メートルになっています。


 廃棄に着た建設会社は正規の価格で引き取り、本来であれば、土砂やコンクリートの


破片は、正規の処分所に持って行くんですが、不法投棄すれば、処分所に支払う、お金


は必要無い訳ですよね。」


 「それじゃ~、その建設会社は、不当な利益を上げているんですね。」


 木田は頷き。


 「その通りですよ。」


 「でも、不法投棄された山林の持ち主は、何も言わないんですか。」


 「一体、誰に言うんですか、その建設会社にですか、建設会社もわかっていますよ、


でもね、こんな悪事を働く建設会社や土砂を運ぶ運送会社が、普通の会社だと思いま


すか。」


 隆一は考えていた。


 「でも、法律がその為に作られたんでしょう。」


 木田は頷き。


 「勿論ですよ、でも、その法律が、また、厄介なんですよ、その山林の所有者は何処


に行くと思いますか。」


 「勿論、警察でしょう。」


 「その通りです。


 でも、問題があるんですよ、警察は、民事には手を出さないんですよ。」


 隆一は驚いた。


 「えっ、それじゃ~、何の為の警察なんですか。」


 隆一は、怒りが込み上げてきたのだ。


 「うん、其れが、現状なんですよ、その所有者は仕方無く、裁判所に行き、裁判を起こ


すんですがね、この裁判も長い時間が掛かるんです。


 其れに、多額の費用も必要なんですよ、そのために殆どの所有者は泣き寝入りをする事


に成るんです。」


 「そんな事が許されるんですか、本当に。」


 隆一は怒り心頭である。


 「私も、吉村さんと同じ気持ちなんですよ、それにですよ、廃棄された物に、どんな、


危険な物質が含まれて要るのか、わからないんですよ、山林は荒れるし、雨が降れば、下


流に有害な物質を含んだ水が流れて行くんです。」


そんな事が許される法律が悪いんだ、早く法律を変更出来ればいいんだと、隆一は思う。


「長官、早く法律を変更すればいいんじゃ~ないですか、法律さえ整備出来れば、問題


は解決出来ると、僕は思いますが。」


 隆一は、簡単は話しだと思って思って要る。


 「勿論、吉村さんの言われる通りです。


 ですが、法律を変更すると言うのは、簡単な話じゃないんですよ、何十項目、いいえ、


何百項目も作り、その法律を国会で審議する、この審議中に国会が解散すれば、また、初


めからから出直すんですよ、其れにね、既得権益を持った団体が議員に陳情するんですよ、


私の属している警察でも、多くの法律を変更したいと思っていますがね、簡単じゃないん


ですよ。」


 隆一が思って要る以上に、ひとつの法律を作り上げるまで、数年も掛かるのだ。


 「それじゃ~、さっき言われた、建設会社はどうなるんですか。」


 「どうにも成らないんですよ、但しですがね、その不法投棄した場所が、公共機関の土


地であれば、行政機関が税金を使って、不法投棄した物を運びだすんですがね、其れには、


市民が納税した税金が使われるんですよ。」


 「えっ、それじゃ~、僕が納めた税金も使うんですか。」


 「その通りですよ、でも、後から建設会社に請求しますがね、それでも、直ぐには支払


いは無いんですよ、一番、最悪の時は、建設会社を倒産させるんです、倒産した会社から


は税金の徴収は出来ませんからね、本当に厄介な話ですが。」


 「僕は、そんなに大変だとは思って無かったんです。


 僕も少しは、わかってきましたよ。」


 「そうですか、其れは良かったです。」


 「はい、其れで、私の仕事と言うのは、さっき言われました特別捜査官なんですか。」


  「その通りなんですよ、この捜査官なんですが、特権が有りまして、どんな方法を


使ってもいいんですよ。」


 方法は、全て隆一に任せるというのか。


 「えっ、何をしてもいいと言われるんですか。」


 隆一は驚いている、この捜査官には方法論は必要無いと言うのだ。


 「でも、直ぐに、僕だって事がばれてしまいますよ。」


 「いいえ、其れは有りません。」


 「えっ、だって、僕の正体を相手に知らせる事になるんでしょう、其れに、P・Cだっ


て、使えば警察も特定は出来ると思いますが。」


 「吉村さんのP・Cには、政府機関も入る事は不可能なんです。


 要するに、発進元は不明だと言う話です。」


 「でも、そのP・Cに入る為のアクセスコードが必要と思うんですが。」


 木田はニヤリとして。


 「外見上は普通のP・Cですが、吉村さんが、独自のアクセスコードを入力するだけ


なんですが、20桁も有る、コードを一体、誰が解けると思いますか、其れは、吉村さん


専用のP・Cですから。」


 隆一は少し面白くなってきたと思うのだ。


 「僕、専用のP・Cと言われても。」


 隆一は、P・Cの扱い方は慣れているのだ。


 だが、一体、どんなP・Cなんだ。


 「吉村さんだけが、使用出来ると言う、P・Cなんですよ、今、私の部下が最後の


作業に入っていますので。」


 「えっ、長官の部下がですか、それでしたら、その人が入る事も出来るのでは。」


 「いいえ、数人の部下が作っていますが、彼らは、作っている内容は何処にでもある


内容なので。」


 「それじゃ~、そのP・Cは誰が使用してもいいんじゃ~ないですか。」


 隆一は本気になってきたと、木田は思って要るのだ。


 「その内容の他に、特別に作った物が有ります。


 その内容は、私と伊藤さんだけが知って要るんですよ。」


 と、木田は愛子を見たのだ。


 「え~、何ですって、伊藤さんが作られた特別なものとは、一体。」


 愛子は、二コリとして。


 「吉村さん、今、此処には有りません。


 あるところに保管して有りますので。」


 隆一は、何故、愛子がそんな作業をしたのか、其れよりも、その中味とは、何が、


入って要るんだと考えるのだ。


 「一体、何が、入って要るんですか。」


 「申し訳有りませんが、今は、言えません。


 何故だと思いますか、このホテルは民間ですよ、何処で、誰が聞いて要るか判りませ


んので、だけど、言える事は、この中味も普通の人達が見ても理解はできませんよ。」


 「えっ、普通の人が見ても判らないって、じゃ~、僕が見ても判らないですよ。」


 愛子は微笑み。


 「其れがね、解る様になっているんですよ、今、その作業を進めて要るのよ。」


 「其れに、吉村さんには、特別仕様の車を使って頂きますからね。」


 専用のP・C、専用の車、其れじゃ~、まるで、映画の世界じゃ~、ないかと。


 「特別仕様の車って。」


 「この車はトラックなんですが、そのトラックも、今、改造中なんですよ。」


 「僕は、まるで、007のボンドですね。」


 と、ニヤットしたのだ。


 木田も、彼は、どの様な仕事と考える暇も無く、説明に乗ってきていると思うである。


 「その通りかも知れませんね、映画の中では、高級な車なんですが、トラックで申し訳


有りませんね、このトラックには、専用のP・C、それと、さっきも言いましたが、検査


機器も積み込んで有ります。」


 「検査機器までもあるんですか、でも、僕は、そんな、機器を扱う事なんかできません


よ。」


 「別に心配は有りませんよ、吉村さんなら簡単に操作は出来ますから、その為にですが、


此れから勉強して頂く事に成りますが。」


 「え~、此れから、また勉強するんですか、僕は、勉強が好きじゃないんですが。」


 と、隆一は、少し不安に思ったのだ。


 「吉村さん、勉強と言っても、学校の勉強じゃないんですよ、何か、あったときのため


なんですよ、要するに、検査機器の扱い方ですね、例えば、この水に何が含まれて要るの


かを調べるのは機器ですからね。」


 「其れで、僕の仕事なんですが、各種の団体から介入が有ると思うんです。


 例えば、警察官に止められ、職務質問も有ると思いますが、車は、何処の管轄に所属


して要るんですか。」


 「正式には有りませんよ、ただ、車は警察庁の扱いになっています。


 それとは、別にですが、警察庁のバッチも所持して頂きますから。」


 「えっ、それじゃ~、僕は、警察庁の。」


 隆一は少し喜んだ、何時、警察官に止められ、質問されるか、この仕事に就けば、


その質問もないと言う訳だ。


 「吉村さんには、最低でも、二つの顔が有りますよ、一つは、警察庁長官の直属と、


もう一つは、環境省の特別捜査官、そして、最後は総理直属だと言う事です。

之だけ揃えば、どの行政機関も吉村さんに、質問は出来ないと言う事ですよ。」


 隆一は、何かわからないが、この仕事をやりたいと思うのだ。


 「それじゃ~、僕の仕事に命令出来るのは。」


 「この仕事は命令される事は有りませんよ、命令と言うよりも指示ですね。」


 「えっ、指示だけなんですか。」


 「その通りですよ、例えば、次は、この様な問題が有りますので、宜しくお願いしま


すと、ただ、それだけですよ。」


 命令される仕事では無い、だが、民間の会社でも、表面上は指示である。


 だが、業務命令なのだ、其れが普通なのだ、それなのに、今度の仕事は本当に指示だけ


なのか、その指示と言うが、命令だとすれば。


 「その指示なんですが、解決方法も指示されるんですか。」


 「いいえ、何も有りませんよ、全て、吉村さんが考えて行なって頂く事に成りますよ。」


 「本当に、僕が考え、実行するだけなんですか。」


 隆一は、まだ、疑っていると、木田は思うのだ、だが、後、少しだと。


 「勿論ですよ、それと、何よりも一番大事なお金ですが、吉村さんには、特別なカード


と現金をお渡しします。


 このお金ですが、どの様に使われてもいいんですよ、其れに、領収書も必要有りません


からね、後は、携帯電話ですが、これも、特別仕様です。


 普段は、何処にでもある普通の携帯ですが、特別の番号を入力すれば、総理と直接お話


しが出来るように成ります。


 其れに、私と伊藤さんともです。


 先程のP・Cと同じで、例え、何かの事件が起きて、この携帯を警察が調べても、何も、


判らないんですが、警察が調べて出てくるのは警察庁の番号で、私の部下だと言うだけす


からね。」


 「えっ、僕が事件を起こすんですか。」


 「吉村さん、そうじゃ~ないんですよ、何かの事件が起きた、警察の検問では警察庁


のバッチがあれば、何も、心配有りませんが、何かの約に立つだけの話なんですよ。」


 「僕は、映画の中で活躍する特別捜査官と言う事ですね。」


 隆一は、この仕事をやり遂げるだけの思いは出来たのである。


 「但しですよ、吉村さんの仕事上、どんな事があっても表には出ない事です。


 何時も、影になって、仕事を完遂して頂きたいんです。」


 「判りました、でも、此れからは勉強に入るんですね。」


 「いや~、簡単な事ですから、それと、吉村さん、之は、大事は話しなんですが、


 勉強の他に、特別な訓練があるんですが。」


 ほら、やっぱりきたか、映画でも、主役は特別訓練をする、その訓練とは。


 「どんな訓練なんですか、例えば、柔道とかは。」


 「いいえ、射撃訓練ですよ。」


 「えっ、なんで射撃訓練が必要なんですか。」


 「吉村さんは警察庁のバッチも持つんですよ、警察官と自衛官、さらに、海上保安官


だけが、日本では、射撃が出来るんです。


 ですが、特別捜査官なので特別訓練に入って頂きます。」


 「はい、判りました。」


 隆一は正か、射撃訓練まで有るとは思わなかったのだ。


 だが、この射撃訓練が一番大事である。


 「吉村さん、それと、外国語なんですが。」


 隆一は、何故だか知らないのだが、英語、フランス語、ドイツが話せるのだ。


 「吉村さんは、外国語が得意のようですね。」


 「僕も、何故かわかりませんが、3ヶ国語が話せるんですよ。」


 と、隆一は自信たっぷりだった、それでも。


 「其れで、後は、中国語とスペイン語を覚えて頂きたいんです。」

 

 「まだ、中国語とスペイン語もですか。」


 隆一は、少しだが、中国語も話せるのだ。


 「僕も、少しだけしたら、話は出来ますが。」


 この時、社長も工場長も大変な驚きだった。


 「長官、ちょっと、失礼、吉村君は3ヶ国語も話せるのか。」


 「はい、でも、僕は、履歴書にも、面接の時にも、何も言って無かったんですが。」


 「工場長、之は、我が社にとっては、大変な損失だよ。」


 工場長も頷き。


 「私も、はじめて知りましたよ、吉村君の様な人材は、何処にも出したくは無いです。」


 「社長、工場長、申し訳有りません。


 でも、僕は、長官のお話を聞き、新しい仕事をやりたいと思ったんです。」


 「うん、仕方無いか、でもなぁ~。」


 と、社長は、なんとも言えない顔付きになったのだ。


 「社長、今更、遅いですよ、でも、吉村君が我が社に居た事だけは。」


 「うん、そうだなぁ~、木田さん、吉村君の事をよろしくお願いしますよ、でも、


今まで、聞いておりましたが、此れから、吉村君がする仕事は、誰にも、知られては


成らないとは、本当に残念ですね。」


 「社長、其れが、彼の仕事なんですよ。」


 「それじゃ~、我々も、何時、吉村君の標的になるかわからないと。」


 木田は笑って。


 「社長、其れは無いと思いますよ、社長の会社を全て調査したんですがね。」


 「えっ、其れじゃ~、我々も調べられたと言う事ですか。」


 「申し訳有りませんが、吉村さんの標的になるのは全てなんですよ、我々の組織では


日本中の会社や個人、この個人と言うのは、噂話しが本当なのかを調べる、特別な調査


機関が有ります。


 その調査機関が調査し、最優先事項から、吉村さんの所に送られるんですが、調査


機関にも吉村さんの存在は知られていないんですよ。」


 「えっ、それじゃ~、誰が、その報告書を届けるんですか。」


 「それだけは、社長や工場長が居られるので、申し訳ないんですが。」


 「別にいいんですよ、でも、我々の会社も調査の対象だったとはね~、此れからは、


隠し事はなしにする事になるなぁ~。」


 「社長、我々の仕事は、今まで通り、正直に行なえばいいと思いますよ。」


 と、社長と工場長は照れ笑いをするのだ。


 「吉村さん、2~3日は、このホテルでのんびりとして下さいね。」


 「2~3日ですか、その後は。」


 木田はニヤリとして。


 「化学の勉強ですね、それと、中国語とスペイン語を完全にマスターして頂きます。」


 隆一は、少し重たく感じるのだ。


 「化学の勉強かぁ~、余り、好きじゃ~ないんですが。」


 「判っていますよ、でも、一通りは覚えて欲しいんですよ。」

 木田も、隆一が苦手とする学科である事は知って要る、だが、此れからの仕事のため


でも有るのだ。


 「はい、判りました、でも、中国語とスペイン語は、何処かの専門学校に行けば、教


えてもらえますが、化学の勉強は、何処で受けるんですか。」


 隆一にすれば、少し不安だった、だが、その不安は的中したのである。


 「伊藤さんが、全て教えてくれますよ。」


 やはり、そうか、何か可笑しいと思っていたのだ。


 「伊藤さんがですか、でも、今の伊藤さんの仕事上、僕とは関係がなくなると思う


のですが。」


 愛子は微笑んでいる。


 「いや、其れが、大丈夫なんですよ、伊藤さんは、数日後に退職する事になって


おりますので。」


 「えっ、本当なんですか。」


 「そうなんだ、吉村君とは、別の仕事で外国の企業に行く事になるんだよ。」


 「えっ、そんなのありですか。」


 「本当なのよ、貴方には悪いんだけど。」


 隆一は、身体から力が抜けるようだった、それじゃ~、あの夜の出来事は、全て、僕


を引き込む為の芝居だったんだと、だが、本当の理由は知らなかったのだ。


 「まぁ~、吉村さん、2~3日は、伊藤さんと夫婦なんですからね。」


 と、木田は愛子に二コリとしたのだ。


 隆一は、訳がわからなくなってきた、愛子は、あの時、僕の事を大好きだと言った、


 あの言葉も嘘なのか、隆一は、愛子に腹を立てたのだが、今更、何を言っても変わる


事なんかない、この女性と二度と会う事も無くなるのか、と、思うと、それじゃ~、


この2~3日は、と、考えて要る隆一は、ニヤリとしたのだ。


 「木田さん、それと、さっき、言ってた射撃訓練なんですけど、僕は、一度も、拳銃


なんか、撃った事も無いんですよ。」


 木田は頷き。


 「勿論、判っていますよ、その場所に行くときになればわかりますので、今は、話が


出来ませんので。」


 「そうですよね、僕は、まだ、特別捜査官になっていないんですから、そんなところ


に行ける訳がないですよね。」


 隆一は、愛子と別れたら、この射撃訓練に集中しようと考えていたのだ、其れは、


少しでも、愛子の事を思い出したくないからだ。


 「社長、工場長、短い間でしたが、お世話に成りました。」


 と、隆一は、何を思ったのか、突然言ったのである。


 「吉村君、突然どうしたんだ、まだ、正式に会社を辞めたんじゃないんだろう。」


 「えっ、でも、後、2~3日で、僕は別のところに。」


 「何を、言ってるんだよ、その2~3日は、伊藤さんとだなぁ~。」


 隆一の頭は混乱しているのだ。


 「そうですよ、このホテルで、伊藤さんから、更に、詳しい話を聞いて下さい。


 それから、一度、会社に戻って頂きますから。」


 ふん、そうか、それから、退職届けを書くんだな、と、隆一は勝手に思って要る。


 「そりゃ~、そうですよね。」


 と、隆一はごまかしの照れ笑いをするのだ。


 「そろそろ、お昼近くに成ってきましたので。」


 愛子は、昼食の時間だと、木田に告げたのである。


 「もう、そんな時間なのか、吉村さん、昼食後、我々は、ホテルを出ますので。」


 「えっ、でも、まだ。」


 「吉村さん、私達は別の仕事で来ているんです。


 吉村さんと伊藤さんは、昼食後、観光地を回って下さい。


 之も、仕事ですので、その時、伊藤さんから話が有ると思いますよ。」


 と、木田と社長、工場長の3人は、さっさと部屋を出て行ったのだ。


 隆一は、何か、気まずい雰囲気だと感じて要るが。


 「ね~、私達も行きましょうよ、早く。」


 愛子の素振りは、何処から見ても、新妻である。


 エレベーターを降り、レストランに入った愛子は、隆一の手を引っ張り、椅子に座り、


隆一は、この愛子と言う女性が理解できなかったのである。


 あれほど、燃えながら、一日も経たない内に、私と別れてねって言っている様だった。


 「ねえ~、ビールでも飲まない。」


 隆一は、昼間から、お酒を飲んだ事は無かったのだ。


 「僕は、別に。」


 と、言ったが、側に着たウエイターは二コ二コとしている。


 そうか、新婚さんだ、昼間にビールを飲んで、その勢いで、部屋に戻り、と、隆一は


想像している。


 「ねえ~、何か、可笑しい事でもあったの。」


 と、愛子は、隆一の顔を覗きこんだのだ。


 「いや~、何も。」


 と、言うのが、精一杯だった。


 その時。


 「どうぞ。」


 と、ウエイターがビールを注いだのである。


 「あぁ~、有難う。」


 愛子にばれたのかなぁ~、いや、そんな事は無い、愛子のグラスにもビールが注がれ。


 「じゃ~、隆一さん、乾杯。」


 と、言って、愛子は隆一のグラスに合わせたのである。


 この女性の芝居は見事だ、誰にも見抜く事は出来ないだろうと思う、隆一である。


 「ねえ~、隆一さん、食事の後だけど、お部屋に戻るの、それとも、何処かに行くの。」


 と、愛子は微笑みながら聞くのだ。


 「そうだなぁ~、この辺りの、名勝はと。」


 隆一は、側にある観光案内書を見てはいるが、気持ちは部屋でと考えて要るのだ。


 「此処は、確か有名なお城があったと思うんだ。」


 「そうね、じゃ~、其処に行きましょうか。」


 と、愛子はウエイターを呼んで、タクシーの手配をして要る。


 「タクシーは、30分後にお願いしたわよ。」


 「うん、有難う。」


 愛子は、食事を美味しそうに食べている。


 「話は、変わるんだけど、いいかなぁ~。」


 「ええ、いいわよ。」


 「あのね、さっきの。」


 愛子は首を振り。

 「その話は、此処では、駄目なのよ、私達は新婚なんだから。」


 と、愛子は二コリとして言ったのだ。


 「そうか、そうだよね、ごめんね、僕は、今も、頭の中が混乱しているんだ。」


 「そうよね、私も、わかるわよ、でもね、判ってね。」


 と、また、ニコリとしたのだ。


 その後、食事も終わり、ホテルの玄関に出ると、手配したタクシーが待っていた。


 「お待たせしましたね。」


 と、愛子は運転手に何やら渡したのだ、其れは、聞く事も無いチップだった。


 「お客さん、新婚さんだね。」


 「そうよ、何故、判るの。」


 「そりゃ~、私だって、此処で、何十年も運転手の仕事を続けておりますのでね。」


 運転者は気のいい年配の男性だった。


 「其れで、何処に。」


 「そうね、隆一さんの言ってたお城は。」


 「はい、判りました、じゃ~、行きますので。」


 「お願いしますね、安全運転でね。」


 「勿論ですよ、新婚さんを乗せて事故ったら、私もお終いですからね。」


 「有難う。」


 その後、運転者は静かな運転で、目的のお城まで、10分程で着いたのである。


 「有難う、此処で、少し待っていて、いただけるかしら。」


 「はい、承知しました。」


 と、言って、ドアを開け、二人は、タクシーを降りたのである。


 隆一と愛子は何処から見ても、新婚の夫婦である。


 だが、話の内容は、他人が想像する事とは、全く違う話なのだ。


 「愛子さん、さっきは御免ね、僕は。」


 「いいのよ、あれじゃ~、私だって驚くわよ、だから、何も気にしないでね。」


 「うん、有難う、でもね、少し気に成った事が有るんだ。」


 「何でも聞いて、私の知ってる事だったら。」


 「じゃ~、聞くけど、愛子さんは、会社を。」


 「隆一さん、お願い、愛子って、言ってね。」


 と、隆一の口に手を当てたのである。


 「なんか、言い難いよ。」


 「いいのよ、私が、聞きたいんだから、ね。」


 「判ったよ、じゃ~、愛子。」


 「はい。」


 と、愛子は本当にうれしそうな顔である。


 「さっきの話なんだけど、君は、会社を退職し、外国に行くんだろう、外国に行く君が、


僕にどうして、化学の勉強を教える事が出来るんだ。」


 愛子は、あの話かと思ったのだ。


 「あの話しね、あの話なんだけど、社長と工場長には悪いんだけど、私、一度、外国に


行くけども、直ぐに戻ってくるのよ。」


 「なんで、そんな面倒な事をする必要が有るんだ。」


 隆一は、愛子が長期間外国に行くものと思って要る。


 「でも、僕には、わからないなぁ~。」


 「えっ、何が、そうか、隆一さんは、私が、外国に行って、戻ってこないと思ってた


のね。」


 「うん、そうなんだ、だけど、僕にはわからないよ。」


 「あのネ、外国に行くと言っても、10日間ほどなのよ、それだけの時間があれば、


一応の仕事は終わるのよ。」


 「会社の仕事と、何か関係が有るの。」


 隆一は別に聞かなくても良いのだが、だが、仕事の内容が知りたいのだ。


 「別に、関係は無いのよ。」


 「ふ~ん、判ったよ。」


 「ねぇ~、隆一さん、此れからの仕事なんだけど、調査が大切なのよ、でも、隆一


さんは、表面上、特別捜査官なのよ、いろんな、場所に行くと思うのよね。」


 「そんなに、忙しい仕事なんだ。」


 「う~ん、別に、そんな意味じゃ無いのよ、色々な薬品を使って証拠を集めなきゃ~


ならないと思うのよ。」


 「証拠を集めて、如何するんだ。」


 「どう説明していいのかわからないんだけど。」


 「証拠があれば、その業者を摘発出来ると、僕は思うんだ。」


 「勿論よ、其れが一番なんだから。」


 「だったら、別に僕の様な人間は必要無いと思うんだ。」


 「隆一さんの言う通りよ、でもね、悪質な業者になればよ、行政が摘発したところで、


何の損害もないのよ。」


 愛子の説明で、隆一も仕事の内容が少しづつわかってきたのだろうと。


 「じゃ~、何の為の裁判なんだよ、その為に法律があるんだろう。」


 「隆一さん、裁判って簡単に言うけどね、行政なんてバカな組織なのよ、何をする


にもよ、下から上へ書類を出して何度も説明して許可を執るのよ、まぁ~官庁の仕事


って、何処でも同じなのよ、それにね、マスコミも悪いのよ、読者や視聴者が関心を


持つような事ばかり取り上げるでしょう。」


 「うん、僕も、其れは良くわかるよ、だって、テレビを見ていると、大体が大きな


問題になりそうな事件ばかりを扱っているからね。」


 隆一も関心を示してきたと、愛子は思うのである。


 「それでね、裁判に持って行ったって、直ぐには答えは出ないのよ。」


 「僕も、あれには、少し腹が立つよ、だって、行政が裁判を起こすと言う事は、僕達


の税金を使ってるんだよ、なんで、あんなに時間が掛かるんだよ、僕はね、時々、この


裁判官たちはバカじゃないかと思う事が有るんだ。」


 隆一は相当怒っていると、愛子は思ったのだ。


 「そうなのよ、その間も、悪い業者はね仕事で利益を上げているのよ。」


 「じゃ~、何のために法律が有るんだ、時々だけど、行政と言うよりはね、官庁の


人間は、僕達一般市民には偉そうな態度をとるんだ、それに比べ、少しだけど名前が


知られて要る会社の偉いさんには、反対の態度をとるんだからね、其れにしてもだよ、


法律ってのは、僕達のような一般市民には強く、悪いやつらには弱くって思う事が有る


んだよ、僕はね、いつも思ってるんだ、あいつらは許せないって思ってるんだ。」


 隆一は、愛子の作戦に乗ってきたのである。


 「そうなの、私も同じなのよ、なんで、行政がお金を出してよ、そんなところを掃除


する必要が有るのよ、その間にも、水は汚れ、運び込まれた土によ、時には地中深く


まで汚染され、ひどいところなんか、二度と、草木も生えないってね。」


 「うん、僕も、何箇所か知ってるよ。」


「隆一さん、私、本当の事を言うとね、そんな悪徳業者のためによ、私達は土地を


手放したのよ。」


 「えっ、それって、正か。」


 「隆一さんも知って要るはずよ。」


 愛子の言った話は、少し違っていたのだ。


 愛子は、ある地方の漁村に生まれ、家族は漁業で生活をしていたのだ、だが、その


近くに大きな工場が廃液を海に垂れ流し、漁民たちも採ってきた魚貝を長年食べていた、


其れが、一生苦しい生活に入る事になったのである。


 愛子の家には直接関係は無かったのだが、愛子の友人が、その犠牲に成ったのだ。


 「でも、君の身体には何も影響は無かったのか。」


 「うん、そうなのよ、私達は、其処から流されたんじゃ~無かったのよ。」


 「愛子、意味がわからないよ、汚染された土地に住んでたって言ったし、今度は直接


関係が無かったって言うし。」


 「御免ね、私の説明が悪かったの、私の家はサラリーマンなのよ、其れで、その土地


って言うのはね、私達の先祖が持ってた土地なのよ、私達はね、その地方じゃなくてよ、


別の都市に住んでたのよ、御免ね。」


 「其れで、やっと判ったよ、其れじゃ~、愛子の両親が持ってた土地は。」


 「うん、農地にも出来ないし、住宅を建てる事も出来なく成ったのよ。」


 「だけど、賠償はしてもらえるんだろう。」


 「ほんの少しだけどね。」


 「でも、その土地は使い物にはならないんだろう。」


 「うん、そうなのよ。」


 「其れじゃ~、その業者ってのは、今も。」


 「うん、大きな顔して、仕事をして要るわよ。」


 「でも、なんで、行政が何も出来ないんだよ。」


 「隆一さん、今の世の中はね、長い者に巻かれろって言う事なのよ。」


 「国も行政は、僕達みたいな、一般庶民には強いけど、大きな組織になると、手も


出せないんだ、やはり、賄賂か、僕は、そんな奴らが許せないよ。」


 隆一は、愛子の作戦に陥落したのだろうか。


 「それでね、隆一さんの仕事なんだけど、私も、前から考えていたのよ、テレビの


時代劇にあるでしょう、悪徳商人を。」


 「うん、知ってるよ、僕も、一次は、良く見てたけど、その時は思ったよ、今の時代


に、こんな事が出来る人達がいればいいのになぁ~って。」


 「私も同じよ、それでね、隆一さんの仕事の話なんだけど。」


 隆一は、愛子の言いたい事はわかったが。


 「それって、此れからする仕事って事なの。」


 「隆一さん、はっきりと言うわよ、隆一さんの仕事は、表に出る仕事じゃ~ないの、


いつも裏にいる仕事なの。」


 愛子は、説明に困っていた、隆一が納得するのか、それが、わからないのだ。


 「愛子、心配するなよ、僕だってバカじゃないんだ、愛子の言いたい事は、全部じゃ


ないが、わかっているつもりだ、要は、僕の仕事は、天に変わって悪人退治って事かな。」


 と、隆一は愛子にウインクするのだ。


 「隆一さん、本当にごめんなさい、私、別に隆一さんをだます積もりなんてないのよ、


でも、隆一さんにすれば、結果的にはだまされたと執られても仕方無いの。」


 と、愛子の目には涙が溢れて着たのである。


 「愛子、僕は、何も、君がだましたなんて思って無いよ、それよりも、愛子が、どれ


だけ苦しい思いをしたか、わかってるつもりなんだ。」


 愛子は、ただ、頷くだけだった。


 「僕はね、最初から、何か可笑しいと思ってたんだ、だって、そうだろう、会社に入っ


て数ヶ月の新人が、社長に呼び出される事、事態が不思議だと思わないか。」


 愛子は静かに頷いている。


 「僕も本当の事を言うとね、今の仕事に対して、余り好きに成れないんだ。」


 隆一は本当の事を言ってはいないのだ。


 新入社員が数ヶ月も経たない内に、果たして仕事に対する情熱が湧くだろうか。


 「隆一さんの仕事は、私も知って要るのよ、確かに、あの仕事は、余り好きに成れる


ような、仕事じゃ~無いってわかるわ、だからと言って、今度の仕事を引き受ける気持


ちに成ったのじゃ~無いって事も、私も、今、はっきりと解ったのよ、隆一さんはね、


そんな人間じゃ無いってね。」


 「愛子、其処まで言われると。」


 「うう~ん、本当の気持ちなのよ、だって、私。」


 愛子は、また涙があふれてきたのだ。


 「いいよ、僕はね、愛子と、まだ、出会って時間が経たないのに、何年も、一緒に居


るような気持ちなんだ。」


 愛子は思わず、隆一の胸に飛び込んだ。


 「いいんだ、いいんだよ。」


 と、暫くは、隆一は愛子を抱きしめていた。


 お城に来ている観光客も新婚さんのして要る事など、見て見ぬ振りである。


 その後、二人は城で数時間も話をし、待たせてあるタクシー乗り場に向かった。


 その頃には、愛子の涙も止まっていた。


 愛子は隆一の手をとり、うれしさが顔に表れていたのである。


 「長い時間、待っていただいて有難う。」


 と、隆一は、財布の中から、一枚の札を出し、運転手に渡すのだ。


 「旦那さん、こんなに頂いちゃ。」


 「いいんですよ、本当に少ないですけどね。」


 運転手は嬉しそうに。


 「それじゃ~、頂いて、有難う。」


 年配の運転手は二コ二コしながら、自分の財布に入れるのである。


 隆一は、愛子の手を握り。


 「運転手さん、悪いんだけど、ホテルに。」


 「はい、判りました。」


 と、車は静かに二人の泊まっているホテルに向かうのだ、ホテルに着くまで二人は


何も話さず、愛子は目を閉じ、隆一の肩にもたれている。


だが、愛子の手は、しっかりと、隆一の手を握っているのだ。


 二人の乗せたタクシーは、十数分の後、ホテルに到着したのである。


 タクシーを降りた二人は、部屋に向かったが、愛子は何も言わず、隆一の手を握った


ままで部屋に入った。


 外はまだ明るいが、夕食まので間、隆一と愛子は激しく愛の激闘に入ったのである。


 数時間後、夕食の為にレストランに入った時である。


 突然、隆一の携帯が鳴った。


 「もしもし。」


 其れは、木田からであった。


 「吉村さん、木田です。」


 「之は、先程は。」


 と、言って、あっと思った、此処では、誰も知らない事になっているのだ。


 「はい、失礼しました。


 其れで、ご用件は。」


 側の愛子は、何も言わず、微笑んでいるのだ、愛子は、木田からの電話だとわかって


いる。


 「吉村さん、食後に、フロントに行って下さい。


 お二人に届け物が有りますので。」


 「はい、判りました。」


 と、言ったが、隆一は、何が届けられたのか判らないのである。


 二人は食事中の会話は世間話だが、それでも、隆一は、時々、仕事の話を始めようと


するのだ。


 その時、愛子は、首を振って。


 「隆一さん、お話は、後でね。」


 と、静かな言い方である。


 一時間ほどして、食事は終わり、隆一はフロントに行き、届け物を受け取ると、愛子


と手つなぎ、部屋に戻って行くのだ。


 部屋に入ると、愛子の燃え方は異常な程激しかったのだ、勿論、隆一も愛子に負けず


劣らずの燃え方である。


 愛子は、何度も、隆一を求め、隆一も、其れを受けて要るのだ。


 そして、明くる朝では無かった、二人が目を覚ましたのは昼近くだった。


 二人はシャワーを浴び、朝昼兼用の食事を取るのである。


 「あっ、そうだ、昨日、受け取った紙袋の中身、まだ、見て無かったなぁ~。」


 愛子は、二コットして。


 「後で、ゆっくりと見れば。」


 「そうだなぁ~、そうだ、君は何時行くの。」


 「うん、それも後でね。」


 「うん、判ったよ。」


 隆一は、何故、愛子は話してくれないんだと、思ったが、やはり、此処では、周囲の


目がある、下手な会話も出来ない、だけど、それ程、神経質に成る話だろうか、今まで


の話を聞いていても、それ程、深刻な内容では無かった様に思うのだ。


 「隆一さん、今、何を考えて要るの。」


 「うん、いや別に。」


 「判ってるのよ、私が、何も話さないからでしょう。」


「隆一さん、私、本当の事を言うとね、そんな悪徳業者のためによ、私達は土地を


手放したのよ。」


 「えっ、それって、正か。」


 「隆一さんも知って要るはずよ。」


 愛子の言った話は、少し違っていたのだ。


 愛子は、ある地方の漁村に生まれ、家族は漁業で生活をしていたのだ、だが、その


近くに大きな工場が廃液を海に垂れ流し、漁民たちも採ってきた魚貝を長年食べていた、


其れが、一生苦しい生活に入る事になったのである。


 愛子の家には直接関係は無かったのだが、愛子の友人が、その犠牲に成ったのだ。


 「でも、君の身体には何も影響は無かったのか。」


 「うん、そうなのよ、私達は、其処から流されたんじゃ~無かったのよ。」


 「愛子、意味がわからないよ、汚染された土地に住んでたって言ったし、今度は直接


関係が無かったって言うし。」


 「御免ね、私の説明が悪かったの、私の家はサラリーマンなのよ、其れで、その土地


って言うのはね、私達の先祖が持ってた土地なのよ、私達はね、その地方じゃなくてよ、


別の都市に住んでたのよ、御免ね。」


 「其れで、やっと判ったよ、其れじゃ~、愛子の両親が持ってた土地は。」


 「うん、農地にも出来ないし、住宅を建てる事も出来なく成ったのよ。」


 「だけど、賠償はしてもらえるんだろう。」


 「ほんの少しだけどね。」


 「でも、その土地は使い物にはならないんだろう。」


 「うん、そうなのよ。」


 「其れじゃ~、その業者ってのは、今も。」


 「うん、大きな顔して、仕事をして要るわよ。」


 「でも、なんで、行政が何も出来ないんだよ。」


 「隆一さん、今の世の中はね、長い者に巻かれろって言う事なのよ。」


 「国も行政は、僕達みたいな、一般庶民には強いけど、大きな組織になると、手も


出せないんだ、やはり、賄賂か、僕は、そんな奴らが許せないよ。」


 隆一は、愛子の作戦に陥落したのだろうか。


 「それでね、隆一さんの仕事なんだけど、私も、前から考えていたのよ、テレビの


時代劇にあるでしょう、悪徳商人を。」


 「うん、知ってるよ、僕も、一次は、良く見てたけど、その時は思ったよ、今の時代


に、こんな事が出来る人達がいればいいのになぁ~って。」


 「私も同じよ、それでね、隆一さんの仕事の話なんだけど。」


 隆一は、愛子の言いたい事はわかったが。


 「それって、此れからする仕事って事なの。」


 「隆一さん、はっきりと言うわよ、隆一さんの仕事は、表に出る仕事じゃ~ないの、


いつも裏にいる仕事なの。」


 愛子は、説明に困っていた、隆一が納得するのか、それが、わからないのだ。


 「愛子、心配するなよ、僕だってバカじゃないんだ、愛子の言いたい事は、全部じゃ


ないが、わかっているつもりだ、要は、僕の仕事は、天に変わって悪人退治って事かな。」


 と、隆一は愛子にウインクするのだ。


 「隆一さん、本当にごめんなさい、私、別に隆一さんをだます積もりなんてないのよ、


でも、隆一さんにすれば、結果的にはだまされたと執られても仕方無いの。」


 と、愛子の目には涙が溢れて着たのである。


 「愛子、僕は、何も、君がだましたなんて思って無いよ、それよりも、愛子が、どれ


だけ苦しい思いをしたか、わかってるつもりなんだ。」


 愛子は、ただ、頷くだけだった。


 「僕はね、最初から、何か可笑しいと思ってたんだ、だって、そうだろう、会社に入っ


て数ヶ月の新人が、社長に呼び出される事、事態が不思議だと思わないか。」


 愛子は静かに頷いている。


 「僕も本当の事を言うとね、今の仕事に対して、余り好きに成れないんだ。」


 隆一は本当の事を言ってはいないのだ。


 新入社員が数ヶ月も経たない内に、果たして仕事に対する情熱が湧くだろうか。


 「隆一さんの仕事は、私も知って要るのよ、確かに、あの仕事は、余り好きに成れる


ような、仕事じゃ~無いってわかるわ、だからと言って、今度の仕事を引き受ける気持


ちに成ったのじゃ~無いって事も、私も、今、はっきりと解ったのよ、隆一さんはね、


そんな人間じゃ無いってね。」


 「愛子、其処まで言われると。」


 「うう~ん、本当の気持ちなのよ、だって、私。」


 愛子は、また涙があふれてきたのだ。


 「いいよ、僕はね、愛子と、まだ、出会って時間が経たないのに、何年も、一緒に居


るような気持ちなんだ。」


 愛子は思わず、隆一の胸に飛び込んだ。


 「いいんだ、いいんだよ。」


 と、暫くは、隆一は愛子を抱きしめていた。


 お城に来ている観光客も新婚さんのして要る事など、見て見ぬ振りである。


 その後、二人は城で数時間も話をし、待たせてあるタクシー乗り場に向かった。


 その頃には、愛子の涙も止まっていた。


 愛子は隆一の手をとり、うれしさが顔に表れていたのである。


 「長い時間、待っていただいて有難う。」


 と、隆一は、財布の中から、一枚の札を出し、運転手に渡すのだ。


 「旦那さん、こんなに頂いちゃ。」


 「いいんですよ、本当に少ないですけどね。」


 運転手は嬉しそうに。


 「それじゃ~、頂いて、有難う。」


 年配の運転手は二コ二コしながら、自分の財布に入れるのである。


 隆一は、愛子の手を握り。


 「運転手さん、悪いんだけど、ホテルに。」


 「はい、判りました。」


 と、車は静かに二人の泊まっているホテルに向かうのだ、ホテルに着くまで二人は


何も話さず、愛子は目を閉じ、隆一の肩にもたれている。


だが、愛子の手は、しっかりと、隆一の手を握っているのだ。


 二人の乗せたタクシーは、十数分の後、ホテルに到着したのである。


 タクシーを降りた二人は、部屋に向かったが、愛子は何も言わず、隆一の手を握った


ままで部屋に入った。


 外はまだ明るいが、夕食まので間、隆一と愛子は激しく愛の激闘に入ったのである。


 数時間後、夕食の為にレストランに入った時である。


 突然、隆一の携帯が鳴った。


 「もしもし。」


 其れは、木田からであった。


 「吉村さん、木田です。」


 「之は、先程は。」


 と、言って、あっと思った、此処では、誰も知らない事になっているのだ。


 「はい、失礼しました。


 其れで、ご用件は。」


 側の愛子は、何も言わず、微笑んでいるのだ、愛子は、木田からの電話だとわかって


いる。


 「吉村さん、食後に、フロントに行って下さい。


 お二人に届け物が有りますので。」


 「はい、判りました。」


 と、言ったが、隆一は、何が届けられたのか判らないのである。


 二人は食事中の会話は世間話だが、それでも、隆一は、時々、仕事の話を始めようと


するのだ。


 その時、愛子は、首を振って。


 「隆一さん、お話は、後でね。」


 と、静かな言い方である。


 一時間ほどして、食事は終わり、隆一はフロントに行き、届け物を受け取ると、愛子


と手つなぎ、部屋に戻って行くのだ。


 部屋に入ると、愛子の燃え方は異常な程激しかったのだ、勿論、隆一も愛子に負けず


劣らずの燃え方である。


 愛子は、何度も、隆一を求め、隆一も、其れを受けて要るのだ。


 そして、明くる朝では無かった、二人が目を覚ましたのは昼近くだった。


 二人はシャワーを浴び、朝昼兼用の食事を取るのである。


 「あっ、そうだ、昨日、受け取った紙袋の中身、まだ、見て無かったなぁ~。」


 愛子は、二コットして。


 「後で、ゆっくりと見れば。」


 「そうだなぁ~、そうだ、君は何時行くの。」


 「うん、それも後でね。」


 「うん、判ったよ。」


 隆一は、何故、愛子は話してくれないんだと、思ったが、やはり、此処では、周囲の


目がある、下手な会話も出来ない、だけど、それ程、神経質に成る話だろうか、今まで


の話を聞いていても、それ程、深刻な内容では無かった様に思うのだ。


 「隆一さん、今、何を考えて要るの。」


 「うん、いや別に。」


 「判ってるのよ、私が、何も話さないからでしょう。」


「隆一さん、私、本当の事を言うとね、そんな悪徳業者のためによ、私達は土地を


手放したのよ。」


 「えっ、それって、正か。」


 「隆一さんも知って要るはずよ。」


 愛子の言った話は、少し違っていたのだ。


 愛子は、ある地方の漁村に生まれ、家族は漁業で生活をしていたのだ、だが、その


近くに大きな工場が廃液を海に垂れ流し、漁民たちも採ってきた魚貝を長年食べていた、


其れが、一生苦しい生活に入る事になったのである。


 愛子の家には直接関係は無かったのだが、愛子の友人が、その犠牲に成ったのだ。


 「でも、君の身体には何も影響は無かったのか。」


 「うん、そうなのよ、私達は、其処から流されたんじゃ~無かったのよ。」


 「愛子、意味がわからないよ、汚染された土地に住んでたって言ったし、今度は直接


関係が無かったって言うし。」


 「御免ね、私の説明が悪かったの、私の家はサラリーマンなのよ、其れで、その土地


って言うのはね、私達の先祖が持ってた土地なのよ、私達はね、その地方じゃなくてよ、


別の都市に住んでたのよ、御免ね。」


 「其れで、やっと判ったよ、其れじゃ~、愛子の両親が持ってた土地は。」


 「うん、農地にも出来ないし、住宅を建てる事も出来なく成ったのよ。」


 「だけど、賠償はしてもらえるんだろう。」


 「ほんの少しだけどね。」


 「でも、その土地は使い物にはならないんだろう。」


 「うん、そうなのよ。」


 「其れじゃ~、その業者ってのは、今も。」


 「うん、大きな顔して、仕事をして要るわよ。」


 「でも、なんで、行政が何も出来ないんだよ。」


 「隆一さん、今の世の中はね、長い者に巻かれろって言う事なのよ。」


 「国も行政は、僕達みたいな、一般庶民には強いけど、大きな組織になると、手も


出せないんだ、やはり、賄賂か、僕は、そんな奴らが許せないよ。」


 隆一は、愛子の作戦に陥落したのだろうか。


 「それでね、隆一さんの仕事なんだけど、私も、前から考えていたのよ、テレビの


時代劇にあるでしょう、悪徳商人を。」


 「うん、知ってるよ、僕も、一次は、良く見てたけど、その時は思ったよ、今の時代


に、こんな事が出来る人達がいればいいのになぁ~って。」


 「私も同じよ、それでね、隆一さんの仕事の話なんだけど。」


 隆一は、愛子の言いたい事はわかったが。


 「それって、此れからする仕事って事なの。」


 「隆一さん、はっきりと言うわよ、隆一さんの仕事は、表に出る仕事じゃ~ないの、


いつも裏にいる仕事なの。」


 愛子は、説明に困っていた、隆一が納得するのか、それが、わからないのだ。


 「愛子、心配するなよ、僕だってバカじゃないんだ、愛子の言いたい事は、全部じゃ


ないが、わかっているつもりだ、要は、僕の仕事は、天に変わって悪人退治って事かな。」


 と、隆一は愛子にウインクするのだ。


 「隆一さん、本当にごめんなさい、私、別に隆一さんをだます積もりなんてないのよ、


でも、隆一さんにすれば、結果的にはだまされたと執られても仕方無いの。」


 と、愛子の目には涙が溢れて着たのである。


 「愛子、僕は、何も、君がだましたなんて思って無いよ、それよりも、愛子が、どれ


だけ苦しい思いをしたか、わかってるつもりなんだ。」


 愛子は、ただ、頷くだけだった。


 「僕はね、最初から、何か可笑しいと思ってたんだ、だって、そうだろう、会社に入っ


て数ヶ月の新人が、社長に呼び出される事、事態が不思議だと思わないか。」


 愛子は静かに頷いている。


 「僕も本当の事を言うとね、今の仕事に対して、余り好きに成れないんだ。」


 隆一は本当の事を言ってはいないのだ。


 新入社員が数ヶ月も経たない内に、果たして仕事に対する情熱が湧くだろうか。


 「隆一さんの仕事は、私も知って要るのよ、確かに、あの仕事は、余り好きに成れる


ような、仕事じゃ~無いってわかるわ、だからと言って、今度の仕事を引き受ける気持


ちに成ったのじゃ~無いって事も、私も、今、はっきりと解ったのよ、隆一さんはね、


そんな人間じゃ無いってね。」


 「愛子、其処まで言われると。」


 「うう~ん、本当の気持ちなのよ、だって、私。」


 愛子は、また涙があふれてきたのだ。


 「いいよ、僕はね、愛子と、まだ、出会って時間が経たないのに、何年も、一緒に居


るような気持ちなんだ。」


 愛子は思わず、隆一の胸に飛び込んだ。


 「いいんだ、いいんだよ。」


 と、暫くは、隆一は愛子を抱きしめていた。


 お城に来ている観光客も新婚さんのして要る事など、見て見ぬ振りである。


 その後、二人は城で数時間も話をし、待たせてあるタクシー乗り場に向かった。


 その頃には、愛子の涙も止まっていた。


 愛子は隆一の手をとり、うれしさが顔に表れていたのである。


 「長い時間、待っていただいて有難う。」


 と、隆一は、財布の中から、一枚の札を出し、運転手に渡すのだ。


 「旦那さん、こんなに頂いちゃ。」


 「いいんですよ、本当に少ないですけどね。」


 運転手は嬉しそうに。


 「それじゃ~、頂いて、有難う。」


 年配の運転手は二コ二コしながら、自分の財布に入れるのである。


 隆一は、愛子の手を握り。


 「運転手さん、悪いんだけど、ホテルに。」


 「はい、判りました。」


 と、車は静かに二人の泊まっているホテルに向かうのだ、ホテルに着くまで二人は


何も話さず、愛子は目を閉じ、隆一の肩にもたれている。


だが、愛子の手は、しっかりと、隆一の手を握っているのだ。


 二人の乗せたタクシーは、十数分の後、ホテルに到着したのである。


 タクシーを降りた二人は、部屋に向かったが、愛子は何も言わず、隆一の手を握った


ままで部屋に入った。


 外はまだ明るいが、夕食まので間、隆一と愛子は激しく愛の激闘に入ったのである。


 数時間後、夕食の為にレストランに入った時である。


 突然、隆一の携帯が鳴った。


 「もしもし。」


 其れは、木田からであった。


 「吉村さん、木田です。」


 「之は、先程は。」


 と、言って、あっと思った、此処では、誰も知らない事になっているのだ。


 「はい、失礼しました。


 其れで、ご用件は。」


 側の愛子は、何も言わず、微笑んでいるのだ、愛子は、木田からの電話だとわかって


いる。


 「吉村さん、食後に、フロントに行って下さい。


 お二人に届け物が有りますので。」


 「はい、判りました。」


 と、言ったが、隆一は、何が届けられたのか判らないのである。


 二人は食事中の会話は世間話だが、それでも、隆一は、時々、仕事の話を始めようと


するのだ。


 その時、愛子は、首を振って。


 「隆一さん、お話は、後でね。」


 と、静かな言い方である。


 一時間ほどして、食事は終わり、隆一はフロントに行き、届け物を受け取ると、愛子


と手つなぎ、部屋に戻って行くのだ。


 部屋に入ると、愛子の燃え方は異常な程激しかったのだ、勿論、隆一も愛子に負けず


劣らずの燃え方である。


 愛子は、何度も、隆一を求め、隆一も、其れを受けて要るのだ。


 そして、明くる朝では無かった、二人が目を覚ましたのは昼近くだった。


 二人はシャワーを浴び、朝昼兼用の食事を取るのである。


 「あっ、そうだ、昨日、受け取った紙袋の中身、まだ、見て無かったなぁ~。」


 愛子は、二コットして。


 「後で、ゆっくりと見れば。」


 「そうだなぁ~、そうだ、君は何時行くの。」


 「うん、それも後でね。」


 「うん、判ったよ。」


 隆一は、何故、愛子は話してくれないんだと、思ったが、やはり、此処では、周囲の


目がある、下手な会話も出来ない、だけど、それ程、神経質に成る話だろうか、今まで


の話を聞いていても、それ程、深刻な内容では無かった様に思うのだ。


 「隆一さん、今、何を考えて要るの。」


 「うん、いや別に。」


 「判ってるのよ、私が、何も話さないからでしょう。」


 愛子は、隆一の考えて要る事はわかっているのだ、隆一も、別に知られてもいいと


思って要るのだが。


 「本当はね、あの日から、何も言ってくれないんで、少し不安なんだ。」


 「うん、判ってるわ、じゃ~隆一さん、食後、少し外に出ましょうか、どこか、公園


でも行かない。」


 「そうだなぁ~、僕も、うん、其れでいいよ。」


 愛子は微笑んでいる、朝昼兼用の食事も終わり、二人は部屋に戻り、隆一はソファで、


昨日受け取った紙袋を開け。


 「えっ、之は、一体。」


 隆一の驚くのも無理は無かった。


 中には、隆一の新しいパスポートと、現金が数十万円は有ると思われる札束だ。


 「愛子、之は、なんなの。」


 愛子も座り。


 「あのネ、隆一さんは、一度、会社に戻るでしょう。」


 「うん、勿論だよ、其れで。」


 「会社から辞令が出るのよ。」


 隆一は、訳がわからなかったのだ。


 「えっ、辞令って、何の話しなんだ。」


 「隆一さん、その紙袋、私のバックに入れて、外に出ましょう。」


 「うん。」


 隆一は、狐にだまされたような気持ちだった。


 隆一の考えでは、数日の内に、会社に戻り、辞表をだして、それからと考えていた


のでだが、その予測とは、全く別の方向に向かったのだ。


 ホテルを出た数分のところに小さな公園が有った。


 二人は、ベンチに座り、愛子はバックの中から紙袋を出し、隆一に渡したのだ。


 「愛子、このパスポートは。」


 「うん、実はね、私と二人で行くのよ。」


 隆一は、何故、外国に行く必要があるんだと。


 「でも、何故、僕が外国に行くんだ、勉強なら、日本でするんだと思ってたんだ。」


 愛子は、頷き。


 「勿論よ、勉強は、この日本で十分だけど、う~ん、なんて、説明していいのかわか


らないんだけどね、私はね、この仕事の為に、有る国の人と会う事になってるのよ。」


 愛子の説明は苦しいので有る。


 其れは、愛子自身が、国際的な、秘密情報機関の一員で有る事を知らせるべきなのか、


それとも、このまま、何も知らせないで行こうかと迷っているのだ。


 愛子は、この数日間悩んでいたのだ、自分の秘密を知って要るのは、総理と木田だけ


なのだ、その木田は日本支部の支部長である。


 勿論、愛子は、木田に相談したが、木田は知らせないほうが良いと言っている。


 隆一の活動する場所は日本国内に限定されているためである。


 「愛子、有る国の人に会って。」


 「うん、私がね、大学生の時に、行ったところでホームステイをしたのよ、そこで、


大変お世話に成った人なのよ、その人に、私が、隆一さんと結婚したって報告したのよ、


するとね、その人から返事があって、是非、紹介して欲しいと。」


 「でも、その為に、なんで、こんなややこしい方法でパスポートが届けられたんだ。」


 愛子は、嘘を付いてしまったのだ、その世話になったと言う人物は、組織の中心人物


でも有るが、愛子が、ホームステイした事は事実だった。


 「多分、多分なんだけど、長官は、いつでも、外国に行ける様にと用意したんじゃ~


無いかと思うのよ。」


 愛子は、苦しい話をするのである。


 「でも、なんで、外国に行く必要が有るんだ。」


 「隆一さんの仕事って、秘密が必要じゃない、だって、誰にも知られてはならないよ、


長官の事だから、日本じゃ~、気分転換もできないだろうと思って、外国に行けばよ、


隆一さんを知る人もいないでしょう。」


 「うん、其れは、言えるよ。」


 愛子の嘘の話を、隆一は見抜けなかったのだ、事実、木田は、気分転換の意味で外国


に行ける様にと考えていたのである。


 「じゃ~、聞くけど、その外国の人って、愛子の。」


 「うん、私が、大学生の時なんだけど、有る試合で、思う様な点数が取れなかったの、


 その試合には、国際大会に出るための予選だったのよ、私は、緊張の為なのか、練習


の時の半分しか出せなかったのよ。」


 「じゃ~、あの時の試合だったの、僕が、入って、まだ間が無かったんだけど、前評


判では、愛子の優勝は間違いが無いと言われてたんだ。」


 「そうなのよ、今までは、どんな試合に出ても緊張するような事は無かったの、それ


が、何故なのか、今でもわからないのよ。」


 その話は本当だった、愛子の腕前は全国でも、3本指に入り、何時の試合でも、必ずと、


言っても良いほど、上位入賞が普通だった、マスコミも愛子の優勝は確実だと報道してい


たので有る。


 「だけど、その試合と、ホームステイと何の関係が有るんだ。」


 「実はね、その人は、世界的有名な人だったの、で、その人が、私の試合を見てたの。」


 「えっ、じゃ~、愛子は、その人が、どんな人物か知らなかったのか。」


 「うん、そうなのよ、私は、試合に負け、身体も心もガタガタになってたのよ。」


 「其れは、僕も良くわかるよ、だって、あの当時、僕らの仲間でも、今度の優勝は愛子


だって、誰でも、思ってたからね。」


 「でもね、人の運命なんて、わからないものよ、私に話しが来たのよ、一度、その人に


会って見なさいとね。」


 「其れが、運命ってなのか。」


 「うん、そうなのよ、私も、その人の家で、半年間も生活してたのよ、その人の


お陰で、私も、立ち直る事が出来たと思ってるの、其れで、私は、隆一さんの事を知ら


せたらね、是非、と言われたのよ。」


 「うん、判ったよ、愛子にとっては、大切な人なんだね。」


 愛子は、はじめは嘘を言ったが、後から、すべて本当の話だった、だが、その人物の


事までは言え無かったので有る。


 愛子は、数日後、本社で退職届けを出したので有る。


 そして、隆一は、数日後、工場長より、異動命令を受けたので有る。


 その二人は、数日後、隆一は運命を決める出来事が待って要るとも知らず、機上の人


と成るので有る。



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