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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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91 月夜の召喚儀式

 ――丸い、大きな月が夜空に浮かんでいる。
 満月の夜。魔物を召喚する儀式としてはおあつらえ向きな夜と言えるだろう。
 必要となる触媒やら道具やらを昼間の内に買い揃え、魔法の実験と言う事で学舎の中庭を貸してもらう事にした。
 というわけで、昼頃から時間をかけて学舎の中庭に青の転界石で魔法陣を描き、祭壇を設営させてもらっている。この青転界石が触媒の中でも割といい値段だったりするのだが、1回こっきりの使い捨てになってしまう為、魔法陣を2回描く必要があった。

「中庭で面白そうな事をしていると言うからに見に来てみたけれど。また――随分と複雑な魔法陣ねえ。こんなの、学舎でも見た事ないんだけど」

 魔法陣に誤りがないかチェックしていると、背中から声が掛けられたので振り向く。見物に来たのだろう。ロゼッタが近付いてきた。

 うーん。どうなんだろうな。システム上から習得するのは結構条件が厳しいのだけれど……見たまま儀式なので、武技などと違って手順や魔法陣を暗記してしまえば問題なく使えるわけだし。
 これに関してはかなり頑張って覚えたし、一部のプレイヤー間ではメジャーな方法だったんだが。

「あんまり使い勝手の良い召喚儀式じゃないんですけどね」
「そうなの?」
「ええ。当たり外れがあるので。何が来るか解らないので広い場所も必要ですし」
「……変わった召喚儀式なのね」

 俺の知識にある召喚儀式はこれだけだ。月と星の魔力を利用して、無作為に術者と親和性の高い魔物を召喚出来るというもの。
 運が良いと割合序盤からレベルの高い魔物を引っ張って来れる可能性があるので、BFOでは満月の日の運試しとして行っている魔法職プレイヤーが多かった。術者が抱いているイメージが反映したりする傾向があるので、ランダム性の割に満足度が高いのだ。

 俺もこれで運試しをしていた1人ではあったのだが、それは景久の時の話である。
 何度も満月の時に引き直しをするよりは、錬金術で製作出来てしまう魔法生物で、望みの使い魔を得た方が早かったからな。

「今日はどうするの?」
「アシュレイには使い魔を。マルレーンには召喚獣の契約を、と考えています」
「ええっと。マルレーン殿下は、召喚術士の才能を持っていると?」
「そう見ていますよ。遠隔のものと交信するとか使役するとか。得意分野かと」
「なるほどねぇ」

 儀式によって呼び出した魔物を使役する方法は大きく分けて2種。
 まず使い魔として、ただ1匹の魔物をパートナーとして選ぶ方法。これは召喚したり送還したりではなく、常時一緒にいると言う形になる。
 使い魔にしてしまうとやり直しが効かないので、ある程度魔法職として実力をつけて、強力な魔物を召喚出来る可能性を上げてからの方が良い。勿論、出てきた魔物が気に入らなければ使い魔にはせず送還する予定だ。

 もう1つの方法は、呼び出した魔物と契約し、魔術的な繋がりを作る事で召喚と送還が出来る状態にしておくというもの。こっちは召喚獣と言う扱いで、召喚術士の分野だ。他の魔法職には出来ない。

 魔力資質が向いていないと無理なのだが……マルレーンに関しては問題ない。
 国守りの儀の資質の為に試行錯誤していたタームウィルズの王族ともなれば、これ以上は望めないだろう。元々巫女として修行をしていたから下地もある。召喚出来る魔物には期待している所がある。

「さて。始めようか」

 最終的な確認を終えて、みんなの方に振り返る。

「はい、テオドール様」

 アシュレイとマルレーンが頷く。

「マルレーン様。まず私が」

 アシュレイが微笑んで一歩前に出て、マルレーンが神妙な顔で頷いた。アシュレイとしては、年長者としてという所か。

「それじゃあ、後は教えた通りに」
「はい」

 やや緊張した様子のアシュレイが前に出る。2人には朝から手順を書いたメモを渡して暗記して貰っている。
 祭壇の上に置かれた儀礼細剣を手に取ると指先を軽く切って、銀の皿に水を満たして月を映した、水鏡の上に血を垂らす。
 そうしてから目を閉じ、剣を眼前に構えた。

「――月の導きに従い、我が宿星に連なりし者よ。我が呼びかけに応えよ」

 アシュレイが詠唱によって術式を構築していくと青転界石で描いた魔法陣が輝きを放ち出す。さて。何が現れるか。

 朗々と響く詠唱に呼応して、段々と魔法陣の輝きが強くなる。最後に光の柱が立ち昇って、それが収まると――そこには真っ白な動物が鎮座していた。

「狼……ですか?」

 グレイスが言う。狼。それもかなりの大きさだ。

「……スノーウルフだね」

 水魔法に適性を持っているアシュレイである。水棲系の魔物が現れるかと思ったが……氷の方で繋がったか。
 氷と冷気を操る狼だ。年間を通して氷雪に閉ざされた土地を住処としている。かなりランクの高い魔物と言って良いだろう。

「どうする?」

 アシュレイに尋ねてみる。

「私の呼びかけに応えてくれたわけですから……送り返したりせずに、使い魔の盟約を結びたいと思うのですが」
「分かった」

 頷くと、アシュレイは儀礼細剣を構えたまま、詠唱を続ける。

「我が呼びかけに応えし者。ここに我が名を示し、汝に名を与え、悠久の盟約を結ばん」

 水鏡には月ではなく、目の前のスノーウルフが映し出されている。アシュレイは水鏡に切った指先を浸しながら唱えた。

「我が名はアシュレイ=ロディアス=シルン。汝が名は――ラヴィーネなり」

 スノーウルフ――ラヴィーネは月に向かって一声吼えた。
 魔法陣が光を失い、のっそりとした足取りでアシュレイの隣に控えるような位置取りの所までやってきた。

「よろしくお願いしますね、ラヴィーネ」

 大人しく頭を垂れる。成功したようだ。
 使い魔としては申し分無いな。アシュレイとの相性も良好だと思う。 
 後は感覚リンクだとか――使い魔操作の術式をアシュレイに教えて行けば良いだろう。

「マルレーン。出来そう?」

 マルレーンは真剣な面持ちで頷くと、アシュレイから儀礼細剣を受け取った。隣に用意してある未使用の魔法陣へ向かい、同様の手順で儀式を進めていく。但し、詠唱は無い。
 詠唱の形がある以上、無詠唱と同じ要領で問題なく儀式を進める事が出来る。元々祈りによって呼び掛けるのは彼女の専門で、得意分野だ。
 名付けが出来ないから使い魔は持てないが、契約によって召喚獣とする事は可能である。

 剣の柄を両手で握って、祈るような仕草を見せる。
 マルレーンの構築する術式に呼応して、魔法陣が光量を増していく。

 一際輝きが増して――。

「これは――」

 グレイス達が身構えるのが分かった。
 真っ黒い――甲冑を纏った馬が魔法陣の中央に立っている。普通の馬ではない。瞳とたてがみ、尻尾は青緑色の炎。
 馬の背に、黒騎士が跨っている。ボロボロのマントを纏い、甲冑の隙間は暗黒で満たされているが。そして、甲冑の上に通常あるべき、首から上が無かった。

 いや、ある事はあるのだ。小脇に抱えている兜がそうだろう。バイザーの奥がどうなっているのかは杳として知れないが、やはり青緑色の炎が瞬いている。

「デュラハン、か」

 首無し騎士。いきなりでこれとは。
 護衛役になるイメージを描きながら儀式を行うと良いとアドバイスしたから、騎士系統でデュラハンになったのだろうか。

「アンデッド……?」

 シーラが呟く。

「いや……ああ見えて精霊に近い存在って言われてる」
「精霊――なの?」
「うん。少なくとも不浄の存在ではないね。アンデッド対策の魔法とか、全く通じなくてやられるなんて事も多いそうだ」

 ……精霊。確かに、月神殿の巫女として修行してきたマルレーンとは親和性が高い部類だろう。デュラハンは夜に出てくるわけだし、その辺も含めてだろう。
 マルレーンの場合は普通の魔物より、こういった系統や幻獣の類が召喚される可能性が高い、という事になるだろうか。

 デュラハンは馬から降りると、魔法陣の端まで行って膝を折りマルレーンに臣下の礼を取った。マルレーンは――やや驚いたような表情をしていたものの、気を取り直すように口を引き結ぶと儀礼細剣で自身の髪を僅かに切って、水鏡の中に投げ込む。デュラハンは見えない何かを両腕で恭しく受け取るような仕草を見せた。
 ああやって、髪でも爪でもなんでも良いのだが、身体の一部を捧げる事で、縁を作って契約を交わすわけだ。

 デュラハンはマントを翻して魔法陣の中央まで戻って行く。再び魔法陣が輝いて、次の瞬間にはその姿が消えていた。今度からは召喚術式で召喚獣として呼び出す事が出来るはずである。

 無事契約を終えたマルレーンは、安堵したかのように胸を撫で下ろしている。切った指先をアシュレイと一緒に治癒魔法で治していた。

「上手く行きましたね、マルレーン様」

 マルレーンは嬉しそうに首を縦に振っている。うむ。

 召喚獣と使い魔との違いは――召喚している間、コストとして召喚術士の魔力を消費するという部分だろう。感覚リンクは出来ないが、術式によって制御したり命令を下す事は可能である。

「何だか、怖そうな魔物だったわ」
「いや、実際かなり強いよ。あれは」

 イルムヒルトの言葉に答える。
 見た目にも威圧感があるし、いざという時はマルレーンを馬の後ろに乗せたりも出来るだろう。護身用と言うには剣呑ではあるが、目的に沿ったものと契約が結べた、と言って良い。

 今後も満月の度に召喚儀式をやる事にするか。召喚出来る魔物の種類が多ければ多いほどマルレーンの対応力に幅が出るだろうからな。
 彼女の目標としては、複数の魔物を召喚して制御する事だが。

 うーん。彼女を連れて迷宮に潜るというのは、どうなんだろう。メルヴィン王に打診してみるか。使い魔も増えたし、みんなも宵闇の森の魔物に慣れている。デュラハンやカドケウス、ラヴィーネでしっかりと護衛していれば、宵闇の森では突破出来る相手もいないと思うので。

「マルレーンは、そのまま細剣を持っていると良いよ。召喚獣との結びつきを強くしてくれるから」

 言うと、マルレーンは頷いた。ちなみに細剣の材質だがミスリル銀で出来ていたりする。
 触媒や道具のランクを上げると召喚される魔物のランクにも影響が出るからな。値段は張るが今後も召喚儀式は行うわけだし。

 それにしてもスノーウルフにデュラハン、か。何が来るかと思っていたが――予想以上にランクが高くて何よりだ。
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