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番外202 隣国潜入に向けて

「それと――予定通り貿易船からあちらの国の衣類や装飾品を購入、そしてあちらの国の貨幣も入手してきたでござる。あちらの国に潜入する折に、活用して頂ければ幸いでござる」

「ああ。それは助かります」

「商人達の口を軽くする意味でも有意義ではあったでござるよ」


 と、イチエモンは覆面の下で相好を崩したようだった。

 これも一応、用意してもらうことが可能ならと頼んでいたものだ。

 ヒタカを訪問するときは迷宮に夜桜横丁があったり、俺に前世の知識もあったから裏付けを取りながら衣服等々の用意もできたが……流石にヒタカの隣国の衣類までは事前準備というのは難しい。半端な知識で裏付けも無しに衣類を作る等となると、逆効果ということも有り得る。

 貨幣に関しては言うまでもない。質屋等もあるだろうから、ある程度装飾品等を現地で処分すれば路銀も手に入れられるだろうが、事前に手に入っていればそういった手間も省けるという寸法だ。


「衣類や装飾品に関しては……貿易品として扱われるだけあり、それなりの高級品でござろう。そういう点で目立ってしまう事は避けられないかも知れないでござるな」

「まあ……それは仕方がないかも知れませんね。必要ならば現地で安い服を購入するという手もありますし」

「おおよその物価も調べておいた。着付けの方法も含め、資料として纏めてあるから、活用してほしい」

「ありがとうございます」


 ヨウキ帝に一礼する。旅の準備を諸々整えておいてくれた、という感じだ。


「実際に女官達には着付けができるよう勉強させておいた。実地で一度試しておいた方が良いのではないかな?」

「そうですね。分かる方に見ていただいている中で一度試しておいた方が良いかも知れません」


 というわけで女性陣は女官達に連れられて別室へ。俺も着替えてくるということで一旦広間を離れて隣室へ。イングウェイやイチエモンと一緒に、実際に着替えてみることにした。

 イチエモンは格式高い礼服から、一般的な服まで色々揃えてきてくれたらしい。

 総じて袖が広く、上着にしても袴にしても、ゆったりとした着心地のものが多いという印象である。

 礼服に関しては……歴史物で文官が着ているような衣服と言えば良いのか。ヒタカとは少し様式が違うが、古い時代の衣服には影響も見られるという話だ。


「礼服は若干動きにくいですね。僕としてはこっちの……単純で動きやすい方が好みかも知れません」

「私もこちらの方が好みですな」


 と、イングウェイ。話が合うのも当然というか。一言で言ってしまえばカンフースタイルだ。当然イングウェイの好みには合うだろう。


「それらは武術家が好んで着る服、という話でござるな。テオドール殿は体術も一流でござるが……こちらの裾の長い方はどうでござろうか。道士の類が好んで着るという話でござるよ」

「ああ、術を人前で使う事を想定するなら、そっちの方が良いかも知れませんね」


 礼服等よりは随分と動きやすそうだし。まあ、一般人に扮したり武術家の門弟に見せかけたり、道士に見せかけたりと、潜入する場所と目的によって使い分けるというのが良さそうだ。キマイラコートが変形してくれるので、アウターはこれらに様式を合わせて変形してもらう、ということになるだろうが。


 というか……隣国の鎧兜まで用意してくれたらしい。俺の身体のサイズに合う金属鎧は流石に入手できなかったようだが、それらはイチエモンやイングウェイが着る分には問題ないようだ。


「ふむ。鎧にしては華やかな印象がありますな」

「鎧の上から、布で装飾している部分が多いからでしょうか。豪傑が目立つ格好で暴れれば、それだけ敵兵に動揺を与えたりという効果も狙えますし、伊達というわけではないかと」

「ふむ。武家の者達は質実剛健を好むが……。イグニス、であったか。西方の鎧は、全身をくまなく覆うからか、より堅牢という印象が強いな」

「西国と東国の鎧の違いについては、一長一短かも知れませんな」


 タダクニの言葉にそう答えると、ヨウキ帝も真剣な面持ちで頷いて、タダクニと色々分析していた。鎧に関してはヒタカの武家の鎧の改良等々にも繋がるからか、衣服とは違った意味で真剣に議論している、という印象だ。


「明光鎧、と言うらしいでござる。この部分は護心鏡と呼ぶそうでござるな」


 と、胸部、背部のパーツを指してイチエモンが言った。これで槍や偃月刀えんげつとう(げき)等々を手にすればまさに武将という雰囲気だ。イングウェイもイチエモンも武術の心得があるからか、鎧を纏えば堂々としたものである。


 俺の場合はサイズに合うのは軽量な革鎧で、文官や軍師が戦地に立つ時用の代物らしい。確かに……フル装備だと軍師風、といった印象だ。装飾が華やかなのは明光鎧と同じと言える。


 そうこうしていると女性陣も実際に衣装を纏って戻ってきたらしい。というわけで、俺達も鎧姿のままで広間に戻ると……そこには華やかに着飾ったみんなの姿があった。

 こう、男性陣の衣服より色鮮やかで装飾が細かく華やかな印象だ。ひらひらとした袖や裾、羽衣のような布、と。淡い色使いだったり錦糸で刺繍が入っていたりと、何とも風情がある。髪を結ってかんざしなどで留めるのが一般的なようで……。

 俺としては眼福だ。異国情緒もたっぷりである。


「どうでしょうか?」

「ん……。似合ってる。華やかで綺麗だね」


 問われて正直なところを口にすると、グレイス達はにっこりと笑った。嬉しそうに両手を広げて、くるりと回るマルレーンである。


「テオドール様の衣服は鎧、ですか? 格好いいですね」

「ああうん。軍師が戦地で着る軽装の鎧らしいよ」


 アシュレイの言葉に俺も纏った鎧をみんなに見せる。

 ……こう、着飾ったみんなに寄られて注目されると些か気恥ずかしいものがあるな。


「というか、セラフィナの服も用意してくれたんだね」

「うんっ! ヒタカノクニの女官さんが、作ってくれたんだよ!」


 と、空中でくるくると嬉しそうに舞うセラフィナである。隣国の伝統衣装をセラフィナのサイズで作ってくれたらしい。背中の羽の邪魔にならない特別製だ。そんな嬉しそうなセラフィナに、みんなも相好を崩す。


 こうした伝統的な、ひらひらとした袖や裾の衣服を纏っているのはグレイス、アシュレイ、イルムヒルトと、マルレーン、ローズマリー、クラウディアにヘルヴォルテである。ヘルヴォルテの服は、若干襟元や背中が開いていて露出が高めだ。背中の翼を出すのにそれが適していた、ということらしい。


「これはあっちの武術家が着る服、らしい」


 と、シーラ。シーラとステファニア、シオン達とツバキに小蜘蛛達、アカネはカンフースタイルというか。裾の長いスリットの入った上着に袴を履いて。中々に活動的な雰囲気である。


「他にも同じような様式の服も貰ったけれど、こちらは袴を履かないらしいわ。刺繍や装飾は見事だったけれど、裾の切れ込みが深すぎて、潜入用には向かないかしら」


 と、ローズマリーが肩を竦めた。ああうん。いわゆるチャイナドレス風のあれか。多分、ローズマリーが着て羽扇を持ったりすると、すごく様になるのだろうという気がするが。


「衣服の様式の細かな違いは……元は地方の民族衣服だったものを取り入れたから、という話を聞いたことがありますね。古来からの伝統と、比較的歴史の新しいものがあると、本で読んだことがあります」


 と、補足してくれるコマチである。コマチも動きやすいものが好きなのか、チーパオに袴というスタイルである。


「ふふ、楽しくていいわね。こういう時間は」


 ステファニアがにっこりと笑う。髪の毛を両サイドでシニョンに結っていて、活動的なスタイルはステファニアらしい印象だ。


 何はともあれ、潜入の準備は万全といったところだ。この後は北東に向かい、御前達と合流することになるだろう。衣服についても御前やレイメイ、ジンやオリエの分もしっかりとあるので、それらは後で渡すとしよう。

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