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番外201 諜報活動報告

 シリウス号は高高度の魔力光推進を用い高速移動中である。星球儀を見て現在位置と航路を確認しつつ、一路ヒタカノクニに向けて航行中だ。


「ありがとう、マルレーン」


 マルレーンがお茶のお代わりを淹れてくれた。お礼を言うとにこにことしながら頷く。イルムヒルトがリュートを奏で、セラフィナが楽しそうに歌を歌う。

 ティールが首をくいくいと動かしてリズムを取っていたりと、航行速度とは違って艦橋はのんびりとした雰囲気である。


「どう?」

「良いですね、実に滑らかな使い心地です」


 小蜘蛛の覗き込む中、ユラはにこにことしながら墨を用いて呪符をすらすらと書いていく。符術に用いる札はユラも生産できるとのことで、時間と魔力の余裕さえあればこうして増産してくれる、というわけだ。

 簡易的な結界を張ったり攻撃や防御に使ったり、或いは存在を気付かれなくしたり、身代わりに呪いなどを引き受けたりと……いくつか種類はあるが、話を聞いたり実演してもらった感じでは使い勝手の良い代物に見える。

 そして、ユラの使っている筆は小蜘蛛達の糸を筆先に使ったコマチの特別製だ。


「何と言いますか、一定量の魔力を込めやすくて、作業しやすいと言いますか。こうして道具に頼ってしまうあたり、私がまだまだ未熟という事かも知れませんが……とても良いものに感じますね」

「うん。良かった」

「糸の調整。色々考えたもんね」

「きちんと仕上げてくれたコマチにもお礼言わなくちゃ」


 と、小蜘蛛達は顔を見合わせ頷き合う。


「いやあ、気に入っていただけて良かったです。折角小蜘蛛さん達に提供してもらった糸ですからね」


 そんな言葉に、コマチは照れ臭そうに笑いながら後頭部を掻いたりしている。

 そんなやり取りに、書きあがった呪符を種類ごとに整理していたアカネやツバキ達も微笑ましそうに笑う。


「そう言えば……マヨイガさんの人形も、蜘蛛糸を髪の毛の素材として使う、という話でしたか」

「そうなるね。糸自体にも魔力を貯め込めるようだし、ヒタカ縁の素材で固める方が向いているかなって思う」

「真っ白でも艶やかで綺麗でしょうけど。染めてみるのも面白そうね」


 グレイスの言葉に頷くと、ローズマリーがそんな風に言う。マヨイガの操っている改造ティアーズがモニター越しにグラスハープのような音を鳴らす。

 そのへんの機微はよく分からないので、お任せする、と言っているようだ。


「でも、完全にこっちで、というのもね。色の見本を何種類か作って、マヨイガの好みの色を基調にしていく、というのはどうかしら?」

「ん。それは面白そう」

「本人の意向や好みが反映されていた方が良いものね」


 クラウディアの言葉にシーラが頷き、ステファニアが笑顔で言うと、ティアーズは嬉しそうに音を響かせ、頷くように機体の先を縦に動かしていた。

 そんな風にして、ヒタカノクニへの旅は和やかに進んでいくのであった。




 ヒタカの陸地が近付いてきたところで高度と速度を徐々に落としていく。

 今回の訪問ではあちこちの公的機関に通達をしているので、魔力の温存等が必要なら姿を隠す必要はない、と帝からは許可を貰っている。

 とはいえ隣国に噂話が伝わってしまいそうな地理関係では、まだ姿を消して移動した方が良いだろう。


 光魔法の迷彩を施して、ヒタカの陸地を進んでいけば――やがて遠くに都が見えてくる。

 通信機で連絡を入れながら迷彩を解除し、ゆっくりとした速度で都へ近付いていく。都にとっての正門となる南側に着陸させると、既に内裏からの迎えが門の前に来ていた。


「おお、テオドール殿。お待ちしておりました」

「これはタダクニさん」


 シリウス号を停泊させ、甲板から降りたところで声をかけられる。迎えに来てくれたのはタダクニであった。

 再会の挨拶を交わしつつ迎えの力車に乗って。南門から大路を通って内裏へと向かう。式神の牽引する車は、牛車と違って割合軽快な速度だ。沿道に詰めかけた人達が手を振ってくれたりと、到着を随分と歓迎してくれている雰囲気があった。


「ヴェルドガル王国やエインフェウス王国との交流も、国内での周知が進んでいます。アヤツジ兄妹の捕縛に助力頂いたことと言い、すっかり国内ではテオドール殿や奥方様達のご高名が広まっておりましてな」

「そうでしたか。いや、歓迎してもらえるのは嬉しいですね」


 と、タダクニの言葉に小さく笑う。こういう空気は慣れないところはあるが、明るく迎えてもらえるというのは良い事だろう。

 内裏に入って車から降りるとヨウキ帝と側近達。そしてイチエモンが揃って俺達を待っていた。


「おお、テオドール。よく来てくれたな。さ。奥へ」


 と、ヨウキ帝は笑顔で迎えてくれる。内裏の奥にある広間へ進んで、そこで腰を落ち着けて話をする。今回は主にイチエモンの報告結果を聞き、合流してから鬼の里へ、という形になるだろうか。

 お茶と和菓子が運ばれてきたところで、ヨウキ帝が話を切り出す。


「到着したばかりで早速ではあるが……諜報の結果報告を始めるとしよう。済ませるべきことを済ませてからの方が落ち着けるであろうしな」

「ありがとうございます」


 一礼する。ヨウキ帝は静かに頷いて、そうしてイチエモンに視線を向けた。俺達の視線が集まると、イチエモンは深々と一礼し、そして居住まいを正して口を開く。


「まず、情報収集の方法と出所についての話をしたく。これらの情報は隣国からの貿易船に乗っていた船員や商人達からの伝聞、という形でござる。利害に敏感な商人達ということで、ある程度の信憑性はあるものの、裏付けはない、ということに留意をして頂きたく」

「調べられる情報としては、かなり有用なものではないでしょうか。敵――と敢えて言ってしまいますが、敵が情報操作をするにしても、敢えて国外でそうして誘導する意味も大きいようには思えませんし」

「確かに」


 俺の言葉に、タダクニも顎に手をやって頷いた。

 つまりは、裏付けはないものの、商人達の利害や船員らの立場等々と加味して考えれば十分に参考になる、ということだ。

 情報の鮮度に関しては、噂話の伝達と船旅の期間分だけ遅れるが、これに関してはまあ、どうしようもない。ヒタカで得られる最新情報ということになるだろう。

 イチエモンは頷くと、言葉を続ける。


「裏付けとは呼べぬのでござるが、幾人かの相手から共通して聞けた情報を総合すると、やはり隣国は未だにいくつかの勢力に分裂して混乱中、というところでござるな。件の悪名高き暴君が北東方面から北方中央までを手中に収めているそうでござる」


 隣国全体の概略図を紙に描き、地方ごとに指し示しながら解説してくれる。


「他の主だった勢力としては、南部中央付近に名士が治める土地。北西の山間部を治める猛将がおり……南東の湾岸部も高名な将が治めているといったところでござろうか。南西部にも勢力があるそうでござるが、ここは戦乱から距離を取っているそうで……情報不足でござるな」


 南東部を治めている勢力と貿易船が行き来しているので、遠方はともかく、ここの情報はある程度正確に入ってきているのではないか、とイチエモンが補足してくれた。

 湾岸部を治める人物については、まあ、商人や船員達を通しての評判は悪くない、とのことであるが。前統一王朝の王子に関しては、どこそこの国に潜伏しているのではないかという噂は聞こえてくるものの、商人達を通しては情報収集できなかった、という話である。


 しかし、悪名を轟かせている王に関してはあちこちに攻勢を強めているそうで。

 北東と南東部を繋ぐ要衝が攻撃を受けているとか。そんなキナ臭い情報も伝わってきているそうだ。


「やはり……混乱していますね」

「確かに、な。後の事はこれらの情報を元に、現地に向かってから改めて情報収集をしていくということになるか」


 仙人も無事であれば……普通に考えれば行方を暗ましているだろうしな。

 巻物の在り処を示す位置を割り出す事で、ある程度向こうの状況というか、安否を探ることは可能なはずだ。

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