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番外180 魔物鳥の事情

 さてさて。みんなで移動する先にも引き合わせたい面々が待っていたりする。

 迎賓館から出て中庭に向かうと、その途中で、ツバキが不思議そうな面持ちで尋ねてくる。


「何というか、この城に来てから何かの力を感じているのだが……。大きすぎて、逆によく分からない、と言えば良いのだろうか? むしろ落ち着くような感覚で、逆に少し戸惑っている」


 そんなツバキの言葉に、ティールとオボロも少し目を見開いてうんうんと頷いた。

 ティールとオボロの反応は、ツバキが説明できないことを全部代弁してくれた、という印象だ。

 大きすぎてよく分からないとはまた。ツバキの感覚はかなり的を射ていると言える。


「そうですね。それは多分、高位精霊の友人が来ているからかな、と。これから顔を見せにいこうと思っていたところなのです」


 魔物や妖怪は精霊にも親和性が高いから、落ち着いた状態で紹介したかったというのもある。


「なるほど。そういうことか。しかし、これは……いや、会えば分かるか」


 と、そんな話をしながら庭園に出る。そこを進んでいくと、東屋に集まっている面々がいた。ティエーラとコルティエーラの宿る宝珠。四大精霊王。それからテフラ、フローリア。それから水竜のペルナス、インヴェル、その娘のラスノーテという面々だ。東屋に腰を落ち着けて、テーブルの上に置かれたハーベスタを撫でたりしながら談笑している様子であった。


「ああ、みんな無事で何よりです」

「帰ってくると聞きましたので」

「うむ。みんなでお邪魔させてもらっておるぞ」


 と、俺達の姿を認めたティエーラが微笑み、マールとプロフィオンもそう言って相好を崩す。


「おかえり!」

「元気そうで何よりだ」


 と、みんなで暖かく帰りを迎えてくれているという感じだ。

 周囲にいた小さな精霊達も、先程までは高位精霊の周りで座ったり寝転がったりと落ち着いていた様子だが、ティエーラ達の反応に呼応して相当なお祭り騒ぎになっている。だがまあ、それはそれとして。


「ありがとうございます。ただ今戻りました」


 挨拶を返して、初対面の面々をお互いに紹介する。


「テオドールの友人の、ティエーラと言います。まあ、私については古株の精霊ということで」

「そ、そうですか。私はヒタカノクニの、鬼の里より参りましたツバキと申します」


 ツバキはややぎこちない仕草で一礼する。やはり驚きや緊張が強いようで。

 ティエーラの自己紹介は割とお茶を濁している感じではあるが、まあ、周りにいるのが四大精霊王、火山の精霊、大樹の精霊、それに加えて水竜親子という顔ぶれで、その中でも肩書きが曖昧なのに一際大きくて穏やかな力を持っているわけだから、それで色々と察した部分はあるようだ。


 鬼は感覚が鋭い上に妖怪として精霊に近しい部分、人間に近しい感性と色々持ち合わせているから。色々感じ取ったり考えすぎてしまうのかも知れない。

 ティールとオボロは割合素直な反応だ。高位精霊と接するのを楽しそうにしているあたり、鬼よりも精霊寄りな種族だからだろう。


「いやあ、高位精霊様がこんなに集まっているなんて、すごいですね……! 私はヒタカノクニより参りました、コマチと申します」


 コマチも普通に握手を求めたりと、気軽に接している。ティエーラ達もそれに気軽に応じていて……精霊に対する感受性の違い、性質の違いがそのまま反応の違いとして表れているように見えた。


「……いやはや。大物というか何というか」


 ツバキはその光景に苦笑する。


「この子は海の気配が強いのですね」


 と、インヴェルが首を傾げる。


「ティールは海鳥の魔物ですね。南の極地に住んでいると思われるのですが、仲間とはぐれてしまったようで。一先ず行動を共にしている感じです」

「なるほど。我らに近しい魔物なわけか。仲間が見つかると良いな」

「よろしく、ね。ティール」


 ラスノーテがにこにこと手を差し出すと、ティールはフリッパーを差し出して応じ、水竜夫婦やシャルロッテが表情を緩めていた。




 高位精霊の面々との顔合わせも終わったところで、みんなで庭園を連れ立って移動し、湖に出られる場所まで移動すると、ティールは嬉しそうに湖に飛び出していった。

 湖の中に飛び込み……猛烈な速度で遊泳し、湖面から飛び出したりと久しぶりの泳ぎを満喫しているようだ。魔道具もしっかり機能しているようで、湖でも心地よさそうに見える。喜んでもらえて何よりだ。


 ラスノーテもそれを見ていてうずうずしてきたのか、両親に人化の術を解く許可を貰うと、水の中に走っていき、竜の姿に戻ってティールと一緒に楽しそうに泳ぎ始めた。

 コルリスも……泳いだり水浴びしたりするのは割と好きなのか、のっそりとした動作で進んでいき、湖面にぷかぷかと浮かんだりして。マイペースながらも水浴びを楽しんでいる雰囲気であった。


 そうして泳ぐ面々を見守りながらも、お茶を飲んでのんびりとするという形だ。

 俺としては……ティエーラと顔を合わせたら聞いておきたいことがあった。

 つまり、ティールの仲間達の居場所を探す方法についてだ。


「先程も話しましたが、ティールは仲間とはぐれてしまったようで」


 凶暴化した魔物に襲われてはぐれたという、ティールの事情を説明する。


「……というわけで、仲間達の居場所を探す方法はあるでしょうか?」


 そう尋ねると、あっさりとティエーラが頷く。


「ほんの少し時間はかかりますが、おおよその地域と、種族としての魔力の波長が分かれば、恐らくは。同じ種で集まれば集まるほど、探知しやすくなる……と思います」

「ああ。その点は……群れで暮らしている種族なようですよ」

「それなら、私に感じ取れる可能性は高まりますね。何とかなりそうです」


 そう言ってティエーラが微笑む。その言葉に、グレイス達も顔を見合わせて笑顔になった。ここまで言ってくれるということは、見つかる可能性が高いと言っているのと同義だからだ。


「ふふ、良かった」


 イルムヒルトが、楽しそうに泳いでいるティールを見てにっこりと笑う。

 彼女としては故郷のみんなと別れて、というところで自分の境遇と重ねて見てしまうところがあるのだろう。


 ティールの仲間達の居場所を探る方法ができた、となると……後はなるべく早くしてやるべきだろうか。

 探知の目星がついた以上は、それに関する緊急性なども確認しておいた方が良いだろう。場合によっては巻物の準備よりも優先する事態であるかも知れないし。


 そんなわけでティールに声をかけると、すぐに戻ってきた。


「悪いね。少しティールの仲間達のことで、確認しておきたい内容があるんだ」


 ティールは問題ない、というように声を上げる。


「凶暴化した魔物に襲われた話をもう少し詳しく聞きたいんだ。具体的にはティールの群れの仲間に危険はないのか確認しておきたい」


 そう尋ねると、ティールは首を横に振って鳴き声を上げた。

 仲間達は大丈夫、と言っているようだ。身振り手振りを交えながら鳴き声を上げて、ティールが色々と起こった事を伝えようとしてくれている。


 その魔物の襲撃が起こったのは……群れの仲間達と海に潜って魚を追いかけていた時、らしい。沢山の魚の群れ。滅多にないほどの豊漁だったそうだ。その魚群を追いかけている内に――ティール達の群れは普段はいかない海域と深度までうっかり入ってしまったという話である。


 巨大な烏賊か蛸か。海の底の方から真っ直ぐ向かってきたのはそういう魔物だった。巨大な触腕を振り回して、真っ赤な目を輝かせて襲いかかってきたらしい。

 その時ティールが目にしたのは、経験の浅い若い仲間達ばかりの集団が魔物に襲われている姿だった。泳ぎには自信があったのでとっさに自分が守らなければ、と思って割って入ったそうだ。


 散り散りになって逃げる仲間。突っ込んで氷の弾丸で応戦。目の近くを狙うことで注意を引いて、そのまま仲間達から引き離すように突っ切って逃げた、という話であった。

 怒り狂った魔物は追ってきたそうだが、速度ではわずかに勝り、体力でははるかに劣る。そんな相手。それでもティールには勝算があったそうだ。どちらにせよ、あんな巨大な魔物が、仲間達の存在を知ったからにはこれから先、みんなで怯えて行動しなくてはならない。


 だから――何とかしなければいけなかった。別の意味で危険な相手が住む海域を知っていたから、逃げながらそこに誘い込んだ、とティールは言う。


 猛毒を持つ魔物クラゲの住まう海域。自分ならば、氷を纏えば毒を受けずにすり抜けられる。だがそれよりも巨大な図体を持つ魔物はそうもいかない。

 目論見通り、氷の壁を作り上げて目くらましをしたところに突っ込んできたそうだ。そうして、巨大な魔物は、クラゲ達の触腕に触れて猛毒を受けた。


 そこまでは計画通り。しかしそれでもティールの追跡を止めようとしなかったのは計算外。お構いなしにというか、道連れにしようというのか、とんでもない執念と気迫で追い回されて。


 気が付けば巨大な魔物は毒が回って死に至り――それを見届けはしたが、自分も疲れ果てて意識を失ってしまったらしい。

 気が付いたらもうどことも知れない見知らぬ海に、巨大な魔物の死骸と共に流されていたという話である。海流に乗って、運ばれてしまったということか。


 だから仲間達への危険はない、ということなのだろう。

 すぐに帰るよりも……迷宮に潜れば、もっと氷を使う術を強くしたりできるのだろうか、と逆に質問を受けてしまった。


「ティールは、強くなりたいのかな?」


 そう尋ねるとティールは首をこくこくと縦に振る。逃げ回るだけじゃなくて、できるなら自分や仲間を守れるようになりたいのだと。翻訳の魔道具を通して、そんなティールの気持ちが伝わってくる。


「そっか。だったら、できることはしてやりたいかな」


 そう答えると、ティールは嬉しそうに声を上げた。


「そうなるとティールも……しばらくの間はタームウィルズとフォレスタニアに留まることになりそうですね」


 グレイスがそんなティールの反応に微笑む。


「かも知れないな」

「修行でここに残るのは良いとしても、仲間の居場所は探知しておきますね」

「そうだな。やっぱり巻物の件が片付いたらってことになるか」


 ティエーラの言葉に頷く。まあ、仲間と再会できてもティールは修行を続行するという形になるのかな。

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