番外171 霊獣の鱗
――都に到着したところでシリウス号を外壁周辺に停泊させて、内裏や陰陽寮、巫女寮に連絡を入れてから帝の待っている内裏へと向かう。
同行している妖怪達とも話をしたいので一緒に内裏に来てほしい、と使いから連絡があった。使い魔達も一緒で大丈夫な大広間を用意して待っているとのことなので、ここはお言葉に甘えさせてもらおう。
そうしてみんなで迎えの牛車に乗って帝の待つ内裏へと向かう。シリウス号の到着を知らされていたのか、沿道に都の住民達が詰めかけている。
アヤツジ兄妹一派を捕縛したからか、笑顔で手を振ってくれたり声援を送ってくれたりと、中々好意的な反応だ。
「こりゃ一体、何の騒ぎなんです?」
「ああ。西方の……ヴェルドガル王国……だったかな。そこから来た、偉い術師様だそうですよ」
「あのアヤツジ兄妹を叩きのめして捕縛したとか。ユラ様やタダクニ様と共に一味と戦ったという話で……」
「そりゃまたすごい話ですな……。わたしゃ、ここ暫く都を離れていたので、そういう話にとんと疎くなってまして」
「良い時にお帰りになりましたなぁ」
中には騒ぎを知らずに沿道に見に来た者もいたようだが、そんな噂話をしているのが耳に入ってきた。
「それで……あの大きなトカゲやらモグラやらは何なんです? なんだか、空を飛んでますが……。式神、でしょうか?」
「ええと。術師様のお供に変わった動物達がいるから驚かないように、と話を聞きましたが……」
「むう。流石は偉い術師様ですな」
牛車に続いてリンドブルムやコルリス達が空を飛んでいるのを見て驚いている面々も多かったが……コルリスはいつも通り手を振ったりして、集まった人達を更に驚かせていた。
そうして牛車が内裏に到着すると、早速奥に案内してくれる。大広間に向かうと、そこに帝が待っていた。帝は立ったまま待っていたようで。俺達の姿を認めると相好を崩す。
「いや、よく無事で帰ってきてくれた……!」
「これは陛下」
一礼すると、帝はにっこりと笑みを深める。
「通信機で安否は分かってはいても、待つだけというのはやはりもどかしいものだな。まず、ヒタカノクニを治める者として、アヤツジ兄妹とその一派の捕縛の件についての礼を言わせて欲しい。この通り、深く感謝する」
「もったいないお言葉です」
そう返すと帝は首を小さく横に振る。
「いや。感謝の言葉はいくら重ねても足りるまい。アヤツジ兄妹のあの手際からして、我らだけでは対応が後手後手になっていたであろうからな。それに……ユラ、タダクニ、アカネ、イチエモン。大儀であった」
「はっ」
「さ、腰を落ち着けてくれ。料理を用意して待っていたんだ」
「ありがとうございます」
というわけで帝と共に腰を落ち着けると、女官達が色々と料理を運んでくる。
白米にお吸い物。鯛に鰹、ハマグリ、茶わん蒸し、蒲鉾。山菜にキノコ。どれも色鮮やかに盛り付けられていて、ニンジンなどは桜の形に切られていたりと……見た目にも華やかだ。流石は内裏で出される料理という印象である。
都は港からも近いから、海の幸をふんだんに使った料理であるようだ。シーラとしては魚介類が多いので尻尾が反応している様子である。
そうして食事を楽しみながら、妖怪達の協力とアヤツジ兄妹の捕縛、鬼の里であった事等を帝に話して聞かせ、ツバキやすねこすりも紹介する。帝はそれを落ち着いた調子で聞いていた。
「まさか、いきなり都の御所にまで通してもらえるとは予想していませんでした」
と、ツバキが苦笑する。
「これまでは互いに接点を持つ機会がなかったが……同じ目的のために戦うとなれば、礼を尽くすのは当然の事だろう。私は……立場上矢面に立てない身だというのもあるから、こう思うのかも知れないが」
そんな帝の言葉にツバキは静かに目を閉じて一礼する。
「その言葉、鬼の一族の代表として……いえ、あの土地から来た者の代表として、皆にしかと伝えます」
そんなツバキの返答に、帝は頷く。
「そうだな。かの土地に住まう者にはアヤツジ兄妹を打倒するための手助けもしてもらった。そのことにも礼を言わなければなるまい。ましてや人との友好を望む者達。種族の区別なく、これから先の友誼を深めていきたいものだ」
そう言うと、すねこすりがこくこくと首を縦に動かし、それを見た帝は愉快そうに破顔した。
「都の方はその後、どうだったのですか?」
「連中を引き渡してもらってからのことかな。闘気や術を使っての抵抗もできないので心が折れた、という印象だな。サキョウは抵抗以前の状態ではあるらしいがな。今は余罪やどの程度の犯罪に関わっていたかを取り調べているところだ」
事後処理のような面倒事はこちらで処理をする、と帝が言う。とりあえず、連中が暴れるというようなことも無いようなので俺としては一安心というところか。
「後は……巻物についての話になるか」
そうだな。それに関しては未解決なので話をしておかないといけない。
「私としては、今後も万全の協力体制をとっていくつもりだ。イチエモンも言うように、時間の許す限り情報を集めさせておこう。とはいえ、隣国の情勢が安定していない、というのは間違いないのだがな。そこで、少し考えたことがある」
そう言って、帝は何やら用意していた桐箱を前に出してくる。何やら……中身は相当な魔力を秘めた品が収められているようだが。
「隣国で活動するにあたり、これを受け取って役立てて欲しいのだ」
「開けてみてもよろしいでしょうか?」
「うむ。手に取って見てほしい」
箱を開けてみると……何かの動物の毛の束らしきものと、鱗のようなものが入っていた。動物……? いや、高位精霊、かな、この気配は。
触ろうとすると毛の束らしきものはふわりと指にまとわりつくように空中に浮かぶ。鱗もだ。触れた途端に清浄な魔力を放ちながら、燐光を纏った。
特に……毛の束の方には非常に強い風の力を感じる。フェニックスに匹敵するほど、というのは――。
「やはり。それが反応するというのは流石だな」
「と、仰いますと?」
「それは麒麟という霊獣の、尾毛と鱗なのだ。何代か前の祖先が、麒麟に頼んで譲ってもらったもの、と伝えられている」
「麒麟――」
それはまた……驚いたな。俺の反応に帝は楽しそうに相好を崩す。
「麒麟は徳の高い為政者が現れる時、姿を現すと言い伝えられている。故に、領主たるテオドール殿にはそうして尾や鱗が反応を示したのだろう」
何というか……。そこまで評価してもらえるのは恐縮だが、徳の高い為政者というには、まだ俺は何もしていない段階に等しい。俺の場合は、精霊との親和性で反応した、という事にしておこう。
「そんな貴重なものを……いただいてしまっても良いのですか?」
「鱗の方はまだ数枚あるし、宝物庫に眠らせておくよりは然るべきところで役立ててもらう方が正しいのではないかと私は思う。先程、隣国で活動する際に役立てて欲しいと言ったが……あの国は今、分裂しているだろう? 誰を信用し、誰を味方と見做せば良いのか。麒麟の鱗があれば判断することもできるのではないかと思ってね」
「……なるほど。そういうことでしたか」
鱗があれば信用できる者もある程度見当がつく、というわけだ。味方かどうか判断するには鱗を用い、敵の情報は遠慮なくサトリから得る、という形になる。
鱗はそうして探知の役に立ててもらうとして。尾の毛に関しては……俺への礼、ということになるのかな。これほどの風の魔力を秘めているわけだし、水竜の鱗やフェニックスの尾羽と並んで、これ以上ないほどの触媒になるのは間違いない。




