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番外166 最後の巻物の在り処は

「ふうむ。相変わらず仲睦まじそうで、妾としては安心したぞ」

「いや、儂らの話はここではあまり関係のないことなんだがな」


 御前が言うとレイメイはかぶりを振る。

 御前はレイメイの事情をある程度知っていたようだな。……まあ、約定を結んだ旧友の秘密など、当然おいそれと他人には話せないだろう。本人が俺達に明かしてくれた今なら話は別だけれど。


 レイメイとシホさんの話については、みんなも色々思うところがあったようで。なんだか和やかというか弛緩した空気になってしまったが……当人は逆に居心地が悪そうにしていた。


「あー……。家内については話が終わったら紹介する。それより今は巻物の話をしなきゃならねえからな」


 と言って、レイメイはそれきりその話を切り上げてしまう。

 話が終わった後で、というのは……まあ、巻物関係の話が終わったわけではないからな。どう話が展開するかまだ分からないところはあるし、心配させないようにしているのかも知れない。後からまとめて話すという形なら、話の印象を和らげたりもできるし。


「しかし……あいつの渡してきた巻物の内容について思い当たる事、か。儂があいつと行動を共にしていたのは、あいつが世俗で道士として修行していた時期だったしな。仙人と呼ばれるようになったのはその後の話だ。仙人の秘宝や秘術、か」

「宝や術でなく、何かしらの口伝や場所を示すという可能性もあります」

「確かに、な」


 レイメイはそう言って考え込んでいたが、やがてかぶりを振った。


「……やはり、分からんな。悪王とやらが手出しを考えている物品である以上は、使い方ややり方次第ではろくでもねえ事になるんじゃねえかとは思うが」

「そこには同感ですね」


 というより、悪用できるから狙っていると見るべきか。仙人の安否も気になるところだ。


「僕としては、巻物の片割れのある方角を探知できる手段があるのでは、と思っていましたが」


 仙人の元々の居場所を聞く、というのは意味があるまい。俺が仙人の立場であるなら、3つ目の片割れをもって、行方を暗ますという選択をする。


「元の形がもう少し分かればってところだが……」


 レイメイは俺に視線を向けてくる。


「2つ揃えば、最後の片割れの探知は可能ですか?」

「まあ、な」

「しかし……かえって状況を悪化させる可能性もある、というわけね」

「敵側の状況次第では、というところかしら。確かに、あっちがどうなっているかが分からないものね」


 ローズマリーが言うと、ステファニアが眉根を寄せる。


 俺の持っている片割れと、レイメイが預かっている片割れがあれば、探知は可能だと。しかし、ローズマリーの言うとおり、こちら側のリスクを吊り上げる話でもある。

 仙人がバラけさせたのに同じところに2つ集めるというのは……隣国の状況が分からない以上、敵側からすれば千載一遇の好機になってしまうかも知れない。


「話が早くて助かるが……儂としちゃあ、事情を知った以上は座して待つってのは性分じゃねえな。あいつもそう簡単にやられるような輩でもねえしな」


 安否は分からないまでも仙人を助けに行くか、それとも巻物の安全を最優先して行動するか、という違いになる。だからと言って、仙人を助けに行くという選択は、巻物の守りを放棄することと同義ではない。

 要するに仙人と巻物の問題を解決するために、攻めに出るか、守りを固めるかということだ。レイメイは前者を選ぶということだろう。


「そこも同意見ですね。最後の巻物の場所が分かるのなら、混乱した隣国をあちこち動かなくても良くなりますし」

「確かにこちらから攻め手に出たからと、巻物の安全を放棄するわけではないからな」

「仙人殿の身に危険が迫っているなら尚の事。いっそ悪王ごと叩き潰して一件落着といきたいところですが……まあ、そこまで簡単にはいきませんか」


 俺とイグナード王、イングウェイがそう言うと、レイメイは愉快そうに肩を震わせた。


「気が合うじゃねえか。儀式を行うには時期を選ぶぞ。次の満月を待たなきゃならん」


 ……満月か。まだ少し間があるな。


「では、満月に合わせて、巻物をこちらに持ってきます」


 時差があるから、そこは気を付けないといけない。

 となると、一旦タームウィルズに戻り、イグナード王は長期間国を空けるわけにはいかないから、エインフェウスへ戻るということになるか。

 そうして俺達も隣国に潜入する準備を整える、と。


「そういう事なら、次の満月までに隣国の最新情報を集められるだけ集めておくというのが最善でござろうか」

「ふむ。陛下には私からお話をしておきましょう」


 イチエモンとタダクニが言う。


「俺達は……まだ恩を返せていない……。邪魔でないなら、隣国まで手助けに行く」


 と、サトリが言うと雷獣もにやりと笑う。

 サトリの手助けは……正直かなり助かるかもしれない。今度は交渉相手と話し合いに行くのではなく、敵地潜入になる可能性が高いし。


「ん。助かるよ」

「私にもお手伝いさせてください」


 アカネが胸のあたりに手を当てて言う。ユラも艦橋側でアカネに同意するように頷いていた。


「全く……好き好んで危ねえ橋を渡る事もねえだろうに。物好きな連中だ」


 そう言いながらもレイメイはみんなの反応を好ましいと思っているのか、機嫌が良さそうにも見えた。


「まあ、巻物の一件は放置しておくとどう転ぶかわかりませんからね。乗りかかった船でもありますし、自衛のためでもあり、国規模での友好のためでもある、ということで」


 何せ、宝珠絡みの事件は発覚した時には後手に回っていて、最終的にはルーンガルド規模の事件に発展したしな。巻物の内容がどの程度の規模に転がるかは不明だが、それを見極めておくのは重要だ。


「なるほどな」


 レイメイは笑って頷く。それから御前に視線を向けた。


「あー。蜘蛛にも話をしておいた方がいいのかも知れねえな。今回の件はこっちで処理するってな。後で知らせると文句を言ってきそうだ」

「それはあるかも知れんな。ま、あやつを呼び出すのは簡単であろう」


 あー。巻物の件でこの地方に外から敵が来るかも知れない、となるわけか。そうなると蜘蛛も無関係ではいられないだろうしな。そういう意味でも、こちらから打って出て脅威を排除しに行く、という方針を蜘蛛に対して明確にしておくのは重要だろう。


「では、谷までは俺が」


 ジンが立ち上がる。


「じゃあ、頼むぜ。谷の外から蜘蛛糸に声をかけりゃ、大蜘蛛まで伝わるからよ」

「承知しております」


 そう言ってジンは頭領の屋敷を出て行った。

 糸を用いて音を伝播させることで見張りを立てなくても縄張りの状況を探れるというわけだな。なかなか便利そうだ。


「蜘蛛に関しては、話し合いは大丈夫なのでしょうか?」

「ん? まあ、問題はねえよ。度量の小さい奴ではねえからな。霊場を手に入れて以来、あっちも食糧問題が解決しているからか、機嫌が良い事も多いし、案外話せる相手だぜ」


 なるほど。御前とレイメイの、蜘蛛への見解は一致しているようではある。やはり古い喧嘩友達の一角、ということか。

 んー。となると鬼の里で顔を合わせての話し合いということになるのかな。御前達は旧交を温め、俺達としてもこの近辺の実力者である蜘蛛とは、なるべく良好な関係を維持しておきたい。


「国元から、色々な食材や酒を持ってきているのですが。大蜘蛛との話し合いのお役に立つでしょうか?」

「おおっ、そりゃ良いんじゃねえか? あいつも喜ぶと思うぜ」

「うむ。となれば宴会であるな」


 というわけで、物資を積んで待たせているシリウス号についても話をしてみると、レイメイは割と気軽な感じで領地に入ることを許可してくれた。

 一度信用したら後から疑ったりもしない、というような態度だ。隣国の問題でも共闘することになったし、親睦を深めておきたいと思う。

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