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番外137 予言の巫女

 規則正しく区分けされた城郭を目的の場所へ進む。

 城郭内は北側に帝の住居、中央部に帝が直轄する官庁が集中している、とのことである。

 アカネが仕えている巫女がいる場所もそうだ。官庁の部署ごとに分けられており、中央部の区画にそれぞれの建物が割り当てられている、とのことだ。


 力車に乗って、広々とした外壁の屋敷が並ぶ区画を進んでいくと……何やら長刀を持った女性2人が守る門が見えてくる。


「これは――アカネ様」

「お戻りになられましたか」


 と、2人の門番は力車から顔を出したアカネを認めると、揃って頭を下げてくる。


「ユラ様のお客様をお連れしました。皆に、失礼のないよう通達を」

「はっ」


 門番の片方が一礼する。門が開かれて、力車ごと敷地内に入っていく。門番の片割れも通達のためか、屋敷の奥に消えて行った。

 敷地内に広がっているのは幾つかの建築物を渡り廊下で繋ぐ……所謂、寝殿造りの立派な屋敷だ。俺から見れば、夜桜横丁や港町で見た建築様式よりもかなり時代を遡る印象である。恐らく、帝の御膝元である都に関して言うなら建築様式等の伝統を守っているのだろうと推測される。


「力車はあちらの車宿りへ」


 と、アカネが比較的小さな、独立した家屋に誘導してくれる。車宿りか。西方で言うなら厩舎や馬車の預かり所に相当する建物ということになるのかな。

 車宿りの担当であるらしい少女に力車を預ける。

 子鬼風のゴーレム達は力車の座席にいそいそと登って行って、そこに腰かけて目を閉じる。


「力車の車夫は式神にも見えますが、命令が無い限り自分から何かしたりということはないので、そのままにしておいてあげて下さい」

「は、はい。分かりました」


 少女は静かに頷く。

 連れ立って車宿りを出るとすぐに巫女姿の女官達がやって来て、アカネと共に俺達を屋敷の奥に案内してくれる。

 中庭を眺めながら渡り廊下を行き――敷地の中央にある寝殿の母屋に通されると、そこは広々とした空間になっていた。

 一角が祭壇になっていて、銅鏡やら榊の枝やらが飾られている。その祭壇の前に巫女姿の少女が1人鎮座していた。


 少女がこちらに振り返る。巫女は巫女なのだろうが、太陽を模した髪飾りや勾玉の首飾りの装飾品等々、敷地内で見た、他の者達とは明らかに違う雰囲気がある。

 年齢は……アカネより幼く見えるな。黒髪と白い肌、赤い瞳――。


「只今戻りました、ユラ様」

「苦労を掛けました、アカネ。その方達がそうなのですね?」

「はい。遥か西方よりいらしたとの事です。命が危なかったところを助けていただきました」

「それは――。怪我はなかったのですか?」


 アカネの言葉に、ユラは腰を浮かせて目を見開く。


「この通りです。詳しくは追々」


 アカネは微笑んで一礼する。その言葉にユラは目を閉じて大きく息を吐き、安堵したような様子を見せた。何というか、年相応、という部分が顔を出したようにも見えるが。

 ユラは俺達に向かって深々と頭を下げてから言った。


「失礼しました。貴き御客人方……ようこそお出で下さいました。私はユラと申します。私の従者を助けて頂いたようで、感謝の言葉もありません」


 アカネに話を聞いた限りでは、政治的実権は持たないが神職としては陰陽寮長官と同等の立場でもあるらしい。各地の神職との繋がりもあるそうで。

 

 まずは……自己紹介からかな。変装してきたが西方から来たという話をするのなら、髪の色も戻した方が良いだろう。




 巫女達がお茶とお菓子を運んできてくれた。品のよい茶器と器に盛られた緑茶と大福餅……。ああ。これは嬉しいな。


 まずは腰を据えて、こちらの面々もそれぞれ名乗り、その流れで国での立場やら訪問してきた理由、アカネと出会った経緯や刺客を撃退したこと等々、包み隠さずに話をした。

 ユラは静かに俺達の話と自己紹介に耳を傾けていた。みんなと結婚している旨を話してもそれほど動じなかったあたりは、帝の身近にいる人物故か。

 それで俺のヴェルドガル王国での立場的なところも大体理解してくれたようだ。


「皆様の事情は理解しました。まずは……改めてお礼を言わせて下さい。私の指示が、アカネを危険に曝してしまいました。そこを助けて頂いたことには感謝の言葉もありません」


 ユラはやはりアカネの命が危なかったというところに、大分衝撃を受けているようだ。どうやら、荒事にはあまり縁のない人物のようだな。


「いえ。ご無事で何よりです。予知については……多少の縁があったので思うところではあるのですが、何もかも自由に見通せるというわけではないのでは?」

「私は勿論テオドール様達には感謝をしております。ですが私の事にユラ様がお気に病む必要はありません。私自身の油断から来る失態だったのですから」


 俺の言葉に頷いてアカネが言う。アカネは、武官だからこういう返答になるだろう。

 離れた未来の予知になればなるほど不確定要素も大きくなるわけだから、あれこれと責任を求めるのは、些か理不尽であるようにも思う。まあ、予知能力を持つ当人としては、責任を感じてしまうのは仕方がないところがあるのか。どうして見通せなかったのか、と思ってしまうのは致し方あるまい。


「それでも……やはり、私自身の見通しが甘かった、と言うべきでしょう。二度と同じような失態を繰り返さぬよう、肝に銘じたいと思います」

「……そのように心を砕いて下さるユラ様だからこそ、私はお側に仕えられることを誇りに思っているのです」


 穏やかに微笑むアカネの言葉に、ユラは少し驚いたような表情で顔を上げた。それから一度頷いた時には、気持ちを切り替えるというか、決然とした表情を見せる。


「分かりました。私も、アカネの主人として恥じない振る舞いを心がけましょう」


 そうして、俺達に向き直る。


「お互い話すべきことは色々あるようですが……何から話をしたものでしょうか。予知でこの場所まで足を運んでもらったことについては、早めに伝えておくべきかもしれません」


 まあ、順序としてはそうなるかな。ユラに招かれてここに来たわけだし、予知に絡んだ事情は聞いておきたい。俺が頷くとユラは言葉を続ける。


「実は……私があなた方の事を予知したのは、これで二度目になるのです。以前私は地震を予知しているのですが……あれを収めたのは、テオドール様達なのではありませんか?」


 そう言われて、顔を見合わせてしまう。みんなも驚いたような表情をしていた。

 俺達がヒタカの地震を収めた……などという事をしたのだとすれば、つまり――。


「その地震というのは、何時起きた事ですか?」

「そうですね。あれは確か――……」


 と、ユラは地震の起きた時期を教えてくれる。聞いてみれば、それは丁度、俺達がイシュトルムを追って月に行っていた時の事だった。

 イシュトルムが、月と地上を精霊の共振で破壊しようとしていた時、か。あの時は各地でも地震が起こっていたようではあるが。確かに……精霊にも大きな影響が出ただろうな。惑星規模の異変なら、ヒタカにも影響が出ていたのは当然ではあるのか。


「心当たりはあります。高位精霊を用いて、地上の破滅を目論んだ者を討伐したのです」

「そう、でしたか。やはりあなた方はあの時の月に見た、希望の輝き……。貴き客人に他なりません――。本来ならば私自らが赴いてお迎えしなければならない英雄殿でありましたね。数多の目に見えぬ者達も、あなた方を好いているようですし」


 ユラは嬉しそうな表情で目を閉じる。……舞台が月だったことまで言い当てるか。これは本物だな。

 こうして地震の時期が一致するという事が無ければ、正直自分から触れ回るような内容ではないな。

 そもそも話が大きすぎて、事情を知らない相手に信じて貰えるような内容ではないからだ。相手が予言の巫女だから肯定できる話ではある。

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