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番外130 巫女の予言

 西の魔法に対する知識がないということもあり、アカネに使い魔や魔法生物達を紹介する際、魔物と契約を結ぶ事や、魔法生物を構築できること等々、補足説明がどうしても必要になった。

 まあ、補足は補足だ。使い魔達も魔法生物達も割とフレンドリーということもあり、紹介の際にアカネに握手を求めたりお辞儀をしたりして、アカネもやや戸惑いながらも律儀に答えていたので問題はあるまい。アカネにも翻訳の魔道具を使ってもらって、使い魔達と円滑なコンタクトを取ってもらう。


 コルリスと握手を交わし、隣のティールに向かう。ティールの名前を教えると、フリッパーと握手を交わし、アカネは自分の名を名乗る。ティールはお辞儀をするように首を縦に動かしていた。


「この子も使い魔なのですか?」


 笑顔で尋ねるアカネに、横にいたコルリスとヴィンクルが揃って違う違う、というように手を横に振る。うむ……。新しいジェスチャーを覚えたようだな。


「西の国からこちらに来る途中で、群れからはぐれていたところを保護した、という形が近いのかも知れません」

「そ、そうだったのですか」


 といった調子でアカネは使い魔や魔法生物達に終始ペースを掴めなかったようだ。一通りこちらの面子の紹介も終わると、気を取り直すように小さく咳払いして声の調子を整えると居住まいを正し、みんなにも自己紹介をしてきた。


「――お初にお目にかかります。私はさるお方の、身辺を警護する護衛として仕えております、シズマアカネと申します。危ないところを助けていただき、感謝の言葉も見つかりません。改めてお礼を言わせて下さい」


 シズマが姓でアカネが名、ということになるのかな。しかし、本来の役割は身辺警護、か。アカネは静かに一礼し、それから大きく深呼吸を1つ。どこか決然とした表情で自分の事情を話し出す。

 

「私の仕えているお方は……都におわします巫女様であらせられます。その方は先々の事を見通す神通力を持つお方で――。先だって1つの予知をなさったのです。即ち、異国より貴き客人がこの国を訪れることになるだろうと。私は、巫女様より秘密裡に、客人を迎えに行っては貰えないかと頼まれたのです」


 やはり俺達の来訪を予知していたようではあるが。……だが、そうなると秘密裡に、というところに疑問が湧いてくる。


「何か、表だって動けない事情が?」

「当代の巫女様は歴代でも特に予見の力が強いのです。いくつかの災害を言い当て、民衆を助けるよう働きかけた事により、慕われることも多くなりまして……。その結果として影響力が増すことを危惧している者が周囲の者に危害を加えないようにと、あの方は心を砕いておりました」


 ……なるほどな。そこに来て俺達の訪問を予知してしまい、普通に予知のことを周知してしまうと余計に立場が悪くなると、信用している護衛に迎えに行くように頼んだ、というわけだ。

 そういうことならば、アカネが狙われた背景にも想像が及んでくる。


「つまり……それを踏まえて考えると、アカネさんが攻撃されたのは巫女殿に対しての警告か妨害という可能性が大きくなりますね。犯人が予知の内容まで把握していたのかどうかには疑問が残りますが、予知の内容を把握しているなら巫女殿主導で外国のよく分からない相手と友好関係を築くことそのものが目障りに感じる、だとか」

「そう……かも知れません」


 俺の言葉に、アカネは神妙な表情で頷く。そうして顔を上げて言った。


「その、失礼でなければ、皆様についても聞かせて頂いても良いでしょうか。私は、皆様こそが貴き客人に他ならないと考えているのですが」

「そう、ですね。ではまずは、改めて自己紹介を。僕はテオドール=ウィルクラウド=ガートナー=フォレスタニア。ここより遥か西の地にあるヴェルドガル王国にて国王陛下よりフォレスタニア境界公として爵位を受け、領地を預かる身です。故あって聞きたいことがあり、魔物の出る海域を迂回し、南の海からこの国を訪れました」

「つ、つまり、領主様であらせられるのですか?」


 アカネが目を丸くして姿勢を正す。


「いや……国元での立場についてあれこれと語っても、今まで国交が無かった以上は、確認する術がありませんから。眉唾だと思って話半分で聞いて頂いて構いませんよ。堅苦しいのも面倒ですからね」


 いきなり領主だ貴族だと名乗られても適当に出まかせを言っていると思われても不思議ではないしな。


「し、しかしそれでは……。この時期に国外からやって来た方々が巫女様の予言以外の方々とも思えませんし」


 まあ、アカネからしてみると、信じるに足る情報が最初から手元にあったわけだ。だから俺も名乗ったところはあるが。


「本当なら目立たないように変装したりして情報収集をしようと考えていたのです。アカネさんや巫女殿と知己を得られそうなので、僕としても渡りに船と思ってはいるのですが。何のためにこの国を訪問してきたか等……色々話をしたいのですが構いませんか?」

「も、勿論です。私ではあまりお役に立てないかも知れませんが……」


 では――。近隣の国の騒動ということで、エインフェウス王国での話をすることから始めるか。




「――というわけで、騒動の犯人であるベルクフリッツから、巻物についての情報を自供という形で得たのです。巻物についてはどう対応しようかと迷いましたが、仙術による探知等の手段もあるかと思いまして……大事になる前にこちらから情報収集をして情勢を掴んでしまおうかと。巻物を返却するにも、取りに来る相手、或いは渡すべき相手の素性が分からないと対処が難しいところですからね」


 巻物の内容が分からないというのもな。放置しておくと火種が大きくなる可能性もある。

 東国を訪問した事情を話し終えると、アカネは静かに頷いて言った。


「そう、だったのですか。隣国というか、あの土地は今、政情が混乱していて国内が分かれているという話を耳にしたことがあります。しかし、具体的なところまでは詳しくなくて……あまりお役に立てず、申し訳ありません」


 政情の混乱か。やはり、そちらに乗り込まずに、国を挟んで情報を探りに来て正解だったというところだろうか。


「問題はありません。今までのお話から今後の行動をどうしようかと考えると、僕達としても巫女殿から実際にお話を伺いたいと考えていますので。すぐに情報を得られるとは考えていませんでしたから」

「ああ。御同行頂けますか。それは――私としても有り難く思います」


 俺の言葉に、アカネは表情を明るくした。

 巻物を預かっている人物の所在であるとか、隣国に関する更に詳しい話など、都まで足を運べばもっと情報も集まるのではないかとも思う。


 それに、予見の力や人脈で情報収集の手助けをして貰えるかも知れない。

 巻物がもし、大きな脅威や災いを呼び込むようなものであれば、巫女の予知として現れる可能性もある。そもそも、だからこそ俺達の訪問を巫女が重要視した、という想定もできる。予知をして、挨拶をするためだけに人を派遣した、などということもあるまい。何かしら用件なり伝えたいことがあるからアカネを遣いに出したのだ。

 だから……実際に巫女に会って、色々と話を聞いてみるべきだろう。


 その前に……アカネに攻撃を加えた相手に対する方針を決めておくべきか。

 宿にはアカネの荷物が残ったままになっているし、巫女の遣いを心配している住人達が未だ捜索を続けている。これはできるなら早めに安心させてやった方がいいだろうとは思う。


 敵がまだ宿場町にいるかどうかは分からないし、アカネの生存を伏せられるのなら、それはそれで手札になるから宿場町には敢えて顔を出さないという選択もあるが……。

 そうだな。これについては本人の意向を聞いて、相談してから行動を決めるというのがいいだろう。

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