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番外122 孤島調査

「ああ、確かに言っている事が分かりますね」


 アシュレイはラヴィーネを丁寧にブラッシングしながら言った。威圧感が無いように小さく答えるラヴィーネに、にこにこと嬉しそうな笑みを浮かべている。

 使い魔とは五感リンクでお互い言いたい事も伝えられるが、実際に会話できるという感覚が新鮮なのだろう。ペンギンとの意思疎通が可能だったので、みんなも翻訳の魔道具を実際に試してみたのだ。


 リンドブルムやコルリス、ベリウス達に話しかけたり、そんな賑やかな空間に嬉しそうにしているペンギンに話しかけて、フリッパーと握手をしたりと、島が近付く中で、和気藹々としている。


「言葉を話せない魔物相手でここまで有効、とは思わなかったわ」

「思わぬところで魔道具の試験もできたけれど……その性質が知られていなかったという事は」


 そんな光景に微笑むクラウディアの言葉に、ローズマリーが思案するような様子を見せる。


「もしかすると、ティエーラ様の加護を受けている影響……かしらね。普通はもっとぎこちなく聞こえるものだし」


 ローズマリーが言いたい事を察してクラウディアは小さく首を傾げる。

 ふむ。ティエーラの加護との相乗効果で予想以上の結果が出ているわけだ。


 そうこうしている内に島のすぐ近くまで到着した。シリウス号の高度を上げて、上空からライフディテクションで生命反応を見ていく。

 島の一方は白い砂浜が広がっていて、そこには椰子の木が生えている。島の中央部は少し小高くなっていて原生林が生い茂っているが――。ふむ。

 島の北側から南側までゆっくりとした速度で飛行しながら生命反応をつぶさに見ていく。


「特に気になる生命反応はない、かな。魔物がいるっていうことは無さそうだけど」


 そう言うとペンギンが独特な鳴き声を上げ、フリッパーをこちらに振ってくる。


「ええと。自分がここに住んでるって?」


 確認するとペンギンは首を縦に動かしていた。何だか……もうすでにコルリスのジェスチャーを学んでいるような気がするが。

 ということは、やはりこのあたりの事はペンギンに聞けば分かる、というわけだ。


「他の魔物を見たことは? 島だけじゃなくて、このへんの海も含めての話だけれど」


 尋ねると首をふるふると横に動かす。

 ……なるほど。そうなると、このへんの海はとりあえず安全と言って良いのかな? 脅威になるような生き物がいるなら、とりあえずの棲家に選ぼうとは思わないだろうしな。


 ペンギンと同じようにどこか別の場所から魔物がやってくるという事は有り得るが、それは基本的には偶発的な事例と言える。

 基本的には島と周辺の海が安全だとするなら、魔力溜まりを避けていれば問題はあるまい。


「これは……島の調査の大幅な時間短縮に繋がりますかな」

「かも知れませんね。うん。助かるよ」


 イングウェイの言葉に頷き、ペンギンにそう言うと嬉しそうに鳴き声を上げるのだった。




 島周辺や近くの海域に暗礁はないか等々、幾つかペンギンに質問して危険が予想される場所を把握。実際に暗礁の規模を見に行って、土魔法で島を中心とした立体地図を作り、そこに反映させていく。

 魔物の生命反応、不自然な魔力反応等が見られなかったということもあり、ある程度安全だと言える。

 俺がペンギンと共に海中の調査をしてくるのと同時進行で、シリウス号からジェイクや庭師、ティアーズ達を派遣して軽く島の内部や外周部を調べてもらうという形を取った。


「……んー。こんなところかな」


 島周辺の暗礁の位置、規模などを把握し、土魔法で模型に反映して島に戻ることにする。海中を泳いで島へと向かうと、シリウス号側の調査も一通り終わっているのか、砂浜の近くに停泊していた。

 とりあえず海から上がり、水気と塩気を生活魔法で飛ばして乾燥させる。


「お帰りなさい、テオ」

「ん。おかえり」


 俺が戻って来たところで砂浜に降りていたグレイスが笑みを浮かべ、シーラは普段通りという感じで迎えてくれる。耳と尻尾は反応していたりするが。


「ただいま。島のほうはどうだった?」

「島の内部にはあまり目立った生き物もいなかったわね。南側の斜面に海鳥の営巣地と、それから、島の内部に小さなトカゲや昆虫が何種類か、というところかしら。有毒かどうかまでは調べてみないとわからないけれど、見た目ではあまり危険そうではなかったわね」

「採集してきた庭師やティアーズ達からも攻撃されたという報告はなかったものね」


 ローズマリーの言葉に、ステファニアが頷く。


「島の外から渡って来れる生き物じゃないと住みつけないだろうしな。海鳥が営巣地に選ぶぐらいだし、やっぱり安全なのかな。海の中はクラゲやウミヘビもいたけど……素潜りでもしなければ関係ないだろうし」


 島の調査としてはこんなところだろうか。あちこち見て回った感じでは海鳥の営巣地を無闇に荒らさなければ、島の活用自体は問題無さそうだ。


 暗礁も小規模ではあるが、ここは魚の棲家になっていた。少しばかり深い場所に土魔法で位置をずらしてやれば……魚の住環境もそのままで座礁の危険性を減らせるだろう。


 後は……ビーコンとなる魔道具を島の中央部あたりに敷設すれば、とりあえずこの島でやることは全て終わりだ。中継地として補給拠点の役割を持たせなければならないが、物資の転送だけなら迷宮の力を借りれば良いだろうし。


「ところで、その子の名前は決めないのかしら?」


 イルムヒルトが俺の隣に直立しているペンギンを見て言った。


「んー。名前か」


 どうしたものかな。後々群れを探して帰すことを考えると、名付けをするのは、という気もするのだが。まあ、精霊のように名付けで性質が変わる存在でもないし使い魔にしたりする予定もない。それなら、名付けもそれほど問題はない、のかな。後は当人がどう思うかだが――。


 何だかペンギンからは期待されるようにじっと注視されている。名付けして欲しい、ということだろうか。


「俺が名前を付けても良いのかな?」


 確認の意味を込めて尋ねてみると、ペンギンは一声上げて首を上下に動かす。ふむ。そうして貰えると嬉しい、との事であるが。

 ペンギンの名前を付けることになるとは思っていなかった……。さて。どうしたものか。


「――ティール……なんてどうかな?」


 暫く考えてから提案してみる。名前の由来は燕尾服を意味するテイルコートからである。

 反応を見てみると直立したままで嬉しそうに声を上げ、フリッパーをパタパタとさせていた。どうやら気に入ってくれたらしい。その反応にマルレーンがにこにこと屈託のない笑みを浮かべる。


「種族の名前はあるの?」


 セラフィナが首を傾げる。


「それは……どうしようかな。個体名を付けるのと違って、種族名を命名するなら、前例がないか調べないといけない気がする。迷宮核で該当がないか照らし合わせてからと考えてるけど」


 本当に未発見の魔物だったりすると、種族名の命名権も出てくるのだろうけど……。その場合、やはりペンギンの呼称は入れたいところではあるかな。




 そんなこんなで種族名は保留。個体名はティールという事に決定した。島の中央にビーコンの役割を果たす魔道具を敷設して、周囲に結界を張る。石造りの祠を簡易に作って囲い、祠の近くに石板を作り、そこにこの祠がヴェルドガル王国の持ち物である旨を刻んで、構造強化で固めておく。


 さて。やっておくべきはこんなところだろうか。

 仮に島の所有者がいるとして異議があるなら連絡してくれれば交渉に応じる構えである。だがどこの国の支配域からも完全に外れているし、島には人が踏み入った形跡も無かった。


 完全に手付かずの無人島であるなら所有権は最初に足を踏み入れた俺に帰属する、ということになるだろう。祠に関しては新航路開拓という王国の事業であるため、ヴェルドガル王国の持ち物となっているが……。


 ティールの協力で予定より早く調査も終わった。この後は島に停泊して一晩過ごし、それから東への旅の再開ということになるだろうか。

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