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番外120 未知の海域へ

 地球儀――ならぬルーンガルド儀の光点の位置を確認。

 入力された術式に従ってシリウス号が目標設定された島へと、割合軽快な速度で飛んでいく。しかし敢えて高度は上げず、海面を滑るように移動中だ。急造ではあるが艦橋に風向計を取り付けたり、持続型のアクアゴーレムを作り上げて船底に配置し、水面下の状態なども記録中だ。


 魔力溜まりに近い場所を避けてはいるが、だからと言って凶暴化した魔物が出没しない根拠とはならない。他にも暗礁が迫り出しているような海域がないか。風向きや海流の流れはどうか。

 つまり通常船舶での航行に向いているか。そういったことを軽くであるが確かめておく必要がある。


 なので海中をある程度見通せるように魔法を使って視界をクリアにしつつ、ライフディテクションも用いて強い生命反応が無いかを監視中だ。

 モニターの監視係にはティアーズにシーカー、ハイダー、ジェイクにカボチャの庭師と、魔法生物達が動員されているので、艦橋の眺めは割合賑やかなことになっている。


 というのも、あまり変わり映えのしない景色をずっと見ているというのも中々集中力を継続できないものなのだ。その点、魔法生物達は条件に合致するかどうかだけで判別という、人間の集中力とは違う方法での監視の継続ができるので、疲労や集中力の低下という心配がない。

 とは言え、それが獣人になると他の事に意識を割いていても小さな変化にいち早く気付けたりする五感の鋭さを持っていたりするので、あくまで傾向の話ではある。


「ライフディテクションを使った時の海の中って、星空みたいで綺麗だから好きですよ」

「星空……。確かに似ているかも知れません」


 にこにこと笑うシオンの言葉に、ヘルヴォルテが真剣な表情で頷いている。

 海域の情報収集をしながら進む、という事にはなっているが、魔法生物達も仕事に加わっている上に海の中が綺麗なので、みんなも割合肩の力を抜いて楽しんでいる様子ではあるかな。


 グレイス達はと言えば2つぐらいの隣り合うモニターを交代で担当しながらのんびり監視中だ。

 リンドブルムやコルリスも景色が見れないのは暇だと思うので、今は艦橋にいて床に寝そべっていたりする。以前と違って討魔騎士団の人員がいない分だけスペースを広く使えるし、とりあえず問題はあるまい。


「ん。イルムヒルト。そろそろ交代する」

「それじゃあ、よろしくね」


 と、イルムヒルトとシーラが片方のモニターの監視役を入れ替わる。シーラに交代してもらったイルムヒルトはいそいそとリュートの準備を進めていた。交代してもらったのに演奏というのは休憩になっていない気もするが、イルムヒルトにとっては演奏が何よりの楽しみというところか。

 そんなイルムヒルトの様子にみんなも笑みを浮かべる。


「最初の目的地である島に着いたら何を確認すれば良いのですかな?」


 と、イングウェイが尋ねてくる。


「基本的にはライフディテクションで、魔物や住民の有無を確認して……後は接岸しやすい地形の確認ですかね。中継地に適していると判断できたら、島に術式で目印を残してくる予定でいます」

「ほうほう」


 契約魔法を刻んだ魔石の――いわば親機を島に残し、後はその位置を表示させる子機と呼べる魔道具に結びつける、というわけだ。


「目印に対応する魔道具を作って、中継島と魔力溜まりまでの方位と距離を表示させる、という理屈ですね。後に航行してくるのが容易になります。島を中継地にするのならそれなりに整備する必要がありますが、それは様子見も終わっていない今の段階では性急ということで、また別の機会に、ということになりますが」

「ふうむ。私には魔法の理屈はよく分かりませんが、これが完成すれば東と行き来しやすくなるというわけですな」

「そうなります」


 そう答えると、イングウェイは水晶板モニターに視線を戻し、どこか楽しそうに笑みを浮かべて頷いていた。

 整備、というのは、例えば島の周りに暗礁があるのなら、船が乗り上げないように海底を均してやるとか。月光島のように滞在と補給のための設備等も作ってやる必要があるだろう。

 もっとも……この島だけを見て中継地点としての条件に合致するものでも、島から出発して更に進んで行けば航路のどこかで問題が出るかも知れない。

 なので、後は実際に想定した航路で東国まで進んでから判断、という形になるだろうか。島から迂回路を行くとして、必要に応じて第二中継地点等を作る必要も出てくる可能性があるし。


 ともかく、今のところ旅は順調だ。専用の水晶板に表示されている風向きや海流の記録を見ても、航行の妨げになるような内容は見当たらない。




 もう少し行けば目的となる島まで到着――というところで、何かを発見したと1つのモニターを担当していた改造ティアーズがこちらを振り返り、信号音を発しながら手……ではなくマニピュレーターをぐるぐると振り回して知らせてくる。


「何か見つけたのかな?」


 このあたりは既に未知の海域と言える。何を見つけても不思議はないが――。

 ティアーズの担当していたモニターを覗き込んでみると……そこには何やら大きな生命反応が小さな生命反応――つまり魚群を追いかけているところだった。


「なん、でしょうね。あの生命反応は」

「強い輝き方を見る限り魔物、だとは思うけど」


 と、アシュレイとクラウディアが目を瞬かせる。


 あれは……何というか予想外だ。俺としては見覚えのあるシルエットではあるのだが、こんな海域にいるものなのだろうか? いるとしても、もっとずっと南に行かなければお目に掛かれないもの、と思っていたが。


 それとも種類によってはこのあたりにも活動範囲に入るとか? 或いは深層海流の関係で北上してきた? 表層の海流は見ているが、深いところだとまた流れも違うだろうし。


 そんなことを考えながらその魔物のシルエットに注目していると、それは魚群に突っ込んではターンし、また突っ込んで、というのを繰り返していた。まあ……魔物であれど通常の食事風景とも言えるか。特筆すべきはその速度だ。相当早い。魚群の動きを完全にコントロールしている。


 問題は、あれがこちらに対してどういうリアクションを取るかだな。襲ってこないとは言い切れない。

 生息している生物の反応を見る意味合いもあり、シリウス号は迷彩を施していない。そのシルエットは案の定こちらに気付いたらしい。

 食事も終わったとばかりにターンして近付いてくる。やはり海の中をホームグラウンドにしているからか、相当な速度だ。本気を出せばシリウス号なら振り切れるだろうが、通常の船舶が振り切るのは無理だろうな。


「どうなさいますか?」


 グレイスが尋ねてくる。


「初めて遭遇する種類の魔物っていうことになるし。甲板に出て、警戒しながら様子見かな。どういう行動を取るかは参考にしたいから見ておきたい。海中の様子は――カドケウスで見ておく」


 というわけでみんなで甲板へと移動する。それが近付いてくる方向にみんなで注視する。

 モニターで見るそれは、どんどん距離を詰めながら海面に迫ってくる。

 そうして、海面下から陽光の下にそれが飛び出した。

 背中の黒と腹側の白。海中の活動に特化した体色。流線形の身体。


 機能的ではあるが威圧感には欠ける。その姿は紛うことなきペンギンだった。しかしかなりでかい。体長にして2メートル近くはあるだろうか? 地球上で最大種であるコウテイペンギンよりも更に大きいということになる。


 一定の距離を取りながらシリウス号と並走してくる。魔物らしく強い魔力も持っているようで、水の流れを操って水のパイプを作ってそれを利用して海上を飛ぶように泳ぐ。


「ええと……」


 並走はしているが、攻撃は仕掛けてこないな。時々何とも言えない鳥の鳴き声を上げて、水のパイプから飛び出したり海面下に潜ったりと……。何となく遊んでいるような印象がある。


「どうやら、凶暴化した魔物、というわけではなさそうね」


 ローズマリーが羽扇の向こうで目を閉じる。そうだな。魔力溜まりの影響下にあるなら様子見等せずに襲い掛かってくるだろうし。


 んー……。ペンギンは好奇心が旺盛で人を恐れない性質、とは聞いたことがあるが。

 魔物であるとはいえ、もしかするとそれと同様……なのだろうか?

 何分初めて見る魔物だ。敵対的なのも困るが、最初から妙にフレンドリーなのも扱いに困るな。さて……。どう対処したものか。

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