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番外114 庭師頭の動作試験

「そうだな、まずは……シーカー。これと一体化してくれるかな?」


 土魔法でヘッドギアのような装備を作り、工房の中庭の隅っこに体育座りしていたシーカーを呼び寄せる。呼ばれたシーカーはちょこちょこと歩いて来てヘッドギアと一体化した。

 後はこれを装着すればカメラ付きヘルメットのような形で俺の視界に近い映像を水晶板の映像とリンクさせられる、という寸法だ。見た目的にはシーカーを頭に装着しているような感じになるかな。

 シーカーに一体化してもらうためにヘッドギアは石材でできている。装備品としてはやや重いし無骨だが……まあ、きちんとした魔道具というわけでもないし、普段使いするわけでもないから、レビテーションを併用しておけばとりあえずは問題あるまい。


「そっちの画像は?」

「問題ないわ」


 右、左と首を動かし、映像の見え方を確認してもらう。どんなものかと尋ねるとステファニアが水晶板を覗いて笑みを浮かべた。


「これは面白いな」


 シーカーから送られてくる水晶板の映像に、イグナード王が相好を崩す。


「激しく動き回ったりもする場合もあるかと思うので、あまり映像に集中していると、酔ってしまう可能性があります。その点には注意して下さい。その場合は……そうですね。映像を見るのを止めるか、中央に貼った紙に意識を向けると軽減されるかな、と」


 と、一応警告しておく。POV的な映像は不慣れだと酔いやすいからな。映像の中央に動かない基準点のようなものを設けると酔いにくいと聞いた事があるので、水晶板の中央に色を付けた紙の切れ端を貼り付けておく。


「では、少し庭師頭を連れて迷宮まで行ってきます。んー。本格的な探索や戦闘をするわけじゃないから……とりあえずは1人でも大丈夫かな。ちょっと行って、試験をして戻ってくるよ」


 庭師頭とリンクしている水晶板を手に、クラウディアに視線を向ける。とりあえず俺に関してはクラウディアと同様、迷宮の管理者権限があるので迷宮の魔物に襲われないようにしたりもできる。庭師頭の起動、戦闘試験に関しては安全性の確認等ができればそれで問題ない。戻る時はクラウディアに迎えに来て貰えばいいだろう。


「どこに向かうのかしら?」

「戦闘能力的には……結構深層でも大丈夫かな。熱さ寒さにも耐性があるし……そうだな。樹氷の森あたりにするか」

「樹氷の森ね。分かったわ」

「テオ、お気を付けて」

「ん。それじゃ、少し行ってくる」


 と、みんなに笑みを向けて、起動していない庭師頭と共にクラウディアの転移魔法で迷宮へと飛ばしてもらう。

 冷涼な空気と凍り付いた木々。凍った地面に雪の積もった森。相変わらずの風景だ。


 一緒に転移魔法で飛んできた庭師頭に触れて、制御術式を起動させる。元々の庭師頭に組み込まれていた制御術式は全て用途等も含めて解析完了している。

 元の性質を残せる部分は残しつつ、迷宮の庭師ではなく使役と制御が可能な魔法生物の仲間として作り直した、つもりだ。

 庭師頭が起動すると同時にカボチャの頭の中に炎が灯る。炎が燃えているので隠密行動が無理かと言われるとそんなことはない。穴に闇魔法の術式で暗闇を充満させるようにして、真っ暗にするということも可能だ。風魔法で熱を遮断すれば温度感知も無効化可能だろう。


 さて。水晶板との視界のリンクもできているな。

 確認を進めていると起動も完了したのか、庭師頭は俺を見やり、帽子を取って恭しい仕草で一礼してきた。こちらを主人と認識し、しっかりとした挨拶をしてきたというわけだ。


「そっちでもしっかり見えているかな?」


 五感リンクでカドケウスを通して工房の状況を見る。


「そうですね。映像も届いていますし、声もしっかり聞こえていますよ」


 と、アシュレイがカドケウスに笑みを向けて答えてくれた。うむ。中継も問題無し、と。


「よし。それじゃあ行こうか」


 庭師頭は首を縦に振り、大鋏を取り出した。少しばかり地表から浮遊したまま、森を進んでいく。このあたりの挙動は迷宮の庭師頭であった頃から所有していた、元々の制御術式によるものだ。


 俺はと言えばゴーレムを作り出して庭師頭に随伴させ、その後ろをついていく。敵味方の分別をつけたり、仲間の動きを理解して連係する、といった試験を行う必要があるからだ。

 臨戦態勢は取らせているが、作り出したゴーレムには攻撃的な反応を見せない。直接制御して命令を下すことで例外的な対応を取らせることができるが……現状では庭師頭の制御術式任せで色々と判断を委ねている状態である。


 とりあえず敵味方の判別等々問題ないようではある。では、少々迷宮を進んで様子を見ていくことにしよう。

 樹氷の森を進んでいくとプリズムディアーの小規模な群れが森の奥から姿を現した。煌めく角を持った鹿で、あの角から光線を放ったり、頭突きや後足での強烈な打撃を得意とする魔物だ。


 庭師頭は得物を構えつつも、こちらを見てくる。


「よし。戦闘開始だ」


 許可を出すなり、緩慢な速度で浮遊していた庭師頭が――弾かれたような猛烈な速度でプリズムディアー達に突っ込んでいく。大鋏のパーツを分離させて双剣にすると剣に炎を纏い、応戦してくるプリズムディアー達の光線を掻い潜って突っ込んでいく。後方に控える仲間――ゴーレム達に流れ弾が行かないよう、口から火炎弾を吐き出して光線を打ち落としながら肉薄する。


 頭突きを回避しながら斬撃を見舞う。炎を纏った鋏剣に斬られたプリズムディアーが一瞬にして燃え上がった。

 ――高熱で炎上させたのではない。斬るという行為に炎の呪法を乗せて、炎の呪いをかけることで、斬った相手を炎上させる、というものだ。


 斬られた時点で呪法の発動要件を満たす形になるので、炎上を防ぐには近接戦闘で斬撃を防御や回避し切るしかない。或いは炎上してから改めて消火する、という手もあるか。炎への対抗策があればの話ではあるが。


 庭師頭の保有していた術式を見た感じ、深く斬られれば斬られるほど炎上も激しくなるようだが、掠り傷でも火傷を負うし、本来なら致命傷に至らない程度の傷でもダメージが割り増しになる……と、中々に凶悪な術と言える。


 プリズムディアーを次々炎上させ、回避も反撃もままならない状態にしてから各個撃破していく。近接戦の剣捌きも相当なものだ。刺突、斬撃。鋏剣を連結させての両断。攻撃のバリエーションも多い。

 一方でゴーレム達には敢えて拙い連係をさせ、庭師頭の死角からプリズムディアー達に突っ込ませてみるが――庭師頭はしっかりと敵か味方か判別して動いていた。


 中々良い動きだ。不測の事態にも対応している。

 というわけで、対応力の高さや判別能力も確認できたところで、ゴーレム達にはしっかりと庭師頭の援護をさせていくとしよう。




 現れたプリズムディアー達を倒し、一部から素材を回収、一部から闇魔法で魔石を抽出。これらの剥ぎ取りから魔石抽出まで、行動は全て庭師頭に任せている。

 魔石抽出の魔法等は迷宮探索をしてもらうにあたり、庭師頭が用いることのできる術のレパートリーとして組み込んだものだ。


 転界石を拾い集めて物資の転送や迷宮からの離脱といった、迷宮に潜る冒険者必須の技能もしっかり覚えている。

 後はまあ……居合わせた冒険者の救助ができるように治癒や解毒、体力回復に水作製といった術式も保有している。

 見た目は笑う巨大カボチャなので、見ようによってはややホラーではあるのだが、冒険者達とは良好な関係を築いていきたいものだ。

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