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番外112 王達の茶会

「何ともはや……。素晴らしい演奏と演出でしたな」

「あのお三方に関する噂をお聞きになりましたか?」

「ああ。先程セイレーンやハーピーの族長殿とも少々話をしてきましたが、全て本当の事らしいですな」

「うむ。素晴らしい事です。ヴェルドガル王国の理念を体現しているようなところがありますな」


 と言った調子で――氏族長達は境界劇場を出てきたところで随分と盛り上がっていた。

 色んな氏族の長が一同に会してテンションを高くしているのは、中々に賑やかな光景ではある。加えて他の招待客――エインフェウスの面々に加えて半魚人や人魚、ハーピーといった面々も加わって見た目にもバリエーションに富んでいるというか何というか。


 境界劇場では新月や満月に合わせてイルムヒルトとユスティア、ドミニクが舞台に立つが、これに関しては毎回満席状態、満員御礼ということで人気を博している。

 俺も舞台装置の操作見習いのブレッド少年に聞いたのだが……イルムヒルト達3人が女魔人に誘拐された話から始まり、彼女達が舞台に立つ事になった経緯、家族や一族との再会まで含めて、街では色々語り草になっているのだとか。


 そういう点も含めてヴェルドガル王国の方針と合致しているし、確かに象徴的ではあるだろう。エインフェウス王国の初代獣王の理念とも通じるところがあるし、氏族長達には好意的に受け止めて貰えているようだ。


 さてさて。この後は火精温泉に向かい、それから幻影劇場の特別上映という流れになる。

 王族やその側近、氏族長達がこぞって長期間国を留守にしているというわけにもいかないので、スケジュールに関して言うなら、やや急ぎ足で組まれているところがある。まあ……幻影劇場は3部作で全部観賞するにもそれなりに時間がかかるしな。




「――むう……。こうも素晴らしいものを立て続けに見せられると、オルディア殿達が少し羨ましくなってしまいますな」

「全くですね。まあ、転移門がありますし、今後は気軽にタームウィルズやフォレスタニアを訪れることもできるわけですが――」


 と、幻影劇場の特別公演が終わって出てきたところで眼鏡をかけた猫の氏族長が髭を弄りながら言うと、エルフの氏族長、ウラシールが朗らかに笑う。

 結果から言うなら火精温泉も2つの劇場も、両方とも大好評だった。温泉では氏族長達が湯船に浸かって満足げに脱力していたし、幻影劇も高速で動く幻影に合わせて身体が傾いたりと、色々没入してくれていた印象だ。


「どうでしたでしょうか。僕としては、初代獣王陛下のお話も幻影劇にしてみたいなと考えていたりするのですが。エインフェウス王国の理念を相互に理解することに繋がるかなと」

「何と――。それは真ですか」

「おお……」


 盛り上がっている氏族長達にそんなふうに声をかけると、一斉にこちらに振り返った。

 皆一様に驚きと期待が混ざった表情というか。ああ、うん。何というか、プレゼンが効果覿面過ぎた気がしないでもないが……。


「いやまあ、それも獣王陛下や氏族長の皆様に許可を頂ければではあります。作成に関しても、一朝一夕とはいきませんので、暫く先のお話になってしまうと思いますし」


 と、伝えると、氏族長達は顔を見合わせ、誰からともなく頷き合う。


「いや、そこまで喜ばしい提案も他にありますまい」

「左様。我等としては寧ろお願いしたいぐらいと申しますか」

「アンゼルフ王の劇にしても、色々描写が考えられているのが窺えましたからな」

「ふむ。無論儂としても異論はない」


 氏族長達の言葉に、イグナード王も同意する。では……初代獣王の幻影劇に関しても製作決定といったところだろうか。


「ありがとうございます。描写の仕方や時代考証等で、意見を伺う事もあるかも知れません」

「喜んで。私達で良ければ協力させて下さい」

「いや、先々の楽しみが増えましたな」




 ……といった調子で、幻影劇の上映とその後の話についても話が纏まったのであった。

 フォレスタニアの居城――迎賓館で宿泊客である各国の王家の面々と色々と話をする。といっても、その後の近況報告的な内容で、世間話の延長的なところはあるが。今日はメルヴィン王やジョサイア王子も遊びに来ている形である。


「月は……魔力送信塔から力が送られてきて、慢性的な魔力資源不足から解消されたわ。離宮から都への移住と再建の計画が進んでいるのよ」


 と、オーレリア女王が笑顔で月の現在の状況を教えてくれた。その言葉に、クラウディアが少し驚いたような表情をし、それから嬉しそうな笑みを浮かべて言った。


「それは……何よりだわ」

「月の都が再建されたら少し見学に行きたいところですね」

「ええ。是非見に来てくれると嬉しいわ。前回は都も無人だったし、離宮は手狭だったものね。目を覚ました月の民のみんなも、テオドールの話を聞いて一目会いたがっているのよ」

「それはまた……何と言いますか。やや気恥ずかしいところがありますが」

「ふふ」


 苦笑すると、オーレリア女王は肩を震わせる。

 再建された都がどうなるのかには興味がある。前と違って転移で月に行けるという事も有り、シリウス号で気を遣いながら月まで飛んで行かずに済むというのは楽ではあるし。

 第一、あの時はイシュトルム征伐という目的があったから、気軽な訪問というわけではなかったしな。目的のない、気軽な月面旅行というのは中々に魅力的だ。


「都の再建と言えば、海の都もよな。ウォルドムとの戦いの傷跡も修復が終わり、すっかり活気を取り戻しておる」


 と、エルドレーネ女王が言う。


「何というか、再び旅行に行きたい場所がどんどん増えてしまう感じがしますね」

「海の都……興味が湧くわね」


 オーレリア女王の言葉にエルドレーネ女王が笑みを浮かべた。


「オーレリア女王も是非一度、遊びに来てくれると嬉しいのう」

「転移門があるから、使用権限のある一部の者とはいえ、各国への旅行や視察が容易になっている部分はありますね」

「同盟に名を連ねる王ならばこそ、諸外国の王と交流を持ち、あちこちの見聞を深めておくのは重要であろうな」


 メルヴィン王の言葉に、ファリード王やレアンドル王も目を閉じてうんうんと頷く。


「その後の近況報告と言えば、船の建造計画も順調に進んでおりますぞ」

「ああ、同盟各国の王家が一隻ずつ保有する、という話になっているのだったな」


 お祖父さんが言うと、エベルバート王が頷く。

 カイトス号のような貨物船では無く、シリウス号の姉妹船とも言うべき船だ。

 同盟各国が一隻ずつ保有することで同盟に名を連ねる王家の象徴、旗艦的な意味合いとなる。

 今後、飛行船を貨物輸送などに使っていくにしても、飛行船をもっと広く普及させるのなら、公的な船がないと、悪用された時に各国での独自の対抗手段が無くなってしまうし。


 それにイシュトルムのような世界的規模の危機が起こった際、それに対抗するため、戦力の派遣や結集もしやすくもなるというわけだ。

 まあ、姉妹船とはいえ、それぞれの国の事情に応じて特性は少々変える予定ではある。


 例えばグランティオスならば水中での活動に特化した船となるし、バハルザードならば砂に潜ることができるような仕様に、といった具合だ。


 武装を控え目にし、代わりに騎兵が随伴する、というのはシリウス号を踏襲する予定である。それぞれの国の分、設計はできているので、後は材料が揃えば建造に移れる。

 新たに同盟に加わったドラフデニア王国とエインフェウス王国の分も追加される形になるのかな。両国の特性を念頭に、設計を考えておくとしよう。

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