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番外106 触媒と炎の鳥と

「――ふむ。精霊殿のあやつにか」

「同行をお願いできますか?」

「無論。儂で良ければついていこう」


 と、イグナシウス老は相好を崩した。

 魔石やら何やら、色々と転移設備回りの準備を進めつつ、新たなウロボロス作製のために素材を集めて回る。

 その中で炎熱城砦――火の精霊殿に向かう必要があったので、ティエーラやラケルドと共に、イグナシウスにも同行の依頼をしたのだ。あの高位精霊と相対するにあたり、知り合いがいた方が信用してもらえるかなと考えてのことだ。


「精霊王も同行するのなら危険はないと思うが、念のために同行しよう」


 ラザロもそう言って武器やら装備やらの準備を進める。


「では、早速向かいましょうか」


 準備が整ったところでクラウディアが転移魔法を用いた。光に包まれ――そして周囲の空気が変化する。

 切り立った一本道と、その向こうにある精霊殿。谷底を包む炎。相変わらずの光景だが……実は火の精霊殿に関して言うなら、見た目ほど剣呑ではなかったりするのだ。

 炎熱城砦の人を拒むような熱気とは、少し違う雰囲気がある。

 それはこの場所にいる火の精霊達が、俺達の来訪を歓迎しているからだろう。片眼鏡を通して見ると、ずんぐりとした小さなドラゴンのような……サラマンダー達があちこちから顔を覗かせてきたり、人懐っこい個体によってはティエーラやラケルドのところまでちょこちょこ走ってきたりする。中々賑やかなことだ。


「同じ高位精霊ではあるが――あれは言葉を喋らぬ代わりに人の心を読んだり、自分の意思を伝えたりすることができるようでな。テオドールの用件や事情は、言葉にせずとも理解してくれるはずだ」


 ラケルドはそう言いながら足に抱き着いてくるサラマンダーを肩に乗せてやったりしている。そんな光景にティエーラは相好を崩す。ティエーラと共に浮かんでいるコルティエーラも、何となく楽しそうに明滅していた。


 さて。今日は……火の精霊殿の谷底をねぐらにしている、あの高位精霊に用があったりする。ラケルドの言葉によると、テレパシーのような能力を持っているようだな。


「きっと、テオドールなら大丈夫でしょう」


 精霊殿へと続く一本道から外れ、炎の谷底で身体を休めているフェニックスのところへとティエーラ、ラケルド、それからイグナシウスを伴って降下していく。


 谷底の炎は――確かに燃え盛る炎のはずなのだが熱くはない。代わりに包まれるような暖かさがある、と言えばいいのか。

 精霊の守護があるからとかそういうことではなく……恐らく不死鳥の影響下にあるからなのだろう。


 俺達がフェニックスに近付くとそれを察知したのか、目を開きのっそりと首を動かしてこちらを見てくる。そうして居並ぶ顔を見て、ティエーラやラケルド、イグナシウスを見ると、一礼するように首を動かした。


 確か、炎の精霊殿は居心地がいいから居着いたという話だったな。ラケルドにとっては居候、イグナシウスにとってはルームメイトみたいなものだろうか?


 フェニックスは――用事があるのは俺というのを察したのだろう。真っ直ぐに俺に視線を合わせてくる。

 翡翠のような輝きの瞳。見上げるような大きさの炎の鳥ではあるが、その姿は巨大な猛禽のそれに似ている。翼や尾羽の先端は炎の温度が違うのか、紫色だったり青色だったりのグラデーションがあって、近くで見ると色鮮やかで綺麗だ。

 こちらもフェニックスに一礼を返し、ここに来た用件を脳裏に描く。

 新たなウロボロスの創造に、フェニックスの羽なり尾羽なりが一枚必要なのだ。

 それを魔法生物に組み込み、転生の象徴とすることで――無限、転生、循環を意味するウロボロスという象徴を強化する。


 母さんの事や今までの戦いを脳裏に描く。何を思い、どう歩いて来たか。

 そう。必要な事なんだ。あちらの世界へ干渉し、恩人に恩を返すために。

 自分ではない並行世界の自分を恩人、というのも変な話だが。


 幾つもの記憶を思い描いていると、やがてフェニックスはふと俺から視線を外して首を巡らす。そうして尾羽を嘴で引き抜き、そうしてまた俺に向き直ると、首を低くして尾羽を持って来てくれた。

 フェニックスが嘴を離し、ふわりと落ちてくるそれを受け取る。尾羽も見た目は燃えているのだが、触れても熱くはない。じんわりとした温かさのようなものが伝わってくる。


「――ありがとう」


 礼を言うと、フェニックスは首を軽く縦に動かす。どこか柔らかい雰囲気が伝わってきた。

 そのまま、一礼して上の足場まで上昇する。フェニックスは俺達が上に行くまで見送ってくれたが、到達したところでまた炎の寝床に蹲るように眠りについていた。


「何事も無くて良かった。まあ、あやつは穏やかな性質とは知ってはいたがな」


 と、イグナシウス老が笑みを浮かべ、ラザロも静かに頷いた。


「助かりました。相手が魔術師となると、顔見知りがいてくれた方があちらも安心してくれるかなと思いまして」


 心を読むと言っても、俺1人だとその読んだ物にも裏付けがないからな。少しみんなに手間を取らせる結果になってしまったが。


 だが、無事に重要な触媒の1つを手に入れる事ができた。


 不死鳥の尾羽。それからウロボロスが竜であるために、竜に因んだ物品が必要となる。これはペルナスとインヴェル、水竜親子からもらった鱗で大丈夫だ。

 属性的には火と水。後は均衡を取るために風と土で同格の物品を用意する必要があるな。

 これらに加えて俺の血も触媒として組み込んで魔法生物を作り、そこから魔道具を作ればそれで形としては出来上がりだ。いくつか目的に沿った術式を魔法生物に教える形で組み込んでやる必要がある。


 あちらの世界で竜杖が作られることを考えると、こちらでは杖を作るのではなく……別の形での道具を考えた方が良いだろう。魔法の発動体としても利用できて、魔力循環の手助けをしてくれるような……。


 そうだな、例えば――腕輪のような。尾を咥えるウロボロスのモチーフとしては杖よりも作りやすいかも知れない。

 とりあえず、譲り受けてきた尾羽については触媒が揃うまで宝物庫に入れておくことにしよう。




 ――さて。迷宮を巡って、転移施設建造のための魔石を集め、魔法生物を作るための触媒を集めてと……色々準備を進めている内に、転移施設を作る資材が集まったと王城から連絡が入った。


 各国との転移ゲートをすぐさま開通させる、というわけではないが……まずは資材を用いて、施設の土台となる建造物を作っていく必要がある。


 タームウィルズの東に温泉街、西に造船所を作ったから、南北に何かしらの施設を拡張してやればバランスが良くなるとの事で……今回は北側に転移施設を建造しようという話になっている。

 というわけで、タームウィルズの北門に向かった。


「おお、テオドール。来たか」

「こんにちは、境界公」


 建設予定地へとみんなと共に向かうと、そこには建築用の資材が積まれており、メルヴィン王とジョサイア王子もいた。2人とも魔法建築の見学をしたいとのことである。


「これはお二方とも。お待たせしてしまったでしょうか」

「まだ時間より早いぐらいではあるな」

「いや、魔法建築を見せてもらうのが楽しみでね」


 2人に挨拶をすると笑みを浮かべてそう返してくる。

 北門を出たところなので、街に入ろうと並んでいる面々も期待しながらこちらの様子を窺っている様子だ。

 うーん。妙に魔法建築に期待されている感じがあるな。まあ、しっかりとギャラリーの安全に気を遣いながら転移施設を作っていくとしよう。

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