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番外102 迷宮核と料理実験

 イングウェイは結構な量のオーク肉を確保してきていた。

 宝石、鉱石を売った分で余裕があるので、オーク肉に関しては収穫祝いに盛大に使ってもらって構わない、とイングウェイは中々太っ腹なことを言ってくれた。

 なので、俺としてもオーク肉を使ってしっかり料理を作ることにした。

 まずはヒレとロース。2種類のカツを作り、それぞれに行き渡るように調理。その中でもハイオークの肉は何というか……肉質が良くて高級感があるので、実際に迷宮で狩ってきたイングウェイとレギーナの分に回す形だ。


 白米、味噌汁、カツ2種にキャベツの千切り、トマトにパセリ。そこにレモンを添えれば出来上がりである。

 調味料は醤油と塩、タルタルソース、味噌ダレの4種類から選べるようにしている。

 味噌ダレに関してはみりんがないので代用として砂糖と出汁等々でそれっぽく仕上げた感じではあるが……まあ、目指していた通り味噌ダレっぽい風味と食感にはなったと思う。


 後は、デザートだ。大森林から得た植物の中に……何とバニラがあったりするのだ。

 砂糖、卵、牛乳を用いてバニラから抽出したエキスで香り付けをしてやれば、バニラ風味のアイスクリームが作れる、というわけだ。


 前にプリンを作った時に受けが良かったからな。デザートは色々開拓したい。

 まあ、デザートは食後のお楽しみとして……まずは収穫した白米の試食会といこう。俺が料理をしている間、イングウェイ達には植物園の中を見学してもらっていたからな。

 というわけで植物園のテラス席にて、みんなで新米の試食会である。


「これは……!」

「フォルセト様……!」


 と、白米を口にしたフォルセトとシオン達が目を見開き、顔を見合わせる。その反応の理由はすぐに分かった。硬さや粘りなどの食感、味、風味等々、白米の質が実に良い、と感じられるのだ。

 フォルセト達はハルバロニスでやっている通りの環境を作ったわけだし、種籾もハルバロニスから持ち込まれたものだから、こういう反応になるのは分かる。


 ハルバロニスの稲作との最大の違いは……稲作にノーブルリーフが関わっていた事だな。

 カボチャのように過度にサイズが増したりということは無かったが、生育は早かったし、出来上がった米の品質も向上しているのが窺える。


「これは……出色の出来ですね。ハーベスタ達のお陰でしょうか。ノーブルリーフ農法は、ハルバロニスでも始める必要がありそうですね」


 フォルセトが相好を崩し、アシュレイが微笑んで隣に浮かぶハーベスタを軽く撫でる。

 といった調子で試食会は始まった。


「ああ……。これは素晴らしいですね」

「オークカツ、でしたか。これはまた、白米とよく合いますな……!」

「ん。美味」


 と、上機嫌なレギーナとイングウェイ。そしてもぐもぐと咀嚼して満足げに頷くシーラである。それぞれ氏族が違うからか、耳や尻尾の動きにも違いがある。まあ、喜んでいる時の動きというのは覚えておいて損はないだろう。

 オルディアはレギーナの耳と尻尾の動きから感情が理解できるのか、レギーナの反応を見てにこにこしていた。まあ、レギーナはシーラよりも表情に感情を出すので分かりやすくはあるのだが。

 動物組にも肉が振る舞われ、ラヴィーネやベリウス、リンドブルムにヴィンクルもご満悦といった様子だ。コルリスに関してはいつも通り、鉱石をのんびり食べていたが。


「今日は食後に甘味も用意してありますので、そちらも楽しんで貰えればと思います」

「それは楽しみね」


 クラウディアが笑みを浮かべる。プリンもそうだが、異世界の甘味だからな。

 新しい味や食感等の他にも文化の違いやらが垣間見えるから、こうやってお披露目されるのを楽しみにしている、というところだろうか。


 まあ、みんなに喜んでもらえるなら色々ネタは考えておこう。


 収穫した新米の評判は上々なようである。カツも楽しんで貰えているようで何よりだ。そうして植物園での試食会は進み、アイスクリームの出番がやってくる。


「おお……」

「これは……」


 と、みんな初めて見るアイスクリームに興味津々といった様子だ。かき氷もそうだが、氷菓子というのは若干珍しい、そのへんも手伝ってのこの反応だろう。


「そこそこの量は作ってありますが、冷たい甘味なので食べ過ぎないように注意して下さい」


 一応お約束的に注意しておく。みんなスプーンで一口取って口に運び――そしてまた歓声が上がった。


「美味しい!」

「甘くていい香り……」


 という割合ストレートな反応はマルセスカとシグリッタだ。

 バニラの香りとアイスクリームの甘味と冷たさ。俺にとっては懐かしい味だが、みんなには中々に衝撃的らしい。


「同じ氷菓子でも、かき氷とはまた違った食感ですね」

「牛乳が使われているから、まろやかな感じが……」


 と、グレイスとアシュレイが顔を見合わせて明るい笑顔を浮かべる。


「甘くて美味しいわね」


 ステファニアが上機嫌な笑顔で言うとマルレーンもこくこくと頷く。イルムヒルトはラミアなので若干みんなとは食性が違うのだが、普通の料理に関してもある程度楽しむ程度には食べられる。バニラアイスクリームには表情を綻ばせていた。うむ。中々良い反応だ。


「これは……バニラの栽培も急がなければならないわね」


 ローズマリーが言う。

 そうだな。バニラは栽培に回すものの他には、試しに使ってみるために採取してきた現物しかない。まだまだヴェルドガルでは貴重品なので、またアイスクリームを振る舞う機会が巡ってきたとしたら、風味付けにはバニラは使わず、果物等でというのが良さそうだな。




 試食会は中々の好評に終わった。イングウェイ達は上機嫌のままそのまま予定通り温泉へ向かったのであった。

 食材を持ってきてくれれば料理する、と伝えたし、肝心の料理も好評だったからな。

 この分ならイングウェイとは今後も交流の機会が増えるだろう。


 ミシェルも試食会での米の仕上がり具合に手ごたえを感じているのか、かなり上機嫌な様子であった。フォレスタニアで一泊し、明日シルン伯爵領へ水田を作りに行く、ということになっている。

 発酵蔵も建造する必要があるが、これの準備も実際に進められている。


 そうして今後のことを考えながらフォレスタニアに戻って来たところで、時間的な余裕ができたので、迷宮中枢――迷宮核へと足を運んだ。


 いや、別に迷宮核と絡むからと言って大したことではないのだ。

 ただ、迷宮核と連携すれば実際に作らなくても仮想空間で色々なシミュレーションが出来る、というのが分かっているからな。


 料理のネタを考えるに当たって、いっそのこと料理や調味料のレシピ作りに役立てられないかと思い付いた次第である。

 何せ、材料の確保や調理の工程、熟成させるといった手間無しに色々な調味料や料理の仕上がりを感覚的に確認できるのだ。利用しない手はないだろう。

 レシピ作りにも応用が利くので、迷宮核を使って色々と試してみたい。


 具体的には――各国から集まった様々な香辛料を配合し、俺の記憶、感覚と照らし合わせて近いものを照合するという、感覚的な逆引きによってカレーを作ろうという計画だ。


 こんなことに迷宮核を使うのは宝の持ち腐れという気もするが……まあ別に悪事ではないし、無害かつ平和的で良いのではないだろうか。

 迷宮核の使用ということでクラウディアやティエーラ、ヴィンクルにも聞いてみたが、悪くない反応だったしな。


 というわけで情報の海の中で、迷宮核に各種スパイスを仮想空間に用意してもらい、様々に配合してカレーの味を目指していく。

 これが上手く行けば――カレー作りだけではなく、調味料にしてもデザートにしても、色々と料理の幅が広がって行ってくれるだろう。

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