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番外97 獣王国からの帰還

「うむむ。何と素晴らしい」


 タームウィルズに向かって飛行するシリウス号。モニターの操作法をアウリアやシオン達に習っていたイングウェイだったが、一通り操作法を覚えると遠景を拡大したり戻したり、飛行中の風景をまじまじと見ていたりしたが、やがてそんな風に声を上げた。


「気に入っていただけましたか?」

「いや、感動しました。他国の最先端技術を目に出来る機会等、普通は考えられませんから」


 そう言ってイングウェイは笑みを浮かべる。

 確かにそうかも知れないな。低速での安定飛行だけでなく、移動時間の短縮も兼ねて高速飛行も披露していたりするし。緊急の用があるわけでもないので流石に魔力光推進は行わなかったけれど。


「今後の発展を考えるなら、諸外国を参考にするというのは良い事なのかも知れませんね」

「それは確かに。私はまだヴェルドガル王国をこの目にしたわけではありませんが……諸外国の実際を見た上で、様々なことを考えるというのは重要でしょう」


 レギーナが思案しながら発した言葉にイングウェイが頷く。

 BFOのエインフェウスに関しては……イングウェイが統治していたはずだが、外に対して広く門戸を開いている状況とは言えなかった。

 仮にベルクフリッツによる被害が大きくなっていたとしたら……国力が弱まっているところを諸外国に見せずに立て直すために、閉鎖的な方向に戻るという可能性も十分にある。特に、エインフェウスは合議制なわけだし。


 それらの情報や実際のイングウェイを見て思う事は……状況に応じて対応を変える柔軟性があって氏族長達の話にも耳を傾けるタイプ、ということになるのか。イグナード王としては武芸の実力の他にも、そういった面での期待をしている所もあるのかも知れないな。


 やがて大森林と山岳地帯を抜けて――水晶板モニターの遥か彼方に、王城セオレムが見えてくる。イングウェイは「おお」と、遠くに見えるセオレムに歓声を漏らし、座席から腰を浮かせた。

 何というかこう……旅慣れているし実力も十分なのに、好奇心旺盛というか反応がストレートなので、歓待しがいのある人物だなと思う。


 シリウス号はそのまま造船所に到着。ゆっくりと高度を落とし、土台の上に降りる。


「まずは――そうですね。お2人は王城へ、イングウェイ殿は冒険者ギルドへ、でしょうか」


 オルディアはエインフェウスからの親善大使として挨拶へ。レギーナはその護衛。まあこれは名目上の理由ではあるが、対外的には親善大使としての役割も果たす必要がある。


「では、イングウェイ殿は儂が案内しよう。後で合流ということでよいかの?」

「そうですね。では後程。イングウェイ殿の歓待の席も設けようと思っておりますので」


 アウリアの言葉に頷く。イングウェイはまず冒険者登録に向かうという事らしい。

 その後は合流してヴェルドガル来訪の歓迎ということになるだろうか。


「いやはや、恐縮ですな。確かに、獣王候補と言われることもありますが、私自身は修行中の身の上に過ぎません故」


 なるほど。イングウェイ自身は現状の自分を一介の武芸者として位置付けているので、それに相応しい対応で構わないと考えているようだな。

 特に……既に道中を飛行船に乗せてもらうという、破格の待遇を受けているわけだし、この上オルディアと共に歓待となると、引け目を感じてしまうというわけだ。あまり他者に貸しを作らずに自分の力を試したい、と考える性質だろうか。


 確かにエインフェウスは世襲制ではない。立場から見ればと言う、イングウェイの言い分は理解できなくもない。


「そのお気持ちは分かります。しかし、強者が尊敬されるエインフェウスの国風を考えるなら、獣王候補と目される程の武芸者を歓待しないというのは、ヴェルドガル王国がエインフェウス王国の国風や文化を軽んじているという意味にも繋がりかねません。今回は……そうですね。役得だと思って気軽に楽しんでいっていただけたらと思います」


 獣王になるかも知れないという相手に礼を失した対応をするというのも、将来的にはマイナスだしな。軽く冗談めかした笑みを浮かべてそう言うと、イングウェイは少し虚を突かれたような表情をして、それから穏やかに笑った。


「それは……確かに。では、エインフェウスからヴェルドガル王国へ来訪した一員として、有り難く境界公のご厚意を受け取らせて頂きます」


 そう言ってイングウェイは丁寧に一礼したのであった。




 さてさて。通信機で状況の連絡はその都度入れていたが、帰ってきたという事で口頭でメルヴィン王に顛末を報告する。

 当然ながらメルヴィン王やジョサイア王子はオルディア達の事情を知っている相手ということで、当人達は緊張していたが、2人はそんな彼女達の緊張を見通しているかのように、穏やかな笑みを浮かべて言うのであった。


「そう緊張する必要はない。余もジョサイアも、月の民から別たれた魔人が、今日のような状況にある事情を知り、そしてそなたが選んだ道も知っておる。であるなら、そなたの道行きが成就する助けになれればと考えておるのだ」

「選んだ道は簡単なものではないのかも知れないがね。王太子という立場を別にした個人的な思い入れからも、魔人化を解除し、問題が上手く解決する方向に向かってくれるよう願っている。父上や私の代では安心してもらって構わない」


 と、そんな2人の言葉に、オルディアとレギーナは深々と頭を下げたのであった。

 オルディア達の反応に、メルヴィン王は静かに微笑んで頷くと、それから俺に向き直る。


「しかし……遥か東の国の特殊な術者か。気になるところではあるな」

「そうですね。ベルクフリッツからの情報待ちではありますが。東国の巻物――魔導書も邪法が記されている可能性の高いものでしたので、悪用されないようこちらの宝物庫で預かる、ということになっています」


 ベルクフリッツには封印術やらオルディアの術やらで反撃の余地がないように対策を施したが、それでも巻物と1つ所に置いておくのは危険性がある。ベルクフリッツはエインフェウス。巻物はヴェルドガル。離れていれば懸念材料の1つを未然に減らせるというわけだ。


 巻物の扱いについては……預かってはいるが、実際のところは判断保留に近い。破棄するという判断を下すにはどういう経緯であの場所にあったか分からない。いきなり破壊してしまうというのは些か早計だ。

 一方で、内容についてある程度のことが分かり、危険性が高いばかりと判断されるなら完全に破棄する選択も視野に入って来る。まあ……全く解読が進まず、内容不明で腐らせておくなら、それはそれで安全で良いのかも知れないが。


 というわけで前世の知識が由来ではあるが、現状、近隣諸国を含めて一番仙術に詳しいというのが俺ということになってしまうわけで……。破壊するか保存するかの判断を保留したままにするには、選択肢が他に無かったという部分はある。


 仮にあの巻物に邪法ではないという前提の上で役に立つ仙術が記してあるのなら、獣人達も扱える魔法の一種ということでイグナード王を通して伝えていくというのはあり、かも知れない。

 治癒や解毒の類だとか、そういう術は広めて役立ててもらった方がいいだろうしな。


 まあ、そもそも解読が進むかどうかも未知数だ。内容を知っているであろうベルクフリッツには、どのような形であれ巻物に触れさせたくない。巻物自体から危険な兆候は感じなかったが、それでもシグリッタの本のように、術者が手にすることで起動するタイプの魔道具という可能性もある。


「それについては、今後の経過を見ていくしかないか。そなた達は、これからフォレスタニアにて歓待ということであったか?」

「はい。この後冒険者ギルドで獣王候補の武人と合流してフォレスタニアに向かう予定です」

「うむ。承知した。エインフェウス王国からの親善大使の歓待については、こちらでも準備をした上で執り行わせてもらうとしよう。何はともあれ、そなた達が無事で帰って来て何よりだ。ゆっくりと旅の疲れを癒すのだぞ」


 そんなメルヴィン王の言葉を受けて、俺達は王城を後にしたのであった。

いつも拙作をお読み頂き、ありがとうございます。


書籍版境界迷宮と異界の魔術師、5巻の発売日を無事迎えることができました!

ひとえに皆様の応援のお陰です! ありがとうございます!


先日活動報告でお知らせした人気投票と、それに伴う書き下ろしSSについてですが、

同様に活動報告にて経過報告と、書き下ろしSSを投下させて頂いております。

書籍版5巻と、投票内容に合わせたものとなっておりますので楽しんで頂けたら嬉しく思います。


今後ともウェブ版の更新共々頑張っていく所存ですので

これからもどうぞよろしくお願い申し上げます。m(_ _)m

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