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番外93 獣王と武芸者と

 ベルクフリッツの屋敷からめぼしいものを回収し、エインフェウス王国東の拠点ザインベルグに向かった。

 そこでイグナード王と共にベルクフリッツ捕縛の顛末を官吏達に知らせ、それから森の奥にある修練場に関しての事後処理、後始末の報告等を命じてレステンベルグへと戻ることとなった。


 ザインベルグの官吏達に関してはかなり落ち着いている印象だった。ベルクフリッツも捕まり、奴に通じていた官吏や氏族長も倒れたとなっては……仮に国内に残党が残っているとしても、発覚や捕縛は時間の問題だろう。


 それだけにもう少し警戒体勢を維持しておくことは必要となるだろうが……まあ、最大の戦力を倒している以上、事後処理に比重が移ってくる部分はある。

 シリウス号でレステンベルグに移動し、道中お茶などを飲みながら、今後についての話をする。


「ベルクフリッツに仙術を教えた術者がその後どうなったかは、気になるところよね」


 と、ローズマリーが羽扇の向こうで言う。


「それに関しては儂も気になるところではあるな。これからベルクフリッツから情報を得るということになるのだろうが」

「そうですね。仙術の巻物だけが残っているという状態ですし、ベルクフリッツに術を教えてどこかに去ったか……或いは奴に口封じをされて巻物を奪われたか……。可能性はいくつか考えられますが……今回色々画策していたのは、ベルクフリッツ自身ですからね」

「すぐにどうなる、というものでもなさそうですね」


 グレイスがそう言って目を閉じた。

 そうだな。獣王の位を望んだのも、そしてオルディアに目をつけたのも、奴自身の意志だったようだし。

 その道士が存命であるなら話を聞きたいとは思うが、これに関してはベルクフリッツ自身から情報を引き出すのを待つしかない。


「ベルクフリッツ本人に関しては、私からも力を封印させてもらいましたから、もう心配要らないとは思います」


 と、オルディアが言った。封印術を施した上で本来の力そのものを吸い出して宝石の形に封印。ベルクフリッツがその知識や能力を活かして反撃する芽を潰すというわけだ。


「いずれにせよ……人質を取ろうとしたり、邪法で能力を底上げして獣王継承戦に望もうとしたりと、実情がはっきりした今となってはベルクフリッツが獣王になるというのはもう無理な話でしょうね」


 と、クラウディア。確かにな。卑怯、卑劣を嫌うエインフェウス王国の気風と歴史が、それを許さないだろう。


「奴に術を伝授した者については何か分かったらその都度知らせると約束をしよう。その前に……救国の英雄を盛大に歓待させて欲しいのだがな」


 そう言ってイグナード王がにやっと笑い、レギーナがうんうんと目を閉じて頷いた。

 んー。これはレステンベルグに戻ったら宴会だとかそういう話になるか。

 後始末でゴタつきはするのだろうが、そのあたりはエインフェウスの国内問題であって、ベルクフリッツとオルディアに関する問題が解決した今、客である俺達が関わるようなところではない。


 後の事は任せてのんびりして欲しいというイグナード王の気遣いと意思表示でもある。となればその厚意を受け取って、滞在中、イグナード王からの歓待とエインフェウス王国国内の観光を楽しませてもらうというのが良いだろう。


 というわけで……レステンベルグに到着するまでは操船もアルファに任せて、のんびり休憩させてもらうか。みんなも戦いが終わって結構くたびれただろうしな。イルムヒルトが癒しの呪曲を奏でる中、西に向かってシリウス号は大森林の上空を飛んでいくのであった。




 そうしてシリウス号はレステンベルグに到着する。前と同じように湖にシリウス号を停泊させて、梱包したベルクフリッツ一味を引き渡せば、俺達の仕事も一件落着だ。

 梱包した連中をレビテーションで運び出したりして船の前にみんなで積んでいく。


「こりゃ一体、何が起こったんだ?」

「獣王陛下への謀反を企てた連中がいたそうだ」

「じゃあ、あの運ばれていくのが犯人達か……」

「そうだな。何だか固められてるが……。変わった魔物もいるし……」


 兵士達に搬出されていく一味と、何事かと集まってきたレステンベルグの住民達。エルフや色々な氏族の獣人達。エインフェウスの住人達はバリエーション豊かというか何というか。コルリス等はやはりエインフェウスでも注目の的、という感じがするな。コルリス当人は梱包した連中を運び出して一仕事やり終えたという感じで座っていたりする。


 まあ、コルリスが注目を集めてしまうのはいつもの事として……。

 そんな集まって来ている住人の中に、一際目を引く獣人がいる。銀の体毛を持つ狼獣人だ。立ち姿というか身のこなしを見る限りだと、何というか、相当腕が立ちそうな印象を受けるが……。


「あの者に関しては問題はないぞ。そなたの目利きは流石と言うべきかな」


 一味の搬出中なので念のために周囲の警戒もしていたのだが……俺の視線に気付いたイグナード王が声をかけてくる。


「ご存じなのですか?」

「うむ。面識もある。少し話をしたかと思うが、獣王候補と目されている者の1人だ。前に会って話をした時は北方に武者修行の旅に出ると言ってたが……レステンベルグに戻って来ていたのだな。そうと知っていれば助力を頼んでも良かったのかも知れぬが」

「ああ。ひょっとして陛下が見込んでいると言っていた……」

「まあ……本人には言わぬことだ。継承戦で贔屓をしたり手心を加える気は一切無いからな」


 そう小声で言ってイグナード王はにやっと笑う。なるほど。イグナード王もあの獣人との戦いを楽しみにしている、と。

 そんな話をしていると、狼の獣人は自分の話をしているのに気付いたのか、人垣から出て、こちらに近付いて来た。


「久しいな、イングウェイ」


 ……イングウェイと言ったか。白銀の狼獣王イングウェイ。BFOの時代でエインフェウス王国を治める獣王となっていた人物……だったはずだ。


「これは獣王陛下。レステンベルグに帰って来てみれば謀反が起こったと騒動になっていて、その後どうなったのかと思っていましたが……無事に賊を平定なされたようで何よりです」


 そう言ってイングウェイは一礼してくる。


「まあ、首魁に関しては儂ではなく、ヴェルドガル王国のフォレスタニア境界公が捕縛したのだがな」

「そうだったのですか。相当な武人とお見受けしておりましたが、その話を聞いて納得致しました。お初にお目にかかります。イングウェイと申します」

「テオドール=ウィルクラウド=ガートナー=フォレスタニアと申します」


 と、自己紹介して握手を交わす。

 イグナード王が一目置くだけのことはあるというか何というか。

 未来は不確定ではある。とは言えエインフェウス王国との関係を考えるなら、獣王候補と目される人物と面識を得ておく、というのは悪いことではあるまい。


「テオドール公は魔術師という噂を耳にしておりましたが……恐ろしい程の武芸を身につけておられるようだ。ううむ……。世界は広い……」


 イングウェイは握手を交わした後、顎に手をやって唸っていた。

 そんな反応に、イグナード王は何やら楽しそうに肩を震わせる。


「これは、少し予定を変えてヴェルドガル王国を次の修行の場所に選ぶべきか……」


 と、そんな呟きが聞こえる。


「折角知己を得たのです。ヴェルドガル王国に用がおありでしたら、僕の帰国の際に、シリウス号に乗って行かれては?」

「おおっ、あの空飛ぶ船に乗せて頂けると?」


 イングウェイは表情を明るくして食いついて来た。物腰は落ち着いた印象だが、内面は割と好奇心旺盛だったりするのかも知れない。


「イングウェイ殿さえ良ければ、ですが」

「願っても無い事です。これは……思わぬ楽しみが増えてしまいました」

「ふむ。これから城で境界公の歓待も兼ねて祝勝会があるのだがな。そなたさえ良ければ顔を出していくと良い。ヴェルドガル王国へ向かう日取りや待ち合わせなど、他にもすべき話もあろう」

「これはかたじけない」


 と、イングウェイは割合上機嫌な様子である。

 思わぬところで思わぬ人物との面識を得たが。まあ、予定に関しては変わらない。このまま歓待の宴をみんなと一緒に楽しませてもらうとしよう。

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