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番外86 黒幕の正体は

 襲撃者を残らず行動不能にしたところで、城からシリウス号へと移動する。


「みんな、怪我はしてない?」

「僕達は大丈夫です」

「問題ない」

「我も大丈夫だ」


 シオン達とテスディロス。核を明滅させるマクスウェル。それから、ラヴィーネ達だが……。


「ラヴィーネは大丈夫だって言ってます」

「コルリスもよ」


 と、使い魔達の状態をアシュレイとステファニアが教えてくれる。リンドブルム、アルファ、ベリウス達は首をこくこくと縦に振っていた。大丈夫、ということらしい。

 みんなの状態を確認したところで、コルリスが水晶で固めて甲板に並べた連中へと順々に封印術を叩き込んでいく。戦意を失っていたり意識を失っていたりで作業自体は楽な物だった。

 俺がやっているように、要所要所のスペースを小さくして梱包から抜けにくい状態にしていたりと、中々コツを掴んでいるように見えるな。


 転がされたコーバックに封印術を叩き込んで、作業も完了だ。何か見落としが無いかと確認していると、コーバックがうめき声を上げて目蓋を薄く開ける。


「話を聞けるように、ある程度加減した」


 とはテスディロスの言葉である。強烈なスタンガンを食らったようなものだろうからな。意識は飛ばされたがダメージとしては比較的軽いものかも知れない。


「……な、何がどうなっている!? き、貴様ら……っ。私が誰だか分かっているのか!?」


 と、コーバックは意識が戻ったばかりで身体の自由が奪われている事に気付き、混乱している様子である。


「襲撃が失敗して身元も割れた以上、このままお前が氏族長でいられるとも思えんがな、コーバック」


 現状を認識させる意味合いを込めてイグナード王が声をかけると、コーバックが驚愕と戦慄の入り混じった表情でこちらを見てくる。


「イ、イグナード陛下……! それにフォレスタニア境界公まで……! こ、これは違うのです! 何かの間違い……ッ!」


 現行犯で何を間違えるというのか。とりあえず身分を傘に恫喝しようとした事と言い、人となりが何となく分かるが。


「今更だな。当然、お前の身の周りの金や人員の出入りも調べることになる。追って沙汰を待つが良い」

「あ……ああ……」


 コーバックはイグナード王の言葉に衝撃を受けているようであるが。


「……1つ、聞きたいことがあるんだ。ディグロフの連れていた獣王候補とやらに心当たりは?」


 と、声をかけるとコーバックは目を見開いてどこか呆然とした面持ちで俺を見て……何かを思い出したかのような表情に変化したかと思うと――笑った。


「そ、そうだ! まだ我等にはあの方がいる! 貴様らなどがあの方に敵うものかっ! ひ、ひははっ!」


 あの方……ね。コーバックのこの言葉が演技とも思えないが……。とりあえず笑い声で思考が妨げられるのも嫌だからとっとと蓋を被せてしまうとして。


「お、おい、待て。それは何だ!? 止め――」


 と、まだ何か喚いていたが、土魔法で作った蓋を被せると静かになった。空気穴は開いているが表面に刻まれた紋様魔術で音が外部に漏れないという仕掛けだ。梱包した連中同士で勝手に口裏を合わされたりすると困るからな。それを利用して情報収集という手もあるけれど。


 ディグロフにしてもコーバックにしても、その獣王候補とやらと知己を得たから野心を抱いた、というのは……あり得る話だろうか。

 少なくともコーバックとその男との力関係というか主従関係は、そいつの方が主導権を握っている立場であるように見える。つまりは――そいつが黒幕か。


 コーバックの先程の言葉も、その獣王候補とやらの力に心酔しているような印象だ。

 その割にはオルディアを人質に取ろうとするなど、ちぐはぐな印象があるが……このあたりは推測していた範囲内ではある。確実な勝利の為だとか、オルディアの能力を考えればより強い力を求めてそうしたという可能性。それに部下であるコーバックやディグロフの暴走の線も考えられる。

 いずれにせよ……その獣王候補とやらについては最大限警戒しておくべきだな。


「コーバックに関してはタームウィルズへ転移魔法で送って、魔法審問で早めに情報を得る必要があるかも知れませんね」


 クラウディアは、大丈夫というように頷いてくる。転移魔法に関しては問題無しと。


「確かにな。先程の口ぶりからすると件の人物との面識があるようだな。済まぬが、頼めるだろうか」


 イグナード王からも許可を貰ったところで、早速通信機で現状報告と連絡を回す。準備が出来たら梱包したコーバックをタームウィルズに送ることになるだろう。

 魔法薬――ヨナガドリの囀りを併用しての迅速な魔法審問となると、タームウィルズでしかできない。これから東に向かうことを考えると時間との兼ね合いで情報収集の速度も重要になってくるだろうからな。




 コーバック捕縛の一報を他の氏族長達にも通達し、調査を行う旨等の命令を行い――それからシリウス号に乗り込んだ。

 このままディグロフのいる東に目掛けて出発することとなる。シリウス号はゆっくりと浮上し、そうして東に向けて動き出す。

 進行速度も調整しておく。明け方ぐらいに目的地に到着するぐらいが望ましいだろう。明るくなってからなら逃走もしにくいし不意打ちにもなる。夜討ち、朝駆けの変形のようなものである。

 後は時間を無駄にしないためにも移動しながら話し合いだ。


「――獣王候補自身が黒幕、ですか」

「さっきのコーバックの反応を聞いているとね。どうも、獣王候補の割に氏族長のコーバックよりも強い立場にいるように見えたから」


 艦橋で先程思った事を伝えると、グレイスが納得したというように頷く。マルレーンも確かに、というように神妙な面持ちでこくこくと頷いた。


「実力が優れている、というだけで、獣王候補が氏族長より上の立場になる、と言うことはあり得るのかしら?」

「いや。獣王となった者ならまだしも、候補と目される者は氏族の中でも優れた戦士という括りでしかない。氏族の者は氏族長を敬うのが普通だ」


 クラウディアの質問に、イグナード王は首を横に振った。


「となると、余程力が突出しているか、或いは――特別な利益を与えられるような何かを持っている……というところかしらね? コーバックが操られているなんてことも無かったのでしょう?」

「一応魔力の流れも見たけど、不自然なところは無かったかな」


 ローズマリーの言葉に答える。魔法薬等で操るというのも不可能ではないが、それも一応想定して、転移させる前に魔力の流れも確かめている。魔法的な側面から確認する限り、コーバックは間違いなく自分の意思で動いていた。地道な洗脳という可能性までは排除できないが。


「特別な利益っていうと?」


 セラフィナが首を傾げる。


「んー。例えば何かしらの技術、財力、知識に人脈……だとか?」

「獣王になってからの利益供与の約束もそうよね」


 と、シーラとステファニア。そうだな。協力すれば利益供与をする、という話はホークマンの副官からも出ている。けれど、それだけではまだ弱い、ような気もする。現時点では口約束の空手形でしかないし。


「エインフェウスの人なら、強い力に憧れるとか?」

「そういう風潮が強いのは確か、かも知れません」


 イルムヒルトが首を傾げて言うと、レギーナが同意する。


「だとするなら、その獣王候補さえどうにかすれば、連中の計画全部が御破算になる、ようにも思えるかな」


 特別な利益を齎せるから付いていくと言うのなら、そうなる。


「黒幕を倒せば解決か。分かりやすい話ではあるが……」


 イグナード王が腕組みをしながら目を閉じて言った。

 そうだな。獣王候補を倒して終わり、としたいところだ。

 後はオルディアの能力を知って目を付けたのか、そうでないのか。いずれにしても俺達のするべきことは変わらない。このまま東に向かい、まずはディグロフの身柄を押さえることから始めよう。

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