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番外80 武術交流

 工房見学はかなり好評であった。遊具や魔道具等も含めてイグナード王達は色々購入したりしていた。

 そうして、空中戦装備も手に入れたということもありこれらに慣れてもらう意味も込め、フォレスタニアの城の中庭で空中戦装備の訓練をしたり、参考までに日々の鍛練をどうしているのか互いに見せたりしていたのだが……ヴィンクルが城の窓から妙に熱心にこちらを覗いているのが見えた。それにイグナード王も気付いたらしい。


 んー……。まあ、秘密を共有しているイグナード王達なら引き合わせても大丈夫だろう。ヴィンクルを呼ぶと中庭に降りて来て、イグナード王達に頭を下げて挨拶をする。


「ヴィンクルと言います。フォレスタニアで保護している竜の子ですね。行く行くは迷宮の守護を担う立場ではあるのですが。一応、このことは内密にお願いします」

「竜の子とは……。そうさな。相手が竜ともなれば喧伝して回るようなことではあるまい。うむ。他言はせぬと約束しよう」


 流石にイグナード王はヴィンクルの登場に驚いていた。当人であるヴィンクルは軽い調子で握手を求めたりと、なんだか竜らしからぬ動きを見せているが……このあたりは俺達の影響だろう。イグナード王は少し脱力したように笑ってそれに応じる。


「よろしくね、ヴィンクル」

「初めまして」


 と、オルディアとレギーナもヴィンクルと握手をして自己紹介を返す。


 気を取り直してイグナード王が演武を再開。しばらくヴィンクルはそれを熱心に眺めていたが、演武が終わった後で何やら見様見真似をしようとしたりしていた。その動きはイグナード王の興味を充分に引くものだったらしい。


「武術を真似する竜とは。何やら妙に筋が良いな」

「故あって、色々なことを勉強したり修行したりしている途中なのです。手足も器用なので近接戦闘の訓練もしています。それでイグナード陛下の動きが気になったのではないかと」

「そなたとか。ならば先程の動きも納得だな。そういうことならば折角であるし、このまま互いの武術や体術の交流会というのも悪くはないのではないかな」

「ああ。それは興味があります」

「同じく」

「あたしもです」


 と、イグナード王の言葉にグレイスやシーラ、それにレギーナが同意する。マクスウェルも期待しているのか、核を明滅させている。


「イグニスを制御する時の参考になるかも知れないわね」

「私達はあまり前に出ませんが、勉強させてもらいます」


 ローズマリーが言うと、アシュレイも頷く。マルレーンもレイピアを使うからか、こくこくと頷いていた。ヴィンクルも期待に目を輝かせている。

 んー。中々本格的になってきたな。ああ、それならいっそ……。他の面々にも声をかけて見よう。




 というわけであちこちに連絡を入れてみたのだが……予想以上の面々が集まってしまった。まず、メルヴィン王とジョサイア王子が乗り気で是非見学に行きたいとやって来た。


 イグナシウスとラザロ、騎士団長のミルドレッドやメルセディア、チェスターもやってきた。エリオットとカミラもタームウィルズに滞在していたので一緒である。

 フォレスタニアで働いている面々も武術の心得がある者が多いからか、みんな興味津々といった様子だ。


 アウリアとオズワルド、ロゼッタも見学に来ていたり、高位精霊も楽し気な雰囲気を感じ取ったのか次々顕現したりと……何だかそうそうたる面子になってしまった気がするな。まあ、知り合いをイグナード王に引き合わせようと思っていたわけだから、これはこれで良しとしよう。

 紹介を終えた後、フォレスタニアの城の中庭で、アクアゴーレム相手に演武をしたりといった武術交流会を行っていくわけだ。


「ふむ。こうして武術を他者に見せることで楽しんでもらえるというのは……やや不思議な感覚だが……。だがまあ、折角の機会。気合を入れさせてもらおう」


 そういって最初の演武を引き受けてくれたのは鏡の騎士ことラザロだ。現在は騎士団の教導官として、後進の指導に当たっている立場である。


 大剣を腰だめに構え、やや遠い間合いでアクアゴーレムの一団と向かい合う。ラザロの大剣は同じような重量武器の中にあっても更に長大。それでも剣を振るうにはまだまだ遠い間合いだ。


 みんなの見守る中で、構えたままのラザロの身体がスライドするように動いた。一切上体のぶれない歩法。目を見張るみんなの前で間合いに踏み込んだかと思ったその瞬間には、長大な剣とは思えない速度で一閃が放たれていた。アクアゴーレムの一団が胴薙ぎにされて崩れる。


 一瞬の沈黙とその後の拍手。イグナード王もラザロの演武には流石に驚いたらしい。


「これはまた……凄まじい程の研鑽よな。あの歩法は、正面から向かい合う相手には相当見切りにくいであろう」

「世界の広さを痛感させられます」


 と、イグナード王の言葉に頷くレギーナである。

 そうだな。ラザロの歩法はかなり幻惑効果が高い。それに……純粋に闘気を変質させて特殊な技を繰り出しているように見えるのは、グレイス以外ではイグナード王とラザロぐらいのものだ。ラザロもまた達人という括りになる。

 そうしてラザロが最初に盛り上げてくれた流れのまま、次々みんなが演武をしていく。


 エリオットがかなり遠い間合いで構えたかと思うと、そこからレイピアを繰り出す。動作に合わせて一瞬で長大な氷の槍を生み出し、遠くの標的を粉砕する。レイピアを引いたと思った瞬間、氷の槍が砕けて破片が四方八方から目標に殺到するなどという新技を披露してくれた。


「魔法と剣技の融合か。これもまた見事な……」

「エリオット兄様、凄いです!」


 イグナード王とアシュレイ、それにカミラが立ち上がって拍手を送る。驚きが先に来ていた面々も遅れて拍手と歓声を送った。


「領主とはなったけれど、武術の腕は鈍らせないようにと気を付けているからね」


 と、エリオットはそんなふうにアシュレイの言葉に笑っていた。


 興が乗ってきたのか、皆も負けじと色々な技を披露してくれる。

 斧の腹で吹き飛ばすようにゴーレムを空中に舞い上げ、膨大な漆黒の闘気で十文字斬りを見舞うグレイス。水の渦と闘気を纏った真珠剣ですれ違いざまにアクアゴーレムを粉々に散らすシーラ。複数の矢を次々と放ち、一本ごとにそれぞれ速度の違いを付けて同時に的に命中させるイルムヒルト、と様々な大技が飛び出している。

 

 イグナード王も上機嫌で拍手喝采だ。

 そのイグナード王はといえば……返礼とでもいうように、蹴り足に乗せて膨大な闘気の砲弾を下方から放つという大技を見せてくれた。

 闘気を溜めてから放つというのなら分かりやすい技なのだろうが……イグナード王の場合は脱力した状態から唐突に、である。実戦で放たれたら中々に恐ろしい技と言える。闘気の収束や操作の技術が卓越しているからこそだろう。


 ふむ。こうなってくると、俺も生半可な技で、というわけにはいかないな。


「頑張って、テオドール」

「いってらっしゃい」


 と、クラウディアとステファニアが言う。みんなから笑顔で見送られて、前に出る。

 アクアゴーレムを直線的に配置。魔力循環で力を高めていく。ウロボロスは持たない。素手での技を披露するつもりではあるが、ここからでは踏み込んでも掌底も蹴りも届かない間合いだ。


 目を閉じて深呼吸を1つ。目を見開き、全身の関節を連動させるように踏み出し、体内で練り上げた魔力を掌底の一点に乗せて撃ち放つ。

 極細に絞られた螺旋状の魔力衝撃波がアクアゴーレム達それぞれが持っている魔力に伝播しながら突き抜けていく。最後尾のアクアゴーレムのところまで達したところで、放った衝撃波が弾けて魔力の渦を作り出した。目標としたアクアゴーレムが粉々に飛び散る。

 螺旋衝撃波の応用変化系だ。手前のゴーレム達は衝撃波を一番奥まで伝播させるだけの役割なのでほとんどダメージがない。


「……また……。その若さで恐ろしい技を使うものだな。相手の体内の魔力や闘気、それに水分やらを利用して内面から破壊するという理屈……か? しかし……炸裂する座標も距離も思うがままとはな」


 イグナード王は思わず立ち上がって、それから拍手を送ってくれた。ヴィンクルも手を動かし、拍手をしてくれていた。色々見れて喜んでくれているようで何よりである。

 そうしてコルリスも土鎧での分身の術を見せてそれをステファニアがにこにこと見守っていたりと、動物組も演武に参加するのであった。



 武術交流会であるとか、幻影劇場、境界劇場に足を運んで観劇をしたりと、イグナード王の滞在中に色々やっていると、副官のホークマンからある程度の情報を引き出すことができたと連絡が来た。

 というわけでイグナード王と共に王城に話を聞きに行く。エインフェウス国内の情報が少ないということもあり、審問で足りない分はイグナード王達と話し合って補おうというわけだ。


「副官は昔からの知り合いに依頼を受けた、と言っておりますな。どうも相手が地位の高い上に世話になっている人物のようで、話すのを大分渋っておりましたが……ディグロフと名乗る人物のようです」

「ディグロフ……か」


 イグナード王は表情を顰める。


「知っている相手ですか?」

「うむ……。地方の内政の仕事を任されている獣人の官吏の1人でな」


 ここでいう官吏というのは、エインフェウスにおける地方の領主的な扱いらしい。


「問題はその理由、ですか」

「ディグロフが言うには、イグナード陛下は強き獣王ではあれど、武勇に優れぬ弱小の氏族らを甘やかし過ぎている、と。それはそれで美徳ではあるのだろうが、このままでは武勇に優れたエインフェウスの力は衰え、やがて外の国に呑み込まれるだろうと」

「……儂としては、これでも実力主義のつもりではいるのだがな。腕力以外の一芸もまた等しく武器の1つではあろう、とな。確かに、儂の代になってから様々なことを改めているが……それが不満ということか」


 イグナード王は目を閉じてかぶりを振る。イグナード王の在位期間が長いというのもあり、氏族長達との合議の元、色々と官吏の採用方法だとか統治方法もイグナード王が即位するより前とは変えているところがある、という話だ。

 元々閉鎖的ではあったエインフェウスも、門戸を少しずつ開放しようとは考えているそうである。


 統治には武力という背景が前提になるところがあるから、雑多な獣人の氏族を纏めるには最も強い者が……というのはまあ、分からなくもない。


 だからと言って実際の統治や実務の段階になれば、直接的な武勇に優れない氏族が軽視されていい、とはならないというのも確かだ。氏族ではなく個々人の能力を見て適材適所、というのは正しいと思う。

 話を聞いた印象だと……武勇に優れない氏族を取り立てているのが気に入らない、といった不満を利用する形でディグロフと副官のホークマンは人を集めたということになるだろうか?


「オルディア嬢誘拐の仕事を首尾よくこなした暁には、本人と氏族に手厚い見返りを約束する、とのことでした。そうしてそういった目的と見返りで人を集めるようにと、軍資金も与えられたそうです。ディグロフは獣王はそろそろ代替わりをしなければならないと語ったそうで。次の獣王の見込みが高い人物も紹介された、と言っていました」


 高い身分の人物から与えられた大義名分と依頼。本人と一族への利益供与の約束。それに軍資金か。


「次の獣王候補、か。そやつについての情報は?」

「顔は隠していたそうで正体は分からないと。しかし実力の一端は見せてくれたそうですよ。離れた場所にある大岩を、闘気の爪撃1つで、薄く何枚にも切り裂いたとか」


 闘気の爪撃ね。……アルファと最初に戦った時に、似たような技を使っていたっけな。

 獣王の見込みが高いというだけあって充分に実力はあるようだが……ディグロフと組んで暗躍し、人質を取ろうとしている。

 イグナード王との真っ向勝負で勝つ自信がないのか、或いは獣王継承戦を勝ち上がってイグナード王と戦う際に確実を期すためか。それとも……他に理由があるのか。例えば、オルディアの能力を知っていて、それを利用して更なる力を求めようとした、だとか?

 現時点では何とも言えないが……少なくともそのディグロフという男と、獣王候補というそいつとは、一戦交えることになるだろうな。

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