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番外70 生き方とその価値と

 猿獣人を倒して残った男達にも処置を施しておく。スリープクラウドで意識を奪ってから封印術を叩き込み、土魔法で固めてやれば制圧完了だ。

 コルリスによって土の中に引き摺り込まれた男は……コルリスが持ち帰って来た時には既に結晶によって固められている状態だった。これは手間がかからなくていい。封印術を用いるだけで事足りるからだ。


 この連中は……そうだな。一先ずは北門の監視塔内部に運んでしまおう。

 イグナード王は大事にならないよう監視塔の中で待ってくれているからな。救出した2人とも話をしたがっていると思うし。

 そうして実行犯の梱包作業が完了したところでヘルヴォルテとウィンベルグが空から2人を連れて降りてくる。


「危ないところを助けて頂いてありがとうございました」

「助かりました。このお礼は獣人族の誇りにかけて必ずや」


 イグナード王の恩人の娘と、その護衛の獣人。2人は揃って深々と頭を下げてきた。


「私はオルディアと申します」

「あたしはレギーナと言います」


 イグナード王の養女がオルディア。獣人の護衛がレギーナというらしい。

 オルディアのフードを外したその姿は……なるほど。エルフの血が混ざっていると言われれば納得のいく線の細さではある。見た目の年齢はグレイスやシーラよりやや年下ぐらい、だろうか。

 護衛の獣人は……丸い輪郭の耳とふさふさとした尻尾があるが、何の氏族かちょっと判別しにくいな。動物でこれらの特徴というと……イタチ、だろうか?


「これはご丁寧に。僕はテオドール=ウィルクラウド=ガートナー=フォレスタニアと言います」


 自己紹介をすると、2人は一瞬固まる。


「きょ、境界公であらせられましたか。道理で……」


 2人とも王城のセレモニーでは見なかったしな。これが初対面ということになるが。


「色々話をするべきことはありますが……。そこの北門の監視塔にてイグナード陛下がお待ちです。まずはそこで、腰を落ち着けてから自己紹介やお話をすることにしましょう」

「イグナード様が……。そう、でしたか。境界公がここにいらっしゃるということは……」

「イグナード陛下は随分ご心配なされていましたよ。お二人の奪還を第一に考えていましたから、人質に取られないようにと、戦いの場に出て来ることは一先ず待っていただきました。それで余計に気を揉んでいた部分があるようですね」

「……どうやら、私の事でも気を遣って頂いたようで……ありがとうございます」


 と、オルディアがもう一度頭を下げてくる。オルディアの出自、イグナード王とこの一件の関わり等々、明るみに出さない方が良い事も色々ある。そのあたりの事情をオルディアは察しているらしい。


「地形を元に戻したりもう少し作業があるから、シーラは2人を先に監視塔に案内してくれるかな」

「分かった。それじゃあ、2人ともついて来て」


 シーラが頷いて、2人を道案内する。オルディア達はシーラの後に続いた。

 彼女達を見送りながら、氷壁や土壁を取り除いて往来の妨害にならないように地形を整える。

 タームウィルズの街中に入る手続きをしていた面々は何事かとこちらに視線を向けていたが、俺達の姿を見るなり目を閉じて頷いたりと、何やら納得したというような反応を見せていた。

 ……いや、まあ。何時もの事と思って貰えるのは俺としても望むところだな。お陰でイグナード王やオルディアが目立たなくて済む。




 梱包した連中を兵士達の詰め所に運び込み、街道も元通りだ。とりあえずの後始末を終えたところでイグナード王達が待つ監視塔に向かう。


 そうして監視塔に入ると、猿獣人、熊獣人の梱包された蓋を外して、イグナード王が連中の顔を確認しているという場面であった。

 獣人達は運び込まれた後で意識を取り戻したのか、身動きが取れない状態のままで不機嫌そうなイグナード王に顔を覗き込まれ……。まあ獣顔なので顔色はよく分からないが、恐怖の表情を浮かべている、ということで良いのかな。

 だがイグナード王は激高するでも暴力を振るうでもなく、首を横に振る。


「猿の方は知らぬ顔だ。もういい。そやつらの顔を見ていると、このまま石ごと叩き割りたくなってしまう。どこかにやってくれ」


 と言ってかぶりを振った。兵士達が連中の顔に元通り蓋を被せ、そして搬出して行った。このまま王城に搬送して魔法審問という流れになるが。イグナード王はやはり、理知的な印象だな。

 と、そこでイグナード王は俺達が戻ってきた事に気付いたらしい。顔を合わせるなり手を取られて頭を下げられた。


「深く感謝する、テオドール公。オルディアに万が一のことがあれば、儂は友に顔向けができぬところであった」


 と、巨躯を小さくしているイグナード王である。一緒にオルディアが改めて一礼してくる。


「いいえ。お怪我がなくて、何よりでした」


 改めてみんなと共に自己紹介を行う。それから事情の説明に移ろうと思ったが……レギーナはどこまで知っているのだろうか。イグナード王に視線を向けると俺の言いたい事を察したのか、静かに頷く。


「レギーナはオルディアの事情を知っている。レギーナが幼い頃、森林火災に巻き込まれたところを、オルディアが助けたのだ。それ以来の付き合いとなるのでな」


 なるほど……。それは信頼されるわけだ。しかし森林火災ね。それで事情を知ったのであれば、緊急時の人命救助に魔人としての力を使った、ということなのかも知れない。

 魔人なら確かに……火災の只中に救助に向かうこともできるかな。


「あたしが付いていながら……申し訳ありませんでした、陛下……」


 それだけにレギーナは今回人質に取られてしまったことを気に病んでいるようだが……。


「いや、儂の連れてきた武官が裏切ったのだ。誰に責任があるかと言えば、間違いなく儂の失態よ。そなたは……自らの危機となってもオルディアを助ける機会を伺っていたのだろうしな」


 イグナード王にそう言われてもレギーナはまだ気に病んでいる様子ではあった。


「私は……レギーナが一緒で心強かったわ」

「ありがとう、オルディア姉さん。ですが失態は失態ですから。この汚名は必ずや次の働きにて返上します」


 オルディアが心配そうな表情を向けると、レギーナは一度自分の両頬を軽く叩き、真剣な表情を浮かべてそう答えた。気持ちを入れ替えて、というところか。

 話を聞いてみれば、やはりこちらの予想通りだった。あの熊獣人がやってきて、イグナード王が怪我をしてオルディアを呼んでいる、と連れ出したらしい。

 護衛も納得させた上で連れ出せるだけの理由なんてそうそうあるものではないしな。他の者ならいざ知らず、同僚が連絡に来れば動かざるを得ない。


 連中の目的等々はともかくとして……。まずはイグナード王やテスディロス達との間で交わした内容や俺達の方針を、2人にも伝えるべきだろう。




「――そう、でしたか」


 俺達の方針やテスディロスの話を聞いたオルディアは遠くを見るような目になって空を仰ぐ。


「父と母は……幸せだったのかなと……。今でもそう思う事があるのです。魔人として生きていればとか、私の力が2人の生き方を狂わせてしまったんじゃないかとか。もしものことを考えてしまうことがあって――」


 テスディロスは目を閉じてその言葉を聞いていたが、静かに答えた。


「……俺は、その2人の事は知らないから俺自身についての事しか言えないが……。今までと違う世界を知ることは、生き方を変えるのに充分な理由足り得ると思う。ましてや、そこに誰かへの思いや願いがあるのなら、迷うこともない」


 そう言ってテスディロスは魔人の特性を封印する呪具である、腕輪に触れて言った。

 誰かへの思いと願い。テスディロスとウィンベルグにとっては、ヴァルロスに託された思いと願いで、オルディアの両親にとっては、娘を守るためか。


 確かに……。大切な人を守る、というのは……命や人生を懸けるのに十分なものだろう。

 母さんの事が頭に浮かぶ。俺だけに限った話ではない。みんなも色々な事が脳裏を過ぎっているようだった。

 一度深呼吸してから気持ちを切り替えるように言葉を続ける。


「今は封印術で魔人の特性を抑えている状態ではありますが、いずれはもっと根本的な解決――魔人化を解く方法を見つけたいと考えています。僕達としてはできるだけお二人の希望に沿うような対応をしたいと考えています。勿論、今すぐに答えを出すような必要はないと思います」


 そう言うとオルディアは大きく息を吸ってから答える。


「イグナード様は……境界公に関する噂話が本当の事なら、私にとって安住の地が見つかるかも知れないと……。だけれど見つけたのは安住の地ではなく、進むべき道であるように思います。その道を実現するために、私に出来る事をしたいと考えているのですが……お力になれないでしょうか?」


 真っ直ぐ俺を見てくるオルディア。イグナード王はオルディアの進む道は彼女の意志に任せる、というように目を閉じていた。


「申し出を断る理由等ありません。具体的にどうするか等は、もう少し落ち着いてから話し合うとしても……そうですね。これから先、どうかよろしくお願いします」


 そう言ってオルディアと握手を交わす。


「無論、儂にも出来ることがあるならば協力を惜しまぬ。……進むべき道か。ヴェルドガル王国を訪れて良かった」


 そうだな。志を同じくする相手と出会えたという気がする。イグナード王やオルディアとの話については、一先ずはこれで大丈夫だろう。

 さて。そうなると後は、猿獣人回りの背景についてとなってくるか。イグナード王も、今後の事について考えると思うところは一緒なのか、俺に尋ねてきた。


「話は変わるが……あの者達の処遇について尋ねたい」

「魔法審問で情報を引き出してから、その後のことについては話し合って決めることになるでしょうか。陛下も腹に据えかねているとは思いますが」

「確かに業腹ではあるが……。拘束して無力化した者を痛めつける趣味は持たぬ。魔法審問があるというのなら、その方がよかろうな。儂が関わると、余計な感情が混ざり兼ねぬ故」


 何分ヴェルドガルとエインフェウスの間で取り決めがないからな。その後あの連中をどうするかについては話し合って処遇を決めるということになるだろうか。


 後は……善後策として、別動隊がいる可能性が高いのでその捜索を行う。これは早めに動いた方が良いな。

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