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番外52 南西部からの帰還

 道中、予定通りにウィスネイア伯爵領にも滞在のために立ち寄った。

 マールも前回、公爵領へ赴いた際にオリンピアと再会の約束をしていたということもあり、ティエーラや精霊王達と共にウィスネイア伯爵領に顕現していた。原初の精霊と精霊王達が揃い踏みということで、目に見えない小さな精霊達は地水火風と揃って、もうお祭り騒ぎである。

 うん。精霊達が活性化すると農作物の収穫やらに良い影響が出るそうであるが……。


「こんにちは、オリンピア」

「マールさま!」


 マールに挨拶されて、オリンピアが嬉しそうな表情で抱き着く。マールは表情を綻ばせてオリンピアを受け止めた。

 オリンピアはと言えば、ルスキニアに抱きしめられたり、ティエーラやプロフィオン、ラケルドに髪の毛を撫でられたりして楽しそうな声を上げていた。


「いやはや。これほどの高位精霊の方々を一度にお迎えすることになるとは夢にも思っていませんでした」


 と、ウィスネイア伯爵がその光景を見ながら苦笑する。それからオリンピア達の状況が落ち着くのを待って、迎えの馬車に案内してくれた。そのまま伯爵邸へと向かう。

 ウィスネイア伯爵邸は高所に建てられており、最上階からの眺めが素晴らしい邸宅である。屋上にバルコニーや展望台がある。

 前回同様、邸宅の最上階に位置する貴賓室に通された。白い建材の街並み、青い空と海が何とも綺麗な港町なのだ。


「いや、やはり、ここからの眺めは良いですね」

「ありがとうございます」


 と、伯爵は上機嫌な様子だ。

 んー。今の内に幻影劇場の落成式の話をしておくか。

 フォレスタニアで幻影劇場を作っている事。落成式に国内外から人を招待している事。それからウィスネイア伯爵家の面々も招待したいという事を伝える。


「幻影劇場とは。月光島の演奏会の技術を活かして、というわけですか」

「そうなります。今度は演奏ではなく、アンゼルフ王の逸話を劇としたものになりますね」

「それは興味深い。これは是が非でも予定を空けなくてはなりませんな」


 と、ウィスネイア伯爵が相好を崩した。


「では……詳しい日程についてはまた連絡します」


 移動についてはやはり、転移魔法も視野に入れている。招待客にしても執務等があって多忙な面々なので、移動の時間を短縮できればそれだけ日程調整も楽になるだろうと思うので。

 その話を聞いたオリンピアも、マルレーンやリリー達と一緒に嬉しそうにしていた。




 ウィスネイア伯爵の家での歓待は中々、アットホームというかなんというか。

 若干人見知りする傾向だったオリンピアも何回か顔を合わせている内にすっかり馴染んでくれた様子だ。伯爵や夫人、オリンピアを交えてカードゲームに興じたりチェスで遊んだりとウィスネイア伯爵領の滞在中、のんびり羽を伸ばさせてもらった。


 食事も港町ということで、新鮮な魚介類が食卓に並び、シーラも満足げであった。

 それから……オリンピアはコルリスが大のお気に入りらしく、抱き着いたり背中に乗せてもらったりとかなりコルリスにべったりであった。

 ふむ。オリンピアの様子を見ていたら新しいアイデアが湧いて来たが……。


 というわけで滞在中の時間も余っている事だし、実行に移してみる。

 木魔法を用いて人形を作ろうというわけだ。木魔法の人形と言っても……質感はコルクに近い。劣化したり崩れたりしないように構造強化したり、手足が可動するようになっていたりと、色々調整している。


 オリンピアを見ていたら何やら女の子が巨大なぬいぐるみに抱き着いているようなイメージを連想してしまったので。コルク人形なのでぬいぐるみとは少し違ってフィギュアに近いが、若干デフォルメを加えて丸っこくしてある。

 ラヴィーネ達動物組に始まり、ウロボロスやバロール、イグニスやマクスウェル、デュラハン、ピエトロなど……色々作ってみた。


「ん。何だか、また面白そうなことしてる」


 と、シーラ。みんなも集まって覗き込んで来る。


「いや、飾って眺めたり遊んだりできるかなって思ってさ」

「ふふ。何だか、可愛いですね」


 みんなもそれを見て盛り上がっている。バロールやコルリスは自分の模型と顔を突き合わせて、不思議そうに首を傾げたり目蓋を瞬かせたりしているが。


「わあ……」


 と、オリンピアはそれを見て目を輝かせていた。ステファニアに視線を向けると彼女はにっこり笑って頷く。


「はい、オリンピア」

「オリンピアはコルリスの事が好きみたいだものね」


 俺とステファニアの言葉に、オリンピアは少し驚いたような顔をして、本当に受け取って良いのかという反応だったが、やがて、嬉しそうににっこりと笑う。


「ありがとう、テオドールさま! ステファニアさま!」


 オリンピアは満面の笑みで礼を言うと、人形を大事そうに抱えて伯爵や夫人のところに持っていって嬉しそうに報告したりしていた。そんなオリンピアの様子にみんなも表情を緩めている。

 うむ。とりあえずコルリス人形はプレゼントしてしまったから増産しておこう。


 とまあ……そんな調子でウィスネイア伯爵領ではのんびりと羽を伸ばさせて貰った。

 オリンピアは前回の別れの時は名残惜しそうだったが、今度は劇場の落成式での再会の約束をしたということもあり、別れの時もコルリス人形を抱き締めて機嫌が良さそうな様子であった。

 前回のオリンピアとの約束が守られたからという部分もあるだろう。そうして俺達は伯爵家の面々に見送られ白い港町を後にしたのであった。




「帰って一息吐いたら、図書館関係と、運動公園と幻影劇場周りの仕事かな。うん」


 と、タームウィルズまでの道すがら、カイトス号の艦橋でお茶を飲みながらアルバートが言う。


「ふふ、出来上がりが楽しみですわね」


 オフィーリアがアルバートの言葉に相好を崩し、アルバートも嬉しそうに頷く。

 こうやって婚約者が仕事を応援してくれるというのは、アルバートとしても心強いだろうな。まあ、そのせいで仕事に邁進し過ぎてしまう部分もあるから、適度に骨休めして欲しいとも思うのだが。


「劇場の演目は、やはりアンゼルフ王の少年時代のお話かしら?」


 アドリアーナ姫が尋ねてくる。


「その予定ですよ。まあ、内容を先に言ってしまってもとも思うので、実際の形がどうなるかは、まだ秘密という事で」

「んん。楽しみになってきたわ」

「今後の話をするなら、アンゼルフ王だけでなく色んな伝承や逸話も形にしていけたらなとは思っていますよ。ヴェルドガルやシルヴァトリア、バハルザードにも良さそうな題材はありますから」

「ファリード陛下なんて、そのまま半生を劇にするだけでも見ごたえがありそうだものね」


 それは確かに。


「それを言ったらテオドールもだよね」


 と、ルスキニアが明るい笑顔で言う。


「いやあ……。自分の事を劇にするのは流石にね……」

「そう、ね。テオドールの劇ということは、必然的に私達もということになるわけだし」


 クラウディアが目を閉じてかぶりを振る。そう、だな。俺としては反応しにくい話題ではある。


「あら。でも吟遊詩人は既に題材にしているようよ?」


 と、アドリアーナ姫。

 ……そうなのか。うん。あまり酒場には近付かないようにしよう。自分の話を吟じられるとか、中々に居た堪れないだろうからな。

 そんな話をしている内に、遠くに王城セオレムの尖塔が見えてくる。

 さて。ではまず、帰った事を王城に報告し、留守中に溜まった仕事を片付けてしまうか。運動公園や幻影劇場やらの建造、それから図書館の備品の修復は明日から本格的に進めていく形となるだろう。

 西の旅ではしっかり英気を養わせてもらったしな。頑張っていくとしよう。

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