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番外41 魔術師の古城

 その日は公爵の居城にて歓待を受け、そのまま一泊させて貰った。

 広々とした小奇麗な部屋だ。街と海が一望できる眺めの良いバルコニーが付いていたりと、明るい雰囲気ながらも上品さも感じさせるあたり、いかにも公爵の居城らしい雰囲気を持った部屋であった。


 その部屋でのんびりと寛がせて貰い、そして明けて一日――。

 朝食をとってから少し休憩を挟み、みんなでカイトス号に乗って古城へ向かうことになった。


「テオドールの魔法は、味方が多い程有利になるようだからな。飛行船で留守番するにしても、人員は多いほうが良かろう」


 というのは、食後のお茶の席でのエルドレーネ女王の弁である。ハーピー達やセイレーン達もその言葉に頷く。


「船の甲板から呪歌曲を奏でるというのは良いかも知れないな。きっと我等の力も届くだろう」

「そうですね。陰ながらテオドール様の力になりましょう」

「うむっ」


 と、それぞれの族長であるヴェラとマリオンも頷き合っている。

 その話を聞いていたオスカーとヴァネッサも顔を見合わせて頷いた。そしてオスカーが公爵に言う。


「そういうことでしたら、僕達も同行したいと思います!」

「ふむ。飛行船から降りないという条件ならば……どうだろうか?」


 と、公爵に意見を聞かれるレスリー。


「私は……問題無いと思います。古城の外であれば安全かと。テオドール公はどう思われますか?」

「そう、ですね。僕としても問題無いとは思います。念のために、船にも戦力を残していきましょう」


 船を守るのに適した面々となると……やはりベリウスやアルファだろうか。ベリウスは長射程から迎撃ができるし、どちらも高機動力で近距離に寄られた際に引っ掻き回すことができる。加えて言うなら、アルファの操船技術があれば船ごと逃げる際にも有効だ。高機動長射程となるとリンドブルムもだな。


「聞いた通りだ。約束を守れるなら同行を許そう」

「勿論ですわ、お父様。お力にはなりたいですが、足手纏いにはなりたくないですもの」


 ヴァネッサは嬉しそうに笑みを浮かべてそんなふうに答える。


「船から降りないという事でしたら、私も一緒に行きましょう。オスカーとヴァネッサのことは信用していますが、味方は多ければ多い程良いのでしょう?」


 そう言って公爵夫人も笑みを浮かべたのであった。




 そんなやり取りもあってか、カイトス号に乗る面々は昨日以上に増えた形だ。古城に向かってカイトス号が、ゆっくりと進んでいく。


「んー。やっぱり西部は良い」


 と、シーラが肩や腰を回して、準備運動しながらそんなことを言っていた。

 昨晩も今朝も魚介系のメニューが豊富だったからな。シーラとしてはモチベーションが上昇中というわけだ。


 そんなシーラの様子にイルムヒルトやグレイスがくすくすと肩を震わせる。

 いい具合に肩の力も抜けたところで、青い洋上の向こうにその城が見えてくる。絶海の孤島。そこに聳え立つ城の姿――。


「古城と聞いていたけれど……潮風に晒されている割には綺麗ね」


 ローズマリーが言った。そうだな。崩れている所などもここからでは目につかないし、風合いもそこまで悪くない。


「確かに。建築様式に関して言うなら、古い時代の物かなって思うけれど」


 俺の言葉に、ステファニアが眉根を寄せる。


「だとしたら管理が行き届いているか、そうでなければ……」

「公爵家としては、昔から通常の管理以上のことは特に何もしておりません。作りがしっかりしていて補修の必要がないので、手がかからないのは楽で良いと言われておりましたが……」

「何かしら、魔法絡みで補強している可能性はあるわね」


 クラウディアが目を閉じて言った。

 あの島そのものが航路から外れた位置にあるので、あくまで公爵家の別荘程度の位置付けだという話だ。島の規模もそこそこだが、ワグナー=ドリスコルは余人があの城を訪れるのを嫌ったというし、島民は住んでいない。

 公爵家の別荘という位置づけではあれど、若干行き来が不便なので公爵家の面々も、そこまで頻繁に遊びにいったりするわけではないらしい。


 その中にあって、レスリーは隠し書庫を見つけてグラズヘイムに魅入られてしまったわけだが……或いはその過程そのものがグラズヘイムに誘い込まれたから、という可能性も考えられる。


 夢魔事件以前のレスリーの立ち位置は、領主であるオーウェン=ドリスコルの補佐だ。南西の海岸沿いと西の海に跨って広がる領地の一部を、領主の代理補佐官という立場で治めていた。


 この古城があるのも元はレスリーの管轄域内であるらしい。

 要するに、普段公爵家の面々が訪れない以上、最後に訪れたのはグラズヘイムの支配下にあったレスリーということになる。

 古城内部をまだ見たわけではないが……現時点で手元にある情報から大雑把に言えば、別荘に使えるぐらい何の変哲の無い区画と、隠された魔術関係区画に二分されている形だ。


 グラズヘイムが起動させた罠というのが、古城のそれらの区画のどこからどこまでに及ぶのかは分からないが……ワグナー=ドリスコルという高名な魔術師の研究施設やアジトであったと考えれば、探索は慎重に進めるべきだろう。


「古城が偽装用の普通の建物と、魔術師の研究施設に分かれてるとするのなら……古城に入るまでは正規の手順を踏むのが望ましそうですね」

「と仰いますと?」

「例えばカイトス号で城に横付けして、窓から侵入したりすると、何かしら余計な魔法の罠が作動する可能性がある、ということです」

「なるほど……」


 船着き場から進んで断崖の上にそびえる古城まで、島内部を移動する形だ。


「であるなら、古城に立ち入るところまでは公爵家の者が同行したほうが良いかも知れません」


 レスリーが真剣な表情で言った。


「別荘として使われている部分は、それだけで安全確保できるようになるかも知れない、と」

「そうです」


 なるほど。門を開くのが血族であるなら重要区画以外の罠が解除される、というのは一理ある。


「分かりました……。では、レスリー殿には城の中に立ち入るまでは同行してもらおうかと思いますが、如何でしょうか」


 決然とした表情でこちらを見てくるレスリーにそう答える。そこから後は……こちらで引き受けた仕事だ。


「勿論です。これは私の撒いた種ですから」

「であるなら、そこまでは私も同行しましょう。家長である私も共に行くべきです」

「僕達は……母上とカイトス号で待ちます」

「約束は守りますわ」

「うむ。それでいい」


 公爵とレスリーは古城に入るところまで。オスカーとヴァネッサ、そして夫人や執事のクラークは俺の力になるために来たということだから、約束通り船で待ってもらう形だ。


 カイトス号を船着き場に停泊させ、みんなと共に島に降り立つ。断崖の上に建つ古城までは、石畳で舗装された道が続いている。


「十分に気を付けるのだぞ」

「御武運を」

「皆と共に、お帰りをお待ちしております」


 エルドレーネ女王やマリオン、ヴェラ達に見送りの言葉を掛けられる。公爵とレスリーも家族に気を付けてと声を掛けられていた。

 船にはベリウスが戦力として残るが、公爵とレスリーの復路の護衛として城の入口まで同行してもらう。


 石畳の道を進んでいくと――フォルセトが足を止めた。


「何か……結界のようなものがあるようですね」

「ええ。片眼鏡でも見えています。薄いので侵入を拒む類のものではないようですが……」

「血族であれば反応があるかも知れませんな」


 そういった公爵がレスリーと共に先頭に立って前に出る。薄い光の壁に触れた瞬間、そこから光が消失していった。やはり……やって来た者が公爵家の血縁であるかそうでないかを判別するためのものなのだろう。


「やっぱり……魔法の仕掛けがあるっていう予想は、間違いなさそうね」


 見えた物をみんなに伝えると、イルムヒルトが表情を曇らせて言った。


「だけど、これでワグナー卿が隠したかった区画までの安全は、ある程度確保できたとも言えるかな。他にも何かあるかも知れないから、油断は禁物だけど」


 そう言うとみんなが頷く。マルレーンも神妙な面持ちで首を縦に振っていた。

 そうして石畳の道を上がり、古城の門に到着する。ここも魔術師の城らしく……門の脇に水晶球がはめ込まれていた。公爵がそれに触れると、軋んだ音を立てて大きな門が内側へと開いていく。その奥に見えるのは、簡素ながらも上品な作りのエントランスホールだった。


 さて。では、ワグナーの古城探索といこう。

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